「お父さん、ポケモンに会いたい!」
「お父さんポケモンに会いたい!」
子供の頃、幼いころの自分は無邪気に父にそう聞いたことがある。
その時の私はポケットモンスターと呼ばれる作品に夢中になっていた。
初の第一作目であったミュウツーの逆襲と映画を見た後の帰り道の出来事だ。
「うーん」
まだ白髪も混じっていなかった私の父親は、困ったように考え込んでいたことを覚えている。
今思えば、酷く困らせることを聞いたと思う、そのころの私はまだ空想と現実の区別がまだはっきりとしていなかった。
いつか、広い世界のどこかで主人公であるサトシとその相棒であるピカチュウが仲間たちと共に旅をしている、そう思っていた。
もちろん、この地球上にポケモンと呼ばれる生き物は存在していない、空にピジョットやオニドリルは飛んでいないし、海にはギャラドスやホエルオーは泳いでなどいない。
「お前が大人になったらいつかきっと会えるさ」
そう言った父親の言葉を真に受けて、家に帰った幼い私は母親に将来の夢はポケモンマスター、なんてことを言っていた。
母は、あらあらといった顔で笑ってそうね、きっとなれるわよと言ってくれた。
合えるはずもないというのに。
それから次の日、学校に登校して授業を受け、給食を食べて友達と遊んで家に帰る。
そんな当たり前で普通の日常の生活を繰り返した。
もちろん、その間にも放送されるポケモンのアニメーションやゲームを楽しみながら。
いつ会えるのか、合ったらどんなことをしようか、毎日毎日寝る前にそう考えて、父親に話て眠りにつく。 そんなサイクルを繰り返し繰り返して一年後、『ああ、ポケモンなんていないんだ』、と認識した瞬間がやってきた。
それは、父親が交通事故で死んでしまった時だった。
その時の私は荒れていたということをよく覚えているし、ポケモンなら父を天国から取り戻してくれる、なんて世迷言を本気で考えて、家を飛び出してしまったことも覚えている。
だけど、子供の歩みは大人に比べればとても小さい、そのせいで少し遠くの駅前で歩き疲れ果ててしまい、泣いていたところを交番のおまわりさんに見つかり事なきを得た。
涙を流しながら私を抱きしめていた母を私は一生忘れないだろう。
それから私はポケモンに関係する物をすべて処分し、アニメも見ることはなくなった。
ポケモンを見れば最愛の父親を思い出してしまうという理由からだった。
まあ、自分がそれにかまけるほど頭がよくなかったというのもあったのだろう。
高校から授業が格段に難しくなり、遊んでる暇なんてなくなってしまったからだった。
まあ、がんばったおかげで何とかいい成績で高校も大学も卒業をすることができて、最愛の妻とも出会うこともでき子宝にも恵まれた。
順風満帆、幸せな生活をしている時だった。
家で息子と遊んでいる時に、突然、息子はこう言ったのだ。
「お父さん、ポケモンに会いたい!」
かつての私と全く同じ言葉、不意に言われてしまって
「おっ大人になったらいつかきっと会えるさ」
と、つい父と同じ言葉を返してしまった。
息子は昔の私と同じように、その言葉を信じてしまったようだった。
……本当にこれでいいのだろうかという考えが私の脳内によぎる。
時が過ぎ、ポケモンと呼ばれる作品にはもう懐かしいという感情が出るようになっていた。
少しばかりの寂しさを感じるが、それはいい。
問題は、息子の夢を壊すことになるが現実を教えておいた方がいいのではないかということだ。
もしも、私のように言えるはずのないポケモンを探しに家を飛び出すなんてことになるなってことはなくなるかもしれない。
「あのな、ポケモンはな……」
そう思った私は、悪いと思いながらも息子に真実を話そうとした……その時だった。
見ていたテレビ番組が突然番組を変更してニュース番組へと変わったのだ。
「もー! ポケモン見てたのにー!」
息子は見ていた番組が突然変更されてしまい不満のようだった。
私はいったい何があったのかと流れるニュースに目を向けた。
ニュースキャスターは興奮を抑えきれないと様子で、原稿を読み上げ始める。
【緊急速報です!、皆様ご覧いただけますでしょうかこの光景を!】
画面が切り替わる、普通ではないニュースキャスターの様子に息子を抱きしめながら画面を見ると、映っていたのはどこかの海の映像、それだけならばただの海だがよく見て見れば青い巨大な何かが潮を吹きながら浮いていた。
「あー!
「え……?」
それは息子の言う通り、ポケットモンスターに出てくるポケモンの一体だった。
画像は次々と変わっていく、どの映像にも様々なポケモンの姿が映っていた。
【皆さん、この映像は決して編集されているわけではありません! 実際に起きている現実の出来事なのです。
ポケモンが! この世界に! 現れたのです!! 繰り返し申し上げますがこの映像は現実のものです……】
ニュースキャスターは満面の笑みを浮かべながら興奮した様子で原稿をんでいた。
今にも仕事を放り投げてポケモンのもとへといってしまいそうな勢いだ。
「お父さん、ポケモンって結構近くにいるんだね、外を探したら見つかるしれないよ!」
「あっああ、そうかもな」
私は夢でも見ているのだろうか。
今まで空想の存在であったはずのポケモンたちが突如として現実に現れた。
これは一体どういうことなのか……そう考えていると庭から小さな声が聞こえた。
「ピカ!」
振り向いて庭を見て見れば、 黄色いネズミのような姿。
頬にある赤い電気袋と大きなしっぽが特徴のポケモンであり、主人公サトシの唯一無二の相棒であり親友。
「ピカチュウだ!」
ねずみポケモンピカチュウだった。
息子は私の傍を離れ、ピカチュウのもとへと走って行ってしまった。
「かわいいいいい」
「チャア~♪」
そして息子はピカチュウを人形のように抱きしめる。
その光景はまるで、昔自分が思い描いていた光景そのもののようで、
「ああ……父さんの言っていた通りだったよ」
とてもとても、まぶしく見えた。