DVDの「Fate/stay night Heaven's Feel」を観て、「第五次聖杯戦争に静謐のハサンを入れたらどうなるか?」、「静謐のハサンにぴったりなマスターがいたらどんなのか?」と思って書いてみました。

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猛毒の花嫁

 俺の国、日本には結構最近まで怪異が「妖怪」という名で存在していた。

 

 そして人間というのは自分以上の力を持った存在を時に恐れ、時に崇めるもので、日本には妖怪を神と祀る人間は今も少なからずいる。俺の家、失木家の先祖も、妖怪を神と祀る人種であったのだが少し変わっていた。

 

 失木家の先祖は自分達が住まう地域で特に強力な妖怪、怪異を神の如く祀ると同時に自分達も同じ存在になれないかと考えたのだ。

 

 その妖怪は異形の姿を持ち、猛毒の息を吐く凶悪な怪異だった。だから失木家の人間は、対象の妖怪を模した仮面や衣装を作って着飾る一方で、日々の生活に毒を自ら取り込む行為を組み込んだ。

 

 毒薬、毒物、毒草、毒虫、毒蛇、毒魚、毒鳥。失木家の人間はおよそ「毒」がつく物を永い年月をかけて、そうすれば神と崇める怪異に近づけると信じて食べていった。

 

 歴史の途中で「魔術」の存在を知り、いつの間にか怪異と同じ存在になるという「目的」が、根源の渦に到達するための「手段」に成り代わってしまっても、失木家の毒を食べ続けた。そして猛毒の息を吐く異能こそは手に入らなかったが、毒の対する強い耐性を獲得していったのだ。

 

 そんな馬鹿げた家系の果てに俺が産まれた。

 

 歴代の失木家の人間と比べても比較にならないくらい高い、異国の神話に登場する半神半人の英雄すら殺した多頭の巨蛇の猛毒にも耐えられる耐毒性を持った、特異体質にも近い現時点での失木家の最高傑作。それが俺だ。

 

 だけどそんな神殺しの毒にも耐えられる体、なんて魔術師の世界でほっとかれるはずもなく、どこからか魔術協会が俺を封印指定……ホルマリン漬けにするという噂が流れてきた。それを聞いた俺と俺の家族は大きく慌てて、俺はほとぼりが冷めるまで別の土地に単独で逃げ出した。

 

 俺が逃げた土地の名は冬木。

 

 冬木の地は日本に住む魔術に関わる者達にとっては鬼門のような土地だ。なんでも冬木の土地では二百年以上昔から「聖杯戦争」という大規模な魔術儀式が、六十年周期でこれまでに四度も行われているのだが、その尽くが失敗に終わっている。しかも四度目の聖杯戦争では、その失敗の余波で周囲の土地を全て焼き尽くす大火災を起こして、そのようなことから日本の魔術関係者は自分から冬木の土地へは近づこうとしない。

 

 今も冬木にいるのは聖杯戦争を主催である三つの魔術の家ぐらいで、だからこそ俺は冬木に逃げてきたのだ。ここならば魔術協会の目も届き辛いはずだし、次の聖杯戦争が開催されるまで五十年以上の時間があるので、それまでは安全であると思ったからだ。

 

 

 ……そう。そのはずだった。

 

 

「何で俺に令呪が宿っているんだよ……」

 

 俺、失木(うしぎ)狗郎(くろう)は自分の右手の甲に刻まれた聖痕、令呪を見て呆然と呟いた。

 

 今から一年前、中学三年の時に転校という形でこの冬木に逃げてきた俺だったが、今日目覚めれば右手に蜘蛛のようなデザインの令呪が宿っていたのだ。最初は何だか分からなかったが、少し調べてみればすぐにこれが聖杯戦争の参加者の証、令呪だと分かった。

 

「次の聖杯戦争が起こるのはまだ先のはずだろ? それなのに何で令呪? おかしいだろ? ……だけど」

 

 聖杯戦争が始まらないかぎり令呪が現れることはない。つまり俺に令呪が宿った以上、どれだけあり得なくても近いうちに聖杯戦争が始まるということだ。

 

 そう思うと聖杯戦争に興味が出てきた。

 

 歴史に名を残した過去の偉人や英雄を「サーヴァント」と呼ばれる使い魔として現代に甦らせる。そして七組のサーヴァントとそれを従える魔術師が競い合い、最後まで勝ち抜いた一組のサーヴァントと魔術師が、万能の願望機である聖杯を手にする。それが聖杯戦争。

 

 どう好意的に解釈しても胡散臭く、今まで一度も成功したことがない、被害だけが大きい日本で最大級の厄ネタ。それが俺の聖杯戦争に対する感想だ。

 

 しかしもし儀式が成功して本当に聖杯が現れたらと思うと、興味がないと言えば嘘になる。

 

 それに聖杯戦争で呼び出されるサーヴァントは正直、実現するかも分からない聖杯以上に興味がある。過去の偉人や英雄との出会いはきっと大きな経験になるだろうし、神代の魔術師をサーヴァントとして召喚できたら色々と魔術について教えてもらえるかもしれない。

 

 そこまで考えると俺は、胡散臭いことこの上ない厄ネタである聖杯戦争に参加することを決めていた。

 

 魔術師というのは基本的に好奇心が強い人種だ。魔術師が根源の渦を目指している理由も「それが一体何なのか知りたかった」というのが、始まりの理由なんだと俺は思う。

 

 つまり魔術師は何かに興味を持つとそれに対してとことん行動する傾向が強く、それは俺も例外ではなかった。令呪が宿った日から俺は、一週間程学校を休んで聖杯戦争について調べた。途中で頭に「超」がつくくらいお人好しな友人が見舞いに来てくれたが、それも無視して居留守を使い、ただひたすらに聖杯戦争の調査と準備を進めた。

 

 そして令呪が宿ってから一週間後、俺はついに英霊、サーヴァントを召喚することにした。

 

「こんなものか……」

 

 工房代わりに使用している部屋で、俺は床に描いたサーヴァントを召喚する為の魔法陣を確認する。……うん。どこにも間違いはないな。

 

「聖遺物はないけどそこは仕方ない。それじゃあ始めますか」

 

 聖遺物とはサーヴァントを召喚する為の触媒のことである。普通サーヴァントを召喚するにはその英霊と「縁」を繋ぐ聖遺物が必要で、聖遺物が無くても一応は召喚の儀式は出来るのだが、その場合はどんな英霊が召喚出来るか分からない上に最悪召喚に失敗する場合もある。

 

 だがたった一週間で……というか俺みたいな金もコネも無い魔術師見習いがそんな英霊と縁を結べるような聖遺物が手に入れられるはずもなく、俺は聖遺物無しでサーヴァント召喚の儀式を行うことにした。

 

 まあ、サーヴァントを召喚できなかったらできなかったで、縁が無かったと諦めるしかない。確か聖杯戦争でサーヴァントを失った魔術師は、リタイアを宣言したら聖杯戦争の監督役である教会に保護してもらえるみたいだし、何とかなるだろう。

 

 そこまで考えて気持ちの整理をつけたところで、俺はいよいよサーヴァントを召喚する為の呪文を唱えた。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。

 告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。

 汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

 ーーーーーーーーーー!

 

 俺が呪文を唱え終わるのと同時に、魔法陣から強い光が放たれ、俺はその光の中で一人の人影が現れたのを見た。そしてしばらくした後、魔法陣の光が収まると俺は……。

 

 

 ………運命の女性と、出会った。

 

 ☆

 

「それじゃあ行ってくるな、『セイ』」

 

「はい。行ってらっしゃい『マスター』」

 

 サーヴァント召喚の儀式をしてから一年後、俺が学校に行ってくると言うと「髑髏の面を被った褐色の肌の少女」が見送りをしてくれた。

 

 結果から言うと、サーヴァントの召喚は成功。そして俺を見送ってくれている、この髑髏の面を被った少女が俺が召喚して契約をしたサーヴァントだ。

 

 彼女は暗殺者のサーヴァント「アサシン」。その真名はアサシンの語源となった暗殺教団の長「山の翁」ハサン・サッバーハ。

 

 彼女が率いていた暗殺教団は代々最も暗殺の技に優れた者を長として、その長は「山の翁」と「ハサン・サッバーハ」の名前、自らの暗殺の技に関する称号を与えられる。そして彼女に与えられた称号は「静謐」で暗殺教団の者達からは「静謐のハサン」と呼ばれていたらしく、俺はそこから「セイ」と彼女を呼んでいる。

 

 セイを呼び出してからもう一年経つが、今だに聖杯戦争が行われる気配はない。だが俺はそんなことはもうどうでも良かった。

 

 何故なら俺は「失木狗郎」個人としても失木家の魔術師としても理想的な女性、セイと一緒に暮らせて最高に幸せだからだ。

 

 セイは体の全てが凶悪な猛毒の、毒殺の名手だった。しかしその体質のせいで触れた生物全てを、自分の意思と関係無く毒殺してしまうという悲劇が常に彼女につきまとっていた。

 

 しかし普通なら絶対に近寄りたくない彼女の体質は、俺にとって何の苦にもならない……どころか、喉から手が出るくらいに好都合で希少な体質だったのだ。俺の失木家は毒を取り込むことで、神と崇める怪異に近づこうとする家系で、そんな失木としてはセイの毒は貴重なサンプルなのだ。

 

 そして何より俺は一年前、召喚していきなりセイに口づけをされた時から、彼女にどうしようもなく惹かれているのだ。いわゆる一目惚れというやつだ。

 

 全身が猛毒という体質から誰とも触れ合えないセイは強く誰かと触れ合うことを求め、召喚されていきなり俺に口づけをしてきたのも、その衝動が抑えきれなくなったかららしい。だがそれによって俺がセイの毒で死なないことが分かると、彼女もまた俺を強く求めるようになり、今では相思相愛と言っても過言ではない関係を築けている。

 

 この冬木にやって来たのは封印指定のほとぼりが冷めるまでの避難のつもりだったのだが、まさかそこでこんな出会いがあるとは人生とは分からないものだ。

 

 昼は一癖も二癖もあるけれど基本的にいい奴な友人と学生生活を送り、夜はセイと一緒に楽しく魔術の研鑽に打ち込む。まさに理想的な生活だ。

 

 ああ、この生活がずっと続いて行けばいいのに。というか聖杯戦争なんて一生起こらなければいいのに。

 

 

 ……しかし、そんな俺の願いも虚しく、第五次聖杯戦争は始まった。始まってしまった。

 

 ☆

 

「貴方達がアサシンとそのマスターか?」

 

「そういう貴女は……どのクラスのサーヴァントですか?」

 

「嘘だろ……!? 何でお前がマスターなんかやっているんだよ、狗郎!」

 

「それは俺の台詞だ。お前が聖杯戦争に参加って、何の冗談だよ、士郎!?」

 

 

 

「暗殺者のサーヴァントか。随分とそれらしい能力のようだね」

 

「何なんですか、貴方? 本当に弓兵なのですか?」

 

「まさか貴方が魔術師だったなんて……。今まで気づかなかったわ、失木君」

 

「俺の『起源』は魔力を隠蔽に向いていてね。まあ、それでも今日まで上手く誤魔化せたと自分でも思うよ」

 

 

 

「暗殺者が姿を晒して戦うとはね……。ちょいと無謀過ぎやしないかい、お嬢ちゃん?」

 

「それでも……私はマスターの為に戦うだけです……!」

 

「アサシン。あまり無茶はするな。コイツ、かなりヤバイぞ……!」

 

 

 

「貴女はマスターと非常に仲が良いみたいですね。……少し羨ましいです」

 

「ありがとうございます。お礼に貴女は苦しまないように殺してあげます」

 

「何で……! 何でお前なんかがマスターなんだよ、失木! お前はただの一般人じゃなかったのかよぉ!?」

 

「そんな事は一言も言っていないよ。……そう言う間桐こそ本当に魔術師か? 魔術回路の力が全然感じられないけど?」

 

 

 

「ふふっ。可愛らしいお嬢ちゃんと坊やだこと」

 

「キャスター……! マスター、お気をつけて。どうやらこの辺り一帯は彼女の支配下のようです」

 

「嘘だろ……!? 神代の魔術師とか、信じられない大物が参戦していたのかよ?」

 

 

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

「この手応えは……!?」

 

「嘘でしょ!? 何で一回の攻撃でバーサーカーの命が二つも無くなっちゃうの!? どうして同じ攻撃が通用するの!?」

 

「どうやらこのサーヴァント……俺達と相性が良いみたいだな?」

 

 

 

「ほう……。毒虫の番いか……。ここまで醜悪なのは珍しいな」

 

「八人目の……サーヴァント?」

 

「おいおい……! これはちょっと反則だろ?」

 

 ☆

 

「失木狗郎」

 

 性別:男

 特技:サバイバル、達筆な昔の日本の文字が読める

 好きな物:揚げ物料理

 苦手な物:魚料理

 起源:浸透

 魔術属性:水

 魔術特性:毒

 イメージカラー:夜の海のような黒

 

 第五次聖杯戦争が始まると二年前にマスターに選ばれた魔術師。

 最初は単なる好奇心だったのだが、召喚したサーヴァントの静謐のハサンが個人的にも失木家の魔術師としても理想的な女性だったので、静謐のハサンを受肉させて自分の花嫁にする目的で聖杯戦争の優勝を目指す。

 静謐のハサンのことは家の中では「セイ」と呼び、外では「アサシン」と呼び名を使い分けている。

 元々失木家は、西日本に伝わるとある妖怪を神と崇めてそれと一体化する事を目的にした呪術師の家系で、その呪術をベースにした獣化魔術の一種を使う。

 代々毒を取り込み、毒に対する耐性を高めていった失木家の現時点での最高傑作であり、ギリシャ神話のヒュドラの毒でも死なない体を持ち、それによって全身が猛毒の静謐のハサンのパートナーとなった。しかしその現代では考えられない特異体質と言ってもいい耐毒体質のせいで、魔術協会から狙われかけている。


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