ダンジョンで誓いを果たすのは間違っているだろうか   作:ミキサ

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13話”自業自得である”

 「おいフィン! てめぇどういうつもりだ!!」

 

 早朝、”黄昏の館”に狼の雄たけびが上がっていた。遠巻きに様子をうかがう団員の視線の先には一人の小人族に詰め寄る狼人の姿があった。

 ベートは血走った眼付きで歯をむき出しにしフィンのことを睨みつけながら吠える。

 

 「俺とあのトマト野郎を戦わせるって舐めてんのか!?」

 

 「いいやベート、むしろ君だからこそベルと戦わせるにふさわしいんだ」

 

 「ふざけんじゃねぇ! 雑魚相手に目に見えた勝負するなんざごめんだ!!」

 

 ベートは勢いのままにフィンの胸ぐらをつかみ上げ、フィンは浮遊感を感じた。もしここにアマゾネス姉妹の片割れが居たら黄昏の館には血で血を洗う光景が流れていたことだろう。

 浮遊感を感じながらをフィンは平時と変わらなぬ顔でベートに告げる。

 

 「これは君の意見を尊重したうえで決めた試験だ。文句を言われる筋合いはないね」

 

 「ああんッ?」

 

 「君は確か、門前で追い払われた彼のことを僕たちに対してこう言ったよね。『俺はたとえお前とロキの奴があの雑魚を入れるって言ってもぜってえ認めない。ボコボコにしてでも追い出すからな』」

 

 「…………」

 

 「君がそれを望むなら是非ともこの試験で彼をボコボコにして追い出せばいい。これはベート、君のための試験でもあるんだよ?」

 

 どの口がいけしゃあしゃあと。ここに副団長がいたらそう言いながら額に青筋を浮かべていただろう。

 

 「流石に僕たちも入ったばかりの新人を君に潰させるわけにはいかないし、ファミリアに入っていない一般人ならなおさらのことだ」

 

 昨日の酒場の一件を頭に思い浮かべながら、ないとは思うがあのアイズが関わっているのだ。ベートが私情でベルに手上げないようにと手を打つ。そんなことがあればロキファミリアの信頼にも影が生じるだろう。

 

 「だからこそそんなに彼のことが気に食わないなら君自身の手で追い出せばいい。もちろんこれは試験だから君には幾つかの制限を掛けさせてもらうけどね」

 

 微笑むフィンをイラつきながらも開放するベートは、窓越しに目に映った男女を睨みながら言う。

 

 「ちっ、ムカつくぜ。てめぇも、身をわきまえない雑魚も! いいぜ、癪だがお前の企みに乗ってやる」

 

 「ありがとうベート」

 

 「勘違いすんな! 俺はお前の企みに乗るってだけで、成功させるつもりなんざサラサラねぇ! 雑魚に身の程を弁えさせに行くだけだ!」

 

 「それでいい。だからこそ君じゃなくちゃいけないんだ。他の団員だと手加減しちゃうかもしれないからね」

 

 「……糞がッ」

 

 ベートは吐き捨てるように悪態を付きながらその場から去っていく。が、納得がいかないように背中越しにフィン問いかけた。

 

 「フィン、今回の試験、またお得意の親指か?」

 

 「……半分はそうだと言っておくよ」

 

 「…………」

 

 「あ、ちょっと待って」

 

 「っなんだよ」

 

 「はい、これ忘れ物。試験の最中は装備しといてね」

 

 フィンの返事に無言で去っていこうとしたベートに対して思い出したかのように声がかけられる。そして投げ渡されたある物を認識したベートは

 

 「なんじゃこりゃああああああああああ」

 

 今日一番の雄たけびを上げるのだった。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 迷宮都市オラリオの朝。冒険者はダンジョンへ、店は営業を始め、人が賑わいだす頃合い。都市の一角では普段の騒音とは風変わりな動揺で賑わっていた。

 

 「ア、アイズちゃん……」

 

 「どうしたのベル?」

 

 そこには仲睦まじく見える少年少女がいた。少年は白髪赤目の兎のような少年。周囲の人間は記憶を探っても彼に見覚えはなかった。

 一方少女の方は違った。金髪金眼の美しい少女。彼女であればこの町に長く住むものであれば皆知っているであろう有名人だった。

 だからこそその異色の二人組は周囲から目を引いていた。もっともともに歩いているからだけではなく。

 

 「その……えっと、何と言いますか。……近くないですか?

 

 顔を赤く染めながら小声で訴えるベルの片腕はこれ以上ないほどアイズに抱きしめられており、その距離に紙一枚ほども隔たりなどなかった。その訴えに不満を持ったのかアイズはさらに自身の胸をベルの腕に押し付けるようにして答える。朝起きてからほとんどこの体勢のままここまで歩いてきてる二人である。”豊穣の女主人”の店員たちはあのシルも含めて顔を引きつらせていたのは印象に残っている。

 

 「近くないよ。仲のいい男女が二人で歩くときはこれが普通ってティオネが言ってた」

 

 「そ、そうなんだ……都会って進んでるんだね」

 

 「それにベルはまだ家までの道のりだってわからないでしょ……? だからしっかり案内しなくちゃ」

 

 なぜ彼女の意見を参考にしてしまったのか、それはアマゾネス理論である。都会だからなどとは一切関係がなかった。

 もっともそんなことはベルは露とも知れず成すがままの状況を受け入れるしかなかった。はっきり言ってベルもアイズの体温や柔らかさを感じながら喜んでいるので同罪である。

 そしてこの状況、何も知らない周囲の人間から見ればどう思うか。いや事情を知っていたとしてもこの場合は関係はあるまい。

 

 「剣姫に恋人……だとっ!!」

 

 「馬鹿な! あのダンジョンが恋人だと言わんばかりの剣姫だぞ!?」

 

 「(おれ)たちのアイドルがあああああああああ」

 

 「あ、でも隣の子もかわいいかも……?」

 

 「あの男、いい尻しているな」

 

 「逃げて少年、超逃げて」

 

 有名人のゴシップとはいつの時代どこであろうとも変わらないもの。ロキファミリアのレベル5”剣姫”アイズ・ヴァレンシュタインに男ができたと周囲は大騒ぎであった。これは今日中に5Gをも上回る速さで神ネットワークに知れ渡ることだろう。

 ともあれそんな注目を浴びながらも二人はようやく”黄昏の館”の門まで到着した。ちなみに到着までの間少しでも腕を組む時間を増やそうとアイズが歩く速度を徐々に徐々に遅くしていたことをベルは知らない。 

 

 

 二人が”黄昏の館”へと到着すれば、ロキファミリアの団員たちはあのアイズの姿に仰天していた。今まで見たことがないほど幸せそうな表情でベルと並ぶ姿に一同の視線はベルへと向けられる。集中する視線に気まずさを覚えるベルの様子を不思議に思ったアイズはより一層ベルに顔を近づけ体調をうかがうのだが、それが再びざわめきを生む。とはいえ、みな遠巻きに様子をうかがうだけであり、直接話をしようとする猛者など。

 

 「ア、アイズさん!!!!」

 

 一人だけいたようだ。

 

 「そそそそそそそそのヒューマンはいったい誰なんですか!!」

 

 「レフィーヤ?」

 

 顔を真っ赤にしながら二人に詰め寄るのは山吹色の髪をしたエルフの少女、レフィーヤ・ウィリディスであった。彼女はベルに指を突きつけると睨みつけながら叫び。

 

 「あなた! 昨日急に現れたかと思ったら、あああああんな公然の場でアイズさんと抱きしめあって!! うらや……非常識です! だ、大体あの後帰ってきたのは団長たちだけ……まままままさかだとは思いますが、あなたのところでアイズさんが泊まったなどということはありませんよね!!」

 

 「あ、いや、その……」

 

 「なんですか? ハッキリ言いなさい!!」

 

 「怒らないでレフィーヤ。私がベルと一緒のベッドで寝たいってお願いしたの」

 

 「ちょっ、アイズちゃ――」

 

 「一緒に寝、ベッド? ベッドォオオオオ!?」

 

 「レフィーヤ顔真っ赤……?」

 

 「あああなた! ベッド、ベッドって!! 私はてっきり同じ宿に泊まったってだけだと!! それがベッドって!!」

 

 レフィーヤはベルの胸ぐらを掴むとベルの体を前後させる。その拍子にベルの腕はアイズから離れてしまったため不満そうに頬を膨らませるアイズがいるのだがレフィーヤは気づいていない。

 

 「誤解です!! 何もなかったです!!!」

 

 「何もって! いったいどこからが何もなんですか!? 一緒に寝るのは何もじゃないんですか!! AからCのどこま――」

 

 「はーいそこまで!!」

 

 レフィーヤが掴んでいたものが胸ぐらから首へと移行する寸前、レフィーヤの頭を軽く叩き正気に戻させる影が二人現れた。そこにいたのは昨日”豊穣の館”にてアイズと仲良しそうに喋っていたアマゾネスの姉妹であるティオナとティオネであった。

 

 「ティ、ティオネさん!」

 

 「レベル3のアンタが正気を失ったらこの子が死んじゃうでしょうが」

 

 「す、すみません」

 

 「謝るのは私じゃないでしょうが」

 

 「うっ……すみません」

 

 「ねぇウサギ君大丈夫?」

 

 「えっと、はい、大丈夫です! レフィーヤ?さんも気にしないでください……ね、アイズちゃん? 僕は大丈夫だから、ね? ね?」

 

 胸ぐらを離れた拍子に倒れこんでいたベルを起こしていたアイズから圧を感じたベルは慌ててレフィーヤをフォローする。ベルに窘められ圧を引くアイズとともにようやく一帯は落ち着い空気を取り戻した。

 

 「はい、それじゃ私はティオナ! ウサギ君の名前は?」

 

 「ベル・クラネルです。えっと、いつもアイズちゃんがお世話になってます……?」

 

 「ベル、ね。私はティオネ。ティオナの姉よ」

 

 「……レフィーヤ・ウィリディスです」

 

 「ねぇねぇベル! アイズのあんな幸せそうな笑顔今まで見たことないんだけど、アイズとはどんな関係なの??」

 

 「さっきも一緒に寝たって聞こえたし、アイズの恋人なのかしら?」

 

 「そう「ち、違いますよ!!」……え?」

 

 「え?」

 

 互いに自己紹介を終え、ティオナとティオネが興味津々に二人の関係について質問する。アイズは少し恥ずかしそうに頬を染めながら肯定の意を示そうと言葉を発した時だった。その言葉をかぶせる様にしてベルの否定の言葉が響き渡る。

 一瞬の静寂にはその場にいる全員の疑問符だけが響き渡る。

 

 「アイズちゃんの恋人なんて、そ、そんな恐れ多いっていうか」

 

 「ベル……?」

 

 「アイズちゃんは可愛くて素敵な女の子だけど、幼馴染というか」

 

 「ベル?」

 

 「あ、でもあえて言うなら大切な約束をした間柄ですかね……」

 

 「ベル」

 

 「あれ、どうしたのアイズちゃん?」

 

 そう、この男。

 肝心の誓いの内容は夢に見て覚えていても、そこに至った過程を一切覚えていないのである!

 なにせアイズと幼馴染であったことは理解してもどのように過ごしていたのかは覚えていないのである!!

 そう誓いのインパクトが強すぎたため、アイズとの思い出は誓いを立てたお姫様というだけなのである!!

 なので子供時代、どれだけアイズと良い仲であったとしてもこの男には自覚がないのである!!

 さらにアイズの積極的な行動も都会だとこれが普通だという自己完結が無理やりなされておりクソである!!

 

 つまり!!

 

 ベルからしたアイズとの関係は『英雄の誓いを立て久しぶりに再会したちょっと距離の近すぎる両片想い幼馴染(・・・)』なのである!!

 

 

 「あー、えーと」

 

 なんとなく気まずい状況を理解した周囲三人は互いに顔を見合わせ、アイコンタクトを取り合う。何やら押し付けあっている三人だったがどうやら話し合いは終わりティオナが代表してアイズに話しかけた。

 

 「アイズ……ド、ドンマイ?」

 

 「ッ~~~~~~~!!!!!」

 

 これ以上ないほどに頬を膨らませ、うっすらと涙目になりながら顔を赤くしたアイズは無言でベルの足をけり始め。

 

 「え、ちょっと待ってアイズちゃん! 痛い! 痛い!」

 

 なおこれに関しては止める者は一切おらず、あのレフィーヤでさえ頭の可哀そうなものを見る目だったという。

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