「やぁ、トリムだよー。ナオとは、SNS関係の繋がりで、こっちのみゃむと一緒に、何度か会った関係かなぁ? 一応、今回の合コンの女性側幹事担当でぇーす。よろしくぅー」
「……みゃむ。これでも、大学生。トリムとはプライベートでも付き合いがあって、まぁ、オマケみたいな物だから」
「私はショタコン。名前はメイだ。直也とは前に一度、バンドメンバーの穴埋めとして、世話になったことがある関係だな」
金髪ロングで、胸の大きなギャルっぽいお姉さんがトリムさん。
黒髪ショートで、銀縁眼鏡をかけた小柄な、自称大学生の人がみゃむさん。
それで、最後に赤髪ベリーショートの、外見だけはパンクロックなクールビューティの変態が、メイさんというわけだ。
ふむ、俺は女性側の面子を一通り眺めた後、幹事である直也に疑問を投げかけた。
「ねぇ、直也さぁ」
「うん」
「変態が一人居るんだけど。名前よりも先に、性癖を紹介してきたんだけど?」
「うん」
「うん、じゃないが? うちの玲音がもう真顔になってんじゃねーか。欠片も心を開く余地が無いレベルの真顔だぞ、これは。さっきから、俺の服の裾をぎっちり握りしめて、離す気配が無いんだぞ? 言え、どうして変態を合コンの面子に入れた? よりにもよって、玲音が来る合コンの時に!」
「あははは。実は、僕も今日初めて知った新発見でさぁ――――どうしよう?」
直也は珍しく、割とマジで困っている模様。
おいおい、こいつの上っ面が崩れるのは、相当の事態だぞ? まさか、合コンという日常イベントで、こんな罠が待ち構えていようとは。
「へぇ、玲音って名前なんだ、君。なんだろう? 前世からずっと知っていたような、心地よい響きのする名前だね? あ、これ名刺。あと、これお金。大丈夫、大丈夫、そういうあれではないから、とりあえず受け取って――」
「生々しい行動を止めろ、そこの変態ぃっ!」
俺は再度、手刀で変態――もとい、メイさんを気絶させようとするが、それを見切っていたのか、メイさんは片手で俺の一撃を受け止めた。
「なにっ!?」
「知らないのか? 私レベルのショタコンに、二度、同じ技は通用しない」
「この変態、強いんだけどぉ!? もう!」
「げぼぉ!?」
同じ技は効かないと分かったので、渋々、陸奥圓明流『虎砲』を腹に打ち込み、行動不能に陥らせる。
まさか、中学時代の特訓で身に着けた漫画の技が、こんなことに役立つとは。『修羅の門』と『修羅の刻』を読んでいて良かったと思える瞬間だね。
「晴幸ってば、ほんと、女性にも容赦しないよね?」
「痕が残るようなヘマはしてないけど?」
「うーん、優しい癖に意外とドライなんだよなぁ、君って。とりあえず、メイさんが悶絶して動けなくなっている内に、男子側の自己紹介行こうか!」
「大丈夫か? 既に、女子側の面子の残りが怯えているけど」
「ここから一緒に盛り上げていこうよ!」
出来るかなー? トリムさんとみゃむさんってば、俺と変態のやり取りで、完全にびびっちゃっているもんなぁ。まぁ、素早く済ませたので、店員さんに俺たちのやり取りが発覚しなかったのが、不幸中の幸いだけど。
「はい、それじゃあ、まずは幹事の僕から。今日は予定していた面子が、急に来られなくなってごめんね? 代わりに、僕の友達を呼んで、なんとか面子を集めたから、許して欲しいな? ということで、紹介どうぞ、晴幸」
「うーい、紹介に預かりました、天原晴幸でーす。まだ高校生のひよっこですので、お姉様方の前で、ちょっと緊張しています。どうぞ、お手柔らかに」
「き、緊張?」
「緊張って、なんだろう?」
俺が自己紹介で爽やかスマイルを披露したのに、なぜか、余計に女性陣二人に引かれている気がする。ううーん、不思議だ。
「はい、それでこの子なんですけど……俺の従兄で岩倉玲音っていう名前の中学生です。人見知りでシャイな子なんで、野良猫と接するような気分で話しかけてください。あ、出来れば、そこの変態は近づけないように」
「……」
「んでもって、この人が――――大丈夫、鴉さん? 一人で自己紹介出来る?」
「頼む」
「うん、頼まれた。はい、そういうわけで、俺がそこら辺の街頭でスカウトして来た美大に通う大学生の鴉さんです。本日は、対人経験を積むためにやってきました。途中、対人許容度が超えた場合は、ギブアップして離脱するかもしれないけれど、お気になさらず」
「苦手克服のために、頑張る予定だ……です。よろしく」
そして、俺が玲音と鴉さんの紹介を終えた頃になると、女性陣二人は完全にこちらに対して警戒心を露にしていた。もはや、ドン引きどころか、こっそり目配せし合いながら、店内の逃亡ルートを確認している始末。
「直也、やっぱり駄目じゃね?」
「僕と君なら、やれるさ、晴幸。とりあえず、定番の流れで場を温めて行こう。ふふふ、こんな修羅場なんて、今まで何度も潜って来ただろう? 僕らは」
「そうだね、主にお前が原因の修羅場だったけどね」
それでも、男にはやらなければいけない時があるのだ。
俺と直也は互いにアイコンタクトを終えると、静かに覚悟を決めた。
さぁ、数多の修羅場を乗り越えた、男子高校生の力を見せてやるぜ!
●●●
直也が何故、俺を合コンに連れて来るのか?
それは、俺が場を盛り上げるのに適した存在だからである。
何せ、色々と馬鹿なことをやらかしているので、武勇伝には事欠かない。何度か、直也も一緒に馬鹿をやったことがあるので、大抵、その話で女の子たちは盛り上がってくれる。
「えー? うっそだぁ! 今時の学校って、セコムがあるでしょ? 夜にこっそり入っても、サバゲーなんて無理だってぇ!」
「ところがどっこい、僕たちには秘策があったんだよねぇ、晴幸」
「おうとも、普通に頼んでも絶対無理だからさ。『戦争の悲惨さを忘れないために、退役軍人の方々をお呼びして、実際にお話を聞こう』みたいな課外授業の延長戦でやったんだよ。まぁ、サバゲーに関してはあくまでも、お遊びと実際の戦争は違うという結論で纏めてもらうために用意したという体になっていたけどね」
「強かったよね、退役軍人のお爺さんたち」
「試合開始した途端、動きのキレが違ったよね。仲間たちへの呼びかけとか、飛び交う怒声とか、凄みがあったよねぇ。最後の十分なんか、俺と直也も合わせて数人しか残ってなくてさ」
「あれはぼろ負けだったよねぇ。まー、何にせよ、前例を作れたのは良い事だったよ。そのおかげで、テストの点数が良ければ夜の学校を監督の下、開けて貰えるようになったし」
「数学のテスト、平均点80点は辛かったねぇ」
俺と直也は、阿吽の呼吸で鉄板の話を女子面子へ披露する。
さりげなく、小さな取り皿に料理を盛り付けて、人数分配るという気遣いも忘れずに。こういう細かい気遣いが、後々の評価に繋がってくるのだ。
「へー、トリムさんって岩手の大学なんですね! 俺たちと、出身県同じなんだぁ」
「そーそー、みゃむも一緒の大学でね。みゃむとはもう、幼稚園の頃から一緒の仲でさぁ。子供の頃からよく、私がみゃむに付いていったもんだよぉ」
「へぇ、てっきり、逆だと思っていましたけどね、僕。SNSで話している限り、トリムさんと一緒の所に、みゃむさんがいるってイメージでしたけど」
「…………まー、間違ってない。私、トリムのオマケみたいなもんだし」
「そんなことないよー! 私ってば、いっつも、みゃむに助けられているし! あ、それに、みゃむって凄いんだよ! 漫画書くの、ちょー上手いの! WEB上で漫画を公開していたりしてさ。SNSでもパズることが多くて――――ほら、これ!」
「ちょ、ちょっと、トリム……っ」
警戒心を緩ませれば、後はこっちの物だ。
直也は詐欺師をやって、食っていけるレベルで話術を鍛え上げており、俺もまた、数々の合コンの負け戦により、女性の話にうまく乗っていくぐらいは出来るようになっている。
そして、変態に関しては意識が戻ると共に、拳を交えて、再び、意識を刈り取っているので問題ない。同じ技が通用しないタイプの変態であるが、合コンの間だけならば、何とか無力化は可能だろう。
……なんで、合コンをやっているのに拳を振るっているんだろうね、俺は。
「あっ、これ、俺もTwitterのタイムラインで見たことがある! みゃむさんだったんだ、この漫画を描いた人。わー、すげぇ。素直に感服だわー」
「でしょー? うちのみゃむは超凄いでしょー?」
「も、もう! トリムってば……」
「あははは、トリムとみゃむは仲が良いなぁ」
…………と、ここまで場を温めれば、合コン初参加の人も――鴉さんも、会話に参加しやすいだろう。鴉さんってば、さっきから俺たちの話を聞いて、料理を食っているだけだからなぁ。幸いなことにこちらの話を楽しそうに……楽しそうに? 聞いてくれているからいいけど、スカウトしておいて、放置はいけない。
鴉さんの人生経験の為にも、俺が上手く話を振って、フォローしていかなければ。
「あ、漫画と言えば、鴉さん!」
「おう?」
「鴉さんは美大の学生さんなんですね? こう、Twitterやpixivのアカウントとか、あったりしませんか?」
「あるぞ」
「みーせーて?」
「…………まぁ、これだ」
少し戸惑いながらも、鴉さんは自らのアカウントを披露してくれる。
あ、Twitterはやってないけど、pixivはやってんのね。へー、どれどれ?
「みゃむ、みゃむ! 美大の学生さんだって! どんな感じなのか、見せてもらおうよ! あ、私はもちろん、みゃむのが一番だけど!」
「ば、ばか……あの、鴉さん、気にしないでください、その」
「…………? ああ、気にしない、安心してくれ。絵を、見られるのには、慣れている」
そして、俺たちは見た。
『鴉宝石店』というペンネームで、彼が投稿している絵の数々を。
『――――っ』
思わず、俺、トリムさん、みゃむさんの三人は息を飲んでいた。
なんというか、あれだ。俺は今まで、Twitterやpixivで、いろんなイラストをそれなりに見て来た。パズった漫画や、イラスト。構図がすげぇ、ハイセンスだって思う物だって、結構たくさん見て来たと思う。
それを踏まえて、あえて言おう。
――――格が、違う。
スケッチが上手いとか、リアルだとか、構図がエモいとか、そんな話では無かった。
例えば、血塗れの少女が、誰かの内臓を啄むイラストがあるとする。非常にグロテスクで、凄惨とも言えるほど鮮明に書き込んでいるのに、俺はこのイラストを『暖かく、幸い』な物であると、感じさせられてしまった。
それほどまでに、血塗れの少女の笑みが無垢で、晴れやかな物に見えたのである。
ちなみに、そのイラストのタイトルは『少女葬』。このタイトルを見た瞬間、俺は即座に理解した。美しい物に食べられることは、幸いな弔い方であると、伝えたかったのだと。
「道路で死んでいる猫は、幸いだ。鳥が食べてくれるから、きっと天国に行ける。ええと、そんな気持ちで描いた、ような?」
俺たちが何も言えないでいると、鴉さんは惚けたようにそう言って、ぎこちなく笑った。
…………どうやら、俺はとんでもない鬼才を、合コンに連れ込んでしまったらしい。