金もねぇ! 資金もねぇ!
土地は全く肥えてねぇ!
蛮族毎日くーるくる
おらこんな国いやだ〜こんな国いやだ〜
2度目の人生を迎えたわたしは、型月のブリテンに転生した。
そう、ブリテンである。
メシマズ大国で、西暦に入ってもなお神秘が未だに残っているせいで大地どころか国自体もサヨナラが決定している型月のブリテンだ。そんな国に転生自体、生存競争がルナティックハードモードなのに、私の転生先はかの裏切りの王妃として名高いギネヴィアだった。
詰んだ。
確実に詰んだ。
俺TUEEEEだって真っ青な転生先だ。貧乏くじすぎる。 誰が好き好んでブリテン王妃なんぞになるものか。世界がわたしに死ねといってる幻聴が聞こえる気がする。というか、多分幻聴じゃないと思う。そりゃ平民に生まれて萎びた人参を食べて辛うじて生きながらえるような生活も嫌だけれど、その同レベルで転生先が嫌すぎる。せめてやけくそにキレて自暴自棄になって、盗んだバイクで走り出そうものならキチガイからの一気にお家監禁ルートで、三日後にはきっと新しいギネヴィアがすました顔で紅茶を啜っているんだろう。そういう外道がまかり通る時代である。 泣きたい。
かといって、国を崩壊させる原因の一端を担って末代どころか、未来永劫『裏切りの王妃』の汚名を背負うのもゴメンだ。
.......待てよ?
型月の.......、いや本来の「ギネヴィア」は王妃という舞台装置になりきるにはあまりにも普通の女性だった。アーサー王が女だった為に「世継ぎを生む」という王妃の役目を果たせない彼女は追い詰められ、ランスロットに心を許してしまった。
ギネヴィアの不倫を種火に戦火は広がり、カムランの戦いにてどう足掻いてもブリテンは無惨に滅びる。 正直それは.......、どうでもいい。問題なのは滅びの運命ではなく、きっかけだ。
わたしは、「裏切りの王妃」という不名誉を被りたくないだけだ。ただ.......自分の身が可愛いだけだ。ならばただアーサー王を裏切らなければいい。
つまり、ランスロットと浮気さえしなければそれを回避できるだろう。
運命に足掻こうが喚こうが何も変わらない。
どうせこの国は滅びるのだから。
アーサー王とレオデグランス王の娘、ギネヴィア姫との結婚式はあらん限りの祝福と歓声に彩られながら、穏やかに晴れた日に行われた。近年のアーサー王の進撃は凄まじく、ブリテン全土を戦乱から救いまとめあげ、統一したことは国の乱れに不安に浸る日々を送っていた民にとって暗黒の中の一筋の光であっただろう。貧困に喘いでいた民達は2人の結婚に明日への希望を見出し、騎士達はレオデグランス王の後ろ盾という明確な証として喜んだ。 どこまでも続く青空に、祝福の花が舞っている。 久しぶりの祝い事に浮き足立った民達の笑い声がどこまでも響いている。
花の魔術師マーリンは今まさに花嫁の到着を待つアーサー王の傍に控えながら、淡く微笑んでいた。 この期に及んでもアーサー王は変わらない。手に持つ聖剣に相応しい凛々しい佇まいにエメラルドの瞳は深く澄んだまま。
「拙作の君のお祝い事だアーサー王。今ぐらいは気を抜いて楽しんでもいいんじゃないかな?」
「私の祝い事だからこそですマーリン、花嫁を今から迎えるのです。だらしない姿をみせる訳にはいかないでしょう。」
「そうだね。」
マーリンは微笑みながら頷いた。 この結婚に一筋であろうとも闇があることは、マーリンとアルトリアでしか知らないことだった。
レオデグランス王の後ろ盾を得られること、つまりその娘ギネヴィアを娶ることは『ブリテンの為に』必要不可欠な事だった。 かのアーサー王が女性であることを知っているマーリンは、アルトリアの苦悩を共感は出来ずとも「理解」はしていた。
この結婚は.......いわば犠牲であるのだと。 無辜の娘を騙し、共に苦難の道に巻き込んでしまう真実にこの滅びの国の王としてアルトリアは苦悩していることを。
「.......いや」
「.......?」
「そうですね。たしかにマーリンの言う通りです。ええ、花嫁を笑顔で迎えるべきしょう。今日という日が素晴らしい日だということは、確かなのですから。」
今でも夢に思い出す。降り注ぐ陽の光は暖かで、まわりは祝福に満たされている。 多くの笑顔が溢れ、あらん限りの優しさがわたしを包んでいた。 そして眩感ばかりの彼の王のあの微笑みを、きっと未来永劫忘れることは無いだろう。