IF:仮面ライダージオウ 『アマゾンズ編』   作:TAC/108

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B Part-2

『AMAZON NEO!』

 

「アマゾン……ネオ? 聞いたことないな……」

仮面ライダージオウ/常磐ソウゴの脳内に疑問が宿る。

平成仮面ライダーにまつわる知識を数多く持ち、それらの知識によってソウゴをサポートしたこともあるウォズからも、そのような仮面ライダーの存在は聞かされたことがない。

ただの一度も、である。

()()()()()()こともないし……いや、とにかく応戦しなきゃ!」

悠長に目の前の敵手について考えている余裕が無いのも事実だ。敵が二人に増えた、ということは数的不利という非常に単純な戦力的ハンディキャップを背負ったことを意味する。

ジオウが立ち上がって、近くにいた蛇の怪人に突撃する。その瞬間、ジオウは強烈な衝撃を連続して受けた。

何が起こったか。答えは空中に浮かぶ無数の触腕が示していた。青黒い無数の触腕は、後方のアナザーライダー……仮称『アナザーアマゾンネオ』が背中から生やしたものだった。一本一本は細いが、見た目に反して威力は非常に高く、ジオウは一瞬にして変身状態を解除されてしまった。

「ま、マズい……! ここは一度逃げないと……!」

ダメージで全身の動きが鈍る。ここにいては危険だ、と彼の全身が告げていた。

余裕からか、あるいは単に興味を無くしたのか、後方に控えるアナザーアマゾンネオ。しかし蛇の怪人は待ってくれない。明日のニュースで報道されるのは自分か——と悲壮な覚悟を決めかけた、その時であった。

 

蛇の怪人の顔面に、黒い影が飛び蹴りを喰らわせたのは。

 

「何をボサッとしている、ジオウ! ……どうやら相当な強敵らしいな。アナザーライダーは後方のヤツか」

「ゲイツ、どうしてここが」

「何やら騒がしくなってきたからな、怪しいと思って音を辿ったらコレだ」

現れた黒い影、それはソウゴと分担して調査に当たり、マンション方面で待機していた明光院ゲイツであった。間一髪、どうにかソウゴは蛇の怪人から逃れ得たのである。

「まだ行けるか、ジオウ?」

「どうかな……いや、でも二人ならいける気がする」

「相変わらずだな。だが、信じるぞ」

『ジクウドライバー!』

ゲイツがジクウドライバーを取り出して装着する。遅れてソウゴもベルトを着けた。

「アナザーライダーの方はどうだ」

「まだよく分からない。アーマーで様子を見てみる」

『ゲイツ!』

『ジオウ!』

二人が同時にライドウォッチを装填する。ゲイツのそれは赤と黒を基調とした、ジオウとは異なるものだ。

『ビルド!』

ソウゴが新たにライドウォッチを取り出した。赤と青のライドウォッチ、それは彼が最初に受け継いだ伝説(レジェンド)の力。フルボトルで変身する天才物理学者のライダー、仮面ライダービルドの力だ。

 

「「変身!」」

『ライダータイム! 仮面ライダーゲイツ!』

『ライダータイム! 仮面ライダー! ジオウ! アーマータイム! ベストマッチ! ビルド!』

 

二人はジクウドライバーを一回転させ、同時に変身を果たす。

ゲイツが変身した姿は、ライドウォッチと同じく赤と黒に彩られた、力強さを感じるものだ。顔面はデジタル時計を思わせる鋭角的フォルムであり、前面を黄色い『らいだー』の四文字が覆う。

ジクウドライバーのデジタル文字盤は『GEIZ(ゲイツ)』『2068』の文字を表示していた。

彼の名は仮面ライダーゲイツ。未来から来たレジスタンス・明光院ゲイツが変身する、強き叛逆の姿である。

 

そしてソウゴも同様に仮面ライダージオウに変身した……のだが、その傍らに奇妙なヒトガタが現れる。

鋼鉄の鎧一領、といった趣ではある。しかしその見た目から感じ取れる雰囲気はジオウとは全く異なる何かである。

赤と青の胸部プロテクター。両肩から突き出た、赤と青のシリンダーめいた部品。右腕には錐型掘削機(ドリル)めいた武装が固定されている。顔や膝は何もない空洞で、あからさまにこのヒトガタが、装着するための鎧パーツ一式であることを示していた。

奇妙なポーズを取るや否や、ヒトガタは一瞬で分散して無数の部品に分かれ、ジオウの全身を屈強に鎧として覆う。顔面の『ライダー』の文字に代わって新たに『ビルド』の三文字が刻まれる。

 

これこそはジオウが『継承』した最初の力。

その名も仮面ライダージオウ・ビルドアーマー。

勝利の法則にて悪を討つ、正義のヒーローの似姿である。

 

「ゲイツはあの蛇みたいなヤツを!」

「任せろ」

散開、接敵。ジオウはアナザーアマゾンネオ、ゲイツは蛇の怪人と交戦を開始した。

『ジカンザックス! Oh No(おーのー)!』

ゲイツがジクウドライバーから出現させた武器は、時間厳斧(じかんげんふ)ジカンザックス。(おの)モードと(ゆみ)モードへの変形機構を持つ武器だ。

斧による重い一撃が蛇の怪人を襲う。蛇の怪人も負けじと腕を振るうが、先の戦いでの消耗もあってかゲイツが優勢だ。

「弱っているな。ならば!」

『タイムチャージ!』

腕にスナップを効かせて前方に強烈な叩きつけ攻撃を行う蛇の怪人。しかし横に体を逸らして回避したゲイツに腕を掴まれ、蛇の怪人はゲイツのいる方へと引き寄せられる。

「ガァウァ!?」

「終わりだ」

『ゼロタイム! ザックリ割り!』

ジカンザックス・ザックリ割り。ゲイツは蛇の怪人を近くに引き寄せてから、胸元にジカンザックスの刃を押し当て、勢いよく斬り下ろす。続けて放たれる逆袈裟斬りが、致命の一撃となった。

蛇の怪人はよろよろと後退ってから、強烈な発光と共に爆散した。

「よし……っ!? おい、大丈夫か!?」

ゲイツが蛇の怪人……だったものへと駆け寄る。爆発と共に現れたのは、リクルートスーツを着た男だった。

「ぐっ……う、うう……」

「(あのアナザーライダーに怪人にされていた、といったところか)……ここは危険だ、早く逃げろ! しばらくは肩を貸してやる……!」

ゲイツは男の腕を自分の肩に回し、公園を後にした。

 

一方、ジオウはというと。

アナザーアマゾンネオが全身から伸ばしてくる無数の青黒い触腕によって、攻め手に欠くという状況が続いていた。

細長い見た目の割に威力が高く、連続して受ければ致命打になりかねない。せいぜいがビルドアーマーの右腕に装備された固有武装・ドリルクラッシャークラッシャーで応戦するのが精一杯だ。厄介なことに、アナザーアマゾンネオはほとんどその場から動いていない。つまり()()()()()()()()()()()()()()のだ。筋骨隆々とした両腕は、獲物を前にした肉食獣のように震えている。

「1対1だと相当キツいな……」

『ジカンザックス! You Me(ゆーみー)!』

アナザーアマゾンネオの体が、何らかの衝撃によって揺れた。蛇の怪人を倒し、中から現れた男を送り届けたゲイツが、公園に戻ってきたのだ。

「ゲイツ!」

「攻めあぐねているようだな」

「ああ。そうだゲイツ、コレ使ってみて!」

ソウゴがゲイツにライドウォッチを投げ渡す。赤・黄・緑の三色が眩しい。

「機械には機械、獣には獣の力。ならメカっぽい獣には?」

「両方で挑む、か……良いだろう、使ってみせる」

『オーズ!』

ゲイツのジクウドライバーの左側に新たなライドウォッチが装填された。

ベルトを回転させ、新たな力を呼び起こす。

『アーマータイム! タカ・トラ・バッタ! オーズ!』

ゲイツの背後に、ジオウのそれとは異なる鎧が現れる。ライドウォッチと同じく赤・黄・緑の三色が眩しい、特殊な形式のアーマーだ。

翼を広げたタカを思わせる形状の兜、トラめいた爪型の武装を右腕に備える胴体の装甲、バッタの如きジャッキ機構を持つ脚部装甲。ゲイツがそれらを全身に纏うと同時に、ゲイツの顔面に『おーず』の文字が嵌め込まれる。

タカ・トラ・バッタ、三色のコアメダルにて変身する仮面ライダーオーズ・タトバコンボ。その力はかつてジオウが受け継いだが、こうしてゲイツに貸し与えられた。

即ち、仮面ライダーゲイツ・オーズアーマー。

 

「一気に攻め込むぞ!」

「ああ!」

ゲイツが突撃し、次いでジオウが背後を狙う。数的有利はこちらにあり、負けることはあり得ないと確信したゲイツが、右腕の虎爪をアナザーアマゾンネオに向ける。

アナザーアマゾンネオは触腕を敢えて引っ込め、近接戦闘に対応するためゲイツを相手に真正面から殴りかかった。拳と爪が衝突し、衝撃に互いの距離が離れる。

アナザーアマゾンネオは右腕のプロテクターを展開させ、触腕を束ねて一本の剣を形成した。ゲイツの爪とアナザーアマゾンネオの剣。共に腕から直接に振るう武器だが、リーチではアナザーアマゾンネオが勝る。激しく連続する剣戟の音。ゲイツの攻勢が速度を増し、アナザーアマゾンネオが力任せに応じる。

間断無き激戦を演じること、それ自体がゲイツの作戦である。本命は既に背後に回り込んだジオウだ。

『フィニッシュタイム! ビルド!』

ジオウがベルトを操作し、必殺のタイミングを測る。ゲイツは僅かな隙を見て、アナザーアマゾンネオの背後にいるジオウを見遣った。左の肘打ちを首筋に当て、続いて右腕の爪でアナザーアマゾンネオの剣を搦め捕った瞬間、ゲイツが叫ぶ。

「今だ、ジオウ!」

「オッケー、勝利の法則は……決まった!」

『ボルテック! タイムブレーク!』

ジオウとアナザーアマゾンネオが、一直線上に並んだ。点と点が結ばれた巨大な直線のグラフが現れ、ジオウが線上を滑走しながらアナザーアマゾンネオに迫る。反撃が来るより速く、ドリルによる強烈な刺突が、アナザーアマゾンネオの体を宙に打ち上げた。

「ゲイツ!」

「分かってる!」

『フィニッシュタイム! オーズ! スキャニング! タイムバースト!』

続いて今度はゲイツが飛び上がる。タカ・トラ・バッタの三色メダルを模したエネルギーリングを通り抜けて、ゲイツのドロップキックが空中のアナザーアマゾンネオに突き刺さった。二連続で必殺の攻撃を受けたアナザーアマゾンネオは、地面に叩きつけられる。

「まだ倒せていない、気を抜くな!」

「そうだね……!」

アナザーライダーを倒すことが出来るのは、同じライダーの力を持つ者だけ。あるいは、それらの相関から外れた形態になる必要がある。

「ぐ、ウウゥ……」

「バカな!?」

「変身解除すら出来なかったの……!?」

ジオウとゲイツが再び戦闘態勢を取った。予想以上の耐久力だ。かつてない強敵の予感を察知しながら、慎重に距離を詰めようとした、その瞬間。

アナザーアマゾンネオが、ジオウ達に背を向けて、全く別の方向に目を向ける。

「どういうことだ……逃げるつもりか?」

「いや……ゲイツ! アレ見て!」

ジオウが指差したのは、アナザーアマゾンネオの視線の先。自分達の戦いを見ていた、リクルートスーツを着た中年の男。

「まさか、我蘭製薬の社員か!?」

「このままじゃマズい! 止めないと!」

ジオウが全力で走り出す。アナザーアマゾンネオは、右腕から銃口めいた機構を展開し、スーツの男を狙っていた。

「やめろォーーーッ!!!」

間に合え、間に合え、間に合え。ただそれだけを考えて走る。ドリルクラッシャークラッシャーの先端を背中に突き入れれば、止められる。そう信じて突っ走る。

しかし。

 

「レェェイィィジィィーーーーッ!!」

無言を貫いていたアナザーアマゾンネオが、初めて声を上げた。

銃口から、青い弾丸が放たれる。

弾丸は過たず、スーツの男に突き刺さった。

『レイジ』。その叫びは、スーツの男に向けられたもの。男の名前であろうか。今のソウゴやゲイツに、そこまで考えるだけの余裕は無かった。

異変はすぐに発生した。スーツの男……レイジが腹を押さえて苦しみだす。レイジの肌に、青黒い血管めいた模様が浮き出た瞬間、彼の体から蒸気が噴き出し……怪物へと変貌した。

「ぐ、アアァ……!」

「そんな……!」

「遅かったか……!」

紫色の肌。鋭い嘴と指の爪。ギラリと闇の中で光る双眸。先程までただの人間だった男は、一瞬にしてハゲタカめいた怪物へと成り果てたのだ。

 

やがて絶望の雨が降る。望みを絶たれたが如く、雷鳴を伴って空が哭き叫ぶ。

再びの惨劇を繰り返すまいと、ジオウ達はハゲタカの怪人に襲いかかった。しかし、アナザーアマゾンネオがそれを許さない。触腕を無数に飛び出させ、ジオウとゲイツを打ち据える。

我を失ったように雄叫びを上げるハゲタカの怪人は、マンションがある方へと歩いていく。彼にも家族がいるのだろう。その家族は、これから最も親しき者によって無惨にも殺害されるのだ。制止の声は届かない。

もはやこれまでか、アレを止められる者はいないのか。ジオウ達は最早満身創痍である。動けよう筈がなかった。

 

獣の吠える声が聞こえる。獅子の遠吠えめいた、猛々しい鳴動。

……獅子の吠え声?

「ゲイツ」

ジオウとゲイツは既に変身を解除されていた。激しく雨に打たれ、地面に倒れたままソウゴはゲイツに尋ねる。

「何だ……?」

「アレが何なのかはまだよく分からないけど……鳥ってあんな風に鳴くかな?」

 

然り。この声は別の何かだ。運命が引き寄せたか、あるいはただの偶然か。

闇夜に四つの目が煌めく。赤と緑の四つ目が、高速でこちらに向かってきている。疾走する影は、公園の車止めも、その場の誰をも飛び越えて、ハゲタカの怪人に凄まじい体当たりを喰らわせた。

影の正体は、異様な形状のバイクと、それに乗ったヒトガタであった。ピラニアを思わせる鋭角的で野生的なデザインのバイクが、駆動音と共に雄叫びを上げていた。先程から聞こえていた遠吠えの正体である。

ヒトガタはゆっくりとバイクから降り、雷光と共にその姿を晒した。赤い双眸、黒い四肢、緑と橙に彩られた力強い肉体。一切の荒々しさを削ぎ落としたように無機質で洗練されていながら、近寄りがたい危険さを併せ持つその姿は、生物として人間を超え、一つの極致に至ったナニカであった。

 

「仮面、ライダー……?」

「ヤツは……一体……」

 

疑問の声を他所に、緑の影は風を切って走り出した。


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