μ'sがライバルであるA-RISEが通うUTX学園の屋上でライブパフォーマンスをおこなった後しばらくしたある日のこと。
μ'sの練習を終え帰宅した穂乃果の元に、突然ツバサからの着信が届く。
電話に出てみると、中学生の頃花陽と凛と同級生だった叶という後輩のことで
頼みたいことがあるとツバサは打ち明けた。
ずっと一人で歌い続けていた少女のために、今女神達が集う。
した話を考えてみました。
ちゃんと主役になってるか分かりませんが。
今回描くにあたって、UTXより新キャラが一名追加されます。
あらかじめご了承ください。
*この小説はPixivにも投稿しています。
国立音ノ木坂学院。その学校は廃校の危機にさらされていた。その学校を守ろうと立ち上がった九人の在校生で結成されたスクールアイドルグループμ's。
ライブ活動を通して音ノ木坂学院の知名度を上げ生徒数を増やそうとした彼女達の活躍もあり、何とか廃校の危機を回避したものの、来年以降の学校の存続を確実なものとするため、そして卒業していく三年生メンバーのために、更なる知名度向上を目指しいよいよ本格的にスクールアイドルコンテスト〔lovelive!〕に向けて取り組んでいた。
この物語は、μ'sがライバルであるA-RISEが通うUTX高校の屋上でライブパフォーマンスをおこなった後しばらくしてからの物語である。
平日の夕方、いつものようにμ'sの練習を終えた穂乃果は和菓子屋穂むらの二階にある自室に着くなり、制服も脱がずにベッドに突っ伏した。
「あ~、今日もつかれたぁ~」
「お姉ちゃん!疲れてるの分かるけど制服くらい脱ぎなよ~。皺になったらお母さんにしかられるよ?」
妹の雪穂に文句を言われながらも疲れと面倒くささでベッドの上でごろごろする穂乃果。
「あ、そうだ。お父さんがお姉ちゃん帰ってきたら仕事手伝えって言ってたよ。」
「えー雪穂は?」
「私は受験勉強がありますから。私だってお姉ちゃんが受験のとき手伝い変わってあげたでしょ?」
ぶつくさと文句をいいながら穂乃果がベッドから起き上がろうとしたそのとき、不意にスマートホンが鳴り出した。
画面を見ると綺羅ツバサとある。
「えっツバサさん!?」
突然叫んで飛び起きた穂乃果の言葉を聞き逃さなかった雪穂が、興奮気味に何でツバサが穂乃果の連絡先を知っているのかまくし立てるが、それ所じゃない穂乃果は雪穂を黙らせて急いで電話に出た。
「穂乃果さんこんにちわ。いきなり電話かけてごめんなさいね。実は貴女に頼みたいことがあって電話したの。」
「え、私に頼みたいことですか?」
「えぇ、μ'sの小泉さんと星空さんのことなんだけど、実はUTXにその二人と中学生のとき同級生だった、会田叶って子が居るんだけど、叶は今UTXで非公認のスクールアイドルとして活動してるの。」
非公認という言葉が引っかかって聞いてみると、UTXが認めているのはあくまでもツバサたちA-RISEだけで、それ以外のアイドル活動は公認していないのだという。
「叶は中学生のときから、ずっとA-RISEに入ることを目指して頑張ってきたんだけど、残念ながらあの子は選考からもれてしまったわ。だけどそれでも諦められずに、非公認でこれまでずっと一人で歌い続けてきたの。」
「一人で、ですか。そのことを花陽ちゃん達は知ってるんですか?」
「いいえ、叶は小泉さん達に自分がUTXに居ることを伝えられなかったって言ってるから。たぶん、二人への引け目があるんでしょうね。」
叶は、中学生のときからA-RISEに入るためにずっと歌い続けてきた。しかし、結果はA-RISEに入れず、その上後から来たμ'sにさえ先を越されてしまった。
もし花陽達と話してしまったら、嫉妬にまみれた言葉をぶつけてしまうかもしれない。
そんな言葉を口にしたくなかったからこそ、叶は花陽と凛から距離を置いた。
「そんなこと、気にすることないのに・・・。」
「こんな話をした後で言いづらいんだけど、実は叶は手術をしなければ治らない病気になっているの。」
その一言で穂乃果に衝撃が走った、A-RISEに入れないばかりか病気だなんて。
「病気って、ひどいんですか!?」
「ごめんなさい、叶は詳しいことは話してくれなくて、どんな病気かは分からないの。ただ、かなり長時間の手術をしなければいけないって、泣きながら言っていたわ。」
「そんな・・・。」
余りのことに呆然としてしまう穂乃果の耳に、意を決したようなツバサの言葉が届いた。
「私、叶のために何が出来るかずっと考えていたの。そしたらね、やっぱり出来ることは一つしかないってわかった。聞いてくれる?」
穂乃果はツバサからの提案をしばらく真剣に聞いた後、分かりました、やってみます!と元気よく返事をして、明日ほかの八人に詳しく話すと伝えた。
「皆に話すのは明日なのね、じゃ、こっちも話をしておくわ。」
ツバサとの電話を終えた穂乃果は、とりあえず花陽に電話をかけた後、自分はにこに話しをするから凛には花陽から伝えるように頼んだ。
「お姉ちゃん、ツバサさんからの電話ってなんだったの?」
「すっごい楽しいことだよ♪」
笑顔で答えた穂乃果に、雪穂はきょとんとして何がなんだか分からない。
穂乃果と電話で話し終えた後、ツバサは叶を呼び出した。
「あの、理事長への推薦の件、どうなりましたか?」
「私からも理事長にあなたを公認アイドルとして推薦してみたけど、だめだったわ。」
やっぱりだめだった。そう思ったとたん叶はソファーにうずくまってしまう。
「やっぱり、だめなんですね。私は、誰からも認めてもらえないんだ・・・。私、
もう、・・・・アイドル・・・・やめます。」
「・・・それでいいの?それで、ほんとにやめられるの?」
あんじゅがたまらず叶に問いただした。
「学校に認めてもらえない、その上病気にまでなって、こんなんじゃ、アイドルなんて・・・。」
震える叶の肩に英玲奈が手を置いた。口下手な自分をこのときばかりは呪わずに居られない。
ツバサは叶の前にしゃがみこむと、自分の手を叶の手に重ねてささやいた。
「私達やμ'sに対して、引け目を感じていることは知ってる。小泉さん達に会えないのも、引け目があるからでしょ?」
それを受けて英玲奈が続ける。
「人はそれぞれ成長する早さがことなるものだから、直ぐに芽が出ないことは十分ありえる。」
「私達なんて、たまたま成長スピードが速かっただけよ。叶はまだ一年でしょ、私達が居なくなった後のA-RISEは、貴女達在校生が担わなくちゃいけないんだから、自分を諦めたりしないで。」
最後にあんじゅが微笑みながら語りかけた。
叶の手に載せた自分の手に力をこめながら、真っ直ぐにその目を見つめるツバサ。
「貴女がこれからも、誰かの笑顔のために歌い続けるなら、学校が認めなくても私は貴女をアイドルとして認めるわ。
だから、絶対に病気になんて負けないで。これからも、貴女の歌を聞かせて。」
ツバサの言葉を聞いたとたん、それまで我慢していた涙が決壊し、叶の頬を濡らして行く。
その後叶が手術に入る前に、見せたいものがあるといってなぜか入院前日にツバサは音ノ木坂学園に一緒に行くように伝えた。
翌日、音ノ木坂学院アイドル研究部に九人が集まると、にこが前日電話で穂乃果が話していたライブの依頼の件を詳しく話すように促した。
穂乃果は花陽と凛に目配せをすると、二人はうなずいて立ち上がる。
他のメンバーはその真剣な眼差しにはっとして言葉が出ない。
「叶ちゃんは、私達が中学生の時の同級生でした。中学生のときからずっとA-RISEを目指して歌ってて、叶ちゃんの歌は学校でも評判だったんです。私もアイドル好きだったから誘われたけど、一緒にやるっていい出せなくて、ずっと一人で歌ってました。」
花陽がそこまで言い切ると今度は凛が引き継いだ。
「凛達よりも前からずっと頑張ってきたのに、A-RISEに入れなくて、その上手術しなきゃ治らない病気にかかってるんだよ。手術を怖がってる叶ちゃんのために、凛たち全力で応援したいの!急なお願いなのは分かってるけど、でも、皆にも協力してほしいの!」
「叶さんが入院するまで、後どれくらいなの?」
絵里が聞いてきたのは重要なことだ、いくら頑張ってもライブまでの期間が短すぎれば難しい。
「あと十日後だそうです。」
消え入りそうな声で花陽が打ち明ける。もしかしたら皆から断られるかもしれない。
その恐怖が花陽の声をさらに小さくした。
「短いわね。」
「ぎりぎりって所じゃない?」
にこと真姫の言葉を受けてだんだん花陽の体が小さくなっていくような気がする。
「今から準備するのは、確かに急かもしれない。でも、私も叶ちゃんのために何もしないで居られないの。お願い、皆!」
そう言って頭を下げる穂乃果を見て、しょうがないわね。と真姫がつぶやいた。
「一応、曲はいくつかストックしてあるから、その中からよさそうなの使えばいいんじゃない?」
「海未ちゃん、作詞はどう?」
ことりに尋ねられた海未は、かばんの中からブリーフケースに入れられた歌詞の束を見せて微笑む。
「私も一応、最近は歌詞を考えることが増えてきましたから。」
その様子を見ていた花陽の目から、涙がこぼれる。
メンバーの意思が叶を応援する方向に動いたのを見届けた希が、なんとかやれそうやね。と花陽と凛に
微笑みかけた。
「で、衣装はどうするの?どうせ応援するなら、気合いいれたほうがいいんじゃない?」
「それって新しいやつってこと?」
希の問いかけに、当然でしょ。とにこが答える。
「その叶って子、中学のときからずっと一人で歌ってたんでしょ。まだ高一なのに、
こんなところで諦めてほしくないじゃない。」
にこが固い決意をこめた眼差しで花陽と凛を見据えた。
「でも叶さんの入院するのが十日後として、ライブ当日が九日。それだと準備には八日しかないわ。
それで九人分の衣装。しかも振り付けも覚えないといけない。」
絵里が言うのももっともだ、μ'sはスクールアイドル。勉強もおろそかにしてはいけない。果たして時間があるのか。
「そのことなんだけどね。」
そこで穂乃果がちらりと部室のドアのほうを伺うと、
「こんにちは~、μ'sの皆さん。衣装なら、私が手伝うわよ。」
部室のドアを開けて中に入るなり協力を申し出たのは、まさかのA-RISEメンバーのあんじゅ。続いてツバサと英玲奈が部室に入ってきた。
余りの突然の出来事に穂乃果以外のメンバーは言葉を失ってしまう。
「なっなんでA-RISEが・・・。」
硬直してろくに話せなくなったにこに変わって、絵里が穂乃果に事情の説明を求めた。
「実はね、叶ちゃんの応援ライブをツバサさんたちも協力したいって言われたの。」
穂乃果に促されたツバサが八人の前に立った。
「μ'sの皆さん、突然の訪問で驚かせてしまってごめんなさい。叶のことなんだけど、私達もあの子がずっと頑張ってきたのは知っていたわ。だから叶を応援したい気持ちは小泉さん達と一緒なの。だから、私達にも協力させて。」
すると最初に希が拍手を始めると、次第に拍手がほかのメンバーに伝播していく。
その光景にツバサの目にも涙がにじんだ。
「よーし!叶ちゃんのために、全力で応援しよう!!」
「オー!!」
穂乃果の呼びかけに部室に居た全員が声を上げてこぶしを突き上げた。
このことはもちろん理事長にも伝えられたが、彼女は直ぐに了承した。
「そういうことなら分かりました。誰かのために、何が出来るか考えて決めたことなら、私も応援します。頑張ってね。」
それから入院前日、叶はツバサと音ノ木坂学園に向っていた。
校門前の階段を上りきると、そこには二人を待っていた花陽と凛がたたずんでいる。
二人の目が叶を捕らえたとたん、表情がぱっと花が咲いたようになって次の瞬間には叶の元へ勢いよく駆け出してきた。
「叶ちゃーん!」
元気よく名前を呼びながら駆けてきた凛の勢いに圧倒された叶だったが、二人が目の前まで来ると一瞬目線をそらしてしまう。
「叶ちゃん、久しぶりだね。」
花陽も叶のそばまで来ると微笑を浮かべた。
「二人とも・・・私のこと、覚えてたの?」
「当たり前にゃ!ほんとはもっと早く会いたかったけど、叶ちゃん忙しくて会えないって言うし、今どこで何してるんだろうって思ってたら、UTXに行ってたなんて、凛ぜんぜん知らなかったにゃ。」
「私も、今どうしてるんだろうって思ってたら、UTXで歌ってたなんて。」
「・・・ごめん、ぜんぜん連絡できなくて。私ね、UTXでアイドル活動やってて、やってるっていっても非公認なんだけどね・・・。一生懸命歌ったけど、だけど学校が認めてくれなくてね、loveliveにも出られない。・・・そしたらあっという間にμ'sにも追い抜かれて・・・っ」
そこでたまらず涙が溢れてきて、叶は声をつまらせて俯いてしまう。
二人を前にして、言うまいと思っていた言葉があふれ出してしまいそうになるのを拳を握り締めて必死に抑えようとする。
「私だって、ずっと頑張ってきたのに!・・・μ'sにあっという間に追い抜かれて、悔しくてしょうがなかった。二人にあっちゃったら、私きっと最低なこといっぱい言っちゃうって思ったから、会えなかった。」
重ねていく言葉と共に、涙が叶の頬を濡らして行く。
「そうやって、ずっと我慢してたの?ずっと・・・。私達にたくさん言いたいことあったはずなのに、私達のこと気にして・・・ずっと。」
花陽の目から、大粒の涙が零れ落ちていく。花陽は泣きながら俯く叶を抱きしめた。
「私ね、中学生のとき、なんで叶ちゃんの誘い断っちゃったんだろうって、μ'sに入ってからずっと後悔してた。こんな楽しいこと、もっと早くに叶ちゃんと出来てれば良かったって。」
「凛も、あの時かよちんの背中押してでも叶ちゃんと一緒にアイドルやってれば良かったにゃ。ずっと一人にして、ごめんね。」
三人とも泣きながら、お互いの肩を抱いていた。
それを見ていたツバサの目からも、涙がこぼれていく。
「さ、行きましょ。皆が待ってるわ。」
涙をぬぐったツバサに笑顔で促され、穂乃果達が待つ校庭へ向っていく。
校庭には応援ライブのために設営されたステージが出来上がっていた。
「え、なんでステージがあるの?」
「今日のメインイベントよ、さ、あそこの椅子に座って待ってて。」
戸惑う叶を椅子へ促したツバサ達は、そそくさとセットの裏に消えていった。
ステージの前に置かれた椅子は叶が座る一脚だけ。この状況に叶がそわそわしながら待っていると、ステージ上に衣装に身を包んだμ'sとA-RISEの十二人が並んだ。
叶はステージ上に十二人がそろい踏みする光景と、衣装のきらびやかさに言葉を失って息をのむ。
「私ね、手術を控えている叶に、私達が出来ることって何だろうってずっと考えてたの。そしたら、やっぱり私達に出来ることは叶のために歌うことだけなんだって分かった。」
ツバサが叶に微笑みながら話しかけると、花陽と凛が叶のほうへ進み出る。
「叶ちゃんの病気なんて全部飛んでく位凛達全力で歌うからね。病気が治ったら、かよちんと一緒に遊びにいく
にゃ!」
「叶ちゃん、病気が治ったら、三人で一緒に歌おうね!」
三人の言葉に何度目か分からない涙を浮かべながら、叶はうん、うん、と頷いた。
「叶ちゃんの病気が治るように、祈りをこめて歌います。聞いていください、
Oh!love&Peace!」
花陽が高らかに歌の題名を宣言すると、流れる音楽と共に十二人がいっせいに
フォーメーションを組んで歌いだした。
叶は十二人のライブパフォーマンスを見ながら号泣しつつも、その顔には笑顔が
浮かんでいた。ステージ上では、花陽と凛がダブルセンターで歌い上げている。
その舞台袖では、ステージ設営を手伝った雪穂と亜里沙が目を輝かせてライブを見つめていた。
「μ'sとA-RISEってやっぱり素敵だね、雪穂。だって、たった一人のために、こんなに全力で歌うんだよ。」
「うん、そうだね。」
雪穂はステージ上で歌い続ける穂乃果を見て、我が姉ながら誇らしく思う。
たった一人の観客しかいなかったとしても、その一人のために全力で歌う。
その気持ちが、きっと誰かの笑顔になる。
そう信じて、これからも歌おう。
病室のカーテンが風で揺れている。
病室に置かれた叶のベッドの周りには、彼女の両親と花陽と凛とツバサが見舞いにきていた。
手術は六時間に及んだが、若さもあってかなんとか叶は手術を乗り切った。
「手術中もかわるがわる来てくれて、本当に有難うね。」
「本当にな、叶がこんなに友達に恵まれてるなんて嬉しいよ。」
叶の両親が花陽達に微笑みかけると、三人は照れくさそうにしながら笑った。
手術中や今日まで、μ'sやA-RISEのメンバーはかわるがわる病院に訪れていた。
特ににこは境遇が叶と似ていることもあって、一度訪れると叶と話し込むこともあった。
「実は私ね、退院したら花陽ちゃんや凛ちゃんとやってみたいことがあって。」
「やりたいこと?」
「なになに?」
身を乗り出す二人に、叶が恥ずかしそうにしながらささやいた。
「三人で、START:DASH!!、歌ってみたいなって。私、穂乃果さん達の初ライブの動画見たことがあって。自分ではこんな風に誰かと歌えないなって思ってて、でも今なら、花陽ちゃんと凛ちゃんと三人で、START:DASH!!歌えるなって思って。」
その言葉を聴いたとたん、花陽と凛の顔にぱっと笑顔が咲いた。
「やろう!3人で一緒に歌お!」
「凛も叶ちゃんと歌いたいにゃ!」
「それなら、私が三人のライブを動画に撮るわね♪」
ツバサが微笑みながら答えると、病室からは明るい笑い声が青空へ響きわたった。
μ'sのOh!love&Peace!に触発されて、実に6年ぶりにまともな小説を書きました。
μ'sには百を超える楽曲がありますが、その一つ一つがもし音ノ木坂学園の穂乃果
達が作ったとしたら、どのような制作秘話があるのか考えていたらこの形になりました。
ここまで見てくださった皆さん、有難うございました。