岩倉玲音と俺の夏休み。それとペルソナぁ!!!   作:げげるげ

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第32話 ラスボスを殴り倒した後に、やるべきこと

・フラグメント5

 

●もう、こいつ一人でいいんじゃないかな?

 

「「晴幸はこれだから……」」

「なんだよぉ! 玲音を攫いに来た、ラスボスをぶん殴って退散させたんだぞぉ! 結構なダメージを与えたから、下手すれば年単位での活動すら出来なくなるレベルのダメージだぞぉ! もっとこの俺を褒めたたえるといいよ!!」

「「もう、こいつ一人でいいんじゃないかな?」」

 

 ラスボスっぽい、『お父様』とエンカウントしたので、その場のノリでぶん殴って倒したことを仲間に報告したら、ドン引きされたでござる。

 解せぬ。俺は世界の平和のために頑張ったはず、もっとこう、『わぁ、凄い! 流石。晴幸だね! 素敵! お金あげる!』みたいな反応を期待していたのに…………なんだろう、この、よく分からないナマモノを見るような目は……人間、人間ですよ、俺。

 

「…………いや、僕としては緊急報告ってことで君の家に集められたからさ。ついに、『お父様』が攻め込んできたぐらいは予想していたし。君なら、なんとか魔の手から岩倉玲音と共に逃げるぐらいは出来ると思っていたんだけど、予想の斜め上過ぎて」

「負けイベントをレベルを上げて、物理で殴り飛ばすとか。なんなの? バグなの? 人類のバグなの?」

「ポテチ片手に褒められているんだか、罵倒されているんだかわからない俺よ……」

 

 そんなわけで、『お父様』の襲撃から一晩明けた翌日。

 俺は、自宅に主要メンバーである京子と直也を呼び出して、作戦会議中である。ポテチをつまみ、ファンタを飲みながら。あ、ちなみに鴉さんはあの後、体調が悪化したので欠席。ホテルだと色々不便なので、俺の家の空き部屋に泊めて看病中である。

 玲音? なんか、俺の背中にへばりついているよ。最近、クーラーが良く効いた部屋に居ると、割とへばりついてくるよ、この子。室温高いと普通に近寄ってこないけど。

 

「褒めてはいるよ? 誉めてはいるけど、こう、ね? 僕らペルソナ能力を持つメンバーはほら、護身のために現実世界でもペルソナを出せるために頑張ったじゃん? 割と物凄く頑張ったじゃん? あの、クッソ疲れる奴。その努力があんまり意味無かったと思うとね」

「そりゃあ、特訓を指導していた俺も、そう言われれば申し訳なく思うけどさー。直也も、初めてタナトスを現実世界に顕現させた時は、感極まって『僕ね、今度はこの力で晴幸を守るよ。いつも、守ってもらってばかりだからさ……今度は、ちゃんと守るんだ、大切な人を』とか、言ってたから、俺もそう言われると心苦しい――」

「はぁー!? 言ってませんぁー! そんなことぉー!」

「落ち着け、屑。言葉のイントネーションが迷子になっているぞ」

 

 直也は会話の途中で頭がおかしくなったのか、「おぼぉー!」と奇声を上げて、畳に倒れこんだ。うつ伏せで、「めけけけけけ」と奇怪な呟きを漏らし、思考を放棄している。

 そんなに恥ずかしいことかね? いつもは、もっと恥ずかしい台詞を、女子に言って誑かしているくせに。

 

「なんか、最近、この屑の情緒が不安定なんだけど、お前が原因じゃないか? 馬鹿」

「えー、違うよ、京子ぉ。むしろ、今までが異常だったんじゃない? 多分」

「ん? どういうことだ?」

「…………偽りの仮面で、己を定義していた」

「おお、ナイスフォロー、玲音。でも、なんかこう、もうちょっと御淑やかな恰好になっても良いのよ? そんな薄着で抱き着かれると、正直、意識を逸らすのに限界があります」

「…………えっち」

「京子ぉ! これ、どういう反応だと思う!? 後ろから背中にへばりつかれていると、顔が見えないから、ゴーサインなのか、イエローカードなのか、分からないんだ!」

「法律的にはレッドカードだよ。大人しく、テメェの社会生命守ってろ、馬鹿。それより、さっきの偽りの仮面云々の説明をしろよ、馬鹿」

「んもぉ、馬鹿って言いすぎぃ」

 

 まー、自他とも認める馬鹿だから、別に良いのですけれどね?

 俺はノールックで、ポテチ(うすしお味)を玲音の口元に運びつつ、説明を始める。

 

「ペルソナ能力ってのは、発現と共に、文字通り、その心の側面(ペルソナ)が精神面に影響を及ぼしてくる副作用があるっぽくてね? ほら、ガルーダの子とか、最初はイキりまくっていたけど、ペルソナを砕かれてから小動物の如きか弱い精神に戻ったじゃん?」

「あー、そういう?」

「そうそう。あれは心の中のイキり面が全面に出てたからああなっているわけで。実際、この俺もヤマというペルソナを発現してから、若干、独善的になることも少なからず」

「あの子のマンションの時はいきなりSEKKYOを始めて、そんな感じだったけど、それ以外の時はあんまり変わっていないように見えるが?」

「意識して自制しているからね。独善的な自分を制御できそうにない時は、エロスを頭に思い浮かべると、エロスに比べたらどうだっていい! って思考になるから」

「お前の解決方法、エロばっかりだな」

「健全な男子高校生だから仕方ない」

 

 男子高校生は、賢者タイム以外は、大体発情しているからな、ソースは俺。何だったら、シリアスなことを考えている時でも、ふとした瞬間、むらっとなる時がある。あ、玲音にニーソックスを履かせたいとか、そういう願望がむらっと。

 でも、いきなりだらしない顔をすると即座に周囲にばれたりするので、心持ちきりっとした凛々しい表情を作るといいんだぜ! お兄さんからのアドバイスさ!

 

「ともあれ、発現させるペルソナによって、心の在り方が若干変化するというのが、俺の経験から基づく推測だよ。そこの屑の場合は、『自分を殺して』手に入れた仮面で、自分を覆い隠していたからね。あちらが取り繕っていた顔で、今の直也が素なんだよ。そう、ふとした瞬間、ナチュラルに恥ずかしい台詞を迸らせてしまう直也が」

「やめろぉ!」

 

 直也が畳にうつ伏せになった状態で、何やら叫んで来るがやめない。田舎は土地が安く、無駄に住宅との間が空いているので、この程度の騒ぎでは近所迷惑にすらならないのだ。

 なので俺は、ここら辺であの時、罠に嵌められた私怨を晴らすことにした。

 

「いやいや、俺は良いと思うぜ、今の直也。今ではこうやってネタにして弄っているけど、実際に言われた時はそりゃあ、感動したものだったぜ?」

「やめてくれよぉ……」

「女体化した姿で言われたら、心が揺れ動いたかもしれんね! おっと、何かな玲音? 何故、俺の背中から首に腕を回してぐっ!?」

「…………おい、そこの屑。ちょっと女体化の経緯についてお話しようぜ?」

「またなの!? 言ったじゃん、事故だって! というか、色々危ういから思い出したく無いんですけど!」

「なんだその顔! 怪しい! 怪しすぎるぞ、おい! 雌堕ち寸前だったみたいな顔しやがって! 無駄に顔が良いから余計にむかつく!」

 

 俺は玲音に首を絞められながら、二人の微笑ましいやり取りを眺める。

 色々あったけれども、いや、ほんと、この夏休みは始まりからここまで物凄い濃度でイベントが起こっていたけれども、うん。結果として、こういう日常を守ることが出来たのなら、あの時、頑張ってラスボスの人をぶっ飛ばした甲斐があったというものである。

 もっとも、『お父様』には逃げられてしまったのだが。

 …………今から思えば、あの時、不自然な干渉を受けたような気がする。ワイヤードから、というよりは、もっと奥底の、得体のしれない何かから、邪魔をされたような気がする。とっさに、その不穏な気配に向けて、エロティシズムな邪念をぶち込んで制止させたのだが、時すでに遅し、『お父様』は何処かへ逃げてしまった後だった、というわけだ。

 うーん、なんだろ? 何かが引っかかるんだよな?

 そもそも、あの気持ち悪いペルソナは――――

 

「…………無視、禁止」

「はいはい、分かったよ。玲音」

 

 玲音が拗ねながら、俺の方に顔を乗せてきたので、思考を中断。

 よくわからないオッサンに思考を使うよりも、今は、やけに可愛らしくなった隣人に対して、気を遣うべきだろう。

 多分、玲音がこうしてのんびりしているということはつまり、『そういうこと』なんだからさ。

 

 

●看病イベント! 大学生! ただし、男! みたいな!

 

 看病イベントという物を御存じだろうか?

 そう、よく少年漫画や恋愛漫画、あるいは、異能バトルでもなんでもいい、そういう漫画やアニメで使われる手法である。

 例えば、いつもは頼りになるあいつが病気で寝込んでいる。あいつの弱り切った顔なんか見たく無いぜ! 俺が看病して元気にしてやる! からの、弱っていて珍しく女の子らしい相方の姿を見て、初めて異性として意識しちゃう少年漫画の主人公とか!

 あるいは、普段はツンケンしているヒロインが病気で寝込んでいるところを、家事全般が得意な、ちょっと気弱な主人公が看病。心が弱っているところを優しくされて、それをきっかけに恋愛イベントに持っていくとか。

 あるいは、少女漫画のイベントだったら、男女を逆転させてもいい。

 なんかこう、そういう? 甘酸っぱい恋愛イベントの先駆けみたいな物が、看病イベントなんだと俺は思っている。思っていた。でも、現実はそんなに甘くなくて。大体、俺が助けた相手というのは、俺を異性として見ているというよりは、マスコット枠というか、色物枠として区分してくるしぃ! それに、現実だと大体家族が居るから、病気になったら家族が看病して終わりなんだよなぁ!!

 …………などと、苦々しい現実を噛みしめていた俺でありますが、ここ最近、その看病イベントというものが発生しています。

 

「ほら、土鍋でおじやを作ってきてあげましたよ。さっぱり梅味です。これを食べて、ちゃんと元気を出してくださいよ、鴉さん」

「…………すま、ない」

「いいってことよ!」

 

 まぁ、相手は男なんですがね!

 ………………うん、まぁ、自分で助けたのだから、心の中で呟く文句はこれくらいにしておこうか。

 あの戦いの後、どこか安心したように意識を失った鴉さんを背負って、家まで戻ったのが俺である。どうにも、俺が『お父様』と戦うよりも前、鴉さんは『お父様』と何やらペルソナ能力も持たないまま抗っていたみたいなので、肉体面というよりは精神面で弱り切っていたのだ。本人は一端、意識が戻った時に、『迷惑はかけられない、ホテルに戻る』と言っていたが、明らかに大丈夫じゃない顔色をしていたので、俺の家の空き部屋に泊めて、看病することに。

 なお、看病は母さんから『アンタが助けたんだから、アンタが最後まで面倒を見な』ともっともなことを仰せつけられたので、俺が積極的に色々やっております。

 ええ、鬱陶しいからその髭を剃れと、叱ったり。

 食欲無いからって、スポーツドリンクだけで生きていく覚悟を決めるな! と叱ったり。

 大人しく寝床で横にならず、気づいたら絵を描こうとしている馬鹿を叱ったり。

 大人しくない病人がここまで厄介だとは。

 うちの家族は全員、めったに風邪も病気にもならない異常に健康な体質なので、こういう病人の世話というのは割と初めての経験である。何せ、病気になったとしても、滋養のある飯を食べて、薬を飲んで寝れば、一晩で治るからね、大体。

 あ、ちなみに玲音は弱っている鴉さんの下に出向くと、衝動的にぷちっと殺してしまいかねない、ということなので自重して部屋には来ないようにしているらしい。どうにも、玲音と鴉さんの相性は微妙に悪いようだ。

 なので、この家で鴉さんの面倒を見られるのが俺だけなのだった。

 

「ほら、ちゃんと食べられますか? 食べさせてあげましょうか? ふーふー、してから食べさせてあげましょうか?」

「年下の男に、それをされるぐらいなら……大人しく、死を選ぶ……」

「だったら、もうちょっとしゃっきりして食べてください。ほら、食べ始めれば、美味しい奴ですから、これ」

「……………………」

「野良猫みたいな警戒の仕方は何ですか、それ」

「………………あ、美味い」

 

 そして、この鴉さんなのだが、とてつもなく偏食である。

 まず、色が鮮やかな野菜は口に入れようとしない。肉も、魚も、生臭いのは嫌い。ほとんど、栄養剤とサプリメントで補えばいいという主義。むしろ、食事が面倒。食事をしないで生きていけるのなら、それでもいい。辛うじて好きなのは、漬物とか、よくわからない感じの食べ物の趣味だ。ああ。そういえば、居酒屋でもほとんど食べずに、質問に答えてばっかりだったな。

 だが、だがしかしぃ! そんな鴉さんでも、俺特製のおじやだけは別物だったようだな!

 

「美味い……異様に美味い……口当たりがさっぱり……小皿に盛られた漬物も嬉しい……」

「あっはっは! どうかな!? これが俺の真の実力という奴だよ!」

「素直に凄い」

 

 偏食な鴉さんであったが、俺が丹精込めて……いや、本当にガチで手間暇がかかりすぎていて、こういう時にしか作りたくない特製のおじやを気に入ったようだ。

 死んだ魚みたいな目に生気が宿り、ぱくぱくと、土鍋の中のおじやを休まず食べ続けている。

 

「なんだろうな? 出汁? 出汁が、凄い。いい感じ。ほぐれたお米も美味しい。梅干しも、酸っぱ過ぎず、口あたりまろやか…………いや、本当に凄いね?」

「出汁は結構高い昆布と鰹節の合わせ出汁。もちろん、生臭さやえぐみが出るような沸かしすぎなんて真似はしていない。さらに、それを味噌で味付け。ご飯はきちんと、冷や飯じゃなくて、米の状態からおじやへと調理したからね! そして、漬物は浅漬け! いえい、これが俺特製の看病料理セットだ! …………本当は、弱った美少女の心を掴むために、中学生のころ、練習した料理だったんですけどねー」

「その、なんかすまない」

「いえ、こういう時に役に立ったので、むしろ嬉しいもんですよ。ただ技術だけあるよりも」

 

 こんな雑談をしながらも、鴉さんのレンゲは止まることなく、おじやを口元へ運び続ける。

 そして、しばらくすると、土鍋の中にあった所為人男性一人前分の量は既に無くなっていて、看病を始めてから初めての鴉さんの完食となった。

 うむ、野郎相手でも中々達成感があるな、これは。

 

「美味しかった、ありがとう」

「いえいえ、お粗末様ですぜ」

「………………久しぶりに美味い物を食ったおかげで、大分、心の力が、回復した。これならば…………」

「っと、布団から出ても大丈夫なんです?」

「ああ。それよりも、君に、伝えないと、いけないことが、ある」

 

 幾分か気力を取り戻した鴉さんは、布団の横に置いてある自分のバックを漁り、そこから、スケッチブックを取り出した。ほぼ、どんな時でも手放さない鴉さんのスケッチブックだ。

 

「…………これ、に、見覚えは?」

「ん、んんん?」

 

 開かれたスケッチブックのページには、様々な人物や物、背景が描かれている。

 地下に伸びるダンジョン。

 鼻の長いぎょろ目の老紳士。

 蝶々の仮面を被った、見覚えのある誰かの姿。

 そして、まるで教会のそれの如き、厳かな雰囲気の部屋。

 

「…………あー、この仮面舞踏会にレッツゴー! みたいな、『玲音』の姿以外は、全然見覚えが無いのだけれど? というか、この玲音もなんか違うような?」

「そう、か…………やはり、ワイルドでは、ない。だが、なんとか、ベルベットルームに、接続、しなければ、『洪水』は防げない……」

 

 ベルベットルーム? なんぞー?

 俺は首を傾げるが、鴉さんの呟きは止まらない。まるで、見えない誰かに語り掛けるかのように言葉を並べ続けて、やがて、正気に戻ったかのように顔を上げた。

 

「天原君」

「はい」

「突然だが、世界はもうすぐ終わる」

「な、なんだってー!!?」

「いや、ネタではなく。割とシャレにならない感じで」

「マー?(疑問」

「マー(肯定」

 

 動物の鳴き声の如く、マーマー言っている、男子高校生と大学生である。気持ちわりぃ。

 

「ちなみに、理由は?」

「………………大いなる封印が、解けかけている。いや、もうすでに解けていた。人は、あまりにも死を望みすぎた。己の不条理で世界を呪い、滅亡を願い過ぎた。有史以来の破滅願望の清算の時間が近づいてきている……終わりの神は、人類の総体だ。倒せば、人類もまた、滅ぶ。故に、選べる道は協調しか存在しない……」

「簡単に言ってくだせぇ」

「人間が神様に文句を言いすぎたから、『んじゃあ、終わらせようか、世界』ってブチ切れている。神様に媚を売ってご機嫌を取らないと世界終焉へ」

「オッケー、理解! 理解はしたけれど、具体的には何が起こって、人類滅亡? 月でも落ちてくるんです? 一応、心の世界の月だったらぶち壊しましたけど」

「いいや、雨が降る。終わりのない雨が降る…………人類が滅ぶまで、止むことはない」

「あー、水害系はキッツいなぁ」

 

 何せ、ぶん殴ってもどうしようもなさそうな問題だ。

 雨雲を物理的に晴らすとかも難しそうだし。死に欠けの世紀末覇者を、たくさん用意して、障害に一片の悔いが無いようにしないと。

 

「…………随分と、あっさり信じるんだな? 名前も知らない、俺の事を」

「やー、見たところかなりの訳ありでしょう? 鴉さん。それに、こんな嘘を吐いたところで、なんの得もないだろうし。嘘、苦手そうだし」

「ああ。そうだな。それに、隠し事にも、向いていない」

 

 鴉さんは何かの覚悟を決めるように、一呼吸した後、俺へと向き合った。

 その眼には生気の他にも、覚悟を伴う強い意志の光が宿っている。

 

「改めて、自己紹介しよう。俺の名前は有栖川 忍(ありすがわ しのぶ)。この世界における二代目ワイルドの所持者だった男にして、全ての黒幕に負けた、敗北者だ。そして」

 

 鴉さん―――もとい、有栖川さんは、悔悟が含まれた言葉で告げる。

 俺へ、とても大切なことを伝えるために。

 

「あの白衣姿のペストマスクの中年――――『お父様』と呼ばれていた存在こそ、俺の叔父。有栖川 康孝(ありすがわ やすたか)だ。あの人の心は既に、終わりの神の暗黒面に、ニャルラトホテプと呼ばれる邪神の力によって囚われている。正気じゃない。願いは歪められ、想いは汚されて、心に大きな闇が巣食っている。俺は、彼に勝てず、敗北した。それ以外の条件は満たしていたが、最後に、力及ばずに倒れた。だからこそ、君に。俺とは逆に、条件が整わずとも彼を打ち倒すことが出来る君にこそ……いいや、君にしか頼めない」

 

 明かされるラスボスの正体。

 かつて、世界を救うために戦っていた男からの、頼み。

 俺は不謹慎ながらも、心に沸き立つ熱量を抑えきれなかった。でも、これは仕方ない。男ならば誰しも、お前にしか頼めない、と言われると心の中の熱量が上がっていくのだ。

 故に、俺もまた、有栖川さんからの言葉を受けるに相応しい自分であるために、物凄くきりっとした顔で言葉を待つ。

 さぁ、今こそ、闇に屠った中学二年生の自分に報いる時だ!

 

「―――岩倉玲音を完全攻略してくれ、恋愛的な意味で」

「…………えっ?」

 

 俺は思わず目を丸くして、疑問の呟きを漏らした。

 闇に屠ったはずの、心の中の中学二年生が、『そっちかよ!!』と叫び、手に持った魔導書(自作の魔法の呪文が描いてあるノート)を、床に叩きつけている姿を幻視する。

 

「最終的には結婚まで持ち込める関係になるのが必須だ」

「えぇ……」

 

 あ、でもこれ、多分、ラスボスをぶん殴るよりも困難な奴だ。

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