岩倉玲音と俺の夏休み。それとペルソナぁ!!!   作:げげるげ

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第37話 過ぎた力は身を滅ぼすというが、こうなるとは聞いていない

 俺は無茶をやったという自覚があった。

 何せ、相手は殲滅者葛葉ライドウ。そのつもりになれば、世界を壊してしまう規格外の敵対者である。ぶっちゃけ、単純な力の総量が違い過ぎて、如何に世界のバックアップを受けようとも、敗北は避けられなかった。

 故に、俺はイカサマを使って、ひと時の奇跡を起こして見せた。

 俺が望み、相手が心底望んでいるからこそ起こせた、奇跡の再会。

 黄泉帰りという、難行苦行を為した俺だからこそ、不可能と思える事象に対して、奇跡を起こすことが可能となるのだ。例え、それがひと時の幻だったとしても。

 だが、奇跡の代償は決して安くない。

 

「あ、あああああ、あああああああああああっ!!」

 

 死闘を終えた、次の朝。

 俺は寝ぼけ眼に自らの姿を確認して、絶望の声を上げていた。

 

「ない! ある! いや、ある!? うっすらある!? 毛は無い! 背がぁ! 筋肉がぁ! あ、あああ、ああああああああああ!!」

 

 俺はベッドの上で、自らの股間を抑えて蹲り、叫んだ。

 

「俺の王の力がぁああああああああああああああああ!!!」

 

 背は低くなり。

 鍛え上げられた肉体は痩せて軟弱に。

 声は、良い感じの声変わりした少年ボイスが、声変わり前のソプラノに。

 胸は筋肉のそれが消え去り、うっすらと微妙にある感じの物へ。

 そして、何より、俺の股間から、生まれた時から共に在ったはずの半身が居なくなっていた。

 

「玲音とエッチなことが出来なくなっちゃうよぉおおおおおおお!!」

 

 そう、つまりは、俺はこの度、初TSを体験してしまったのだった。

 

 

●●●

 

 

「というわけでさー、ほんと嫌になっちゃうよなー。俺、頑張ったのにさー。いざ、これから玲音とイチャイチャエロエロ始めようと思ったら、これですよ。まったく、見てごらんなさい。今朝の俺を見つけてからの玲音の様子を」

「………………にひっ」

「完全に、新しい玩具を見つけた目をしているだろう? 駄目だよ、これは恋人に向ける目ではないよ。確実に、か弱い生命を弄ぶ超越者の目だよ……」

「ああ、だからテメェはそんなひらひらフリフリの恰好なんだな」

「姉さんが黒歴史時代に買ったゴスロリが、また活用される日が来るとは思わなかったよ」

 

 葛葉ライドウとの死闘を終えた翌日、俺は何故かTSしていたので、渋々、京子に頼んで女子児童用の下着を買ってきて貰ったのである。

 なお、京子に下着を買ってきてもらうまでは、目を輝かせた玲音が俺の体を弄び、着せ替え人形となっていたので、精神の疲労が著しい。流石の俺と言えど、トランクスを履いた状態で、姉が残していった服を着まわすという状況は精神的に辛いのだ。

 

「大体、この姿も姉さんの色違いみたいな格好だし……全然興奮しないんだよね……萎える」

「え? お前の姉さん、こんな露骨にロリなの? え?」

「大体こんな感じだよ、俺の姉さんは。中学時代からのあだ名がロリ娘で、大学に入ったころからは、エルフ扱いされている」

「ワンチャン、エルフの実在を信じられるレベルだからなぁ、今のお前」

「ううう…………早く男に戻りたーい」

「よしよし」

 

 俺はしくしくと泣き真似をしながら、玲音の成長途中の胸に飛び込んで慰めてもらうことに。

 ふぅ、男の時にやろうと思えば絶対に、にやにやしながら動画を撮影され、十年後までネタにされること請け合いの行動であるが、この時、この瞬間ならば違和感なく行えるという策よ!

 わぁい! 玲音の微妙にある感じの胸の感触だぁー! ふかふかー!

 

「ハルユキ。戻らなくても、私が生やして頑張るから安心してね?」

 

 なお、胸の感触を堪能していたら、物騒なことを玲音に耳元で囁かれたので真顔になる俺である。

 いや、あの、うん、大丈夫、大丈夫……玲音が例え男の子になっても俺は愛しますが? 愛しますが? 出来れば、男として可愛らしい少女である玲音も愛したいと思います、はい。

 

「…………と、ともかく、この肉体変化は恐らく、昨日使った力が原因だと思うんだよ。黄泉帰りに、世界と同期するワイルドの力。それらを纏めて行使したら、普通は死ぬっぽいし。恐らく、そういう反動を誤魔化すために、俺の体を別の物に変えて、ほとぼりが冷めるまでイカサマしている感じなのだと思うよ。まぁ、明日の夜には戻っているんじゃないのかな? うん」

 

 俺は慌てて、今朝から続いていた現実逃避の思考停止を解除して、真面目に考察を開始した。

 昨日の戦い。

 ラスダンに挑む前に、やりこみ要素の裏ボスが出張ってきたようなクソの如き難易度であったが、俺たちは何とか絆の力で攻略することが出来た。

 あの後、葛葉ライドウは俺のコネで呼び出した葛葉一族の人に、ガチ説教されながら涙目で回収されていき、現在、うちの両親はそこら辺の賠償金やら、今後の俺たちの身の安全についてなどのお話合いの真っ最中なのである。

 ただ、当事者である俺たちは戦闘の疲れやら、大人同士の会話に顔を出すと、確実に状況を掻きまわして厄介なことになるので自宅謹慎を命じられている。

 ちなみに、忍さんは昨日の報告の最中に安堵と胃痛の板挟みでダウンしていた。

 どうやら、俺が玲音と契約を交わしたことに対する安堵と、明らかな異物である葛葉ライドウによる横やりが、精神的な温度差を生み出して負担をかけてしまったらしい。

 とりあえず、最終決戦の前には何とか体調を取り戻して欲しい物だ。

 …………そう、最終決戦だ。

 

「明日の夜までに戻れそうで本当に良かったよ。何せ、俺たちが葛葉ライドウという余計な不確定要素を排除したおかげで、あちらも捨て身の賭けに出られるんだからね」

「捨て身の賭け? あのよ、『お父様』やらには結構なダメージを与えて、年単位での復帰は不可能って話じゃなかったか?」

「ああ、そうだよ。でも、それはあくまでも体を回復させてから再起するなら、という条件付きさ。例えば、『魂を悪魔に売ってでも』なんて覚悟があるなら、話は違ってくる」

 

 京子の疑問に、俺は確信に満ちた予測で答える。

 僅かな時間であるが、俺はあの時、葛葉ライドウと戦った時、集合的無意識の根底に近しい場所と繋がっていた。それ故に、分かるのだ。

 似たような場所に魂を繋げている、『お父様』とやらの考えは。

 

「集合的無意識の底に鎮座する神様みたいな存在はね、京子。極論を言えば、どっちだっていいのさ。世界が存続して、人類が色々やらかして、それを面白おかしく眺めていられるのなら、悪でも、善でも、より、必死な物の願いに呼応する。あの時、俺がいつも以上の力で戦えたのは、世界存続のための加護を受けたのもそうだけど、必死で玲音を守ろうとする願いがあったからだ。だからね、わかるんだよ。『お父様』とやらの願いは間違っているとしても、必死で、賢明で…………でも、それ故に救われない」

 

 あの時、あの瞬間、『お父様』が存在する場所に近しいところに居たからこそ、俺には理解できた。理解してしまった。

 喪失の悲しみ。

 無力の嘆きと、世界の否定。

 だからこそ、だからこそ、『アリス』はリセットを求めたのだろう。

 もっとも…………その願いすら、邪神に魂を弄ばれて、もう既にほとんど覚えていないようだが。それでも、衝動に突き動かされて、世界の再誕を願う愚者。

 まったく、度し難いとはこのことだ。

 

「終わらせないといけねぇよ、あんな悲しいことは。だから、頼む」

 

 俺は改めて、居間に集まった仲間たちへ、頭を下げる。

 今更だけれども、もう一度、最終決戦の前に。

 

「決戦は恐らく、三日後のお盆の始まりからだ。お盆が終わるまでに、俺は、あの愚者をぶん殴って世界を救わないといけない…………でも、正直、今の俺にはもう、昨日みたいな力は無い。それどころか、あちらも俺対策に色々と仕込んでくると思うから、絶対、苦労させると思う。だけど、俺一人じゃ多分無理だから…………一緒に世界を救ってくれ、京子、直也、玲音」

 

 俺が頭を下げて頼み込むと、玲音は微笑みを浮かべて俺の頭を撫でて。

 京子は、「はぁー」とため息を吐きながらも、仕方ねぇと了承してくれた。

 

「お前なぁ、そういう真面目なことは真面目な姿で言えよ。んだよ、その格好。ロリ系美少女にTSした上に、フリフリのゴスロリとか……あ、画像データに残しておこうっと」

「この格好はあらゆる意味で俺の所為じゃねーよ! 俺だって、漢気溢れる姿で、君たちにお願いしたかったさ! というか、え? 直也からの返答はないけど駄目!? あ、無理強いはしないけど、駄目な感じですか!?」

 

 ただ、直也からのリアクションは無い。

 そもそも、直也は家に来てからずっと黙ったまま俯いている。

 ………………まぁ、仕方ないのかもしれない。何せ、昨日の死闘のすぐ後だ。自分たちの命なんて、片手間に蹂躙してくるような化け物との死闘。正直、全員生きて帰ることが出来たのが奇跡にも近しいことなのだと、直也は知っているのだろう。

 死の危険があるのに、俺について来い、なんて強制出来るわけがない。

 悪友ではあるけれども、命まで賭けなくていいのだ。

 タナトスとは、ギリシア神話における死神だ。

 大切な人が亡くなり、死を想い続けてきた直也だからこそ、死の怖さ、恐ろしさは身に染みて良く分かっているのだろう。

 

「ふぇっ! あ、え? な、なんの話?」

 

 いや、違った、普通に話を聞いていないだけだった。

 俺はむぅ、と露骨に唇を尖らせて、拗ねながら再度、直也に尋ねる。

 

「俺と一緒に、最終決戦、来てくれるかなー!?」

「い、いいともー!」

「いえーい!」

「いえーい……」

 

 何だろう? 了承してもらえたけれど、ぎこちない。視線も俺を見ずに、どこかさ迷っている感じだ。やはり、無理をさせてしまったのだろうか?

 

「……おい、屑テメェ、まさか」

「うぐっ」

 

 などと俺が心配している間に、何かに気づいたらしい京子が直也の肩を掴む。

 がしりと、有無を言わせぬ力で掴み、無理やり俺の方へと顔を向けさせて、しばらくした後、何かを確信したように深くため息を吐いた。

 

「TSした晴幸の姿に―――」

「は、はぁー!? 一体、全体、何を言っているんだよ、この貧乳がぁ! 僕が、この僕が!? 女性関係百戦錬磨のこの僕がぁ!? まさか、ねぇ! そんなことあるがげぼぉ!?」

「誰が貧乳だ、おい」

「いや、今のでも誇張表現――――」

「最終決戦の前に一人減るな。とても残念だか、仕方ねぇよ。ついさっきまで男だった奴に欲情する屑だもんな」

「欲情なんてしてない! これはピュアピュアの奴だ!」

「どの口がぁ!」

 

 ぎゃあぎゃあと、騒ぐ二人を唖然として眺める俺。

 ええと、つまりどういうことでございますでしょうか?

 

「結城直也君はぁー! TSした馬鹿の姿にぃー!」

「やめろー! やめろー!」

「一目惚れしたんだってぇー!」

「んあああああああああああ!!」

 

 俺が首を傾げていると、京子がもったいぶった言い方で変なことを言ってくる。

 え? そうなの? と直也に視線を向けると、直也は両手で顔を隠したまま、エビぞりに仰け反るというよくわからない体勢を取っていた。

 どういう気持ちになったら、そんな体勢になるんだよ、お前。

 

「…………あー、その、直也?」

「見ないでぇ、こんな僕を見ないでぇ」

「ええと、姉さんを紹介しようか? 合法ロリな大学生だけれども、ほら、大体、この俺と同じ外見しているし」

 

 ともあれ、こんな突然発狂したような動きをかます奴でも、俺の悪友である。

 俺なりの精いっぱいのフォローを、微笑みと共に直也へ告げたわけなのだが。

 

「いや、そういうことじゃないから」

「…………え?」

「あっ」

「え? あの、え?」

「………………ぁあああああああああ!!! ちょっと死んでくるぅー!」

「おい、待て屑ぅ! 今の発言の真意を話してから死ねやぁ!!」

 

 真顔でよくわからないことを言った後、直也は顔を真っ赤にして、外へと走り去ってしまった。なお、そのよくわからない発言が引っかかったらしく、京子も直也を追って行ってしまったので、結局、残ったのは俺と玲音の二人だけ。

 

「…………むー」

「え? いきなり抱き着いてきて。どうしたのさ、玲音さん」

「…………私の」

「ん?」

「私の、だよね?」

 

 まったく、直也もそうだが、玲音もきちんと主語とか目的語をきっちりと話して欲しい物だ。言葉という奴は割とすれ違いやすい意志の伝達方法なのだから。

 でも、まぁ、それでいいのだと思う。

 最終決戦前の、世界の命運がかかった割とシリアスな時だけれども。

 俺たちはこんな感じでいい。

 

「ああ、そうだとも。玲音、俺はお前の物だし、お前は俺の物ってことで」

「…………にひっ」

「おー、同じ背丈で抱き合うのってなんか新鮮」

 

 ぎゅう、と体全体に、柔らかく伝わってくる玲音の体温を感じながら。

 俺は、たまにはTSも悪くないと思ったのだった。

 

 

●●●

 

 

「………………あの、すみません、玲音さん。そろそろ離していただけると? こう、三十分間もこのままなのですが」

「近場の温泉。夕方。近所の女子高校生たち」

「………………な、なんの、ことでしょう?」

「女湯、入りたいの?」

「あ、あああ、憧れは止められないんだ! 男の! 憧れなんだ! 折角、TSしたのだから、俺は憧れを追い求めてやる! 例え、この股間に逸物が無くとも! 魂に逸物があるのならば、それはきっと、追い求めるに足るロマンなんだよ!」

「………………家の、お風呂で、一緒に入ってあげるよ?」

「はい、諦めましたぁ! ロマン? 憧れ? はっ、馬鹿らしい! 目の前の安定に比べれば、どうでもいいね! 中年、老年が徘徊する女湯の中を冒険する必要性なんざ皆無だね!」

 

 なお、この後、目隠しをされながらお風呂に入れられるというよくわからないプレイをされた俺である。

 願わくば、この記憶が薄れない内に、早く男に戻りたいものだ。

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