黒死牟殿の弟子   作:かいな

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第十四話

「!?!?!?」

 

 な、なんだ? ここは……。

 あまりに唐突な視界の変化。四方八方に階段が伸び、しかしその配置に統一性はなく、空間が歪んでいるかのような錯覚に陥る。

 いや……これは実際に空間が歪んでいるのか?

 

 理解が追いつかずに思考は混乱する。

 その混乱を深めるように、べんっという琵琶の音が響く。その琵琶が鳴るごとに視界が飛び、続々と気配が増えていく。そして捻じ曲がるように空間が歪んでいく。

 

 飛んでいく視界の中、琵琶を鳴らす女の鬼の姿をみた。

 あの女の血気術か? あの女を中心に空間が歪んでいる。

 

「……」

 

 べべんっ、という音を最後に、気配が集結する。

 

「あれぇ……? 君達下弦の鬼だよねぇ? いや……猗窩座殿の気配もするなぁ……上弦も集められてるのかなぁ……?」

 

「!?」

 

 背後から声を掛けられる。軽薄そうでいて、何の感情も感じられない気味の悪い声。思わず振り返れば、疑問を抱いたように見せている男が一人。

 その両目には上弦の弐と刻まれていた。

 

 ま、まさかこいつ……上弦の鬼か!?

 急いで辺りに目を向ける。見れば、集められた鬼は()

 

 上弦の弐。

 上弦の参。

 上弦の肆。

 上弦の伍。

 上弦の陸。

 下弦の壱。

 下弦の弐。

 下弦の肆。

 下弦の伍。

 

 そして、下弦の陸である俺。

 

 十二鬼月が全て集められている……。

 こんな事は初めてだ。上弦の壱と下弦の参はまだ来ていない。

 

 べんっ、と。また琵琶の音が鳴る。

 移動した!! またあの女の血気術……!

 

「!?」

 

 そして移動した先には……()()()()がいらっしゃった。

 

 む、無惨様!!? 何故!? 混乱と困惑が同時に頭の思考を支配する。

 だから遅れた。上弦の鬼は既に平伏し這いつくばっている。

 

「首を垂れて這い蹲え。平伏せよ」

 

 しまった……! 無惨様のお手を煩わせてしまった!? 

 上弦に続き、下弦も這い蹲る。

 

「お前たちには失望した……お前たちの使えなさにだ」

 

「……?」

 

「上弦の壱、黒死牟が殺された。下弦の参もだ」

 

「!?!?」

 

 一瞬、無惨様が何を仰られているのか分からなかった。

 そして理解してからも分からなかった。

 殺された? 下弦の参はともかく……上弦の壱が? 十二鬼月の最上位に立つ鬼が?

 その情報は上弦の鬼たちにとっても衝撃だったらしく、上弦の鬼たちからも動揺した気配が伝わって来る。

 

「私が問いたいのはただ一つ。『何故に貴様ら十二鬼月は私の顔に泥を塗るのか』。私が心血と多大なる時間を注ぎ作り上げた十二鬼月。その最上位に立つ黒死牟は殺され……下弦の参に至ってはほんの瞬き一瞬のうちに殺される始末」

 

「……」

 

「貴様らは私の役に立つどころか私の顔に泥を塗りつけた。怒りで腸が煮えくり返りそうだ」

 

 確かに上弦の壱が殺されたのは非常事態だが……そんな事を俺達に言われても……。

  

「そんな事を俺達に言われても。何だ? 言ってみろ」

 

「!?」

 

 思考が……読めるのか?

 まずい……。

 

「何がまずい? 言ってみろ」

 

 

 忌々しい。全く持って忌々しい。

 

「お許しくださいませ!? 鬼舞辻様どうか! どうかお慈悲を!」

 

「黙れ。貴様は私に指図するつもりか?」

 

「っ……」

 

 目の前に座る下弦の陸は惨めに慟哭し、震えながら私に嘆願してくる。

 しかしそれを無視して、睨み付ける力を強める。

 

「っ!?」

 

 それに呼応するように下弦の陸は体を震わせ、そして全身から血を垂れ流し始める。

 

「あっ、がぁっ……ぁっ!?」

 

「……」

 

「……」

 

 こいつは今、全身の臓腑が捻じ曲げらえたかのような痛みを味わっている。

 私が、そうしているのだ。

 

 両隣に居る下弦の鬼たちは下弦の陸の血を浴び、震えている。

 

 全く持って忌々しい。何だこの質の低い鬼たちは。十二鬼月が何という体たらく。

 下弦の鬼でこの状況に動じていないのは下弦の伍の累と下弦の壱の魘夢のみ。

 

 どう言う事だ。半数以上が心に人間らしさを多く抱えている。十二鬼月も落ちたものだ。

 

「……」

 

 十二鬼月。

 私が作り出した強い鬼の軍団。

 十二鬼月は上弦と下弦に別れる。上弦と下弦の鬼はそれぞれ数字を持ち、壱から陸まである。

 一番強いのが上弦の壱で、弱いのが下弦の陸だ。

 

 私は姿が見える距離であれば、血を分けた存在の全ての思考を読み解ける。離れれば離れるほど鮮明に読み取れなくなるが位置は把握している。

 もっとも……位置が離れていようが、意識すれば鬼たちの視界や聴力を使う事が出来るが。

 

 下弦の壱と伍を除く者どもは駄目だ。この程度の折檻で怯えている。しかも自身が受けている訳でもないと言うのに。

 

「……」

 

 しかし上弦の鬼は違う。みな平然と下弦の陸が苦しむ姿を見ている。

 やはり鬼は人としての心を持たぬものが強くなる。

 

「……ぁっ……」

 

 下弦の陸がとうとう気をやって気絶した。

 情けない事この上ない。

 私は軽蔑の視線を無様を晒している下弦の陸に向ける。

 

 そして何より忌々しいのが……このような鬼でも使わなければならない状況だ。

 

「私は変化が嫌いだ。状況の変化。肉体の変化。感情の変化。あらゆる変化の殆どの場合は『劣化』だ。衰えだ。私が好きなものは『不変』。完璧な状態で永遠に変わらない事」

 

「……」

 

「百三年ぶりに上弦を……しかも黒死牟を殺されて私は不快の絶頂だ。これからはもっと死に物狂いになれ。これ以上私の顔に泥を塗るような真似をするな」

 

 私の激昂を受け、黙りこけた鬼どもに向け、黒死牟を殺したあの異常者の情報を伝える。

 

「中性的な見た目に上気した頬。赤みがかった瞳。黒死牟の弟子を騙る、折れた日輪刀を持つ者を見つけたら死ぬまで戦え。戦えばお前たちは確実に死ぬだろうが唯では死ぬな。私に奴の情報を最大限残してから死ね。そして無様に死なず、手傷を負わせろ」

 

 それだけ言うと鳴女に十二鬼月どもを元の場所まで送らせる。

 

 これで多少はあの異常者の情報を仕入れる事が出来る。

 ……可能性は低いが傷を負わせることも出来る可能性もある。期待はしないが。

 

「……」

 

 だが情報を仕入れ、分析すれば奴を殺せる。

 鬼は相手の身体の情報をある程度読み解くことが出来る。アイツの体からして……全盛期はまだまだ先。

 未成熟な今、殺すのだ。

 

 私はほのかに笑みを浮かべる。

 十二鬼月がどれだけ死のうが勝てなかろうが最終的に私が勝てればいい。

 

「……」

 

 もっとも……上弦の鬼は下弦の鬼とは違う。

 鬼殺隊。その最高戦力である『柱』を何人も葬ってきた。

 それはひとえに、奴らの持つ血鬼術の殺傷力の高さにある。例えあの異常者がどれだけ強かろうと……死んでも食らいつこうとする上弦の攻撃を受けて無傷ではいられまい。

 

 私は報告を待ちつつ、自身の体の研究を再開した。

 

 

 

 

 そして五年が経ち……状況が大きく変わった。

 

 下弦の伍・累

 黒死牟の弟子と那田蜘蛛山にて遭遇。奴が夜の十二時に山入りし、丑三つ時を迎えることなく那田蜘蛛山壊滅。

 使用された技……空の呼吸 参ノ型『逢魔陽光・無間』。

 

 下弦の陸・釜鵺(かまぬえ)

 黒死牟の弟子と会敵。戦闘開始から一秒経過後死亡。

 使用された技……技を出すまでもなく殺されたため不明。

 

 下弦の肆・零余子(むかご)

 黒死牟の弟子と会敵。戦闘開始から五秒経過後死亡

 使用された技……背を向けて逃げたため不明。

 

 下弦の弐・轆轤(ろくろ)

 黒死牟の弟子に不意打ち。一合だけ斬り合うも戦闘開始から三秒経過後死亡。

 使用された技……空の呼吸 伍ノ型『碧空炎天』。

 

 下弦の壱・魘夢

 黒死牟の弟子に不意打ち。血気術を食らわせるが瞬時に破られ、戦闘開始から十秒経過後死亡。

 使用された技……空の呼吸 漆ノ型『青天霹靂』。

 

 そして……。

 

 上弦の陸・堕姫(妓夫太郎)

 黒死牟の弟子から襲撃を受ける。堕姫が瞬時に首を跳ねられ、それを庇う様に妓夫太郎が戦う。ここで初めて戦いとなった。しかし十分経過後妓夫太郎が堕姫を庇い、共々に両断され死亡。

 使用された技……空の呼吸 参ノ型『逢魔陽光・無間』。空の呼吸 漆ノ型『青天霹靂』。空の呼吸 壱ノ型『早暁三文斬り』。

 

「……」

 

 五年。奴が現れてから五年。

 たったそれだけの時間で……十二鬼月が半壊した。どころか、またもや上弦の鬼を殺された。

 しかも奴は全くの無傷。あの()()()()ですらかすり傷一つ負わせることが出来なかった。

 

 何故だ。何故たった一人の子供に百数年に及ぶ安寧が崩される。

 何故こうなる。

 

「……があああああッッッ!!!」

 

 手に持っていた書物を叩きつけ、それを踏みつける。

 

「何故だ! あの異常者! 何をした!? 十二鬼月の半数以上を犠牲にして、何故たった一つの呼吸の……それもたった四つの型しか分からぬ!? 何故だ何故だ何故だぁァァァァ!!」

 

 無限城の床を破壊し、柱を破壊する。私の一撃ごとに城が揺れる。

 

『──無惨様』

 

「……なんだ! 猗窩座!」

 

 と、何時になく取り乱した私をいさめるように、『青い彼岸花』を探すべく走らせている上弦の参の鬼──猗窩座から連絡が入ってきた。

 一年中彼岸花が咲き乱れる孤島……彼岸島。

 

 特殊な気候によって青くなった変種が存在するやもしれぬと猗窩座を派遣したが……何か有ったか。

 

『──奴が居ました』

 

「!?」

 

 と。またもやあの異常者だ。

 何故だ。奴はまるで神通力でも使っているかのように強い鬼の位置を割り出してくる。

 

 五年間。私が増やした鬼はそのことごとくが殺された。それも……何故か強く育った鬼ばかりだ。

 奴の登場以降、鬼は減り続け決して増える事は無かった。

 

 何なのだ。奴は何を目印に鬼を探している。

 いまだにそれすら分からない。

 

「……猗窩座。可能な限り時間を稼げ。そちらに……半天狗と玉壺を送る」

 

 上弦の弐の血気術は温暖な気候の彼岸島では万全な状態で使えぬやもしれぬ。

 

 だが。

 上弦の伍・玉壺の呼吸潰しの血気術。

 上弦の肆・半天狗の多くの柱を葬ってきた体質。

 上弦の参・猗窩座の戦闘能力。

 

 上弦の弐などいなくても何ら問題ない。この三鬼が組めば黒死牟すら取れる可能性も有るのだ。

 

「上弦の鬼三体で嬲り殺しだ」

 

『御意に』

 

 そこで猗窩座との会話が途切れる。

 そして鳴女に、半天狗と玉壺の位置を急ぎ捕捉させる。

 

 そうだ。元より単独であの異常者に当たらせていたのが間違いだったのだ。

 最早容赦はしない。

 

 異常者め。今日が貴様の命日だ。

 

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