岩倉玲音と俺の夏休み。それとペルソナぁ!!!   作:げげるげ

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第30話 中年の癖にフットワークが軽い

「…………えっと、大変ですね、その、言いづらいのですが…………ナイツは壊滅したそうです。葛葉の強襲に遭って」

「「「えっ?」」」

「ナイツのネットワークから情報を探ろうとした結果、ものの見事に壊滅した後で、葛葉達がナイツの残党を探して、駆り出しているところでした。私は、その、はい。既に心が折れて、ペルソナ能力が使えなくなっていたので、ギリギリ犠牲者枠として誤魔化せましたけど」

 

 報告があったのは、俺の自宅でペルソナ能力の特訓をしていた時の事だった。

 俺と京子と、直也。現状、まともな戦力となるのはこの三人だけなので、一応、この中でも戦力筆頭である俺が、二人をコーチングしていたのである。

 もっとも、ワイヤード内に侵入すると、ナイツ側にばれる恐れがあるので、「じゃあ、二人とも現実世界でもペルソナを出せるようになろうよ!」からの、二人が現実世界でのペルソナ能力を会得するまで、まさかの二日間みっちり、付かず離れずの地獄の特訓になるとは、教官側である俺すらも予想できなかった。

 と、それはさておき、葉隠さんからの報告である。

 葉隠さんは最近、実家にもナイツ側の住居にも戻れないということなので、京子の家に居候している模様。そのため、既に巫女スタイルは止めて、京子と同じジャージ族として、最近、我が家に通い始めて、段々と俺への恐怖も薄れてきたかなぁ、としみじみ思っていたところでの、この報告である。

 えーっと、マジでー?

 

「はーい、ちょっと質問だけどさぁ、葉隠ちゃん? それって、あの円卓の騎士たちも、一人残らず狩り尽くされたってこと?」

「ええ、そのようです」

 

 直也からの質問に対して、狐面越しでも、戸惑いを隠せない様子で答える葉隠さん。

 

「到底、信じられませんが、そのようなのです。現に、円卓の騎士の面々の住所は既に割れて、死体の回収も行われていたようですが。あの、恐ろしいほどの力を持った彼らが、ここまで一方的に…………葛葉に、そこまでの執行能力があるとは、驚きです。例え、討てたとしても、組織が半壊するほどの損害を与えられる程度には、ナイツには戦力があったはずですが」

「現実世界での住居が割れて、ペルソナを出す暇もなく強襲されたって説はどうだ?」

「…………在り得なくは、ないですが、難しいところです。京子さん。ワイヤード内をほぼ支配していたナイツが、情報戦で後れを取るということは、草野球チームがプロ野球チームに勝つぐらいの難易度がありますが」

「つまり、野球勝負の前に、一服盛るぐらいの狡猾さを持った奴の犯行……そういうことだな?」

「そういうこと、なのでしょうか?」

 

 京子の指摘に頭を横に振り、俺の言葉に、呆れながらも首を傾げる葉隠さん。

 その後も、葉隠さんは俺たちの質問や疑問に出来る範囲で答えていき、苦悶の声を時折漏らしながらも、結論としてはこういうことになった。

 

「ナイツという組織は壊滅した。この情報は確かであると考えてもいいでしょう。ですが、主犯であるお父様も存在が出てきていないことから、まだ、お父様は潜伏しているようです。そして、最悪、お父様だけでも計画は遂行可能であると考えられるので、油断は出来ないということです…………ただ、葛葉という護国組織の追求から逃れ続けている彼を、素人である私たちが終えるかと言えば……幼稚園児がプロボクサーに勝つほど難しいでしょう」

「なるほど。相手の情に訴えかけて、不戦勝ぐらいは余裕で狙えると」

「さっきから茶々を言えるのをやめろや、馬鹿。ほら、葉隠さんが困った顔しているだろ?」

「い、いえ、その、私、仮面……」

「仮面越しでも何となくそれぐらい分かるっての。ほれ、こっちに来い。頭を撫でてやろう」

「…………あ、あの京子さん……同い年ぐらいの人にそれをされるのは恥ずかしい……はふぅ、でも抗えない」

 

 敵対組織の壊滅は、確定として判断。

 しかし、首魁であるお父様の所在は不明。どこに隠れているのか、俺たちが探し出すこともまた、難しい。だが、お父様の目的である玲音が俺の隣に居る限り、必ず、俺たちの元へやってくることは予想できる。

 なので、その時まで、出来る限りの準備を整えて、迎え撃たなければならない。

 

「近々、葛葉の人たちが護衛をこの街へ派遣するようです…………その時に恐らく、天原さん、と岩倉玲音について尋ねられるかと。場合によっては、隔離管理される可能性もあるのですが、私の方から事情を重く話しているので、その場合は、こう、天原さんと岩倉玲音がセットで同じ場所に隔離される形になるかと」

「おいおい、ちゃんとオナニーできるプライベートの時間はあるんですかぁ!」

「シリアルが食べられない時は、怒るよ?」

「伝言役なので! 私に言われても困ります! そういうのは! 後日、葛葉の人たちが来た時に言ってください! 私も恐らくその時に保護されて、実家への強制返還からの地獄のお説教が待っているのです…………家出したい……京子さんと一緒に生きていきたい……」

「なんで私に縋りつくんだよ、もう」

 

 葉隠さんの家庭環境やら、京子への依存はともあれ、覚悟だけはしておかなければならない。

 お父様とやらの襲撃への備えもそうだが、何より、葛葉という護国組織と敵対する可能性も考えて、覚悟しなければならない。

 最悪の最悪は、玲音と俺の二人だけで世界各地を回って逃避行という、ワールドワイドなことをやらかさないといけないのだから。

 だが、とりあえずのところは、敵対すべき組織が戦わずに壊滅していた、ということで。

 

「いよぉし! ここに居る面子で、これからバーベキュー大会だぁ! 戦わずしてナイツに買った祝勝会に加えて、葉隠さんとのお別れ会だぁ!」

「別れたくないです……京子さん……」

「依存が過ぎる! どうにかしてくれ、晴幸ぃ!」

「君はどうして、時々病んでいる系の女子に好かれるの? 俺のフラグを取ってない?」

「その場のノリで全裸になる奴に対するフラグなんざ、最初からねーんだよ!」

 

 俺たちは、互いの交流を深めるためにバーベキュー大会を開催することにした。

 幸いなことに、野菜は無駄にたくさんある東北の田舎である。近所の婆さんに頼めば、格安で譲ってくれるし、お肉だったら、近所のスーパーの肉の仕入れが無駄に高品質なので、そこから調達。

 後は、適当に焼き肉のタレとか、塩コショウとかを準備して、鉄板の上に乗せればオーケーさ! なお、鉄板は我が家の物を提供する予定である。

 

「シリアル……」

「バーベキュー大会でもシリアルを要求するの? 大丈夫? 栄養偏ってない?」

「…………主栄養分はハルユキの心だから大丈夫……」

「主栄養分で大丈夫? 野菜とか肉も食べよう?」

「………………少しなら」

 

 戦々恐々と待っていても仕方ない。

 もちろん、迎撃準備はしっかりと整えるが、いつやって来るかわからないラスボスを待つのは、精神衛生よろしくない。故に、俺は考えた。そうだ、敵がやって来るまで、全力で俺が皆を振り回して、夏休みを満喫させればいいのだと。

 そう、ペルソナ能力とは心の力。

 即ち、ラスボスを迎撃するために必要なのは、俺たちの心の交流と、学生時代の夏を全力で満喫することだったんだよ!

 はっはっはー! これぞ、一石二鳥の俺の作戦。

 戦力強化に加えて、ストレスを軽減、そして夏休みも楽しむ。

 おっと、一石三鳥だったか、やれやれ、出来る男はこれだから困るぜ。きっと、夏休みが明けたら、クラスの女子が放っておかねぇな! まぁ、クラスの女子の大半からは珍獣扱いの俺ですが、今年の夏こそ、彼女出来るかなぁ?

 

「ハルユキ」

「え? 何、玲音……え? なんなの、その形容しがたい表情。慈しむような馬鹿にするような、何だろう、よくわからない……」

「人は、翼が生えても、空を飛ばない」

「馬鹿にされていたぁ!」

 

 とまぁこんな感じにふざけながらも、最低限の警戒心は残しつつ、その日は葉隠さんも含めた対策メンバーが集まり、バーベキュー大会を楽しんだ。

 …………ただ、鴉さんだけはあの日からうちに来ることは無く、近くの民宿で宿を取って、ずっと何かの絵を描いているらしい。

 思えば、鴉さんと共にワイヤード内に突入したあの時から、ずっと調子がおかしいのだが、一体どうしたのだろうか? 何かを知っていそうな気配はあるのだけれども、ううむ。

 ま、無理やり聞き出すのも柄じゃあないし、鴉さんも俺よりも年上の男性だ。

 何かあるのならば、勝手に行動するだろうさ。

 

 

●●●

 

 

『話したいことがある……出来るだけ、早く、会いたい。今日の午前十一時に、駅前のファミレス、ええと、『ガスト』の方に来てくれ』

 

 そういう連絡があったのが、本日の午前十時である。

 俺たちがバーベキュー大会を開催した時から、二日後。今日は各自、夏休みの課題やら、各自、プライベートな用事を済ませているので、俺と玲音だけが家でだらだらゴロゴロしていたところだった。

 あまりに唐突に、俺の携帯電話に鴉さんからの連絡が来て、こちらが何かを言う前に、用件だけを一方的に言って、通話を切られたのである。おのれ。

 

「前々から思うけれど、鴉さんには社交性が足りていないよね」

「…………ドングリの背比べ」

「おっと、言っておくけれど、この俺は社交性満タンだぜ!? 学校では友達もたくさんいるし、大体の人間とは仲良くなれる自信があるぜ! 悪人は容赦なく殴るけどな!」

「でも、彼女は居ない」

「おおっと、いいのかなぁ? そんな俺の心を抉るようなことを言って? 知っているんだぜ? あまりにも自室のクーラーの設定温度を低くし過ぎた所為で、母さんから怒られて、日中のクーラーを禁止されたことを! つまり、必然と心置きなくだらだらするためには、俺の部屋に来るしかないというか、現在進行形で来ている……さぁ、言いたいことはわかるね?」

「…………変態」

「おっと、ジト目で服を脱ぐのは止めてもらうか! そうじゃない! もうちょっと優しくしてほしかっただけで、違う! スカートを脱ぐのは止めよう! そうじゃない!」

「ヘタレ?」

「俺の部屋のエロ本を処分する癖に、時々、妙な方向にアクセル全開するのは止めようぜ、玲音」

 

 やれやれ、最近の玲音は妙な交渉術を覚えてきたから困る。

 俺との交渉の際、口で負けそうになるとちょっと半脱ぎになって俺の動揺を誘ってくるとか、誰の影響なんだか、まったく…………いや、俺の影響だよなぁ、うん。

 とりあえず、待ち合わせの時間と場所を考えると、いつまでも玲音とじゃれ合っている時間は無い。この田舎の電車は一時間に一本なのだ。田舎で電車の予定時間を逃すと、まず確実に待ち合わせには遅れることになる。もっとも、指定時間に駅前のファミレスに向かうには、今から駅に向かっても、電車の時間の関係で到底無理なのだから、別の手段を探すしかない。

 

「さて、そんなわけで俺は鴉さんからの呼び出しに応じるつもりだけど、玲音はどうする?」

「行く」

「ん、じゃあ、一緒に行こうか」

 

 そして、俺が行くならば当然という顔で、玲音もまたついてくる。

 最近はほとんど、玲音と俺は同じ時間を一緒に過ごしている。特に、何か露骨なデレを感じることは無いのだが、気づいた時には隣で本を読んでいたり、ゲームをしていたり、ノートパソコンを弄っていたりするので、最初の頃よりは心を許されているのだろうと思う。

 気づけば、俺も玲音が隣に居るのが当たり前と考えているから不思議だ。

 思えば、警戒心は低くない方だと自負していたのだけれども、どうにも玲音相手には、鈍かった気がする。はっ、ひょっとして、これがエロ同人でよくある洗脳アプリの影響!? 俺の体を狙う玲音による巧妙な罠が仕掛けられていて!?

 

「さっさと行くよ?」

「あの、はい、失礼なことを考えたのは謝りますので、後ろから抱きしめるような形でさりげなく首を絞めるのは……む、胸が、膨らみかけの胸が当たっているので、離した方が!」

「あてているのよ?」

「懐かしいネタ!」

「異世界編が残念過ぎた……」

 

 どうやら、そういうあれこれは全くないらしいので、単純な相性の良さによる物らしい。

 俺と玲音は身支度を整えると、家から出発して、駅まで向かうことに。なお、自転車の二人乗りは咎められる上に、駅まで徒歩で歩くのはこの炎天下ではしんどいので、二人で母さんに頼み込んでなんとか来るまで送ってもらうことに。

 田舎の学生が移動するとしたら、大抵は自転車。免許が取れたらバイク。そして、自動車免許を取れる年齢にでもならなければ、相乗りという行動は不可能なのだ。というか、東北の田舎基本的に自家用車が無いと不便すぎて生活出来ないんだよなぁ。

 母さんもそれを分かっているから、駅前ぐらいまでの距離なら割とすんなりと車を出してくれるのでありがたい限りである。

 

「じゃあ、母さんはこれからスーパーでタイムセールがあるから、午後の三時に駅前に集合すること。遅れる場合は連絡しなさい」

「うーい」

「後…………分かっているね、息子? この機会を逃したら、アンタに彼女なんか出来やしないよ」

「や、違う、デートじゃないよ、母さん。普通に待ち合わせ、男の人と」

「阿呆が! 何のために集合時間までを長くしていると思っているんだい? いいかい、きちんと押せば、意外と応えてくれる子だよ、玲音ちゃんは。ちゃんと射止めてきな?」

「だから違うって……あ、こらっ、母さん、人のポケットに万札を捻じりこむのは止めて……あ? はい、小遣いの前借りってことですね、はい、分かりました。後でバイトして返しますです、はい」

 

 母さんから何やら勘違いをされているようだが、これも必要経費としておこう。怪我の功名というか、なんというか、幸いなことに小遣いの前借りではあるが、軍資金も手に入ったし、鴉さんの話を聞いたら、玲音に何か買ってあげるか。

 …………しかし、彼女、恋人、ねぇ?

 

「…………何?」

「いや、俺の心は読めるんでしょ?」

「今は、読めない時間」

「そういうのあるんだ」

 

 隣の玲音を眺めていると、玲音は不思議そうな目で俺を見上げてくる。

 恋人同士。ううむ、玲音は見た感じ中学生なので、中学生と高校生ぐらいの年の差なら問題ないと思うけれども、いや、そもそも成長するのだろうか、玲音は? 人間じゃなくて、神様という説もあるし。

 そうなってくると、仮に恋人とかになった場合、俺だけ年を取って、玲音だけはそのままの姿なのか…………永遠の幼な妻かぁ。

 

「…………」

「おっと、無言で俺の脇腹をつねるのは何故?」

「邪な気配がした」

「気のせいでは? 心は読めない時間なんでしょ?」

「目が泳いでいる」

「そっかぁ…………後で服を買ってあげるから許して」

「ん、許す」

 

 怒られてしまったので、くだらない妄想は止めにしよう。

 それに、俺はそこまでロリコンというわけじゃあないし。出来るなら、共に歩いて、共に老いて、共に死にたい。恋人になるかどうかはさておき、俺は玲音とそういう風に生きたいというのは、紛れもない事実だった。

 まぁ、神様の玲音にとっては、俺のこんな考えなんていい迷惑なんだろうけどさ。

 

「そうでもない」

「………………心を読めないじゃなかったの?」

「さぁ?」

 

 素知らぬ顔でそっぽを向いて、玲音は俺の服の裾を引っ張っていく。

 照れているのだろうか? よくわからない。ともあれ、そういう青春ぽいイベントは、鴉さんの話を聞いて、後は、お父様関係のあれこれを全部片づけてからにしよう。

 こういう会話をしていると、如何にもフラグって感じがするからさ。

 

『――――やぁ、天原晴幸君。娘が、世話になっているね?』

 

 そして、そういうジンクス(フラグ立て)というのは、案外、当たってしまう物だ。

 指定されたファミレスの店内に踏み込んだ瞬間、俺の脳内に聞き覚えのあるノイズが走る。それは、現世と異界を踏み越えたという証明。

 ワイヤードという、とある愚者が作り上げた異界へ、招き入れられたという結果を示す。

 俺は、驚き戸惑う前に、眼前の光景を見据えて、思わず舌打ちした。

 灰色のコンクリートジャングル。

 車も通らない、道路の中央。

 苦悶の表情を浮かべた鴉さんが、『怪人』の目の前で、跪いている。

 ――――『怪人』。そう、怪人だった。そうとしか言いようのない風体をしていたからだ。何故ならば、その男は、ペストマスクを被り、白衣を着ていたからだ。

 一目で、異常だと分かるほどの空気を身に纏っていたからだ。

 …………まぁ、つまりは、こういうことだろう。

 

『不躾ですまないが、門限はとっくに過ぎていてね――――返してもらうよ』

 

 あの方。

 お父様。

 あるいは、教祖。

 滅んだ組織の首魁が、思いのほか軽いフットワークを見せて、俺たちの前に姿を現したのだ。

 あまりにも唐突に、世界の命運を賭けた戦いを始めるために。

 

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