シリウス・ブラックの親戚さん。
ハリー世代。
『吾輩はアル・ブラックである』の続き。

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セレスティア


吾輩はアル・ブラックであるぞ

夏休みは世界を旅することにした。

今年一年色々なことがあった。

戯言だと思っていた言葉が嘘じゃなかったことを知った。

 

昔、世界は美しいと言った父はもういない。

何が美しいのか、何を見たのか、語ってくれることなく逝ってしまった。

 

父の言葉を確かめるために、世界を旅する。

こんな身の上だ。

言葉巧みに騙そうとしてくる人はたくさんいた。

 

その事を思い出して、父の言葉を思い出して、この世界のどこが美しいのか知りたくなった。

 

世界は広い。

まずは欧州を旅することにした。

英国を旅して、順次国外を回ることにした。

夏休みは二か月ある。

二か月でどれだけ世界を巡れるか、この小さな身体でどこまで行けるか、試し所だと気合を入れて家を出る。

燦々と輝く太陽がおれの旅路を照らしている。

あれがこの世界の美しさを見せてくれる。そう信じて疑わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

去年、賢者の石を巡る攻防があったらしい。

 

そういう噂を二年生になってようやく耳にした。

昨年度の土壇場での大量得点はそれが関係しているとか何とか。

結局同点同率一位で幕を閉じた寮対抗杯に、今年こそはとスリザリンは燃えに燃えている。かく言うおれは歌っている。

 

「あの栄光よもう一度。ア、ゲイン。ア、ゲイン」

 

口ずさみながら校庭へ。

今日はマルフォイの記念すべき初飛行だ。

 

『父上に買っていただいた最新型のニンバス2001だ。君もいるか?』

 

談話室でチームメイト全員に箒を賄ったマルフォイの鼻は、それはそれは伸びに伸びていた。

去年『一年生の癖になぜポッターが!?』と悔しがっていたのでその反動だろう。いつにも増して伸びております。

久しぶりに天狗思い出しちゃったよ。この世界なら天狗いるんじゃないかな。あいつなら天狗ともやりあえる。愚息を競う熱い男共のように鼻を競うのだマルフォイよ。きっと勝てるさお前なら。

 

ちなみに、調べてみたら日本にトヨハシ天狗って言うクディッチチームがあるらしい。

なぜ豊橋。なんか天狗と関係あるのか。謎である。

 

「と・よ・は・し。と・よ・は・し」

 

スキップを踏み鼻歌を歌って校庭へと向かう。

向かう先、校庭の真ん中で大勢の人間が何事か争っている。

それはグリフィンの赤ユニフォームとスリザリンの緑ユニフォームを着ていた。

 

中心にいるのは期待を裏切らずマルフォイだ。

高慢キチそうな顔に、お坊ちゃんらしく顎が尖がってる。デコは変わらず広い。

 

近寄ろうとしてもエスカレートしたグリフィン生とスリザリン生に弾き飛ばされる。

「あぁん」と被害者を装ったのだが誰も気づいてくれなかった。

仕方ないから杖を抜く。

 

「おおおっっっ!?」

 

宙づりに浮かび上がったマルフォイ君。

余裕ぶって何かペラペラ言ってたが、今は焦りに焦っている。へへへ。いい様いい様。

 

「初飛行見せてくれんじゃないの」

 

「き、君か!? 君がこれやってるのか!?」

 

ひっくり返したマルフォイを頭の高さに持ってきて会話。

おれですとも。他に杖向けてる奴いるのか?

あ、結構いるわ。

 

「下ろせ。君は一体何をやってる?」

 

「お前が初飛行見に来いって言うから」

 

「なんだその言い方は。何で僕に責任がある様な言い方なんだ!」

 

だって初飛行放っといて何かごちゃごちゃやってたら気になるでしょ?

おれ弾き飛ばされたんですよ。まあいいや。おろそ。

 

「3、2、1でおろすぞ」

 

「まて。分かってるだろ。おろす時はゆっくりと丁寧に……」

 

「1、2、3。ほい!」

 

「順番違っうっ!?」

 

……まあ、なんか首から落ちたが、受け身は取れていた。

 

「初飛行。初飛行。初飛行」

 

手を叩いて煽って、ゆっくりとマルフォイが起き上がる。

どことなく気品ある仕草でユニフォームの土煙を払い落とす。

 

「グリフィンドールはとっとと出ていけ」

 

その声は明らかに無理をしている。

 

「痛かった?」

 

「君は少し黙っててくれないか」

 

「おくちちゃーっく」

 

「そういうところだよ」

 

おれたちのやり取りに呆然としていたグリフィンたちは、スリザリン生にしっしと追い払われて、むっとした顔になる。

それでまた始まる言い争い。

スネイプ先生の許可は頂いてるんだとスリザリンは主張し、グリフィンは異議を唱える。

どんだけ唱えた所で、教授の許可は出てるんだから無駄なのに。

 

「穢れた血め」

 

誰かがそう言った。

それはマルフォイだったかもしれないし、他の誰かだったかもしれない。

しかしそれを聞いたグリフィンの大多数は激高し、才媛殿とポッター嬢の二人が訳も分からずきょとんとしている。

 

スリザリンとグリフィンは互いに杖を向け合って臨戦態勢だ。

このままではあかん。魔法戦が始まって罰せられる。

この場を丸く収められるのはおれしかいない……!

 

「よいか貴様らよくお聞き!」

 

大声で怒鳴った俺に、刹那みんなの意識が集中する。

 

「無言呪文の神髄とは心の神髄! 今から身体に覚えさせてやるっ!」

 

突然意味不明なことを言ったおかげで頭がついて行かないようだ。全員「は?」と硬まっている隙に杖を向ける。

偉そうなことを言っておいて、この呪文を複数人に向けてかけたことはないが、まあ多分いけんだろ。

無言呪文は心の所作。いけないと思った時点でいけないのだ。

 

「レビコーパス! 身体浮上!」

 

「それのどこが無言呪文だふぉーい!!?」

 

マルフォイが空に浮く。

他の大多数も空に浮く。

そんでもってすぐに落ちた。

ぼきっと全員が落ちてきた。

 

こりゃあかんわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから然程間を置かずにマクゴナガルとスネイプがやってきた。

二人はグリフィンとスリザリンが一触即発だと聞き駆けつけたそうだが、やってきたときには両陣営壊滅していた。

 

唖然とするお二人に、唯一無傷のおれは釈明を余儀なくされた。

 

『やっちゃいましたぜ教授』

 

というわけで、怪我を負わせた人数×10ポイントがスリザリンから差し引かれ、寮対抗杯はスリザリンびりっけつから幕を開けたわけである。

しかしながら、新学期から間もなくして寮対抗杯とかそんなこと言ってる場合ではなくなった。

秘密の部屋とやらが開かれてしまったから。

 

「はあ? マルフォイが後継者ぁ?」

 

「うん……」

 

ゴイルとクラップがおかしなことを訊ねてくる。

普段食うことばかり考えている二人は、いつもの小心者らしいおどおどした雰囲気ではなく、変に緊張をはらんだ顔つきだった。

 

珍しいこともある物だと聞いて見れば、秘密の部屋を開けたのはマルフォイではないかと疑っているとのこと。

心配性も極まれりだ。確か以前マルフォイに直接聞いていたはず。その時点できっぱり否定されていた。

一度はその答えに納得し安堵したにもかかわらず、不安がぶり返してしまったらしい。

こういう輩を納得させるのは難しい。おれは課題に集中しつつも片手間に話すことにした。

 

「あいつにそんな度胸あるわけないだろ」

 

「いや、でも……」

 

「あいつは虎の威を借りる狐だよ。知らず知らずエキノコックスで他人殺すぐらいが関の山さあ」

 

「随分な悪口じゃないか。えぇ? アル」

 

振り向けば奴がいた。

おれが課題に勤しんでいる隙を縫い気配を絶って背後に潜んでいた。

なんたる卑怯者だろう。また寝ぼけてレビコーパスかけちゃうぞ↑

 

「で。クラップ。君はまだそんなことを言っているのか。僕じゃないと何度も言っただろう」

 

馬鹿に付ける薬はないとでも言いたげに首を振ったマルフォイは、ぞんざいな態度でソファに腰かける。

その機を狙い定めたかのように、飲み物を持ったパーキンソンがやってくる。

 

「ドラコ。バタービールよ」

 

「ああ」

 

礼を言うでもなく当たり前のように受け取るマルフォイフォイ。

まるでお貴族様の様な振る舞いだ。本人曰く聖28族とか言う高貴な家柄だから、この待遇も当たり前らしいが。

かく言うおれもそれに当たるらしい。「ならばおれがお前を吊し上げるのも当たり前なのだろうか」と問うと「それは当たり前じゃない」と否定されたので釈然としない。王様気分味わえないじゃん。

ただまあ一つ言えることは、順調に外堀埋められてますぜ坊ちゃん。

 

「アル。あなたもいる?」

 

「マルフォイのバタービールを逆流させるタイミングを計ってるんだ。悪いが話しかけないでくれ」

 

「あら」

 

言って間もなくマルフォイの手元で噴水が吹き上がった。

水も滴るいい男は、いい男にしてはデコが広い。髪形変えれば?

 

「……アル」

 

「へい。どうした。バタービールが滴ってるぜいい男」

 

「君か?」

 

「そんな魔法は知らないたい」

 

「これほど白々しい言葉がかつてあっただろうか」

 

「空気を爆発させれば逆流するんだろうか」

 

「やめろ」

 

慌ててゴブレットを置くマルフォイに、パーキンソンがタオルを手渡す。

「ありがとう」今度はさすがに礼を言うマルフォイ。

「どうってことないわ」スマートに返すパーキンソンに、マルフォイは柔和に微笑んで顔のバタービールを拭い始める。

それを見つめるパーキンソンの目が、半分逝ってしまっているように見えるのは気のせいだろうか。

クラップとゴイルが慄いている所を見ると気のせいではないようだ。

いやあ、やばい奴に目を付けられてるなあ坊ちゃん。その鈍感属性はどうにかしたほうがいい。

それはそれとして、君たちどうした? まるで別人じゃないか。いつもはパーキンソンのことなんか興味もないくせに。

 

「で、でも、誰が後継者かぐらいは知ってるんだろう?」

 

「ああ。知らないよ。それも何度も話したぞクラップ」

 

不機嫌を露わにするマルフォイにゴイルは口をつぐむ。

こいつを怒らせたらやばいと言うのはスリザリン全員の共通認識だ。最近では上級生にまで波及しているから性質が悪い。ニンバス2001の効果は絶大だったと言える。

しかしいつもならここで話は終わるのに、いつに見ないらしからぬ積極性を見せたのはゴイルだった。

 

「でも、おかしいじゃないか。君ほどの人が後継者じゃないなんて。僕はとてもじゃないけど、あの純血筆頭の名家が関係ないなんて信じられないんだ」

 

おや?

これはまた上手に挙げたもんだ。

マルフォイも不機嫌は一転し上機嫌になっている。

 

「そうか。君もそう思うか。いや、僕も正直この件に関われていないのは心の底から残念なんだ。後継者が誰にしろ、僕に秘密を打ち明けてくれれば、手伝いが出来るのに」

 

まあた調子に乗って碌でも無いことを言い始めた。

よくよく聞けば薄ら皮肉めいていることに気がつくだろうに。

 

手伝いって言うのもありあり想像できる。

下手人に『穢れた血リスト』を渡すとかだろ。もし本当にそんなことしやがりやがったら、『純血リスト』に変えとくからな。

 

「そういえば、アル。僕も聞きたかったことがある。実は君じゃないだろうね。秘密の部屋の後継者は」

 

「はあ?」

 

得意げな顔のままマルフォイがそんなことを問うてくる。

その顔はそんなことは有り得ないと確信している顔だ。

 

「おれが純血を襲って殺し回ってるって? 冗談はよしこちゃん」

 

「そう言うがね。ありえない話じゃないだろう。君も一応は聖28族だ。資格は十分ある」

 

「その資格ってやつも怪しいもんだ。まあ、仮におれが殺すとしても、そんな理由じゃ殺さないね。なにせ、かのヴォルデモート様ですら半純血だ」

 

一旦会話を止め、出来上がった課題を矯めつ眇めつ見る。

決していい出来とは言えないが、良は狙える出来だ。スネイプに出すのだから、最低でも可は貰えるだろう。

 

羊皮紙を丸めて三人に向き直る。

内二人、マルフォイとクラップは顔を凍らせていた。こうして向かい合ってなおぴくりとも動かない所を見ると、コールドスリープしてしまったようだ。ひょっとして、どこからともなくアバタケダブラが飛んできたのかもしれないな。

 

そんでもって、ゴイルは信じられない物を見る目でおれを見ている。驚くのは分かるが。ふむ。

あ、パーキンソンさん? マルフォイのタオルを持って何処へ向かわれるのですか? まだ拭き終わってませんよ。何処へ行ってしまわれるのですか? パーキンソンさん?

 

「……じゃあ、どういう理由なら殺すんだ?」

 

つばを飲み込んでゴイルは訊ねてくる。おっかなびっくり、隠しきれない好奇心を滲ませて。

 

「うん? うん。そうだな」

 

やっぱり今日のゴイルは一味違うようだ。舐めたなら別人の味がするかもしれない。

いつもならこんなことは絶対に聞いてこないだろう。あいつは小心者だから。小人怪しきに近寄らずだ。

 

「そうだな……汚い奴を殺すだろうな」

 

その答えにゴイルは眉をひそめた。意味が分からんと言う顔。そういう反応が見たくて言った部分もある。そんでもってよくよく見ていたら気が付いた。目の色が緑色になっている。

「おや?」と眺めている内に体形そのものが変わっていくようだった。

それに一足早く気づいたクラップがゴイルの腕を掴み、ゴイルはクラップの顔を見て事態を悟ったようだ。二人して何を言うでもなく慌てて走り去っていく。

 

「おやおや」

 

怪しさ満点である。

あの様子では変身術で化けていたわけではなさそうだ。

時間制限付きとなると魔法薬。声も変わっていたな。どんな薬があるのか。

 

「秘密の部屋。マルフォイを探る。緑色の瞳。魔法薬。さて、誰だったのかな」

 

魔法薬の種類によっては大分絞り込める。

とは言え、決定的なのは何もない。何となく頭の中には例の三人が浮かんでいるのだが、それは単なる願望だろう。

 

「まーるふぉい」

 

「あ、ああ……あれ? 二人は?」

 

「寝た」

 

「そうか。いつの間に……」

 

復活したマルフォイはしきりに辺りを探っていた。

おどおどした様子は何かを恐れているようだ。

 

「いいかアル。二度とあの方の名を口にするな」

 

「おや。闇の帝王様が怖いかい?」

 

「そういうことじゃない。君は何も分かってない」

 

肩をすくめる。

何を分かっていないと言うのか。

偉大さか、恐ろしさか。それとも別の何かか。

確かにマルフォイの言う通りまるでわからないな。

 

おれと闇の帝王とでは、考える基準が星の距離ほど離れている。

それは奴が母の仇だからではなく、単純におれの思考はマグル寄りだからだ。

マグルを唾棄する例のお方は、マグルのことを何一つ理解していなかったようだ。

おれにしてみればマグルと魔法使いは同一の生き物だが、奴は別個の存在として見ていた。

この相違は相容れないだろう。死んでてくれてよかった。ビバ、早死に。地獄でもお達者で。

 

「わかった。例のあの人で通すことにしよう」

 

「ああ。そうしてくれ。まったく心臓に悪い……」

 

死んだ人間のことで争っても益がない。

折れたおれに、マルフォイは溜息を吐く。

 

そうして「もう寝るよ。着替えたいし」と寝室に向かう背中を見送った。

いつの間にやらパーキンソンがいなくなっていたことには、マルフォイはついぞ気が付かなかった。

 




2000文字程書いてあったので加筆して投稿
転生要素なくてもいけらあということで転生要素削除
続きは恐らくない


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