なお、その後、お賽銭に五百円を投下したところ、無事に志望校に合格した模様。
「ペルソナぁ!!!」
雑魚を蹴散らした後、鴉さんが何やらよくわからないことを呟いて気絶。
その後、特に何も音沙汰が無く暇なので、環境破壊を始めることにした俺だった。
「おらぁ! どこに居るんじゃ、ワレェ!! さっさと、金を寄こせ、金ェ!! 応答がない場合は、この世界ぶっ壊すぞ、おらぁん!!?」
溢れ出る力は収まるところを知らない。
俺のペルソナ、ヤマが骨の剣を振るうごとに、巨大な建造物が音を立てて崩れていく。路面が盛り上がり、軋み、さながら超サイヤ人でも暴れたのか? みたいな有様になっていた。
よし、この分だと、あと五分ぐらい暴れれば、この空間を破壊できるな!
以前、やりすぎてワイヤードという謎空間の一部を破壊してしまったことから、俺は空間の耐久度をきっちりと覚えていた。そう、これくらいの破壊であれば、まだ完全に壊れはしないだろう、と。
『…………あー、薄々感じていたけど、君はやっぱり規格外だよねぇ、晴幸』
「お、やっと反応したな、直也」
すると、予想通り、この空間を壊されて困る存在――――恐らく、ワイヤードという空間の一部を所有している主が、結城直也が、口を挟んできた。
もっとも、直接顔を出さず、どこかの無人の建物の中から流れてくる、スピーカーを介しての会話のようだけれど。
『約束しよう。別に、君たちに何か悪いことをしようとしているんじゃない。ただ、僕は僕の本懐を遂げたいだけなんだ。だから、邪魔しないでくれるかな? ねぇ、悪友?』
「それで? 玲音はどうした? 岩倉玲音。俺の相方だよ。お前が、連れて行ったんだろう?」
『………………ねぇ、晴幸』
俺の言葉に対して、少し沈黙した後、直也は珍しく真面目腐った声で告げてくる。
『あれはね? 関わってはいけない存在だよ。少女の形をしているけれど、おおよそ、まともな生物じゃない。いや、そもそも生物であるのかどうかさえ、わからない。ただ、人の深層心理の奥――――集合無意識の海に潜む、恐るべき【何か】だ。理解し合えるとは思わない方がいいし。出来るわけがない』
「あっそ、ご忠告感謝するよ、直也。でもね、あいつがどんな存在だったとしても、あいつは俺の隣に来たんだ。特に好かれているような気なんて全然しないけどさ、まぁ、隣に来たなら、可能な限り何とかしてやりたいと思うじゃないか」
『何とか? はははっ、あの神に等しい存在が、人に何を願うって言うのさ?』
「いや、なんかあいつ、寂しがりやみたいな感じがしてさ。だから、あいつが隣に居て欲しい時に、俺はあいつの隣に行こうと思うんだよ――――だから、さっさとこっちに戻しなさい。あいつは、お前の手におえる女じゃないぞ、馬鹿」
なんというか、負けイベント確定のRPGの戦闘を、とりあえず最後までやっているような気分だった。これ、駄目なんじゃね? と思いつつも、とりあえず最後までやってみるかぁ、と進めていく感じの、あれ。
『……は、ははは、ご忠告、感謝するよ、晴幸。でも、でもねぇ――――今更ぁ! 止まれるわけが、あるものかっ!!』
「そっかー」
はい、やっぱり駄目でしたー。
直也ってばもう、軟派野郎の癖に、変なところで頑固なんだもんなぁ。
…………などと、俺がため息交じりに肩を竦めていると、空間が歪み、謎の怪物どもが召喚されてくる。
ただ、今度は姿かたちがバラバラな奴らじゃない。
そいつらは全て、二足歩行する、一つ目象の化け物だった。その手には、俺の身の丈以上の大剣や、鎖の付いた鉄球などが携えられている。
『そいつらは、君専用に考えていた切り札だよ。精々、クソゲーを味わってね? ……ま、あ。君はこういうクソゲーを鼻歌交じりにクリアするんだろうけどさ』
ぶつんっ、という通話が切れたような音が響いた後、像の化け物たちは一斉にこちらへ殺到してきた。
とりあえず、俺は鴉さんを背負い、機敏な動きで巨体を翻弄。
力こそ、見た目通りの怪力であるが、速さはそこまでではないので、人を背負った状態でも楽々回避。そして、ヤマによる一撃で片付けようと思ったのだが、骨の剣を振るった瞬間、何やら象の表皮一歩手前のところで剣が止まり、痺れるような感覚が手に残った。
「ふぅむ」
推測。どうやら、ペルソナに与えられたダメージは本体にも返ってくるらしい。
推測。どうやら、この像の化け物は物理的な攻撃を跳ね返そうとするらしい。
推測。この手の相手は魔法に弱い。多分。でも、魔法系のあれこれとか使えないっぽいんだよな、俺……というか、ヤマ。
推測。でも、高度に極めた科学は魔法と変わらないと誰かが言っていた。これの言いたいことはつまり、何かを極めれば、大体、魔法みたいなことはできるよね! ってことじゃないかな、と思う、多分。
結論――――気合でなんか物凄い魔剣みたいな一撃を放てば、オールオッケー。
「こぉおおおおおおおおっ!!」
なんかそれっぽい呼吸を重ね、丹田から体中に回る魔力的なパワーを意識。ヤマに、漫画で見たかっこいい剣の構え方をさせて、一息。
「空間殺法・陽炎」
次の瞬間、襲い掛かろうとしていた象の化け物たちを、陽炎の如く揺らめいた骨の剣がバラバラに斬り飛ばした。
抵抗などまるで感じることはなく。
さながら、包丁で豆腐でも斬っている気分だった。
…………なるほど。敵に物理耐性とか、反射属性っぽい奴が居る場合は、気合で魔力的な何かを収束して、研ぎ澄ませばオッケーなのか、ふむ。
「…………急がないとな」
俺はペルソナを維持したまま、周囲の気配を探る。
…………駄目だ、俺はどうやら、そういう感知系のあれやこれやは苦手らしい。ううむ、困ったなぁ。
「直也が、危ない」
多分、早く追いつかないと、直也の奴が死んじゃうと思うんだよな、あの様子だと。
●●●
結城直也は焦っていた。
「まずい、まずい、まずい………………絶対、晴幸はあの程度の時間稼ぎ、あっという間に超えてくる。あいつは、そういう馬鹿だ。理屈が通じない」
悪友との付き合いがそこそこ長い直也は、晴幸の強さに対して、信頼を置いている。
何せ、あの馬鹿だ。道理や理屈を蹴飛ばして、無理を通してくる馬鹿だ。こちらの常識や、当たり前などは、鼻歌交じりに蹴飛ばして、こちらの首根っこを掴んでくるだろう。
そうすればもう、自分はこんなことを続けられないと、直也は自覚していた。
こんなこと、悪友に説教されたら、やめてしまう。心が折られてしまう。それではいけない。せめて、せめて、愛しいあの人を蘇らせなければならないのに。
「お願いします! どうか、どうか……」
「…………はぁ」
ワイヤード内に作り上げられた、直也の心象風景。
灰色の街の隅に隠された空間。
夏の日の縁側。
そこに、不機嫌な岩倉玲音(神様)がため息を吐いていた。
「…………」
玲音は、懇願する直也のことをつまらなさげに眺めている。
考えてみれば、当然極まりないことだろう。仮に、岩倉玲音という存在が神であるとして、結城直也という存在が、ナイツという、神を信奉する集団の一員だとして。
神が、信者の願いを叶えなければならない義務などはない。
勘違いをしては、ならない。
神は絶対的だ。
神は気まぐれだ。
神は思春期の少女のように、繊細だ。
時に、賢者の理を面白半分に足蹴にして。時に、愚者の懇願を聖女の如く受け入れることもあるだろう。
けれど、『楽しい遊び』の最中に、横やりを入れられてしまえば、当然の如く気分を損ねる。
というか、神様でなくとも、普通の人間でも機嫌を損ねる。
それは、当たり前のことだ。
「――――いいよ。貴方の愛しい人を、蘇らせてあげる」
故に、玲音は直也の願いを叶えてやることにした。
「…………あ、ああ、ありがと、う、ござい、ます……っ!」
度重なる懇願の果てに、ようやく願いを聞き入れてもらった直也は気づかない。
少なくない年月を、それだけに賭けていた直也には気づけない。
「貴方の、愛しい人を、きちんと、ちゃんと、しっかり――――貴方を愛していないままに、自殺した後の状態で、蘇らせてあげる」
「…………え、あ?」
神の残酷さに、気づけなかった。
そして、何より、己の愚かさに気づけなかったのである。
――――己を愛していない者を愛し、蘇らせるということが、どれだけ悍ましく、残虐な行為であるかを。