でも、大体週2回投稿ぐらいなので、気長にお待ちくださいませ。
・フラグメント 1
●とある少女たちの会話
「ねぇ、ペルソナちゃんって知ってる?」
「あー、知ってる、知ってる。あれでしょ? えーあい? だっけか?」
「そーそー、それ。何か無料でダウンロードできるらしくてさー」
「なんかすごく会話とかできるんでしょ?」
「すっごいよねー、ネットで情報を共有して、進化する人工知能なんだって。音声合成も違和感がほとんど無いし、人生相談とかも出来ちゃうんだって!」
「はー、すっごいねぇ、未来の技術だねぇ」
「あははは、なにそれ? 現代の科学力なのに」
「でも、おしゃべりできるえーあいがあるとか、凄くない? 未来っぽい」
「あー、未来っぽいかもー。でもさ、未来っぽいのとは逆に、何か、このペルソナちゃんに、きな臭いっていういうか、オカルトっぽい都市伝説があってね――――」
●ネットニュースの見出し
『ついに自殺者三百人を突破! 同じ遺書を書き残し、同じ時間に自殺を行う若者たち。彼らには隠された共通点があった!?』
『アザラシの着ぐるみを被った男性が、小学校に侵入した疑いで逮捕。理由は「マスコットとして、子供たちと触れ合いたかったから」』
『クローン臓器による治療によって、失くした視覚を取り戻した!? 二十年の間に急激進歩した、医療の歴史を振り返ります』
『バーチャルネットアイドル【れいん】が今、静かな人気! アナタとツ・ナ・ガ・ル。カルト的な人気の裏側に隠された、超常現象?』
『野生動物? 未確認生命体? 突如として現れた謎の影! 果たして、その正体とは!?』
●とある研究者たちの会話
「目標をロスト」
「ワイヤード内での検索結果は?」
「該当件数ゼロです。恐らく、ステルスかと」
「ステルスの解除は?」
「不可能であるかと。ワイヤード内で、彼女には何をしても及びません」
「だろうな……はぁ、虱潰しか。よかったな、残業代が増えるぞ」
「ははは、労基に訴えても?」
「精神病棟ってな、意外と居心地が良いらしいぞ。よかったな、念願の長期休暇だ」
「ブラックを超えた、ルナティックな企業があるなんて……まぁ、今更ですね。『自殺者』にはなりたくないので、大人しく働きますよ」
「そうだな、それがいい」
●ノイズ
「ざ、ざざざざざっ、ざざっ――――預言を実行せよ、預言を実行せよ――――ざざざっ」
・第2話 友よ、助けてくれ
ここ数日で、岩倉玲音という少女について分かったことがある。
まず、一つ。
「…………」
「あの、玲音。お風呂先にどうぞ?」
「…………」
玲音は基本的に無口だ。
リアクションが無いわけじゃない。何かを言えば頷いたり、首を横に振ったりしてこちらに対して反応を示す。けれど、声を出して何かの言葉を発する機会はさほど多くない。しかし、母さんに「ちゃんと、ご飯を食べる前は『いただきます』、食べ終わった後は『ごちそうさま』だよ。よそ様の子供だって、家にいる間は家の子として躾けるからね」と注意されたため、きちんと食前と食後の挨拶は言うようになった。
どうやら、何かの信念や障害があって言葉を言えないというよりは、普通に言葉を言うのが面倒で言葉を発していないような感じらしい。いや、何かしらの精神的な障害を抱えているのかもしれないけれど、少なくとも、障害を感じるような動作は無い。
むしろ、岩倉玲音はその逆。
というわけで、二つ目。
「…………」
「ん? ああ、もう読み終わったんだ。はい、次の巻」
「…………」
「え? いっそのこそ、最終巻までごっそりと貸して欲しいの? 別に良いけど、重いよ?」
「…………」
「そ、そう、ここで読むのね、うん」
玲音は、とてつもなく知識や経験を吸収するのが早い。
田舎の学生は外出しなければ、特に何もすることが無くて暇だろうと漫画本を貸してあげると、一巻を僅か三分ぐらいのペースで読破。
本当に内容をちゃんと覚えているのかと尋ねてみると、指定したページの台詞をノートに書き起こして見せたり、何も見ずにそのページの絵を模写して見せたりするから驚きだ。いや、ほんとに驚いた。あらゆる絵のセオリーを無視して、コピー印刷機みたいな動きで漫画の絵を再現するんだもん、びっくりだよ、俺は。
後は、箸の使い方が最初、とても下手だったのに、俺のやり方を見ただけでさらりと習得して見せたり、俺が暇つぶしの動画で見ていた、『日常におけるさりげないかっこいい動作』を完全に会得し、背後を見ずに俺の手元に、読み終わった漫画本をシュートしてくるようになったのだから、困りものだ。や、本当にどうして、こちらを見ずに、ちょうど手の中に納まる様に漫画本を投げられるんだか、意味不明である。
まぁ、いい。
これは別に、実害がないから別に構わないのだ。
「玲音さん、お話があります」
「…………」
「私のベッドの下に隠してあったエロ本なのですが、今朝、見てみると無くなっていました。何か、心当たりはありませんでしょうか?」
「…………」
「なるほど、知らないと。じゃあ、仮に貴方の寝室から俺のエロ本が出て来た場合、貴方は思春期を拗らせて、ひっそりと同居人のエロ本を盗んだ、えっちな女の子になる――痛ぁ!? やめ! 動画で見たパンチを俺の脇腹に叩き込むのは止めて!」
三つ目、岩倉玲音はエロ関係に厳しい。
なんだろうか? 母さんが俺のエロ本を没収した時、エロは悪い事だと間違った学習をしてしまったのだろうか? そのため、いつの間にか俺が隠していたエロ本を探り当てて、どこかにこっそりと隠し直しているのだ。これに関しては、問いただした際、顔を赤くして「むぅ」みたいな声を上げるので、実行犯が玲音であることは分かり切っている。
なんとか、玲音の奇行を止めなければ、俺の性欲は溢れて色々と大変なことになってしまうだろう。だがしかし、母さんは日中忙しい上に、こんな話題を口に出した瞬間、「んじゃあ、性欲を発散させるために、ちょうどいい仕事があるよ」とどこぞの肉体労働先へと叩き込まれてしまうに違いない。俺は、体を鍛えるのは好きだが、誰かに強制される肉体労働は大嫌いなのである。
「仕方ない、こうなったら我が親友の力を借りるしかないか」
そんなわけで、俺は意を決して、親友を頼ることにしたのである。
●●●
「死ね」
「あるぇー?」
「私の安らぎのニートタイムを邪魔する奴は、疾く死ね」
「まぁまぁ、そう言わず。あ、おばさん、お邪魔しています。これ、つまらない物ですが。ああ、はい。ええ、この後、一緒に買い物にでも行こうかと。大丈夫です、途中で倒れても背負えますので、俺が。はははは、伊達に鍛えてないですよぉ」
「私のママを懐柔するんじゃない、晴幸」
「懐柔以前の社交辞令だから安心するといいよ、京子」
田舎の交通の便はとても悪い。
まず、バスが一時間に一本通る場所が近場に在れば良い方だ。駅で移動しようにも、駅まで行くのに自転車を使わなければいけない距離があったり、電車が来るのも一時間に一本ペース。学生は自転車で気合い入れて移動するか、バイクの免許を取るか、はたまた、家族に送迎を頼むしか移動手段が無いのである。徒歩? 馬鹿め、死ぬぞ?
ただまぁ、俺は田舎の中でも国道沿いの田舎なので、移動はいくらか便利だし、田舎の中でも比較的都会っぽい街に住んでいる親友なんかは、近場のデパートや商店街まで徒歩で行けるから羨ましい。
ちなみに、今回は玲音も居るので母さんが買い物に行くついでということで、自動車での送迎を頼みました。
「言ったよな? 私は遊びに来るなら、せめてアポイントメントを取ってからにしろって言ったよな?」
「でも、事前に連絡したらほぼ確実に『来るな』って返すじゃん」
「当たり前だ。うら若き乙女の自宅に、男子高校生などを呼ぶものか」
「うら若き乙女? ジャージ姿で、髪の毛ぼさぼさで、適当に後ろでまとめているだけの女子力皆無のお前が?」
「よし、帰れ」
「はい、これ貢物のドクターペッパー」
「…………ちっ」
ぼさぼさの黒髪を一度掻き毟ると、舌打ちと共に我が親友は、彼女の部屋へと手招く。
中島 京子(なかじま きょうこ)。
俺と同じ学校に通う、女子高校生だ。
京子はこの春に、この田舎に引っ越して来たばかりの田舎初心者であるので、たまたまクラスメイトで席が隣同士だったので、色々と田舎のあれこれを教えている間に友達となり、そして、俺の窮地を救ってくれたことにより、彼女は俺の中で親友となったのである。
まぁ、親友と呼ぶと舌打ち混じりに殴られるのだけれど。
「入ってきてもいいが、そのバカでかい図体で物を踏むなよ」
「そう言うんだったら、もうちょっと部屋を片付けろよ。なにこのジャンク」
「馬鹿が、ゴミなんてこの部屋に一つもないっての。ちゃんと週に一度は自分で掃除しているし。この煩雑さが良いんだよ……それで」
京子は自室のベッドの上に座り込むと、行儀悪く足を組み、こちらに視線を向ける。
にやにやと、黙っていれば美形な顔を歪め、柄の悪いチンピラみたいな笑みを浮かべて。
「私に用事ってのは、お前の後ろに隠れている、お嬢さんの事か?」
言葉を受けて、びくりと俺にしがみ付いて隠れている玲音の体が震える。
ここに来る途中に分かったことなのだが、どうにも玲音は人見知りの面があるらしい。京子のお母さんと俺が話している時も、ずっと俺の後ろで隠れていたし。こうして、京子に声を掛けられても、どこか怯えた様子で俺の体にしがみ付く始末。
まったく、頼りがいがあるこの俺にしがみ付くのは良いとして、胸を押し付けるのはマジで止めて欲しい。無意識だろうけど、ストライクゾーン外でも、そういうのは困るので気を付けて欲しい。
「ん、よくわかったな?」
「はんっ、わからいでか。そんな――――明らかな『異常存在』を、見逃せるはずが、ないだろうがよ」
「えっ?」
「ああ、言わなくても分かるぜ? そいつ、飛び切りの厄ネタだろ? 何せ、尋常じゃない。この部屋の中に入ってくるまで、私がそいつの存在に気付けなかったぐらい、尋常じゃない」
影が薄いってレベルじゃねーぞ、そいつ、とどこか楽しげに京子は説明する。
まず、京子は最初、玲音の存在を視認できなかったらしい。それだけではなく、恐らく、京子のお母さんも。京子のお母さんは、外見以外の遺伝子を娘に受け継がせなかったのだろうか? と疑問に思いたくなるほどお淑やかで優しいご婦人なので、初対面の相手が居たら、必ず挨拶する。それが、俺の後ろに隠れている恥ずかしがり屋の子供なら、尚更に。でも、玲音は挨拶されなかった。
つまり、嘘じゃない。
今の今まで、本当に京子には玲音の姿が見えていなかったのだ。
「とりあえず、どういう経緯でそいつを見つけたか、話してみろよ、晴幸」
京子はそんな奇妙な出来事に対面したというのに、気味悪がらず、むしろ、意気揚々と事情を聞いてくる。
元々、京子には玲音についての事情を話すつもりだったので、俺は特に隠すことなどせず、素直に俺が知る玲音についての情報を話すことに。
「おいおい、それはとんだ落ちもの系ヒロインじゃねーか。絶対、ろくでもない何かが隠れているぜ、そいつ。つーか、なんでそんなあからさまに怪しい奴と平然と同居してんの? 馬鹿なの? 鈍感過ぎないか、お前?」
「や、怪しいからといって、女の子を一人で外に放り出すなんて出来ないし。それに、何らかの事情があったとしても、理由があったとしても、今は、俺の隣に居るわけだし。実害はあるけど、追い払うほどじゃあないよ」
「実害あるんじゃねーか、おい」
「うん、今日はそのことに関して京子に助けてもらいに来たんだよ」
「ほーう?」
にまぁ、と笑みが深まり、詐欺師さながらの胡散臭い顔になる京子。
傍から見れば、何か悪だくみをしている表情なのだが、こういう表情の時の京子は割と照れていることが多い。なんだかんだ言いつつ、頼られたら嬉しいタイプの姐御肌なのだ、京子は。
なので、俺も遠慮することなく京子に頼める。
「でかい図体の割に、鈍感で頭の回らないお前にしては、上出来だな。ま、これでも知らない仲じゃあないし、貢物を持って頼みに来る殊勝な心掛けに免じて聞くだけ聞いてやろう。ほれ、さっさと話せ」
「ああ、実はだね」
促され、俺は説明する。
どのような経緯で、こうなってしまったのかを。
玲音が居ることで、少なからず起きてしまう実害について。
今は何とか耐えられているが、このままだと大変なことになるかもしれないと、真剣に言う。
そう、つまり、俺が京子に何をお願いしたいかと言えば、この一つに集約される。
「――――この子、玲音にエロスは悪いことじゃないと教えて欲しいんだ、京子」
「よし、分かった。早々に死ね、晴幸」
俺はこの後、急転直下で機嫌を悪くした京子に殴られ、倒されたところをさらに玲音に踏みつけられることになった。
え? ひどすぎないですか、ちょっと。