【ペルソナちゃん】と会話を長く続けると、ごく稀に、【ペルソナちゃん】から貴方へ、能動的に語り掛けてくることがあるらしい。
曰く、
『理想の貴方と、繋がりたいですか?』
【ペルソナちゃん】のアバターは、何時も変わらず。けれど、その声は合成音声では無く、【れいん】の声で尋ねてくるらしい。
この問いかけに、肯定を示す返答を送ると、貴方の意識が『別世界』に送られるらしい。
その『別世界』がどんな場所かは、定かでは無い。だけど、その『別世界』で何か、特別な物を拾ってくると、元の世界に戻って来た時に、『理想の自分』になれているのだとか。
だけど、一つだけご用心。
送られた先の『別世界』で、【れいん】に会ったら、絶対に口を利いてはいけない。
何故なら、その【れいん】は、偽物で、貴方の魂を狙う悪魔なのだから。
…………という、都市伝説をつい先ほど、親友から聞かされたわけなのだが、ふむ。
「えっと、話の流れ的に、最近流行っている自殺騒動で死んだ人ってのが、その、『別世界』で【れいん】に連れて行かれたってこと?」
「実際には知らん。だが、自殺者の自称親類や、友人たちがネットにリークした話では、そうなっているらしいな。どれも、同じ内容の遺書が――『あなたに、あいにいくよ』という一文だけ書かれた物が残されて、後は各々の自殺方法で。しかも、死に顔は苦しむことなく、むしろ、愛しい誰かに会えたような安堵感で満ちていたらしいぜ?」
京子は、「ま、どこまで本当かはわかんねーけどな?」と前置きした後、鋭く玲音へ視線を向けた。
「でもよ? 流石に、これだけ怪しい噂が漂っている中で、『岩倉玲音』なんてあからさまな名前で、しかも、人間かどうかもわからない奴がいるんだぜ? やばすぎるだろうが」
「ふうむ」
いつになく、真剣な京子からの忠告に、俺はしばし考え込む………五秒ほど。
「玲音、実際どんな感じ?」
「…………」
五秒ほど考えた後、話題の中心人物である玲音に質問してみたけれど、微妙な表情を返された。そう、例えるのならば、通学中に友達から「今日さぁ、夢でさぁ、美少女がさぁ」と、訊いてもいない夢の中での美少女とのエピソードを語られた時の京子みたいな表情だ。
つまり、玲音にとって、今の話題はクソどうでもいいという扱いになっているらしい。
それ以前に、『そんなことよりも買い物はまだー?』と、催促するように、俺の上着の裾を引っ張る始末だ、やれやれ。
「なぁ、京子。こいつは大丈夫じゃね?」
「…………むしろ、なんで私はお前が大丈夫なのかと問いたい」
「そりゃあ、部屋にいきなり見知らぬオッサンとか、グロテスクな怪物が居たら驚くし、嫌だけど、今のところは俺が性欲を持て余すのと、家計に微妙にダメージが入っている以外は、特に問題無いし」
「これから、そいつと居ることによって何か問題があるかもしれねーぞ?」
「んー、でもさぁ」
俺は玲音の頭に、ぽんと優しく手のひらを乗せてから、言う。
「まだ起こっても居ない問題に怯えて、大の男が女子中学生を追い出すなんて、クソダサくない?」
「……はぁ。またお前は余計な厄介事を。それで、お前は良くても、お前の周りの人間が迷惑をこうむったらどうする?」
「え、謝る」
「謝れない状態だったら?」
「そうなる前に助けるよ」
「助けられなかったら?」
「あちゃー、って思う」
「…………本音は?」
「わぁい、落ちもの系美少女だぁ! これで、俺も今日からジュブナイルの主人公だぜ!」
「せいっ」
京子の拳が、俺の鳩尾にめり込んだ。
そこそこ痛い。こいつ、インドア系の癖に、なんでか、俺に対する攻撃だけパワフルなんだよなぁ、不思議。
「無意味にお道化るな、馬鹿! どうせ、『巻き込まれたなら、トラブルの中心に自分が居れば、何か起こった時、対処しやすくなる』とでも思っているんだろうが、お人好し! それで、今までどれだけ厄介事に巻き込まれた?」
「知りたいかね? 今日までに五十三回だ」
「いい加減、学習しろよ」
「厄介事や問題を解決すれば、物語のヒーローみたいにモテると思ったんだけどなぁ。なんで、彼女が出来ないんだろう?」
「そりゃお前、滲み出る童貞としてのオーラだよ」
「童貞のバッドステータス強力過ぎじゃない?」
俺は深々とため息を吐く。
おっかしいなぁ。中学時代に思いついたモテモテになるためのナイスアイディアだと思って、地道に体を鍛えながら実行していたのに、彼女の一人も出来ないんだもんなぁ。試しに、クラスの可愛い女の子に告白しても、「ごめん、馬鹿枠はちょっと」と言われる始末だもんなぁ。なにその、俺が知らないクラスカースト。
「ちっ、露骨に落ち込んでるんじゃねーよ、めんどくせぇ」
「落ち込ませた張本人なのに、なんて理不尽」
「うるせぇ…………いつも通り、手伝えそうなことは手伝ってやるから、それでいいだろ?」
悪態を吐きつつも、京子は俺へのフォローを忘れない。
京子は口が壊滅的に悪く、態度も乱暴な内弁慶なのだが、本人が散々、『やばい』と言っていた案件に関わろうとする馬鹿を見捨てないから、親友なのだ。
だから、俺は早速、遠慮なく親友を頼ることにした。
「んじゃあ、生理用品を見せてくれない?」
「死ね。つーか、殺すわ」
玲音の生理用品とか、どうやって買うのかわからないし、姉さんに聞いたら間違いなく怒られるし、母さんは用事があって忙しいし、とりあえず、どんな感じの物を使っているのか見せて欲しいと頼もうとした結果がこれである。
俺は、こちらの首を積極的に絞めようとする京子の魔手を防ぎつつ、もしかしたら、こういう所がモテない原因なのかもしれない、と自省した。