IF:仮面ライダージオウ 『アマゾンズ編』 作:TAC/108
午後6時。常磐ソウゴと明光院ゲイツは、ツクヨミ達が調べたいくつかの情報に基づいて、夜の街に繰り出していた。夜、と言っても時期としては夏に近いため、まだ日は完全に沈みきっていない。
ウォズ曰く、怪物の目撃情報が夜間に集中しているのは確かだという。仮にアナザーライダーが関与していた場合、そして怪物が出現した場合、これに対処するというのも彼らの役割だ。ウォズはツクヨミと共にクジゴジ堂で待機している。
ウォズ達の調査に基づいて、ソウゴ達が辿り着いたのは一棟のマンションであった。5階建てであり、1フロアごとの室数は7つと、それなりに広い。
「ウォズの調べが正しければ、このマンションに我蘭製薬の社員が何人か住んでいるらしい。うち一人は社の中では高いポジションにいる男だというが」
「もう帰って来てるかな?」
「さてな。ここを中心に、怪しいものが無いか手分けして探すぞ」
ソウゴとゲイツは二手に分かれて行動を開始した。ゲイツはマンションの入り口で待機し、ソウゴは別方向に向かって走っていく。
ゲイツは懐から携帯電話らしき装置を取り出し、キーを押して電話をかける。相手はツクヨミだ。
「ツクヨミ、例のマンションに着いた。ここから最も近い駅はどこだ?」
『東の方に1キロ。
「分かった。ウォズは何をしている?」
「怪物がクジゴジ堂に来ることは無いって言って、玄道駅に向かった」
「何だと? ……仕方ない、駅周辺はウォズに任せて、俺はマンションで待機する」
通話終了。気づけば夜の闇を纏い始めた空に、黒い雲がかかり始めていた。
◆◆◆◆◆◆
ソウゴはマンション付近を自身の所有するバイクで走り回っていた。バイクの名はライドストライカー。彼やゲイツが所持する『ライドウォッチ』の一つで、バイクへの変形機構を有した特殊仕様のものだ。
ソウゴの背中には、黒いリュックサックが背負われている。このリュックサックには、携帯食料や非常用ラジオだけでなく、スマートフォンや携帯式バッテリーなど様々な道具を詰め込んでいる。
マンションを中心として、半径1キロ圏内を巡回する。ゲイツからの連絡によって、近場の駅はウォズが押さえたと知らされており、ソウゴは帰宅途中のサラリーマンや学生達、その一人一人に可能な限り目を光らせている。
ある程度走り回って、少し開けた場所に出た。滑り台やブランコなどの遊具、うず高く山めいて盛られた土を見るに、公園であるらしい。
ライドストライカーをライドウォッチに戻して、ソウゴは公園に立ち入った。
時刻は午後7時。人気はほとんどない。
「さすがにこの辺りには誰もいないか……」
そう呟いた、次の瞬間。
「グウウウゥ……」
獣じみた唸り声。地の底から響くような重く低い声が、ソウゴの背後から突如発生した。
声を聞くが早いか、ソウゴは身を翻して飛び退がり、背後にいた『何か』を見据える。
白い街灯に照らされたそれは、リクルートスーツを着た人型の異形。鱗めいた肌、黄緑の体色、鞭のように長く伸びた軟体らしき腕……その姿は蛇を思わせる。
「コイツ……監視カメラの映像にも映ってたな!」
調査中に見た、怪物騒動を伝える報道番組。取り上げられた監視カメラ映像に、同じ姿が映っていたのをソウゴは覚えている。
「何なのか分からないけど、街の人たちに手は出させないよ」
『ジクウドライバー!』
ソウゴが地面に置いたリュックサックから取り出したのは、巨大な腕時計を思わせる装置だ。腰に当てると、バンドが自動的に現れてベルトを形成する。
『ジオウ!』
ソウゴは懐からライドウォッチを取り出し、外郭部分を回転させて起動スイッチを押す。それはバイクに変形するものではない。ソウゴ自身が使うものだ。
ソウゴは腕時計めいたベルト、ジクウドライバーの右側にライドウォッチを装填した。秒針の刻む音は、そのまま次の段階へのカウントダウンを意味する。
何が始まるのか、と問われたならば、その答えは既に決まっている。
「変身!」
『ライダータイム! 仮面ライダー! ジオウ!』
状況は一変した。
ソウゴがジクウドライバーを一回転させた瞬間、背後に現れた巨大な結界が彼を守護し、その姿を全く別のものに変えてしまった。
黒、銀色、マゼンタの三色が、力強く鮮やかに総身を彩る。
顔面は時計めいた形状に変わり、左右で長さの違う二つの
何よりも特徴的なのは眼の部分だ。人間の双眼にあたる部位が、マゼンタに煌めく『ライダー』の四文字によって構成されているのだ。
彼こそは、平成仮面ライダーの力を受け継ぐ、20人目の若き王。
時空を超え、過去と未来をしろしめす時の王者。
その名は『仮面ライダージオウ』。
まさに変身の瞬間である。
「ハァッ!」
ソウゴ/ジオウが先手を取った。常人を遥かに超える脚力で、一瞬にして蛇の怪人との距離を詰める。右拳を顔面に当て、左足のローキックで体勢を崩した。
よろけながら体勢を整えた蛇の怪人は鞭のように右腕を振るい、ジオウの顔面に横薙ぎに叩きつけにかかる。当たる寸前にしゃがんで回避し、跳び上がりながらアッパーカットを叩き込む。
「ガアァァッ!」
「やった! ……でも肌が硬いなぁ、だったら!」
『ジカンギレード! ケン!』
ジオウがジクウドライバーから武器を出現させる。銃と剣の機構を備えた複合兵装、その名も
「ゥグウ……」
「なんか……いける気がす——ぐぁっ!? えっ何!?」
ソウゴが驚愕の声を上げた。背後から凄まじい衝撃を感じたと思いきや、激痛と共に前方へと吹き飛ばされたのだ。蛇の怪人との距離が、近づいたと思えばすぐに離れた。
何が起こった? ソウゴは瞬時に状況を悟る。
敵のいる方……先程までジオウが立っていた場所に目を向ける。
夜の闇に紛れて、その姿ははっきりと見えない。
しかし、轟音と共に生じた強烈な光が一瞬の間、新たな敵の姿を照らし出した。
一言で言うならば、拘束具の壊れた獣であった。
全身を覆うプロテクターじみた装甲は、ところどころが欠けており左右非対称のフォルムを作っている。
顔面も同様だ。砕け散ったように欠けた、顔の左半分のみを覆う仮面。露わになった右目は赤く、仮面に隠された左目は黄色く光る。顔の右半分から覗く口は、怒りか何かを堪えるように食い縛った歯列が覗く。
筋肉質と言っていいほど全身は太く屈強だ。露出した肌は青黒く、ハリネズミめいて刺々しい印象を与える。機械的なプロテクターに包まれた右腕とは対照的に、左腕はピラニアのヒレめいた器官がハッキリと見える。
プロテクターに覆われた胸には『AMAZON NEO』『2019』の文字。
ソウゴは仮面の下で驚きの表情を浮かべた。
この特徴を知っている。ソウゴ達が戦うべき、目下最大の敵。
ソウゴはハッキリとその名を呟いた。
「アナザーライダー……!」
目の前に現れた怪物。それは紛うことなきアナザーライダーである。
仮面ライダー達の『裏』。反転でありオルタナティヴ。
あり得なかった、あり得たかもしれない、
此度のアナザーライダー、その名は。
『AMAZON NEO!』
B Part-2につづく。