岩倉玲音と俺の夏休み。それとペルソナぁ!!!   作:げげるげ

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第33話 童貞に恋は難しい。いや難しすぎるんですけど、マジで

 恋愛。

 それは、思春期の男女の思考を狂わせる、最大の要素である。

 クールビューティの美少女であったとしても、好きな人の前ではポンコツ化してしまい、上手く自分を保てない。

 コミュ力が極限にまで至ったイケメンだったとしても、好きな人の前ではコミュ障になってしまい、ぼそぼそと何を言っているのかわからない小声で対応してしまう。

 これほど露骨ではないにせよ、誰にでも経験があるのではないだろうか?

 過去の恋愛関係における、『うがぁあああああああ!! やめろぉおおお!! 消えてくれ! 俺の中から消えてくれ! 過去の俺の記憶よぉおおおおお!! うがぁあああ!!』と身悶えしたくなるような黒歴史という奴は。

 無論、俺にも存在する。

 めっちゃある。

 ありすぎて、逆に『ふふ、あの時の俺は若かったぜ』と黒歴史を受け止めるレベルにまで精神が成長したのが俺だ。俺は、過去の傷をそのままにせず、乗り越えて成長する王道少年漫画系の主人公なのである。

 でも、モテない。

 なんだろう? モテない。

 おっかしいなー、と思う。いやいや、割と俺、イベントこなしているよ? 今までに助けた人の数は、男女を問わず結構いるし、我ながら中々格好いいカットインと共に登場して、一時期良い雰囲気になった瞬間というのも確かにあったりする。

 でも、モテない。

 何故だ、何故なのだろうか……?

 

「すぐに服を脱がなければいいんじゃないか?」

「…………服を、脱がない? やだなぁ、有栖川さん。それじゃあ、どうやってエロスに持ち込むって言うんですか、もう!」

「すぐにエロに走るのは、やめなさい。後、忍と呼んでくれ。苗字は嫌いなんだ」

「うぃっす。んじゃあ、俺も晴幸でいいですよ」

「ああ、わかった、晴幸君…………まずは、恋愛の基本的なことから勉強を始めようか」

 

 さて、そんなわけで有栖川さん、もとい、忍さんからの恋愛講座である。

 なんでも、世界を救うには玲音を俺が恋愛的な意味で完全攻略しなければいけないらしい。マジかよ、どんな理屈でそうなっているの? と尋ねたところ、忍さんから『神様をデレさせて、人間と一緒に暮らしたいなぁ! と思わせればいい』とアンサーをいただき、納得しました。なるほど、俺の恋愛力に世界の命運がかかっているというわけか!

 …………あれ? 無理じゃね?

 

「こら、何処へ行こうとする、晴幸君」

「いや、今のうちに悔いが無いように、読みたかったエロ本を片っ端から買って、エロ収めしてこようと思いまして」

「諦めるな。作戦が始まる前に諦めるな」

「だぁあああああってぇええええ!! 俺ですよ!? 振られた数は星の数! は言い過ぎですけど、大体、『ごめん、君は私にとってのマスコット枠だから』みたいなノリで振られるんですよ!? やってらんねぇ! やってらんねぇよ、恋愛!」

「落ち着きなさい、それは、君がエロを優先しすぎる所為だ、多分」

「エロと恋愛は一緒なのでは!?」

「違う……微妙に違う……というか、確認なのだが、晴幸君。君は、彼女を、岩倉玲音の事をどう思っているんだ?」

 

 ぴたり、と俺の動きが止まる。

 喚きながら、床をごろごろ転がっていた俺は、その問いかけで硬直し……数秒後、憮然とした顔つきで立ち上がった。多分、唇を尖らせながら、ちょっと拗ねたような気分になっていたかもしれない。

 

「………………好きですけど、何か?」

「ほう」

「あ。なんですか、その顔! 年上の訳知り顔! イケメンフェイス! い、言っておくとですねぇ! 性欲がゼロってわけじゃないし! むしろ、エロエロはたくさんあるんですよ! でも、でも、なんというか、どちらかといえば、性欲が後というか、なんというか…………ううう、がぁあああ!!」

 

 うぎゃお! と俺は怪獣のように叫び声を上げる。

 何だこれは、どんな羞恥プレイなのだ!?

 

「どんなところが好きなんだい?」

「い、言うんですか? ここで? 言うんですか?」

「言わないと対策を考えられないだろう。ほら、さっさと言いなさい」

「………………猫みたいに気まぐれなところとか。その、でも、なんだかんだ、こっちを気にして、寂しがり屋なところとか。シリアルを食べている時、無表情に見えるけど、実は内心、うきうきしているところとか。こっちに意地悪する癖に、こっちが意地悪するととても怒って、拗ねるところとか。なんだかんだ、放っておけない感じがするというか」

「なるほど、君は岩倉玲音の事がかなり大好きなんだね?」

「ううう…………そうです、そうですよぉ……大好きな女の子のためだから、あんなよくわからない化け物をぶっ飛ばせたんですよぉ……不純と言いたければ、言うがいいさ!」

「いいや、言わない。世界のために戦う、なんて理由よりも、隣に居る大好きな女の子を守るために戦う方が、人間らしくて、俺は良いと思うよ」

 

 ふっ、と忍さんが珍しく笑みを見せた。

 それは、今までのコミュ障大学生のそれではなく、何かの大きな戦いを経た後の、格好いい大人の笑みだった。

 

「実は少し、心配だったんだ。君が変な義務感を背負って、世界のために岩倉玲音と恋愛をしようとするんじゃないかって。でも、それは杞憂みたいだ。君は、自分のために岩倉玲音と恋愛して、結果的に世界がなんか救われちゃったな! あっはっは! と暢気に笑える馬鹿だよ」

「それ、褒めてます?」

「とても、ああ、とっても褒めているよ。俺には、出来なかったことだからね」

 

 だが、その笑みには痛みも隠されている。

 何かを為したというだけではなく、何かを為せなかったという悔悟の痛みが。

 けれども、俺はそれに触れない。触れてはいけないと思う。だって、それは忍さんの物語だと思うから。どのような結末を迎えたとしても、それは、軽々しく俺が聞いてはいけないことだと思うから。

 だから、俺が今、忍さんに尋ねる問いは、これしか存在しない。

 

「忍さん、俺に、出来ますかね? 玲音とこう、イチャイチャエロエロする感じになるような仲になるために口説くことが」

「うん、とりあえず、エロエロは一端置いておこう」

「……一端、置く? 我が、半身を?」

「君のペルソナはエロから生まれているのかい?」

「ぐ、が、あっ…………よ、よし、辛うじて、ギリギリ、思考をエロから切り離しました。だ、だから、早く! 俺がこいつを抑えている間に、早くアドバイスをっ!」

「君のエロスはそんな化け物なのかい? …………とりあえず、まぁ、あれだ。現状確認をさせてくれ。君と玲音がどんな関係なのかを知りたい。出会った時から、最近までの玲音の行動の変化について教えてくれ」

「あ、はーい」

 

 俺は内なるエロスを押さえつけながら、玲音と俺の今までのやり取りや、その変化について語ることに。

 最初はよくわからない行動をする玲音。俺にとっては、なんかよくわからない可愛らしい生き物が動いているなぁ、という感覚だったのだけれども、次第に離れがたくなっていく。寂しがり屋の癖に、それを隠そうとしている仕草や、実は構って欲しいのを迂遠にこちらへ伝えてくる玲音の動作が愛おしくなってくる過程を説明する。

 そして、最近になってようやく、玲音が割と素直に、こちらに甘えてくるようになったことを報告する。

 俺が本を自室で本を読んでいると、隣にやってきてひょっこりと後ろから抱き着いて、どんな内容か確認してくる玲音。

 お風呂上りに、薄着で火照った体を冷ましている時、俺の視線に気づくと、にやにやと笑いながらこちらの耳元に、「えっち」と囁いてくる玲音。

 俺が隠しているエロ本を尽く廃棄した後は、いつも唇を尖らせて不機嫌になる玲音。

 一緒に対戦ゲームをすると、遠慮なく全力でこちらをぼこぼこにして、俺が半泣きになるまで止めることを許さない玲音。

 深夜、唐突に寝ている俺を起こして、真顔のまま俺に抱き着いてくる玲音。

 その他、最近になって感情豊かになった玲音について、俺は全て忍さんに報告した。

 

「…………そうか」

 

 忍さんは俺の報告を聞き終えると、眉間にしわを寄せて渋い顔をした。

 ま、まさか、駄目なのか? やはり、俺は誰とも付き合えず、マスコット枠として将来、大金を稼いで、高級風俗のお世話になるしかないのか!? 両親に孫の顔を見せられずに、人生にエンドマークを打つしかないのか!?

 

「あのな、晴幸君」

「はい」

 

 はぁーあ、と呆れの混じった忍さんのため息。

 俺はただ、びくびくと肩を震わせて、神託の如き忍さんからのアドバイスを待つしかない。

 

「さっさと告白しろ」

「…………えっ?」

「告白しなさい。大体、成功するから」

「性交!?」

 

 すぱーん、とすっかり元気になった忍さんによって俺は頭部を叩かれた。

 不思議な物だ。俺と一定以上の距離感を縮めた相手は、必ずといっていいほど、俺の頭部を叩いてくる。まるで、『ちゃんと脳みそ詰まってる?』と心配してくるかのように。

 

「違うニュアンスを混ぜない。いいか? 告白はまず、成功するだろう。それぐらいの親密度が、お前と岩倉玲音との間には存在する」

「え、あ? え?」

「混乱するな、そして、良く聞け。いいか? ここからがとても大切なんだが、告白するときは――――ギャグに逃げるな、シリアスに行け」

「し、シリアス!?」

 

 俺は、胸をパイルバンカーで打ち抜かれたような衝撃を得た。

 そうか、シリアス、シリアスかー。何だろう? 俺の魂が、「なにそれ美味しいの?」と素知らぬ振りをしているのだけれど、大丈夫だろうか?

 

「十秒でいい、シリアスになれ」

「お、おごごご、おごごご…………」

「もちろん、晴幸君が自宅でさらっと、岩倉玲音に告白するのは不可能に近い。それは理解している。だからこそ、シチュエーションというのが、大切なんだ」

 

 バグった機械の如き挙動を繰り返す俺の肩を掴み、忍さんは力強く告げる。

 

「まず、夏祭りに誘え。そこで、告白するんだ。いいか? くれぐれも、シリアスに。せめて、告白の台詞を言い切るまではシリアスになれ。その後はギャグになってもいい。だが、予行練習として、夏祭りに誘う時ぐらいは、真面目(シリアス)に格好つけろ。例え、素の自分が知られていたとしても、滑稽だったとしても、その滑稽さを愛おしく思うのが、女だ」

 

 かくして、岩倉玲音攻略作戦は始まった。

 この作戦の成否を決めるのは、忍さん曰く、たった一つだけだという。

 ――――シリアスに、格好つけろ。

 俺にとって、砂漠の中でたった一粒の砂金を探すよりも困難な戦いが今、幕を開けようとしていた。

 

 

●●●

 

 

 思えば、俺の人生で本気で誰かを口説いたことがあっただろうか?

 何処かに心の予防線を引いていたからこそ、相手は本気にせず、振られるということが多発していたのではないだろうか? もしくは、服を脱いでいたり、女装をしていたりなど、そういうことに原因があるのかもしれない。

 だが、今日、この時、俺は本気でシリアスに口説かなければいけないらしい。

 …………いや、違う。しなければならない、じゃなくて、俺が本気で口説きたいんだ。俺自身の意思で。そのために必要なのは、覚悟だと思う。

 例えば、直也の奴に頼んで部屋着だけれど、違和感なくスタイリッシュに決めるためのファッションを教えてもらったり。

 例えば、俺がこそこそ色々準備したりしている間、京子の下へ玲音を送って、時間稼ぎをしてもらったりなど、そういうことだ。

 その場のノリだけじゃなくて、きちんと準備を重ねること。

 本気になるということ。

 そして、本気になって振られた際、大人しく胸の痛みを受け入れる準備をすること。

 そういうことをきちんと用意しておくのが、俺なりの覚悟だった。

 …………まぁ、ひょっとしたら、こんな俺の内心なんてとっくの昔に、玲音によって見抜かれているかもしれないけれども、それでも行動しなければ、何も変わらないと思うから。

 

「玲音。三日後、夏祭りがあるんだけれど、良ければ一緒に行かないか? その、二人きりで」

 

 だからこそ、俺は精いっぱいの真面目さをかき集めることが出来たのだと思う。

 もちろん、違和感はあったはずだ。ありすぎたはずだ。いざ、夏祭りに誘うと決めた当日の朝から、俺は落ち着きのない駄犬の如く、家の中をうろうろして奇行が絶えず、あの玲音が「病院に行く?」とそこそこガチの心配をされる程度には落ち着けていなかった。

 それでも、夏祭りに誘った瞬間だけは、俺は落ち着いていた。

 声も震えていなかったし、ちゃんと服も着ていたし、女装もしていなかった。

 真剣に、玲音の目を見据えて、ふざけずに言葉を届けることが出来たと思う。

 

「…………ふーん」

 

 ただ、俺の言葉を受けた後の玲音の反応はよくわからなかった。

 特に驚きもせずに、淡白な反応を返して、もしゃもしゃとシリアルを食べるのを続行する様子を見て、俺は敗北を確信した。

 ああ、駄目だったのか、と。

 やはり、シリアルを食べている時に何かを言うのは駄目だったのか? とか、でも部屋で一緒に居る時は距離感が近すぎて、とてもじゃないけれどシリアス成分をかき集められない、エロス成分に負けてしまう、とか、色々な考えが頭を巡って、泣きそうになってしまう。

 だが、泣かない。泣かないぞ、俺は。

 ここで泣いたら物凄い笑える泣き方をして、そのまま地面をローリングして家から逃げ去ってしまう自信があるから。

 

「ふーん」

「…………あ、あの、玲音さん?」

「へぇー、そうなんだー」

 

 などと、しばらく落ち込んでいた俺であるが、ふと、玲音の様子がおかしいことに気づく。

 玲音はシリアルを食べ終わると、容器を流しに持って行き、きちんと洗った。ここまではいい。ここまでは通常行動である、ただ、問題はここから。玲音は食器を洗い終えると、そのままびたっと俺の背中に張り付き、「へー」とか「ふーん」とか、「なるほどー」みたいな言葉を繰り返しているのだ。

 さながら、よくわからない味の料理を、何度も何度も賞味して、ようやく美味がどうか確認する子供のように。

 

「ねぇ、ハルユキ」

「はい」

「私と、一緒に、行きたいの?」

「はい、えっと、そうです……」

「二人きりで、夏祭りに行きたいの?」

「は、はい、そうですが……」

「ふぅうううん……………………にひっ」

「玲音が笑った!?」

「にひひひひっ」

 

 チェシャ猫の如き、邪悪な笑みを浮かべて、玲音は笑っていた。

 にやにやと、不穏さを隠し切れないような笑みで、それから一時間ぐらい、ずっと俺に絡み続けて、最終的には、何か満足したのか、すっと真顔に戻って、ようやく俺の誘いへの答えを口にしたのだった。

 

「いいよ、一緒に行こう」

 

 俺はその答えを聞いた瞬間、顔中に熱が巡って、どくどくという血の流れが耳の奥から聞こえてきた。

 なんだろう、これは? なんだろう、この感覚は。

 今まで体験したことのない感覚に俺が戸惑い、必死に顔を隠そうとすると、その腕を玲音が優しく押さえつけて、また、「にひっ」と笑った。

 その笑みは控えめに言っても、邪悪の権化みたいな笑い方だったのだけれども。

 何故か、不思議とその顔が可愛らしく思えて、俺は余計に顔を赤く染めてしまったのだった。

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