IF:仮面ライダージオウ 『アマゾンズ編』   作:TAC/108

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A Part-1

「い、いただきます……」

夕食は静かに始まった。ソウゴはテーブルの上に置かれた食器をどこか落ち着かない風に見つめている。

ウォズはというと、特に遠慮することなくフォークを手に取り、サラダを食べ始めていた。

夕食のメニューにこれといった特殊性はない。ほどよく焦げ目の付いたハンバーグ、キャベツの千切りやキュウリの漬物にトマトを混ぜ込んだサラダ、炊きたての白米に赤味噌を用いた味噌汁。少し量が多いが、何かが決定的におかしいというものではない。

だというのに、普段は大胆なところのある常磐ソウゴが妙に所在なさげにしているのは、彼が置かれた状況が特殊なものであったからだ。

ここは、クジゴジ堂ではない。

 

「ソウゴ君と、ウォズ君か……これ以上帰りが遅くなると、家族が心配する。せっかくだしウチに来ないか?」

 

きっかけは、この一言だった。

人間をアマゾンと呼ばれる怪物に変えてしまう恐るべきアナザーライダー、アナザーアマゾンネオ。その変身者について何かを知っているという男、守衛礼二(もりえれいじ)に招かれて、ソウゴとウォズは現在彼の家で夕食をとっている。

何が目的かは謎だ。しかし、アナザーライダーに関する何らかの情報が得られるというメリットは無視できないということで、ソウゴとウォズはこの誘いを受けることにした。

水澤悠と明光院ゲイツは二人でクジゴジ堂に向かった。悠の側からも事態を説明してもらい、クジゴジ堂で待つツクヨミと情報を共有する必要があったからだ。クジゴジ堂店主であり、ソウゴの保護者でもある常磐順一郎(じゅんいちろう)に連絡を取った後、ソウゴとウォズは守衛家に上がることとなった。

守衛礼二には、もうすぐ5歳になる娘と、10歳年下の妻がいた。礼二の年齢は45歳。彼は現在、我蘭製薬の研究開発部門で主任を務めている。アナザーアマゾンネオに変身しているのは、彼の同僚であった高坂大介(こうさかだいすけ)という男だと、ソウゴ達は説明された。

ソウゴの向かいには礼二が座っている。礼二は冷めかけたハンバーグを食べ始めていた。

「どんな人だったんです?」

「とても勤勉で、生真面目で、責任感の強いヤツだった。何をやるにしても『自分がやらなきゃ』と率先して動けるし、そんな彼を見て勇気を奮い立たせる研究員も見てきたよ。私もその一人だったさ……ただ、あの事故を経てからは、もうそんな姿は見られなくなってしまったがね」

「あの事故?」

礼二は少し表情を暗くした。僅かな機微を読み取ってか、ウォズが先んじて語り始める。

「今からおよそ3ヶ月前、我蘭製薬の研究所で爆発事故が起こった。薬品と可燃性ガスの化学反応や、対応の遅れが原因で想定以上に延焼し、火元となった研究施設は全焼したが、()()()()()()()()()()()()。これが事件の概要……でよろしかったかな?」

ウォズが事前に調査していた内容とは、我蘭製薬にまつわる事柄だったようだ。礼二は首肯した後、別の真実を語る。

「概ね真実だ、一つを除いては。あの火災の犠牲者は13人もいた。だがその事実は報道されなかったのさ」

「そんな……どうして!?」

礼二は続ける。

彼はその頃、新薬の開発計画のプロジェクトリーダーとして働いていた。部署は同じだが勤める施設が違ったために、礼二は詳細を知るのが遅れたのだが、自社の研究所で大火災が発生したということだけは辛うじて知ることができた。その施設には、同僚である高坂大介の他にも多くの研究員がいた。高坂大介の息子、高坂雅彦(まさひこ)も。

「私はすぐに大介に連絡を取ったさ。大介は生きていた。けれど、電話口から聞こえてくる声は、それまでの活動的なアイツとは違っていて、私は『何があったんだ?』と尋ねた。大介は一言だけを告げた」

——雅彦が、死んだ。

その言葉だけを残して、通話が終わったという。

「雅彦君はとても優秀な人材だった。人好きのするかわいい後輩でもあった。いつか親父のような立派な研究者になって、凄い薬をいっぱい作るんだと、雅彦君はずっと言っていた。ようやっと、親父さんと同じ職場で働けたってのになぁ……雅彦君が亡くなって、大介は変わってしまった」

そこから礼二が語ったのは、一人の男が直面させられた、あまりに残酷な真実だった。

 

高坂大介の一人息子・高坂雅彦を含む13人は、爆発事故にて命を落とすこととなった。

しかし、当時の我蘭製薬は開発中の新薬についての発表を控えており、この一件について『被害者なし』と報道するように仕向けた。社のイメージダウンを防ぐためである。我蘭製薬は国内でもそれなりに影響力のある企業であった。礼二がこの真相を知ったのは、不自然なカネの動きを様々な角度から見た情報——株価の変動や社内資料を基に察知したからだ。

結果として、13人の犠牲者は存在ごと闇に葬られることとなったのである。これに最も憤ったのが、高坂大介であった。

 

しかし、現実は非情であった。社内告発など通用しない。情報をリークする意味はない。表に出る前に、どこかで必ず情報の流れが止まる。同じことを試した遺族達がいたことは推測するまでもないことだ。彼らがやったことと同じことをして成功するはずもなかった。

何も起こらぬまま2ヶ月が経過した。その頃には彼は研究所に滅多に顔を出さなくなっており、不思議がる研究員こそいたものの出来る限り触れないようにしていたのだという。

爆発事故そのものは故意に起こされたものではない。故に、彼らはこの恐るべき事故に隠された真実に触れないことで忘れようとしていたのだ。

 

そして今月。研究員達が次々と失踪し、人間を喰らう恐るべき怪人と化す事件が発生した。

守衛礼二は事件が初めて報道される数日前に、研究所で高坂大介を目撃した。礼二はそこで見てしまった。青黒い怪物に変身する大介と、怪物が研究員を別の怪物に変えてしまう場面を。

 

「以上がこの事件に関して言える、私の知りうる全てだ」

礼二は語り終えると、ハンバーグの残りを口に放り込む。静かに「ご馳走様でした」と呟いて、ソウゴ達の方を向いた。

「礼二さんは……どう思ってます?」

ソウゴが尋ねる。礼二は事件に至るまでの経緯を語る最中に、何度か苦しげな表情をしていた。残してきた後悔が滲み出るかのように。

「私は……何もしてやれなかった。いや、何もしなかったんだ。それが大介のためだと思ってな……私も若くはない。娘と妻を養っていかねばならん。事を荒立てるよりも、時間が解決すると信じてしまったよ……けれど、違ったんだな……!」

礼二の皿に水滴が落ちる。泣いていた。45歳の男が、見苦しくも思えるほどに、悔し涙を流していた。

「私は結局、アイツから……大介から手を引いたに過ぎない。一番辛かったのは大介だ、俺達は大介に助けられてた。だというのに、易きに流れて俺は手を引いた! 助けたいと思うなら……俺は大介から手を引くべきじゃなかったんだ……! アイツが辛い時に側に居てやるべきだった……!」

時間が自然と解決する、という安易な考えが今回の事件を招いた。礼二はそう思っていた。自分の甘さや臆病な心が、親友を怪物にしてしまったのだ、と礼二は嘆く。

「礼二さん」

ソウゴが優しく語りかける。一切の曇りなく、決然とした眼差しで礼二を見つめている。

「まだ遅くない。()()()()()()()()()()()()()って言ったら、信じますか?」

「……本当か?」

ソウゴの言葉を聞いた礼二は、縋るような目で目の前の青年を見上げた。ソウゴは彼に一つの秘策を授ける。危険な賭けだが、全く希望がないではない。

「さすが我が魔王。とはいえ、本当にそんな試みが成功するかどうか……」

ウォズがやや呆れ気味に言う。ソウゴは自信満々に返した。

「それを成功させるのが、俺達の役目でしょ?」

 

A Part-2につづく。

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