私とタバコとあの先輩   作:ましろん

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私、一色いろはは終わらせる

あの日から何日経っただろうか、私は自室のベットの上でスマホにイヤフォンを付け、音楽を聴いていた。

流れてくる静かなバラード調の音楽に耳を傾けながら、あの日のことを思い出す。

 

 

実をいうと、私はあの後の事は記憶が曖昧になっている。はっきり思い出せるのは、私が自分の家のベットに横たわってからの事だった。

 

 

確か、、あの後、理恵せんぱいに慰められて、その途中で理恵せんぱいのケータイに小町ちゃんからメッセージが届いたんだっけかな。

 

 

小町ちゃんはあの後すぐにせんぱいに追いついて、なだめて、とりあえず落ち着いたらしい、それを理恵せんぱいの口から聞いた後に私は、フラフラした不安定な足取りで帰路についたんだ。

 

 

あの時のせんぱいの顔が忘れられない、ずっと私の頭の中で、あの時のことがループされる。せんぱいのあの見た事のない様な表情をして、走り去っていく。そのシーンばかりが浮かんでくる。

 

 

せんぱいのあんな表情、見たくなかった。させたくなかった。せんぱいに合わせる顔がない。というか、会いたくない。あんなに恋焦がれていたのに、会ってしまったらまた同じ表情をさせてしまうかもしれない。

愚かな私はまたとんでもない事をやらかしてしまうかもしれない。そう考えると、怖くて何も出来なくなってしまう。

 

理恵せんぱいに対してだってそうだ。

あの時理恵せんぱいは、私を慰めてくれた。でも、だからと言って私を許してくれた訳ではないだろう。理恵せんぱいは病気のことをずっと隠していた。一人で抱え込んでいた。それなのに生意気な後輩に説教まがいなことをされてやっと打ち明ける事にした。私には想像もつかないほど勇気が必要だったに違いない、そんな理恵せんぱいの勇気を、気持ちを、私は台無しにしてしまった。私に対して何も感じないわけが無い、きっと怒っている、いや怒っているにしても私には当たってこないだろう、理恵せんぱいは優しいから。表面上は私に優しくしてくれる。慰めてくれる。普段通りに接してくれるだろう。

 

 

だからこそ私は怖い、理恵せんぱいにも会えない、会っても疑ってしまう、勘ぐってしまう、私自身が普段通りにできないだろう。

 

 

私は大学生活で出来たかけがえのない二人を失ってしまった、壊してしまった。全部自業自得だ。

 

 

 

 

そんな事を考えていると、急に周りが静かになる。どうしたのだろうと考え、すぐにスマホの充電が切れ、音楽が止まってしまったのだと気付いた。急な孤独感が襲ってくる。たまらずに私は気を紛らわすために違うことを考えることにした。

 

 

「そういえば、充電してなかったな。今何日の何時だろう。」

 

 

そう思い、自室にある日付や温度なども見れるデジタル時計を見てみると、あの日から1日目の夜という事に気が付いた。どうやら私は丸々1日、なにも飲まず食わずで布団にいたらしい。

 

 

「、、、、お腹すいたなぁ、喉もカラカラ」

 

 

そう意識した瞬間、猛烈な飢餓感が私に襲い掛かってくる。

こんな状況でもお腹がすくなんてなんだか少し笑えてしまう。

 

 

 

そんな自嘲的な笑いを浮かべながら私は立ち上がり、何かないかと冷蔵庫を開けてみると中にMAXコーヒーが数本入ってるのが目に入る。

 

 

「そういえば、いつかせんぱいが来た時の為に、なんて考えながら何本か買っていたんだっけ。」

 

 

なんて独り言を溢しつつそれを手に取りプルタブに指をかける。なかなか開けるのに苦戦したが、すぐにカシュと心地良い音を奏でた。

いつもだったらコップに注いでいたが、それも今は面倒だと思いつつそのまま口をつける。

 

 

 

 

「あっま」

 

 

 

 

口の中にとてつもない甘さが広がる。でも今はその甘さが脳全体に染み渡っていく感じがしてとても美味しく感じる。

どうやら脳が栄養を欲していたらしい。

 

そのまますぐにその一本を飲み干し、もう一本を冷蔵庫から取り出し、プルタブを開けて一口含む。

 

ようやく脳が回復してきたのか、さっきより思考がクリアになった気がした。

 

 

でも、頭が冴えたおかげであの日の事も思い出しやすくなってしまった。

 

 

 

 

 

ーーーーこんな愚かで弱い私が嫌いだ。----

 

 

 

 

 

あの時思ったことは嘘じゃない、私は弱い、すぐに心が折れてしまう、まるで小さな小枝のように。こんなに弱い私じゃせんぱいの近くにいる資格がない。理恵せんぱいのような、すべてを支えてくれる樹木のような強さがせんぱいには必要なんだ。でも私には理恵せんぱいの様な強さはない。

 

 

そんな事を考えてしまうと、私自身が改めて認めてしまうと、また涙が溢れてくる。もう嫌だ。

こんな私、消えて無くなってしまいたい。

 

 

 

 

「そっか、、消えればいいんだ、、、死ねば、、いいんだ。」

 

 

 

私はもう、理恵せんぱいに、せんぱいに合わせる顔がない、次にその二人に合うのがとてつもなく怖い。だったらもう、逃げ出してしまおう、何もかも投げ出してしまえばいいんだ。そうすればもうこんな思いをする必要もなくなる。

 

馬鹿げていると思う、そんなことで、と思う人もいるかもしれな。でもこの喪失感を、虚無感を、悲しみを、悔しさを、心の痛みを、、もう消せるのなら、そう思うとこの考えが今の私にはすごく魅力的に感じた。

 

 

 

そうと決めた私は自分のスマホを充電し、楽になれる方法を色々調べた。

 

 

これはわがままだけど、出来れば最後は楽に、そして綺麗に終わりを迎えたい。そんなことを考えながら調べた結果、私はカミソリを手にお風呂場に向かった。

 

 

 

 

充電したスマホにママやパパ、平塚先生や小町ちゃん、そして理恵せんぱいとせんぱいに向けてこれまでの感謝と謝罪の気持ちをメモ帳に記し、先ほど聞いていたバラード曲をもう一度かけ、イヤフォンを耳につける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これで準備は完了。

 

 

 

 

 

 

 

「最後に、一本だけ。」

 

 

そう言いながら私はいつも吸っているたばこに火をつける。

 

 

カチッ

 

シュボッ

 

 

すぅ~と煙をめいいっぱい肺に入れ、そのまま吐き出す。

 

 

脳の血管が縮まったのか、頭がぼーっとしてくる、耳から流れてくる音楽が心地いい。

煙が目を刺激して涙が出てくるのがわかった。それを拭いながら最後の一本を吸い終わりる。

 

 

 

「よし」

 

 

 

私はカミソリを左手首にあてる

グッと力を加える。あとは手前に引いて浴槽につけておくだけで逃げ出せる。楽になれる。

 

 

終わらせれる、、はずなのにそこから体が動かない。よく見たらカミソリを持った手が、いや、体全体が震えていることに気が付く。

 

 

「あぁそうか、ここでも、ここでも私の弱さが出ちゃうんだ。」

 

 

さっきまで全くなかった恐怖心が私の右手の邪魔をしてくる。

 

 

もうたばこを吸っていないはずなのにまた涙が溢れてくる。そんな涙を止めるために私は目を瞑る。

 

 

 

真っ暗な視界

 

 

 

そんな暗闇の世界で何か眩しい様な光が脳内に直接灯っている気がした。その光がそのまま広がり、色々な記憶へと変化していく。

 

 

「これが走馬灯なのかな、、」

 

 

 

浮かんでくるのは今までお世話になったママやパパ、、ではなく、やっぱりあのせんぱいの事だった。

 

 

せんぱいと初めて出会った奉仕部の部室、一緒に向き合った図書室、初めて見せた電車の中、一緒に頑張った合同イベント、助けてもらったプロム、一緒にたばこを吸った喫煙所でのひと時。

 

 

全ての瞬間が幸せで溢れていた。本当に楽しかった。

 

 

その気持ちを思い出した瞬間に、私の体の震えは止まった。

 

「せんぱい。今まで本当にありがとうございます。

 

 

本当に、感謝しています。

 

 

本当に、ごめんなさい。

 

 

好きでした、いえ、、大好きでした、、

 

 

 

 

 

愛してました、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さようなら。。」

 

 

 

私は思い切り、カミソリを持った右手を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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