さて、合コンが始まる前に、俺の親愛なるクソッタレな友達である、結城直也について、軽く説明しておこうと思う。
まぁ、京子の反応から察していただけると思うけれど、屑である。
女たらしの屑である。
俺が知る限り、奴は学校で七人以上の女性と肉体関係を持っているのだが、交際はしていない。何でも、束縛されるのを嫌っているらしく、セックスはすれど、交際はしない。
そう、直也の奴は大抵、美人を見かければ口説いたりするのだが、絶対に交際はしない。何とか、上手いこと煙に巻いて、肉体関係だけを結ぶのが奴の手口である。
あくまでセックスフレンド。
付き合っていない、お遊びの関係。
それを、相手側へと周知することによって、出来る限りのトラブルを回避しようという魂胆らしい。
もっとも、中学生時代はそれでヘマをやらかして、危うく、女性三人から刃物で刺されそうになったという頭のおかしい経歴がある当たり、もう救いようがない。度し難い色狂いなのである、あの馬鹿は。
「やー、でもさぁ。男として生まれてきたのなら、出来る限りの美人とエッチなことをしたいじゃん? あー、でも、それで拗れるような関係はもう懲り懲りだし。こう、出来る限りドライな関係が良いんだよね。目指せ、セックスフレンド百人」
前に一度、煙草を咥えながら、陽気な顔でそんなことを言っていたのを、俺は覚えている。
まぁ、その後、煙草が嫌いな俺の手によって、奴の腹には痛烈なボディブローが決まったのだが、それは置いといて。
こんなクソみたいな戯言を日常的に吐いてなお、直也が女性にモテるのには、もちろん相応の理由がある。
まず、一つ。
直也は話術に秀でており、なおかつ、それを、セックスフレンドを作るために使うのを惜しまない。後腐れしないためのセックスをするための努力を、惜しまない。
「いいかな、晴幸。世の中の非モテの男子は勘違いしているんだ。セックスをしたいのであれば、まず、きちんと準備をするんだ。相手に好かれる準備? ははは、違う違う、相手を騙す準備だよ。ほら、釣りをするためにはちゃんと餌を用意しないといけないじゃん? もしくは、狩りをするためには、罠と猟銃とかさ。だから、僕もきちんと準備をするし、武器を鍛える。君たちが、ゲームの中でレベルを上げるみたいに。スポーツ選手が、競技で良い記録を出すために、練習するみたいに」
そう、直也は勤勉だ。
後腐れしないセックスをするために、日夜勉強と実戦を繰り返し、非常に真面目に、成長せんとしている屑だ。いや、本当にその努力を別の所に活かせばいいのに、とも思うのだが、性分なのだろうから、仕方ない。
そんな仕方のない屑が、女性にモテる理由が、もう一つある。
これに関しては、単純明快。
至って、シンプルな答えだ。
「ああ、後、世の中の非モテ男子が勘違いしているのがもう一つあった。よくさぁ、『顔よりも心が重視』とかさ。優しい人の方が、付き合うなら良いとか言うけど、あれは間違いだからね? だってほら、見なよ。漫画の主人公は、大抵、見ていて不愉快にならないレベルの顔だし。恋愛シミュレーションのヒロインは美少女だ。だからまぁ、結局さ――――ツラだよ、恋愛は」
結城直也という屑は、とてつもない美少年なのである。
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「やぁやぁ、約束通り面子を集めてくれたんだね、晴幸。これで何とか、僕も相手方に頭を下げずにすんだよ、ありがとう。まー、残り一人に関しては無茶振りだったから、てっきり、早めに連絡が来ると思っていたんだけど……ぶっちゃけ、どうしたの、そこのお兄さん」
「俺が街頭でナンパして、捕まえて来たの」
「うわぁ、何そのコミュ力。え? 人間? 変な能力とか持ってない?」
「お前にだけには言われたくないんだよなぁ」
指定時間通りに、合コンの開催場所であるチェーン店の居酒屋へと向かう俺たち。
そこで、胡散臭い笑みを浮かべて待っていたのは、茶髪の美少年だった。
「あははは、やだなぁ。僕のは努力と、後はツラの良さによる補正あってだよ。君みたいな、強面で、どうやってそんなコミュ力を得ているんだか、まったく」
身長は俺の胸元程度で、ちょっと小柄。
顔つきは中性的というより、人形的と呼んだ方が良い、整った美形。男女を問わぬ、美を突き詰めれば、こうなるだろうという形が、こいつの容貌だった。
加えて、体を適度に鍛えることも忘れていないので、細マッチョという嫌われにくい体型。
服装も無難に、無地のシャツとジーンズという組み合わせであるが、顔が良いからこそ、余計に主張しない無難な服装こそ、こいつを引き立てるのには相応しい。
正直に言えば、嫉妬やら何やらを抑えて言うのであれば。
俺は、こいつ――結城直也よりも美形の存在を見たことが無い。
…………これで、性格が屑でなければなぁ。
「おっと、それよりも合コンの話をしておかないとね。ええと…………その、君の後ろに隠れている二人がそうなのかな?」
「あっはっは、あの、玲音はともかく、『鴉宝石店』さん?」
「鴉でいい。長くて、呼びづらいだろう」
「鴉さん。なんで、貴方まで俺の背中に隠れるんです? 年上でしょう?」
「慣れない服を着ているのと、初対面の相手という二点が合わさって、既に帰りたい」
「だいじょーぶ、だいじょーぶですよぉ? 実際、始まってみればいい経験になりますから。フォロー入れますので、とりあえず、あー…………生身の人間と相対するんじゃなくて、絵のモデルとして相対するってのはどうです?」
「…………ふぅむ」
『鴉宝石店』さん――もとい、鴉さんの姿は現在、大分改善されている。
近くの理髪店にぶち込み、ぼさぼさの頭や髭をすっきりさせたところ、見られるイケメンへと変貌した。色々と汚れているツナギはひとまず、洗いに出して、代わりにツケの効く服屋で適当な服を。サイズを合わせてマネキン買い。
たったこれだけの事で、元が良いイケメンだと見られるようになるのだから、まったく、恋愛はツラという直也の言葉も納得である。
「なるほど。そういう思考の仕方もあったか、ふむ。悪くない、悪くない。未知の体験が、感情が、俺の指先にどんな影響を及ぼすのやら、ふふふ」
「段々、貴方の扱い方が分かって来ましたよ、鴉さん。今後、初対面の人と話す時は、そういうモードで行けばいいんじゃないですか?」
「可能な限りはそうしよう」
なお、スケッチブックと絵画の為の道具は、手放すのを嫌がったので、そのままだ。合コンの店にまで持ち込んで、普通にスケッチを始めているあたり、やはりこの人は変人だと思う。
「そちらのお兄さんは大丈夫そうだけど、君の背中に隠れているお嬢さんは大丈夫? 心なしか、僕を睨んでいるように見えるけれど?」
「そりゃあお前、男装なんてさせるから」
「ううーん、実を言うと男装は流石に冗談で、君の方からツッコミ待ちだったんだけど」
「そっかー。斬新な遺言だね、直也。墓には、ツッコミ待ちって掘ってやるよ」
「はっはー、ごめん、ごめん、ごめええええええええたたたたたぁ!? 分かった! 本当に反省するから、指一本で、臓腑を抉ろうとしないで!?」
「なんでお前は度々、俺を騙すの? 死にたいの?」
「死にたくなーい。今度、君好みの女の子を上手く騙して、処女を食わせてあげるから、許してよ」
「合コン終わったら、お前、ちょっと折檻だからね?」
「ういうい。あ、顔だけは勘弁で、よろしく」
にひひ、と笑う直也。
こいつはなー、本当になー、性格も言動も屑なんだけどなー。面倒なことに、あえて、俺に叱咤されて、罰せられたいと思っている節があるから困る。
こいつと俺が友達である限り、こいつは最後の一線は超えない。俺が越えさせない。
その代わり、馬鹿な俺に代わって、色んなことの後処理を担当してくれる。今日だって、俺が何だかんだ人を集められなくても、笑いながら金を貸してくれただろう。
屑ではあるが、外道ではない。
何だかんだ言いつつ、友達。
それが、俺にとっての結城直也である。
「んじゃ、男側の顔合わせも済んだところで、いよいよ女の子とのご対面と行こうか、皆。あ、合コン初めての人が居ても、安心してね? 今日はお酒とか、煙草は無し。飲み物はノンアルコール限定。料理の代金も、無理を言って集まってもらった責任として、僕が持つから心配なく。その代わり、今日、来ている女の子たちは僕の友達でね? 出来れば、可能な限り楽しませてあげて欲しいんだ。あ、無理にとは言わないけど、そういう心意気でよろしくってことで」
「楽しませることは出来るんだ。そこから先に、何で進まないんだろうなぁ?」
「絵の事しか話せんが、それでいいなら」
「…………ご飯」
「うわぁーい、幸先が不安だー。でも、時間が無いから、このメンバーで行っちゃおう」
とまぁ、そんなわけでいよいよ、合コン本番だ。
俺たちは直也に連れられて、居酒屋に並べられている机の一つへ向かって歩いていく。
そこには、三人の女性が俺たちを待っていた。
一人は、金髪ロングで胸の大きい、ギャルっぽいお姉さん。
一人は、小柄で黒髪ショート。銀縁眼鏡の真面目そうな女の子。
一人は、高身長でスタイルの良い。けれど、真っ赤に染め上げたベリーショートの髪と、ぎらぎらと耳にたくさんつけた銀色のピアスが攻撃的な女性。
タイプは違えど、三人とも、十代後半から二十代前半ぐらいの、中々レベルの高い女性だった。そう、三人とも。
――――面子、三人で良かったんじゃねーか!!
俺は思わず、『早すぎて見逃してしまいそうになる手刀』で直也の意識を刈り取ろうと思ったが、強靭な精神力で抑え込む。
まだだ、まだ使うんじゃない。使うべき時は、今じゃない。そう、合コン後の折檻、楽しみにしておくがいいさ、直也。
「あー、やっと戻って来たー。ナオってば、おそーい」
「あはは。ごめん、ごめん。ちょっと面子を連れて来るのに手間取ってね?」
「…………ん、一人多い?」
「あ、本当だ、一人多い。ええと、可愛らしい中学生っぽい男の子が居るけど、あの子も参加者かにゃー?」
「んー、あの子はねー」
こちらの怒気など素知らぬ様子で、直也はギャルっぽい女の子と、銀縁眼鏡の女の子と会話している。
そういう、女の子と自然に話せるスキルって、羨ましいですわ。
俺の場合、芸人根性を拗らせて、ファーストコンタクトの内に恋愛対象から、外されるからな……っと、んん?
「え、ええと、メイさん? おーい、メイさん。目ェ開いてるけど、どーしたの?」
「…………見つけた」
メイと呼ばれた、赤髪でパンクな格好をした女性は、玲音の姿を見るなり、席から立ちあがった。その目はかっと驚愕に見開き、玲音から離れない。
嫌な予感がした。
俺はとっさに、玲音の前に立ち、メイという女性から玲音を隠す。
「やっと、見つけた」
されど、その人は止まらない。
獣の如き俊敏さで、弾き出されたようにこちらに飛び出してくる。
当然、他の女の子二人も、直也も反応出来ない。
「くっ……!」
俺だけは辛うじて反応し、いつ何時、その人が襲い掛かって来てもいいように身を構えて、そして、
「――――やっと、理想のショタっ子に出会えた! ああ、まるで夢のようだ! そうか、この、無限に湧き上がるこの感情こそがまさしく、恋!」
「…………え?」
メイさんは、俺の前――正確に言えば、玲音の前でひざまずいて、宝塚の役者の如く、高々と自らの思いの丈を発露した。
「どうか、貴方にひざまずかせていただきたい、ショタよ。永遠の忠誠と、劣情を捧げたい」
俺は即座に、手刀をメイさんに叩きこんで気絶させた。
どうやら、使うべき時は、今だったらしい。