岩倉玲音と俺の夏休み。それとペルソナぁ!!!   作:げげるげ

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第34話 祭囃子は、終わりを呼んで

 例えばの話をしよう。

 例えばであるが、君はヤンキー漫画が大好きだったとしよう。登場人物のイカれた反骨っぷりに胸がすくような思いを抱き、自らの意地のために、より強大な相手へと歯向かっていく不良共を眺めて、『良いキャラだなぁ、こいつら』と満面の笑みで頷いているとしよう。

 そんな時にだ、もしも隣にやってきた人物から、こう言われたらどうする?

 

「え? でも、こいつらサイバイマンより弱いじゃんwww」

 

 それが、同い年の同性だったとすれば、戦争の始まりだ。『そうじゃねぇんだよ!』と相手の尻を引っ叩いて、終わりのない論争を繰り広げるだろう。

 なお、一世代上の同性に言われたら、「ははっ、そうっすね」と愛想笑いで流しつつ、内心では『死ねよ、オッサン(オバサン)』と静かに殺意を滾らせるかもしれない。それが原因で、名探偵コナンのBGMが流れて、殺人事件が起きるかもしれないが、それはまた別の話だ。

 え? 同い年の異性(美人←重要)? もしくは、年下の可愛い異性? 外見だけは美形なのに、中身がクソ生意気な年下の異性? ご褒美だろう、存分に堪能するといい。

 さて、脱線してしまった話の筋を戻すとしよう。

 要するに何が言いたいかと言えば、違う作品の――特にジャンルが違うキャラクターを持ってきて、そこで無粋な力比べをして他のキャラクターを貶めるのは、無粋だということだ。無論、それは最強キャラを議論する浪漫な語り合いを否定する物ではなく、異なる作品を重ね合わせる二次創作のクロスオーバーを否定する物ではないと明言しておく。

 ――――けれど、もしも、そういうことが実際に起こってしまったら、どうなるだろうか?

 例えば、シリアスな推理小説の中に、力技でなんでも解決するギャグ漫画の主人公が登場してしまったら?

 例えば、繊細で美しい伝奇物語の中に、空から超科学力を持った宇宙人が現れたら?

 例えば、例えば、例えば――――そう、これはあくまでも仮定だ。実際に起こりうることではない。だからこそ、それがもしも起こったら? というイフを想像するのは楽しいのだが。

 

「それが実際に、起こってしまったら、現地民にとってはたまったもんじゃねぇよな? つまりは、これはそういうことなのさ」

 

 在り得てしまったイフは、時に、世界へ大きく影響を及ぼすことになる。

 良くも、悪くも。

 

 

●●●

 

 

「がぁあああああ!! がぁああああああ!! 助けてくれ! 助けてくれ、直也! 限界だ! 限界なんだ!」

「ど、どうしたんだよ、一体?」

「俺が玲音を夏祭りに誘ってから、なんか、妙に、妙に玲音のスキンシップが過剰になってきて! しかも、しかも、家に居る時はずっと隣に居るようになったから、ろくにオナニーもできなくて! 己の中の野獣を、俺はもう、抑えきれない!!」

「…………それと、君がその手に携えた黒いビニール袋に包まれた書籍は何かな?」

「エロ本だ!!」

「やっぱりか、この野郎!」

「頼む直也、一発……いや、三発ぐらいやらせてくれ!」

「発言! 発言が誤解を生むだろうが! ちゃんと、部屋を貸してオナニーさせてくれ、って言い直せよ! 京子も来ているんだぞ、もう!」

「…………やっぱり、馬鹿と屑が怪しいと思ってたんだよ、私は……」

「ほら、すぐに誤解されたぁ!? さっきまでの会話を聞かれていたというのに、誤解されたよ!? というか、京子は僕に対して疑心暗鬼が過ぎない!?」

「テメェはすぐに雌堕ちしそうな雰囲気があるんだよ! 女装した状態で馬鹿に襲われたら、絶対、中盤辺りから雌の声を出しながら負けるんだ……そういう奴だよ、テメェは」

「まず、僕が女装をするという前提をやめようか!! というか、晴幸! 馬鹿! さりげなく人の家のトイレに無言で入っていくな! エロ本を置いていけ! 鍵をかけるな! せめて、終わったら窓を開けて換気してよ、マジで!!?」

 

 俺が玲音を夏祭りに誘ってから、時間は瞬く間に流れて行った。

 まず、忍さんに作戦成功を告げたら、真顔で「まず、第一フェイズが成功しただけだ。油断するな、ここから予行練習を行う」と言葉を返され、そこからがっつり二日間ほど、ホテルの一室を貸し切っての応答訓練が行われたりとか。

 途中、性欲の我慢が限界に達した俺が、直也の家に突撃してひと悶着起きたとか。

 その後、賢者モードになった状態でワイヤードや『お父様』の行方に関しての報告を受けたりなど、実に忙しい日々を送ることになった。

 忍さんからの、『肝心な時にシリアスを出していく』という訓練。

 祭りの資金を残した上で、金には糸目を付けず選んだ極上のエロ本たちによる性欲の排除。

 直也、京子と共に、『お父様』の行動をどうやって予測して、捕まえるか。ナイツが全滅してなお、まだ残るワイヤードの謎の追求。

 

「…………貴方は、随分とまた、凄いことをやらかしたわね、晴幸君」

「ぐっ、違います! 手を出していません! 魂に誓って! 玲音のあの未成熟だけれど、妙に妖しい魅力のある体には手を出していません!」

「晴幸君?」

「ま、待ってください! ガチです!」

「いや、それよりも、テロリスト集団の首魁を撃退した時の話を聞きたいのだけども?」

「あ、はい」

 

 そして、よりにもよって夏祭り前日に事情聴取へやっていた刑事さんへの対応と、たった三日間であるが、とても目まぐるしく時間が過ぎて行った。

 正直、準備は万全とは言い難い。

 忍さんとの特訓の成果で、七秒ぐらいはシリアスを続けられるようになったが、まだ完全なシリアスには程遠い。精神が乱れると、俺の素が出てしまう。

 それでも、それでも、ここで止まる選択肢などは無いから。

 俺は、覚悟を決めて、夏祭り当日を迎えた。

 

 

●●●

 

 

 田舎の夏祭りは、意外と人が集まるイメージが俺にはある。

 もちろん、地方によって違いはあるだろうけれど、少なくとも、俺の地元の夏休みは結構人が集まる。何せ、お盆休み前に行われるので、ちょっと早い帰省で若者たちが戻ってくることが多いのだ。そのため、妙に懐かしい顔ぶれを見ることがたまにある。

 例えば、子供の頃、良く遊んでくれた近所の兄ちゃん(既婚)。

 

「…………そうか、お前もついに、彼女が…………俺も、年を取ったもんだ……」

 

 例えば、子供の頃、よく遊んでくれた近所の姉ちゃん(既婚)。

 

「ふふっ、可愛い彼女さんね? 大丈夫、晴幸はさ、見た目は怖いけど、中身はとんでもなく優しい男の子だから」

 

 例えば、大学生の従兄(年齢イコール彼女居ない歴)。

 

「あぁああああああ!!? 晴幸に!? 晴幸に彼女が!? 晴幸にさえ彼女が!? ああ、ああああ…………俺は、一体、今まで、何をして……」

 

 頻繁に連絡を取り合う仲ではなくとも、俺の身長と顔は目立つらしく、大体、見覚えのある人はちょくちょく声をかけてくれるのがありがたい。何がありがたいかと言えば、俺の隣に居る玲音を『彼女』として認識してくれるのがとてもありがたい。

 

「あー、悪いね、騒がしくて」

「…………ん、別にいいよ」

 

 俺はちらりと、横に居る玲音へ視線を向ける。

 本日の玲音はいつもと。違っていた。何が違っていたかと言えば、まず、服装が違う。いつも、部屋着はほとんど下着のような薄着か、お気に入りのクマさんパジャマしか装着せず、外出するときも、シンプルで飾り気のない格好を好む玲音だったのだが、今日は違う。

 何せ、浴衣だ。玲音が浴衣を着てくれている。しかも、あれは姉ちゃんのお下がりの中でもかなり上等の浴衣である。青い生地に可憐な花々が飾られている、美しい浴衣。そして、着るのがかなり面倒なので、一度来たら満足して使わなくなっていた一品である。

 一緒に家を出る時に、妙に身支度に時間がかかったり、途中で母さんがお呼ばれされたりしていたが、まさか、こんなサプライズをしてくれるとは俺は思っていなかった。正直、予想外の一撃を受けてしまい、俺は瞬く間に余裕を無くしてしまった。

 

「似合う?」

 

 家を出て、夏祭りの会場に向かうまでの間、ぽつりと零した玲音の一言。

 俺はそれに過剰反応してしまい、そりゃあもう、褒めまくってしまった。それは予め考えていた言葉ではなく、自然と魂から湧き出てくるような言葉で、全然クールでもなく、さながら限界オタクの如きあっぷあっぷの、余裕のない言葉の羅列であったが、玲音は俺の余裕のなさを見られて満足したらしく、最初から上機嫌だった。

 

「にひひっ。じゃあ、はい」

「…………えっ?」

「手、つなご?」

「――――っ! あ、ああ!」

 

 どれくらい上機嫌かと言えば、祭りの最初から時折、手を繋ぐことを許可してくれるレベルだと言えば、玲音を知る仲間たちは驚くだろう。何せ、玲音は自らが勝手気ままに触れるのは良いのだが、こちら側から触れようとすると猫のようにするりと避けて、べぇ、と舌を出してくるようなところがある。

 そんな玲音が、わざわざ声をかけてから手を繋いで。

 しかも、時折、物を食べたり、射的で遊んだりする際に手を離した後、俺側から手を伸ばしても避けず、むしろ、歓迎するかのように指先を絡ませてくれるのだ。

 正直に、言おう――――――めっちゃ、可愛い!! え? 何この子可愛すぎないか? え? 大丈夫? 可愛すぎて俺死なない? 可愛さの過剰摂取で死なない?

 

「うわぁあああああああ!! あの馬鹿に彼女が出来てるぅううう!!?」

「あぁあああああああ!!? そんな、そんな馬鹿な! 晴幸は俺たちの希望の星だったはずなのにぃ!?」

「モテない筆頭! モテない筆頭! 何故だ、何故、アンタは俺たちを裏切ったぁああ!!?」

「ああああああ!! 羨ましいよぉ! 年下の美少女を彼女とか、羨ましくて死ぬよぉ!!」

 

 なお、玲音の可愛さの余波によって、夏祭りに来ていた高校の同級生(野郎ども)は絶叫したのち、膝から地面に崩れ落ちていた。奴らは、俺同様に、彼女の居ない夏を送る非モテ集団であり、俺のその筆頭だと勝手に扱われていたのだが、俺と玲音が手を繋いで歩いているところを目的して、正気度チェックに失敗したらしい。

 

「くそがぁあああああ!! かくなる上は、祝ってやるぅううう!! はい、焼きそばぁ!」

「祝福してやるから、後で女の子を紹介してくれぇえええええ!! はい、綿あめぇ!」

「花火なんて上等な物はうちの夏祭りにないけど、縁起物はあるから神社で買うのをお勧め!」

「屋台の飯は思ったよりも腹に溜まるから気を付けろよ! あ、神社から少し離れたベンチは人がさほど多く無くて一息つける場所だぜ!」

 

 ただ、嫉妬に狂い、狂気状態に陥っても、そこは俺の友達だ。なんだかんだ喚きながらも、俺たちを祝福してくれ、色々な物やアドバイスをくれたりするのだからありがたい。

 

「…………友達?」

「ああ、騒がしいが気の良い奴らだよ、まったく…………いや、俺も立場が逆だったたら、似たようなことになっているだろうから、何も言えねぇ」

「…………」

「ん? 玲音?」

 

 俺が友達について語っていると、玲音は無言のまま俺の手を握る力を強めた。

 ぎゅっ、と幼子が不安を伝えるように。

 表情だけは平然としていて、無表情だけれど。

 俺を見上げる玲音の瞳は、どこか潤んでいるようにも見えた。

 

「…………あー、玲音。祭り、楽しかったか?」

 

 俺は小さく、柔らかな玲音の手を握り返して、問いかける。

 玲音は、無言で頷いてくれた。

 それだけのことで、俺の胸の内は驚くほど舞い上がってしまうから、不思議だ。

 

「そうか、よかった。それで、な………………伝えたいことがあるんだ。その、ここじゃあ少し、騒がしいから、教えてもらったところに行こうぜ。そう、神社から少し離れたベンチのところ」

「…………ん」

 

 頷いてくれた玲音の手を引いて、俺は歩く。

 歩調を合わせて。

 手の先から、冷たいような、温かいような玲音の温度を感じて。

 息が詰まりそうになるような胸の鼓動を隠して。

 

「…………人、居ないな」

「ん、そうだね」

 

 やがて、辿り着いたベンチの周囲にはほとんど人が居なかった。いや、ほとんどというか、人が無い。俺たちがベンチに座った時には、まだいくらか居た人が、いつの間にか空気でも読んだのかのように、居なくなっている。

 まるで、世界に『告白しろ、おら、さっさと告白しろや、ヘタレ』と急かされているような気分だ。

 おうとも、そんなに急かされなくとも、男らしく、シリアスに告白してやるぜ!

 

「あ、あのさ、玲音……多分、薄々気づいていると思うけど、こ、この夏祭りに誘ったのは、だな、うん」

「…………」

「俺は、つまり、なんだ、ええと」

 

 言葉が上手く出てこない。

 言いよどむ。

 あれほどあった気力が、段々と萎えていく、恐れを為していく。

 理由はもちろん、分かっている――――怖いのだ、俺は。この告白に世界の命運がかかっているとか、そういうことではなくて、ただ単に、本気で、真剣な告白が拒絶された時のことを考えると、怖くて仕方がない。

 大丈夫だと、理性は言う。

 手を繋いでくれたり、散々、彼女扱いをされても否定しなかった、だから、大丈夫だと。他の仲間たちも応援してくれたのだから、大丈夫だと。可能性は極めて高い、と。

 でも、それでも怖いと思ってしまう。

 悪魔と戦う時よりも。

 悍ましい敵対者に殴りかかる時よりも。

 何よりも、俺はこの瞬間が怖かった。自分で運命を切り開くのではなく、自分の想いを他者に預けて、言葉を待つのが怖かった。

 情けないにもほどがある有様だ。

 きっと、小学生や中学生でも出来ることを、俺はとても恐れているのだから。

 怖くて、怖くて、玲音と一緒に居た今までの記憶がリフレインする。この日常を手放したくないと思う。離れがたいと思う。故に、心の中に魔が差す。何もしなければ、少なくとも、このままを維持できるのではないかと、悪魔の如き誘いが頭の中に生まれる。

 だが、それを打ち消したのはやはり、玲音との思い出だった。

 先ほど見た、不安げな玲音の瞳だった。

 ぎゅっと、手を握られた時の、玲音の温度だった。

 

「――――まったく、俺って奴は」

 

 やれやれ、と俺は肩を竦めて大きく息を吐く。

 違うだろうが、そうじゃないだろうが。俺が、俺は、決めたんだろうが。何があっても、玲音の隣に居ると。玲音が求めている限り、その手を離さない、と。

 なら、不安そうにしている玲音を目の前にして、我が身可愛さに臆することの、なんと愚かなことか。

 違うだろ、俺は馬鹿だけれども、そんな愚かさは要らない。

 俺が望むのは、怖くとも、傷ついても、誰かの手を取りに行くための愚かさだ。

 

「玲音、聞いてくれ」

「…………うん」

「お前のことが、好きだ。俺の隣に居て欲しい」

「…………」

 

 存外、自分でも驚くほどシンプルな告白だった。

 散々、忍さんや仲間たちと一緒に色々告白の台詞を考えたというのに、結局、最後の最後に口から出たのは、そんなありきたりな、何処にでもあるような告白の言葉だった。

 けれども、これは紛れもなく、俺の魂から出た言葉だった。

 

「…………ん」

 

 玲音は告白を受けて、目を見開いた。

 僅かに驚いたような表情。

 何度か、瞬きを繰り返した。

 そして、その唇が何かも言葉を紡ごうと動き出した瞬間――――俺は、玲音の肩を強く掴んだ。

 

 

●●●

 

 

「――――っ」

 

 玲音がまず、晴幸に肩を掴まれて思ったことは『キスされる』という、乙女チックな物だった。

 何せ、彼女は神に等しい存在であっても、乙女だ。ましてや、すぐ近くに、いつもはギャグで色々誤魔化す奴が、がっつりと真剣な表情で偽りなしに、おふざけなしに告白してきたのである。相応に感じる物があり、また、告白の返事を待たずに、肩を掴まれたという強引さに少し胸をときめかせつつも、どんな対応をしたものかと戸惑った。

 

「――――みぎゃ!?」

 

 戸惑った矢先に、玲音は思いきりベンチから離れた場所に投げ飛ばされた。

 思考を挟む余地のないぐらいの、唐突で、物凄く速い投げだった。流石の玲音もこれには反応しきれず、ごろごろと地面を転がる始末。

 先ほどまでの良い感じの雰囲気からの一転、晴幸のこの対応に、玲音は怒りよりもまず、疑問を思い浮かべた。玲音は知っている。晴幸は馬鹿ではあるが、優しい馬鹿であると。敵対者に対しては、女の子でも容赦なく殴るようなところがあるけれども、少なくとも、自らが告白するような相手に乱暴するような人ではないと、知っている。

 だからこそ、疑問の次に、玲音は猛烈に嫌な予感を得た。

 優しい人間が、乱暴な対応をしたのならば、そうしなければいけない理由が、あの瞬間に生まれてしまったのではないだろうか? と。

 そう、例えば、

 

「見事。この手の奇襲で仕損じたのは、体感、五十年ぶりの経験です」

「ぐ、が、あ…………」

 

 玲音の命を狙う襲撃者から、とっさに身を庇うための行動だったり、など。

 そう、この世界において、害せる者など皆無に等しい岩倉玲音の予測と警戒を全て上回り、必殺に等しい奇襲を放っていた強者の一撃から、玲音を守るための行動ではなかったのかと。

 そして、その予想は見事に的中した。

 

「流石は天原の系譜。悲劇を覆す、異郷の魂を宿す一族……ですが」

 

 玲音が混乱から回復して、その眼に見た光景がある。

 それは、軍服と外套に身を包む魔人が、その手に携えた軍刀を突き出した瞬間だ。その白刃が、崩れた体勢にある晴幸の――――右胸の部分を容赦なく貫いた瞬間だ。

 

「私もまた、異郷なる来訪者。理を覆す存在です」

 

 苦々しく顔を歪めながらも、己を貫く白刃を掴む晴幸。

 なんの感情も伺わせぬ無表情を張り付けたまま、淡々と言葉を紡ぐ魔人。

 まるで、その二つは悪い悪夢のようで、けれども、確かに玲音の眼前に存在していて。

 

「申し訳ありませんが、護国のためです。貴方たちを蹂躙させていただきます」

 

 かくして、日常は閉ざされる。

 これより幕が上がるのは、虐殺無慈悲なる魔人の蹂躙劇。

 百鬼夜行を切り捨てて。

 神魔混沌すらも踏み砕き。

 人外魔境を闊歩する。

 そして――――――かつて、七つの世界すら斬り滅ぼした魔人。

 殲滅者・葛葉ライドウによる蹂躙劇だ。

 

「どうか、私を恨みながら、死んでください」

 

 淡々と紡がれる言葉にはとことん現実味がなく、空々しい。

 けれど、遠くから聞こえる祭囃子の音が、否応なしにこれを現実であると告げていた。

 

 

●●●

 

「な? わかっただろう? 『ジャンルが違う奴』が出てくると、たまったもんじゃねぇ、ってさ。じゃあどうすればいいのかって? このまま絶望に沈めばいいのかって? さて、そこら辺は全て――――あの馬鹿が、ここまで辿り着けるかどうかに、かかっているんじゃないかね?」

 

 部屋の主は不敵に笑う。

 偽りの主は、異郷なる二人の戦いを愉快そうに観覧する。

 ………………まだ、その部屋のドアを叩く者は居ない。

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