岩倉玲音と俺の夏休み。それとペルソナぁ!!!   作:げげるげ

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第20話 好きな人が、自分を好きだとは限らない。まぁ、当たり前だけど。

 結城直也の小学生時代と、中学生時代を一言で言うのであれば、『荒れている』という言葉が適している。

 

「お前、お前ぇ! なんで、なんであの子を振ったんだよ!? あの子は、お前に尽くしていたのに!」

「ふざけんな、この最低男!」

「テメェは面だけの、性根はゴミ屑みたいな男だな」

 

 愛する人を無くした直也にとって、人生とは無駄に長い蛇足に過ぎない。

 少なくとも、小学校低学年だった彼はそう考えて、正しく、良く生きるという行為を放棄した。道徳や倫理、そういうものを足蹴にして、自らの魅力を惜しむことなく振りまき、あらゆる愛と情を踏みにじってやったという記憶がある。

 だが、それでも結局、直也がやっていたことはただの色仕掛けに過ぎない。

 超絶美形の直也が、ちょっとばかり優しくすれば、誰もが勘違いする。のぼせ上がる。

 『こんなに綺麗な人に好かれている自分は特別なのだ』と、愚かな勘違いをする。そんな思考が馬鹿になっている状態の人間を騙して、堕落させることは直也にとっては朝飯前にも等しいことだった。

 

「愛してる」

「好きよ」

「ああ、なんで、こんな男を好きになったのかしら?」

 

 直也は無数の女を抱いた。

 直也は無数の愛を踏みにじった。

 そうすることで、己の過去を克服できるとでも思っていたのかもしれないが、結局は、何も変わらない。向き合うべきことに向き合えず、逃げているだけの子供に過ぎなかった。

 それでも、自暴自棄になりながら、世界を馬鹿にすることにしか、直也には出来なくて。

 いずれ来る『清算』の時に怯えながらも、己の暴走を止められない日々が続いた。

 

「愚かなる君よ。その愚直さに免じて、救済の法を与えよう」

 

 中学生最後の夏。

 ペストマスクを被った、白衣の中年に――『お父様』に出会う、その時までは。

 

「この世界には神が居る。だが、その神は眠りについている。我々、ナイツの目的は、その偉大なる神を悠久なる眠りから目覚めさせて、この世界に救済をもたらすこと。さすれば、君も天なる国で、愛しい者と再会できるだろう…………もっとも、その再会が、君にとっての幸いであるとは限らない、のだが」

 

 直也は、そいつの言葉を聞いて、真っ先に思ったのが『こいつは、狂っている』という当たり前の感想だった。

 奇妙な恰好。

 わけのわからない言動。

 当然、直也は常識的な判断の下、狂人を無視してその場から立ち去ろうと考えていた。

 

「それでも、君が愚かなまま、死に向かって走り続けるよりはマシだろう」

 

 突如として、ワイヤードという異界にぶち込まれる、その前までは。

 

「ここはワイヤード。集合無意識の海に、もっとも近しい場所だ。人と、人との繋がりが可視化される街。そして、愚かなる私たちでも、非常なる運命に抗う術を与えられる」

 

 混乱する直也へ、狂人は重々しい黒い塊を手渡した。

 それは、拳銃だった。

 人を殺すための道具だった。

 いつ? どうやって? どうして? なんのために?

 無数の疑問が浮かび上がって戸惑う直也へ、狂人は道を指し示す。

 灰色の街。

 無人の道路の中央で、泣いている少年――――『幼い頃の直也』を指さす。

 

「さぁ、まずは弱い自分を殺すところから始めるといい。なに、やり方は簡単だ。己への殺意に従って、そのまま引き金を引けばいい」

 

 いやだ、いやだ、と現実を受け入れられない自分。

 幼い頃の弱い自分。

 本当は、何よりも踏みにじってやりたいぐらい、憎い自分。

 ――――その引き金は、直也にとって、とても軽く感じたという。

 

「おめでとう。新たなる騎士の誕生を寿ごう。さぁ、結城直也…………いいや、冥界へと出向き、己が最愛を取り戻さんとする『オルフェウス』よ。共に、迷える羊たちを救済へ導こうではないか」

 

 直也は、狂人の手を取った。

 されど、狂人の理想に共感したわけではない。

 ナイツの大分部分のように、ただ単に、己の利益に忠実だっただけ。

 普段はナイツとして従いつつも、その機会があれば、直也はあっさりと狂人を出し抜いて、己が願いを叶えようとするだろう。

 そして、事実そうした。

 それが、己を決定的に追い詰める一撃であるということも、知らずに。

 

 

●●●

 

 

 死体があった。

 直也の眼前に、死体があった。

 自らの喉を、包丁で掻き切った女の死体だ。

 当然ながら、その死に顔は安らかではない。人間、喉を切って直ぐに死ぬのはフィクションの中だけであり、おまけに、自害となると躊躇いも相まって、散々苦しんだ後、みじめに、見苦しく死ぬのだ。

 

「…………ぁ」

 

 その、惨めに、見苦しく死んでいる女の名前を白萩冬華という。

 そう、直也が求めに求めていた、愛する人の名前だ。

 

「…………どう、して? どうして、こうなるんだよっ!?」

 

 直也は、眼前の死体に向かって膝を折り、頭を抱えながら悲鳴の如き叫びを上げる。

 本来であれば、見苦しい叫び。

 本来であれば、見るのも絶えない狂相。

 されど、皮肉なことに直也の美貌はそれすらも、独特の『味』として美しさを表現していた。眼前に転がる死体が、余計に惨めに、醜く見えるほどの、美しさだった。

 

「なんで、なんで。なんで、なんで!? どうして、なんだよっ!?」

「くすくす。くすくす」

 

 直也の、美しき愚者の慟哭を、神は嘲笑う。

 少女の姿を取る神は、くすくす、と愉快そうに笑って、尋ねる。

 『再度』、尋ねる。

 

「コンティニューする?」

「――――――っ!」

 

 本来ならば、直也が望んで仕方がない言葉。

 その失敗をやり直させてやろう、という慈悲。

 そうして欲しいと、懇願するべきであるはずなのに、直也は言葉が出ない。出るわけがない。何故ならば、その失敗は――――『今回で百を超えている』のだから。

 

「ひ、ひう、うぁっ」

 

 恐怖と畏敬が言葉に混ざり、直也は言葉を紡げず、ただ、滂沱する。

 一体、何が悪かったのか?

 直也は思い出す。

 百を超えて、失敗した時のことを思い出す。

 最初に蘇らせたとき、直也は喜びで一杯だった。柄にもなく、感激で涙を流し、感動で言葉がうまく紡げなかった。しかし、それでも、生き返った最愛の人との再会、会話は直也に今までの苦労が報われた、と思えるだけの救いを与えたのである。

 

「…………ごめん」

「え?」

 

 もっとも、その後、救いよりも遥かに強烈な絶望を与えられたのだが。

 

「なんで、なんで、なんで?」

 

 蘇った少女は、自ら手元に出現させた凶器を持って、喉を描き切って死ぬ。

 どうしてそうなるのか、愚かなる直也にはわからなかった。

 だから、仕方なく玲音は教えてあげたのである。

 

「違和感なく、本当に人を蘇らせるというのはこういうこと。私は、ちゃんと蘇らせてあげたよ? 記憶も、感情も、肉体も、経験も、全てそのまま――――自ら命を絶とうとした、絶望もそのままに」

「あ、え、あ?」

「さぁ――――コンティニューする?」

 

 そこから、直也の生き地獄が始まった。

 何度も、何度も、何度も繰り返しても、変えられない。

 どれだけ言葉を尽くそうとも、培った知恵を尽くそうとも、最愛の人の自害は防げない。時に、ペルソナ能力を使って、一時的な洗脳すらも謀ったのだが、『心の力』による抵抗力で、洗脳を跳ねのけて、彼女は自殺した。

 その原因も、理由もはっきりしている。

 白萩冬華という人間は、どうあっても自殺する絶望を抱えており、それは直也では払えない。ただ、それだけのことを理解するのに、直也は五十回以上の地獄を味わって。

 神様に、再び懇願する。

 どうか、どうか、彼女の絶望を欠けたままに、蘇らせてください、と。

 

「不可能よ、それは。貴方の記憶に、誰かの記憶に、白萩冬華という少女の人生がある限り、絶望は欠けない。そして、仮に、それを無理やり奪い取ったら、もう、白萩冬華じゃないの」

 

 だが、神様はその愚かしい願いを、正しさで断じる。

 神様は、岩倉玲音は気まぐれで、時に残酷であるが、今回に限っては本当に正しく願いを叶えている。愚かしくも、死者の復活を願う者へ、それでも失敗した者へ、再度のチャンスを与えるほどに、慈悲深く、正しい。

 故に、直也が膝を屈するとすれば、その正しさだった。

 

「………………無理、だ」

 

 死んだ人間を蘇らせてはいけない。

 何故ならば、死んだ人間を蘇らせたところで、再び死ぬ『運命』であるのだから。

 そして、『運命』に抗う資格は、直也にはなかった。

 憧れの好意を、親愛を、恋との区別も付けられなかった、直也には。

 

「あっそう」

 

 かくして、岩倉玲音(神様)による、気まぐれな慈悲は終了する。

 いつでも最初からこう出来た、とでも言うように玲音は煙のように消えて。

 蘇った少女の死体すら消えて。

 

「…………う、あ」

 

 後に残ったのは、願いに敗れ、生きる意味を失った愚者のみ。

 

《愚かなる我よ。愚かなる汝よ。弱き己を殺し、戦う術を手に入れたのならば――――足を止めたとき、過去に殺されると、心得よ》

 

 やがて、愚者の影が伸びていき、それが直立する。

 直立した影はノイズと共に姿を変えていき、やがて、一人の少女を象った。

 純白のドレスを身にまとった、如何にもお姫様という風情の、美しい少女だった。

 ちょうど、直也がそのまま女性になれば、こうなるだろうという姿だった。

 

『さようなら、愚かな僕。お休み、憐れな僕。弱い君は死んで――――後は、僕が生きる』

 

 美少女の手には、黒い塊――拳銃が握られていて、銃口は直也に額に。

 これは、いつかの再現。

 泣いていた自分を撃ち殺した時の、再現。

 故に、殺される。

 弱い、自分は殺される。

 結城直也はここで、自らの影に殺されて、ノイズとして生きる――――

 

「おっと、それはちょっと待ってもらおうか」

『――――っ!?』

 

 そのはずだった。

 横から割って入ってきた何者かが、その拳銃を蹴り飛ばさなければ。

 

「…………あ」

『ちぃっ』

 

 その声を聞いて、思わず直也は顔を上げる。

 その声を聞いて、思わず美少女は舌打ちをする。

 何故ならば、知っていたから。

 その声の主が、自分の悪友であることを。

 そいつが、こういう場面でヒーローの如く登場する奴だということを!

 

「悪いけどさ、どうしようもない馬鹿でも、屑でもね、俺の悪友だからさ。殺させるわけにはいかないんだよ。例え、自分自身による自殺だったとしても、さ」

 

 そして、天原晴幸は颯爽と現れる。

 ありきたりな悲劇を砕くために。

 愚かさと、正しさで死のうとする悪友を救うために。

 その背中に、力あるヴィジョン(ペルソナ)を控えさせて。

 二人の結城直也の下に、駆け付けたのである。

 ――――――何故か、一糸纏わぬ裸体で。

 

『「なんで、全裸ぁ!!」』

 

 こうして、全裸のヒーローと、愚かなる影の戦いは始まったのだった。

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