岩倉玲音と俺の夏休み。それとペルソナぁ!!!   作:げげるげ

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連続投稿二回目。
結構、長いです。


第10話 言い訳ばかりが上手くなるが、突き抜ければ詐欺師にもなれる

 風間 美花(かざま みか)。

 それがガルーダちゃんの本当の名前らしい。

 現在、小学校六年生であり、来年に向けて今から受験勉強しているのだとか。うわぁ、小学校から受験勉強とか正気じゃねーよ、マジで。

 やっぱり、仙台は違うなぁ、田舎と違って都会の部類だわぁ。

 あ、そうそう、どうやらこの一室は仙台辺りに存在している高級マンションの物らしい。ちょっと室内を探索してみたところ、テレビ番組でしか見たことの無いようなスタイリッシュな間取りに、オープンキッチン。趣味の良い家具が普通にそこら辺にあることを考えると、中々の上流階級の子供らしいね、美花ちゃんは。

 やれ、田舎の過疎村出身の俺としてはコンプレックスを抱えざるを得ない俺であるが、家探しをしている間に、一つの疑問が生まれた。

 

「あれ? 漫画とかゲームって無いの? それとも、今時の小学生は全部パソコンで? もう、電子書籍の時代の波が来ちゃっている?」

「え、えっと、その、あのぅ」

 

 俺の疑問に、美花ちゃんは何かを躊躇うように考えこんだ後、『両親の都合で』と恥ずかしそうに呟いた。

 ほうほう、なるほどぉ。『両親の都合』ねぇ。

 

「おい、大丈夫か、晴幸。なんかお前、他者の弱みを見つけた悪党みたいな顔をしているぞ」

「くくく、京子。まさか、この俺が普通の言い訳を考えて、美花ちゃんの両親を誤魔化すとでも? そんなつまらないことをやると思っているかい、君は」

「やめろ。今回ばかりはやめろ。ガチで通報の危機なんだぞ? むしろ、現状で通報なり、補導なりされていないのが奇跡なんだぞ? つーか、私はさっき、ママにお泊りだということを連絡したらガチ説教を受けて、心がやばい。泣きそう」

「俺が電話を代わって、なんとか誤魔化してやったじゃん」

「絶対、変な勘違いされたぞ、あれ……くそ、泣きたい」

「安心しろ、二人きりじゃなくて、玲音と合わせて三人だって言っておいたから」

「ちゃんとゴムはしなさいよって言われた。死にてぇ」

「…………」

 

 京子は露骨に落ち込み、玲音は不満げな表情でこちらを見てくるが、仕方ないだろう。もう時間も夕方過ぎで、これから地元に戻ろうとすれば夜になってしまう。つーか、そもそも二人合わせても地元までの電車代が無いのでどうしようもない。何せ、仙台駅は俺たちの地元から見て県外だ。今から戻るには遠すぎる。

 当然、ホテル代も無いので、何としてでも美花ちゃんの両親を説得しなければならない。

 

「はいはい、落ち込んでいる暇があったら家探しするぞ、京子。今の内に、探れるだけの個人情報を探って、交渉前に手札を増やしておくんだ」

「え? 待とうぜ、晴幸。なんでナチュラルに犯罪をしようとしているんだ?」

「そりゃあ、決まっているでしょ! この美花ちゃんを『どうにかする』ためだよ。だって、このままここに居ても、この子はどうにもならないだろうし。だったら、環境を大幅に変えてやらないとね。ああ、礼は要らないぜ、美花ちゃん。他ならぬ親友の頼みだからな、殺されかけた相手だということは忘れて、どうにかしてやるさ」

「ひっ、ひぃいいっ!」

「晴幸。スムーズな手つきで、引き出しの中身を漁りながら言っても脅しにしか聞こえないぞ」

「えー、今のは割と善意なのになー。あ、玲音は一応、美花ちゃんを見張って置いて。現実世界では何も出来ないと思うけど、逃げられても困るし」

「…………わかった」

 

 ふむ、美花ちゃんの反応からして、本当に心が折れているんだと確信する。

 普通ならば、他者が自分の家を勝手に荒らし始めれば、何かしらのリアクションはするはず。例え、状況的にそれが許されないとしても、何かしらの嫌悪の感情は向けられるはず。

 でも、何もなかった。

 美花ちゃんは俺の動きに対して、いちいち怯えているのだが、その割には、家探しされることに抵抗感が見られない。見知らぬ他者が、自らの領域に踏み入ることを全然気にしていない。

 もしくは――――美花ちゃんにとって、この家の中に、大切な物など既に無いのかもしれないが、あまり深く考えすぎてもドツボに嵌る。

 どうせ、俺は馬鹿なのだ、深く考えずに、そのノリで上手くやって見せよう。

 …………まぁ、本当に駄目だったら通報される前に、さっさと逃げるけどね。

 

 

●●●

 

 

 俺は、自他とも認める馬鹿である。

 勉強が出来ないという意味の馬鹿では無い。

 他者から、「お前はほんとうにもう、なー! もう、馬鹿だなー! もーう!」と怒られながら、「頼むからもう少し常識を覚えろ」と縋りつかれる馬鹿である。

 そのため、大概の馬鹿はやらかしている経験ある。

 学校にエロ本を持って来て叱られた時は、『美術のデッサンに必要なんだ』と言い切り、クラスメイト(男子)を巻き込んだ、写生大会を開催してどうにか誤魔化そうとしたり。

 学校でカードゲームが出来ないのが嫌だったので、オリジナルのカードを学年全員で自作して、小遣い程度の賞金を懸けて、賭けカードゲームをしていたり。

 後はまぁ、夜の学校でサバゲーをするための条件として、クラスメイト全員を主導して、テストの平均点80点越えを成し遂げたこともある。

 そして、大抵の場合は何も考え無しに行動を起こしてから、後でそれっぽい言い訳を作る。

 肝心なのは、衝動なのだ。

 突き動かされる衝動、いわゆるその場のノリで俺は行動している。

 

「この、阿呆が」

 

 けれど、その時の俺は珍しく、衝動とは違った正しい確信をもって動いていた。

 美花ちゃんの両親が揃って帰宅して、こちらを怪訝そうに見た時。そして、美花の安全な姿を見て、ひとまずはほっと安堵した様子でこちらに向かって、父親らしき男性が口を開いた時。

 俺は、正しい確信の下、その父親を殴り飛ばした。

 もちろん、きっちりと手加減はした上で。

 

「きゃあああああ!!?」

「うぉおおおい、馬鹿ぁ!」

「お、お父さん!?」

 

 当然、その場は大混乱。

 冷静な奴など、喧噪から少し離れた場所でこちらを眺めている玲音ぐらいな物だ。

 だけど、俺は止まらない。

 突然殴られて、混乱で碌に立ち上がれない父親の胸倉を掴み、声を上げた。

 

「お前の娘は、お前たちの所為で、危うく死ぬところだった! 一体、何をしている?」

 

 我ながら高圧的な態度だったと思う。

 けれど、仕方ない。敬語を使うにはなぜか、俺の腹の底からふつふつと湧き上がる怒りのような感情があったから。

 

「……は、はぁ? い、いきなり何なんだ、君は!? い、いや、それよりも娘が――」

「自殺しそうになっていた。俺たちが偶然、そこに通りすがっていなければ、この娘は死んでいた。いいか? 自ら命を断とうとしていたんだぞ? それだけの苦しみが、この娘の中にあったんだぞ? 何か心当たりはなかったか? 最近、様子が変では無かったか? それとも、本当に心当たりがないのか?」

 

 自分でも、何故、こんなに真面目なことを言っているのか、よくわからない。

 本当ならばこう、もっと巧みに弁舌を操り、怪しまれないように美花ちゃんと口裏合わせしていたはずなのに、本当に何故だろうか?

 別に、俺は美花ちゃんに同情しているわけじゃない。こちらを殺そうとしていた相手に、安ぽい同情を賭けられるほど、俺は優しくない。

 されど、胸の中の誰かが、過ちを正せと、自分の体を突き動かすのだ。

 そして、俺自身もまた、その行動が正しいと思うので、納得済みで動いている。

 

「そん、な、は? え?」

 

 美花ちゃんの父親は混乱していた。

 どこか娘に似た、気弱な目つきをさらに歪ませて、俺と美花ちゃんの方へ、交互に視線を移している。

 

「み、美花。そんな、自殺だなんて――」

「訊いているのは、俺だ。答えろ」

「…………う、ううう」

 

 美花ちゃんの父親は、ひどく狼狽えた表情をした後、ぽつりぽつりと言葉を絞り出した。

 さながら、地獄の閻魔の前で、自らの悪行を暴かれる亡者の如く。

 

「お、おかしかった。最近は、おかしかった」

「何がおかしかった?」

「良い子、過ぎた。私たちの娘は、ずっと良い子だったけれど、最近は特に。まるで、私たちの言うことをなんでも聞くロボットみたいに…………ああ、そうだ。変だった、けれど、私たちには、どうして、そうなったのか、覚えが――――」

「本当に?」

 

 重ねて問う俺の言葉に、父親は黙り込んでしまう。

 

「もしかして、漫画なの? 漫画を、私たちが禁止したから?」

 

 だから、父親の代わりに答えたのは、母親だった。

 母親は娘とよく顔の造形が似ているが、どっか強気な印象をうかがわせる目つきがあった。

 

「で、でも、それは美花の為なの! だって、あんなものを読んでいたら、馬鹿に――」

「東大に合格する秀才、天才たちの中にはサブカルチャーを愛する者も多い」

「だ、だって、それは、その、オタクは犯罪予備軍だって――」

「オタクの犯罪よりも、オタクでない者の犯罪が多い。加えて言うのならば、法を犯すのはカテゴリじゃない。個人だ。どれだけご立派な職業についている奴だろうとも、犯罪者になる。時に、政治家。時に警察官。さて、アンタたちは娘にどんな職業に就いてほしいんだ?」

「わ、私たちは、私たちは娘が幸せなら、それで……」

「ほほう、その結果が自殺未遂か! はっはっは! 随分ご立派な教育方針だな! 俺も見習いたいよ!」

 

 母親は視線をゆらゆらと彷徨わせ、最後には俯いた。

 また、俺に胸元を掴まれている父親も、何かを言おうとして口を動かし、結局、何も言えずにいる。

 そんな両親を、美花ちゃんは信じられない物を見るような目で見ていた。

 悲しみよりも、怒りよりも、驚愕が先に来ている表情。

 

「…………ほ、本当なのか、美花? 本当に、私たちが、漫画を禁止したから……その、自殺なんて……」

 

 だからこそ、美花ちゃんはこう答えたのだろう。

 

「し、知らない。知らないっ! 私、知らないっ!」

 

 知らない、と何度も叫び、美花ちゃんはその場に座り込む。

 色々な感情が入り混じって、けれど、最初に出た言葉の意味は、拒絶だったのだろう。それは、俺よりも長い時間、美花ちゃんと共に過ごしている家族ならば猶更理解しているはず。

 

「そん、な……私たちは、今まで、何を……」

 

 呆然と、今まで信じていた何かが崩れ去ったかのように、父親は呟く。

 ――――良かった。俺は、ここで心底安堵した。ここで、そう、ここでこういう反応を返せたのならば、子供の事を本当に想っている両親ならば、まだ手遅れじゃない。

 

「もしかして、貴方たちご両親も、親から言われて生きて来たんじゃないですか? 『漫画やアニメにうつつを抜かすと馬鹿になる』って。あるいは、こっそりと親に隠れて読んでいる所で、こっぴどく叱られてトラウマになったとか」

「どうして、それ、を?」

「虐待は繰り返します。親から子へ。子から、孫へ。何せ、受けた仕打ちをずっと『正しい』と思って教えていくのだから」

 

 ここで、口調と声のトーンを優しげな物に変える。

 相手の心理的防壁が崩れ、心が剥き出しになっている今こそ、優しく染みわたるような声で、語りかけるのだ。

 

「うわぁ……あくどい」

 

 京子が俺の行動にドン引きして、詐欺師を見る目をしているが、もうちょっと待っててね? これからが割と肝心だからね?

 

「ぎゃ、虐待……そん、な」

「私たちが、美花に、虐待、なんて」

 

 虚ろに、呆然と、罪悪感に表情が沈んて行く美花ちゃんの両親。

 ここで俺はようやく、父親の胸倉を離して一息つく。

 もしも、俺が最初に父親を殴らなければ、俺の言葉はここまで届かなかっただろう。あるいは、出会い頭ではなく、ある程度素性を誤魔化して自己紹介した後などだったならば。

 言葉が通じるのは、俺が暴力という、この人たちにとっての非日常を演出したからだ。

 日常で通じていた物が通じず、恐怖が人の心の防壁を揺らがせ、言葉を通じやすくさせる。そのため、こういう手はカルト宗教も良く利用するらしいので、良い子の皆は気を付けような!

 

「私たちは、一体、これから、どうすれば……」

「知ればいいんですよ。娘さんが好きな物を。今まで、すれ違っていた理由を。出来るのならば、上から目線では無く、一緒に考えながら読んでください。普通でいいんですよ、普通で。わからない事があるならば、知ればいい。知った上で、自分の意見を言えばいい。それで納得できなくても、意見が違っていても、認めればいい。それが、個性であると」

 

 語りかける。

 優しく、目線を合わせて。

 迷える子羊を導く牧師のように。

 

「もちろん、今までの性格をすぐに変えるというのは無理でしょう。けれど、一歩踏み出すことは出来る。知ることは出来る。知った先で、自分には合わないと思っても、今度はそれを話題に娘さんと話し合えばいい。大切なのは、娘さんと一緒の物を好きになることじゃなくて、娘さんが幸せになること、でしょう?」

「…………出来る、だろうか? 私たちに」

「俺は、出来ないと思う人にこんなことを言ったりしませんよ」

 

 まぁ、俺はこの人の事を全然知らないから、その場の流れで言っているだけなんだけどね! でも、なんか不思議と確信があるんだよなー、こうすれば大丈夫っていう、確信。なんだろう? 本当にスタンド能力にでも目覚めたのかねぇ?

 ともあれ、長かった説得もそろそろフィニッシュだ。

 

「さぁ、ここに漫画の電子書籍があります。娘さんの好きなジャンルの中の一つです。読んでみてください。そして、娘さんと感想を言い合ってください。それがまず、一歩目ですよ」

「ああ、分かったよ……え、ええと?」

「天原です。天原晴幸。通りすがりの高校生です、どうも」

「は、ははは、最近の高校生は凄いな……あ? え、ええと、だね、天原君。その、この漫画のタイトルなんだが、その?」

「はい、『幼馴染のイケメンをTSさせて、美少女との百合を楽しむ私は魔女』がどうかしましたか?」

「こ、これは、その?」

「百合ジャンルですね。百合ジャンルのなかでも、TS百合です。許容できるかどうかは、結構、人それぞれになるジャンルですね」

「てぃ、TSとは?」

「トランス・セクシャルの略語です。様々な理由で、登場人物の性別が変わってしまう現象を示しています」

「そ、そうかぁ」

 

 父親は何度か躊躇いがちに頷いた後、美花ちゃんへ視線を移して、ぎこちない笑みを作った。

 

「大丈夫だよ、美花。お父さんはこれから、頑張ってみるから」

「ちがっ! 私、知らな――――」

「大丈夫よ、美花。お母さんも、てぃーえす? という漫画のジャンルを調べて、読んでみるから。もう呆れられてしまったかもしれないけれど、これから一生懸命向き合っていくから」

「みゃ、みゃあああああああ!!?」

 

 母親は涙を流しながらも、混乱している美花ちゃんを優しく抱きしめている。

 ふむ、最初にちょっと業が深い奴を見せてインパクトを与える作戦は成功のようだ。これならば今後、よっぽどでなければ『ま、まぁ、あれよりは健全』と思って、すんなりと受け入れてやっていけるだろう。

 つまりはまぁ、後は大体なんとかなるだろう、ということで。

 

「いよぉし、一件落着ぅ!」

「あの子の性癖が、両親に著しく誤解されたけどな?」

 

 俺は何とか、美花ちゃんが抱える問題をどうにかしたのだった。

 いやぁ、割とごり押しだったけど、上手く行くもんだなぁ。

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