IF:仮面ライダージオウ 『アマゾンズ編』 作:TAC/108
午後8時。激しく降り続いていた雨は、その勢いを弱めつつあった。
水澤悠と明光院ゲイツの二人は、ゲイツが住まう時計店クジゴジ堂に帰ってきていた。
全身ずぶ濡れでドアを開けた際には、出迎えたツクヨミと順一郎に大層驚かれたものだが、何はともあれ彼らは現在遅めの夕食をとりながら、現状について話していた。
青黒いアナザーライダー……アナザーアマゾンネオとは何者か?
これは悠からの質問であり、ゲイツも同様の疑問を抱いていた。
人喰いの怪物・アマゾンを元にして生まれたアナザーライダー。人間をアマゾンに変えてしまう能力自体は、悠の語る溶原性細胞に由来するものと断定しても良いだろう。もっとも、悠からすると『アマゾンネオ』という名前にも驚きがあったようだが。
しかし、悠の語るそれは不可逆の変化だ。人間からアマゾンになることはあっても、アマゾンになってしまった人間が、人間に戻ることはないという。
では……今回のアナザーアマゾンネオは?
「分からんな……もう一度同じ人間が、アマゾンになったのを見たことは?」
「それが無いから、少し気になっていて……以前にも何度かあいつが生み出したアマゾンと戦ったけど、人間に戻ったらそれっきりだった。話のわかる人には、血液検査まで受けてもらったけど、何も反応は出なくて……」
「アナザーライダーだからとはいえ、力を完全に再現してるわけじゃないってことなのかしら」
「どうだろうな……」
「お待たせ〜。ハルカ君、だったよね? ソウゴ君と、ソウゴ君のお友達の分があるからさ、食べちゃってもいいよ!」
話が迷宮入りになりつつあったところに、常磐順一郎がやってきた。彼が悠に出した皿には、和風ソースをかけたハンバーグが乗っており、部屋の電灯を反射して光っていた。微塵切りにした玉葱をソースに混ぜ込んでいるのが順一郎の工夫である。
「いただきます……」
悠は掌を合わせ、フォークでハンバーグを突き刺して口に運ぶ。
「……美味しい!」
「本当! 嬉しいなぁ……いやね、急にソウゴ君が『お呼ばれしちゃった』なんて連絡してくるから、作ったハンバーグが残っちゃってさ。助かるなぁ……うんうん、やっぱり若い子は食べて育つねえ!」
ある意味では、順一郎がこの状況に一番順応していると言えた。無闇矢鱈と詮索してこないあたりに、人生経験と人柄の穏やかさが出ているのかもしれない。
ともかく腹ごしらえである。頭脳労働は、その後だ。
◆◆◆◆◆◆
とある高層ビルの屋上に、傘を差しながら立つ人影が一つ。
雨の中で佇む男は、ビルの屋上から街並を睥睨していた。タイムジャッカー・スウォルツであった。
雨が空中で静止する。二人のタイムジャッカー、ウールとオーラが姿を現す。
「風情というものは無いのか?」
スウォルツはウール達に振り向くことなく言う。
「風情だなんて、冗談。あのアナザーライダー、全然制御してないみたいだけど、本当に大丈夫なのよね?」
オーラが問う。その疑問は当然であった。アナザーライダーはそもそも、オーマジオウに代わる新たな『王』を擁立するために、タイムジャッカーが生み出したものだ。つまりタイムジャッカーにとって最も都合が良いのは、傀儡として行動を統制できるアナザーライダーである。
「心配は無用だ。
「待てよスウォルツ! じゃあ何のためにアナザーライダーを作った!?」
ウールが声を荒げる。また何か自分達の与り知らぬところで、妙なことを企んでいるのではないかと、ウールは疑っているのだ。
「今回のアナザーライダーは、それまでとは違う意味を持つと言っていい。そのまま王になるも良し、あるいは王にならずとも良しというヤツだ」
「どういう意味だ?」
スウォルツは傘を閉じ、夜空を見上げる。ウール達もそれに倣って空を見上げると、空にあるはずの無いものが現れていた。
「何だよアレ……!?」
「お前達にも教えてやろう。アナザーアマゾンネオは、異なる時空から迷い込んできた異物だ。それに呼応する形で厄介な存在まで招いたが、今回はそれがむしろ、時空の歪みを促進したと言える」
「それが、あのヘンな穴だって言うの?」
オーラは驚きこそすれ表情は変わらない。むしろ側から見れば呆れていた。スウォルツが妙な企み事をするのにも、慣れてきたということか。
「穴、というのは正しくないな。まあ強いて言うならば……門だ。アナザーアマゾンネオが開いた、新たな可能性の扉だ。そういうわけで、しばらくアナザーアマゾンネオは放置する。その結果、ヤツ自身が——」
スウォルツは空に、闇の門に手を伸ばしながら言った。
「異なる時空への門となるやもしれん」