合コンの成否はどのようにして決まるだろうか?
失敗の方は、まぁ、分かり易い。
女の子たちがあからさまにつまらなそうにして、会話の途中でもスマホを弄り始めたらもうアウトだ。露骨な演技をして、途中で店から出ようとするケースだと最悪。もう二度と、そのグループからは合コンに呼ばれないかもしれない。
幸いなことに、俺たちの合コンは失敗しなかった。
間違いなく楽しませたと思うし、相手の女子はこちらに興味津々だったと思う。
「か、鴉さんはその、このコンクールに出した作品では、一体、どんなテーマを?」
「テーマ? よくわからないが、ううむ、『寒空でも、暖かい物は探せばある』だった、ような?」
「神過ぎる……あ、この絵の技法についてももう少しだけ」
「ああ、それは、こう、すっと」
「すっと! すっと!」
「みゃ、みゃむぅ? 狂ったように鴉さんの動作を真似なくてもー。鴉さん、絶対適当だよ、あれー」
「ううん、全然真似できていない。肘から下の柔らかいタッチが、全然違う……やっぱり、アナログだと勝ち目が……や、デジタルでも凄いの描いているから、言い訳に過ぎない、か」
興味が過ぎるほど、興味深々だったと思う。
特に、みゃむさんなど、落ち着いた態度から一転、鴉さんを質問攻めにする始末。その表情は傍から見ていても、鬼気迫る物があったけれど、幸いなことに鴉さんは普通に受け答えしていた。むしろ、女性と長時間会話できたと、どこか嬉しそうだったところを見ると、意外と相性は悪くなかったのかも? まぁ、初対面の合コンの結果にしては、だけれど。
それに、問題があるとすれば、こちらの方だ。
「さて、どうするかね、少年? 私は受け切ったぞ、お前の攻撃を。それとも、まだまだ技のレパートリーを見せてくれるのかな?」
「くっ、並大抵の耐久力じゃない……こいつ、意思が肉体を凌駕しているのか? ならば、俺はお前の心を挫くひと言を与えてやる」
「ほほう、面白い。試してみろ、私の信仰(性癖)を砕けると思うのならばな!」
「いいか、よく聞け――――玲音は実は、ショタじゃない、ロリだ!」
「なん、だと!?」
合コンの後半、俺の行動は変態――もとい、メイさんによって封じられていた。
何度打ちのめしても、立ち上がり続けるその強靭なる意思は、単なる暴力だけでは抑えきれず、俺はついに隠していた切り札を切った。
相手がショタコンであるのならば、致命的な一撃。
玲音がロリであるという、合コンが後半になってきて、もうだんだん良くわからない空気になっているからこそ、暴露できた真実。
その真実は変態の心を打ち抜き、信仰を打ち砕く……そのはずだった。
「ふ、ふくくははははっ! ロリ!? ロリだと!? ああ、その事実に、私はきっと打ちのめされ、絶望しただろう――お前と戦う前の、私だったらな!」
「なん、だと!?」
「戦いは人を成長させる。ああ、理解したよ、これこそが悟りに至った者の領域だと。ロリとショタ! その二つを愛することこそが、生命への賛美! 究極の愛だと!」
「馬鹿な、越えただと? 性別の垣根を!? こいつ、変態として進化したのか!?」
「さぁ、ここからは暴力ではなく、互いの言葉の刃で決着をつけようじゃないか、少年。何故なら、そろそろお店に迷惑がかかりそうだからな!」
「張本人が、よく言うっ!!」
覚醒進化した変態は強かった。
俺たちは、料理を交換しながら、言葉を交わしあい、正義とは何なのか? 性癖とは? 人の愛とは何かを語り合った。途中で、メイさんがやっているバンドの動画を見せてもらったり、田舎の地元あるあるで盛り上がりながらも、白熱した議論を交わして。
そして、最終的には『玲音の好感度が高い方が正義』という結論になったのである。
「さぁ!」
「俺と、こいつ!」
「私と、こいつ!」
「「どっちの方が好き!!?」」
「…………」
玲音は、大して好きじゃないおかずを並べられて、『世界最後の日に食べたいおかずは、どっち?』という質問をされたみたいな顔をしていた。
けれど、そこはやはり、時間と積み重ねた好感度の差だろう。
「…………こっち」
釈然としない表情を作りながらも、玲音の指が示したのは、俺だった。
「ふ、ふくくくはははっ、参ったな。完敗だよ、晴幸」
「お前も、強敵だったぜ、メイさん」
こうして、勝敗を決した俺たちは互いに握手を交わし、ついでに連絡先を交換して、気づいたら合コンが終わっていたのである。
……結論から言えば、間違いないなく合コンは盛り上がったと思う。
だが、成功したとは言い難い。
何故ならば、今回の合コンはあくまでも、直也のフォローだ。直也がセックス決めるための、伏線として、この合コンが企画されたのに、もはやわけがわからない盛り上がりになっているのだから、企画した直也としてはあまり気分が良いものではないと思っていたのだが。
「いやいや、メイさんがショタコンだった時点でもうそういう空気じゃなかったしさ。今日は久しぶりに、友達と一緒に騒げたと思っておくよ」
俺がそのことを謝罪すると、妙に晴れ晴れした表情で直也は応えたのである。
おかしい。
いつもの直也だったのならば、『んもーう、失敗だよ、大失敗! あーあ、セックスできなくて残念! 晴幸ぃ、お金は渡すから、気分直しにナンパ行かなーい?』と、けらけら笑いながら、面倒なことに誘ってくるというのに。
「……それに、目的を果たせる直前ってのは、誰だって気分が良いものだろ?」
「目的? えっと、この後、誰かと予定でも入ってんのか?」
「あはっ♪ まぁ、そんなところだよ、晴幸…………んじゃ、そろそろお金払ってくるよ」
直也はひらひらと片手を振ると、機嫌よく会計へと向かった。
よくわからないが、これで充分らしい。
やれ、色々あったけれど、これで地元に帰れるのだから、ありがたいね。
ワイヤード。
ペルソナ。
自ら生を放棄した、死者。
ナイツ。
ああ、本当に色々課題は山積みだけれど、とりあえず、京子が何か掴んでいるだろうし。今だけは、ちょっと一息ついても良いよね?
「ハルユキ」
「あ、やっぱり、なんですね、はい――――警戒するよ」
などと思っていたけれど、玲音からの冷たい一言で状況を悟った。
『ざ、ざざざざざっ――――三名様、ご案内ぃ――ざざざざっ』
聞き覚えのあるノイズ。
ひび割れた声。
それに違和感を覚える頃にはもう、奇妙な浮遊感と、視界が揺らぐ感覚があって。
「ごめんねぇ、晴幸。少しばかり、遊んでいてよ」
悪びれていなさそうな、悪友の声が、最後に聞こえた。
●●●
空々しいほどに晴れた、快晴の空。
その空を塞ぐかのように、無数に張り巡らされた電線。
道路や場所を全く考慮せず、木々のように乱立する電柱。
灰色と青が混ざった、偽りの町、ワイヤードに、俺は再び入れられてしまったらしい。
そして、
「…………うう、ここは?」
「あちゃー、露骨なことをしてくるなぁ、もう」
俺の隣には、意識が朦朧とした鴉さんの姿が。
「あはははー、ごめんねー。こっちもお仕事でさー」
「ん、でも、殺すようには言われてない。だから、しばらく雑談しててもいいんだよ?」
俺の前には、トリムさんと、みゃむさんの二人が立ちふさがるかのように。
しかも、二人の背後には、前に見た『餓鬼』とは違う無数の化け物の姿があった。
「あー、気になったから、一応聞くけど、メイさんは?」
「あの人は連れてきてないよー」
「ナイツのメンバーじゃないしね。だから、今頃は一人ぼっちで驚いているかも?」
「そうか、そりゃあ、何より」
俺は二人と受け答えをして、少しだけ安堵する。
流石に、鴉さんを守りながらあの変態と戦るのは骨が折れるから。
だから俺は、安堵して、覚悟する。
これから、『玲音が居ない』という最悪の事態に対応するために、覚悟を決める。
「えー、戦うのー? お姉さんたちと、いちゃいちゃしてようよー?」
「無理は、いけない。傷つけたく、ない」
「あっはっは、お気遣いどうも。だけど、俺の相方が居なくてね。こりゃあ、真面目にヤバいということで、まぁ、だから――――悪いけど、やさしく出来ないぜ?」
「ほーう、面白いですなー! ねぇ、みゃむ、ちょっと懲らしめてあげようよ」
「うん、わかったよ、トリム。年下の男の子を虐めるのも、嫌いじゃない」
俺は二人と対峙し、静かに構えた。
二人は、余裕たっぷりの表情で微笑み、ゆらりと自らのこめかみに、人差し指を当てた。
そして、予想していたことであるが、俺たちの開戦の合図は、共に同じ言葉となった。
「来い――――ペルソナぁ!!!」
「「行くよ、ペルソナ!」」
こうして、俺は再び、ワイヤードでの戦闘に及ぶことになった。
隣に居ない、玲音を探すために。