岩倉玲音と俺の夏休み。それとペルソナぁ!!!   作:げげるげ

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終わりの時間です。
今まで、お付き合いいただいた読者の方々へ、最大級の感謝を。


エピローグ 夏が終わって、世界が廻る

 長いようで短い、とある愚者との戦いは終わった。

 あれから葛葉の人たちが調査した結果、ワイヤードという異界は完全に崩壊し、また、【ペルソナちゃん】のアプリは一斉にその機能に不備が起こり、動かなくなったという。

 また、ワイヤードの崩壊と共に、俺たちはペルソナ能力を失った。

 

「ちぇっ、折角便利な武力だったんだけどな…………ま、過ぎた力は身を滅ぼすって言うし。いや待てよ、ペルソナ能力を得た感覚を利用して、人類の集合的無意識から悪魔を引き出すプログラムとか出来そうだな……」

 

 京子は少し残念そうにしていたけれども、力に固執していないらしく、あっさりと興味を違う物に移していた。

 のちに、この発想から作り上げた【悪魔召喚プログラム】という、恐るべきアプリを巡ってまた一波乱が起こるわけだが、それはまた別の話。

 夏休みが終わっても、相変わらず、中島京子は俺の相棒として共に在る。

 

「僕としては、罪の証みたいな物だったからね。消えてくれて助かったというか、やっと、贖罪の一部が終わったという気分になったよ。ま、元々、僕はこの美貌とコミュ力で勝負するタイプの人間だったからさ。武力なんて無粋、無粋…………ところで、その、もうTSはしないんですか?」

 

 力を失っても、直也は全然変わらない。

 いや、既にあの時からもう変わっていたので、これ以上変わる必要が無かったのだろう。あいつは死を受け入れて、死を恐れて、それでも、前に進むことを覚えたのだ。だったら、もはやタナトスは必要ないということだったのかもしれない。

 結城直也は、夏休みが終わっても相変わらず俺の悪友として、ろくでもないことをやらかしている。

 それと、TSはしない。代わりに姉を紹介してやろう。

 

「………………そう、か。結局、スケッチブックは見せないまま……いや、これでよかったんだ。俺の絵を見てしまえば、きっと、叔父は再会の前に終わっていた。それよりは、うん、そうだな。綺麗な終わり方だ。その光景を見られれば、絵にしたのだが…………ふっ、これも無粋と言う奴か。君たちに託した俺としては、このぐらいの終わりがちょうどいい」

 

 忍さんは、開くことが無かったスケッチブックを受け取ると、何処か悟ったように笑みを浮かべた。その後は、あっさりと「世話になったよ、ありがとう」と俺の家から出て行き、大学近くのマンションに戻ったらしい。

 後に、『鴉宝石店』としてではなく、有栖川忍の名でサインされた一枚の絵が俺の下に届いた。

 その絵は、とある高校生三人組と、一人の少女が楽しそうに夏休みを過ごす、その日常の一瞬を切り抜いたようで、モデルとなったと思しき人物たちからは大好評だった。

 冬頃、画展を開くらしいので、いつものメンバーで冷やかしに行くとしよう。

 

「ねぇ、刑事さん。俺は思うんですよね。あのペルソナ能力ってのは、ひと夏の幻みたいな物だったんじゃないかって。何か、とてつもなく巨大な何かが、俺たちの想いに応えて、ほんのひと時だけ力を貸してくれたからこそできた産物なんだって。だから、俺たちが戦いを終えた後、あの力はなくなったんだって」

「晴幸君」

「はい」

「大きな声で、『ペルソナ』って言ってみてくれる?」

「………………ペルソナぁー」

「もっと、大きな声で」

「…………………………ペルソナぁ!!!」

 

 ――――カッ!

 

『我は汝、汝は我。深き海の底に落ちようとも、望むのならば、汝の裁きは共に在る』

「………………」

「出ちゃったわね?」

「はい」

「どうして隠していたの?」

「だって、絶対、拘束するでしょう? 危険人物として一生監視されるでしょう?」

「そんな酷いことはしないわ。ただ、自主的に協力してもらうだけ。でも、安心して? 我々ヤタガラスは昨今、空前絶後の人員不足なの。だから、就職内定おめでとう。安心して? 給料だけは各段に良いから、あの組織」

「ブラックを通り越して、ダークネスな業務内容じゃないですか、やだぁ!!」

 

 一つだけ前言を撤回しよう。

 京子と直也はペルソナ能力を失ったのだが、何故か、俺は失わなかった。いや、感覚としては、失った感があって、「ああ、終わったんだな」と思っていたのである。実際、夏休みが終わってしばらくの間は出てこなかったし。けれど、しばらく経ってから、テレビのリモコンを座ったまま取るために、試しに「ペルソナぁ!!!」と叫んでみたら、なんか出てきて、普通にリモコンを手渡してくれたのだから、驚きである。

 まぁ、ワイヤードが存在していた時よりは明らかに燃費が悪くなっているので、弱体化はしているのだろう。代わりに、遠隔操作とか、遠隔召喚みたいなことが出来るようになったので、学生にも関わらず、遠慮なくバイトという名目でぶち込まれる悪魔事件に関しては、この遠隔ペルソナで対応している。ついこの間、自宅のトイレで気張りながら、遠隔操作で魔王を倒した後から、同僚の人から人外扱いされるようになったのは納得していない。

 そんなわけで、俺、天原晴幸は夏休みが終わっても、相変わらずの毎日である。

 

「高校生」

「いや、玲音。待って? 無理がある。その発育不全気味の肉体で高校生は無理があると思うよ?」

「病弱設定」

「うーん、いけるかなー? いけっかなー?」

「…………同じ、クラスがいいの」

「うわぁあああああ!! 玲音の上目遣いからのおねだりだぁ! 上目遣いが全然できなくて、軽くジト目になっているけど、そこが可愛らしい! よぉし、俺ってば葛葉の人たちに何とかお願いして、そういう戸籍を作ってもらうぞー!」

 

 そして、玲音も概ね普通の女の子になった。

 たまに神出鬼没だったり。明らかに、十分しか席を外していないのに、沖縄限定のお土産を手に持っていたり、コンビニ感覚で何処かの秘境からお土産を買ってきたなどする以外は、概ね普通の女の子である。なお、年齢は俺と同じ。誕生日も俺と同じということにしたらしい。わぁい、お揃いだけど、若干重たい何かを感じるぞー!? だが、その重さが心地よいと悪友に語ると、「お似合いだよ、馬鹿」と笑われる今日この頃である。

 

「初めまして、岩倉玲音です。そこの馬鹿の恋人です。よろしく」

『え、えぇえええええええええええ!!!?』

 

 ちなみに、玲音は夏休みが終わってからすぐに俺のクラスに転校してきた。

 転校した直後から、初っ端から色々とぶっ放すロックなスタイルの転校生であり、この後、俺と玲音がセットで質問攻めにあったことは言うまでもないだろう。

 

「うわぁああああああああ!! そんな噂が夏祭りの時に流れたと思ったら、真実だった!」

「馬鹿が!? この馬鹿が恋人!? あ、あああああああああ!!」

「ちくしょぉおおおおおお! 先越されたぁああああああああ!!」

「ロリの遺伝子に惹かれるんだねぇ」

「巨乳派だと思っていたら、貧乳派…………いや、愛か」

「あの玲音って子、そっけないふりして、完全に晴幸を尻に敷いているぞ……ああ、何せ、休み時間に物理的に尻に敷いていたからな……晴幸ェ」

 

 こんな感じで、岩倉玲音は俺の隣に居る。

 夏休みが終わっても、俺たちの日々は騒がしく。

 けれど、欠けることなく。

 秋になっても。

 冬になっても。

 春が来ても。

 また、夏が巡ってきても。

 

「今後ともよろしく、ハルユキ」

「こちらこそ、玲音」

 

 君が望む限り、俺は君の傍に居よう。

 契約通り、君を、独りにしないために、さ。

 

 

●●●

 

 

 少しの時間が流れた後の話をしよう。

 例えば、とある東北の田舎にある、騒がしい家庭の話をしよう。

 

「馬鹿親父ぃいいいいいいいいいい!! 俺のエロ本を茶の間に並べたのはテメェかぁああああああああああ!!」

「はっはー! そうだとも、馬鹿息子よ! 相変わらず、隠し方が甘いな! 後、俺のエロ本を持ってってもいいけど、ちゃんと棚に戻せよ!」

「うるせぇえええええ!! 思春期の中学生ハートをもっと考慮しろよぉおおおお!!」

「ちょっと、お兄ちゃんうるさい、死ね!」

「死ねはひどくない!?」

「じゃあ、裸になって手を後ろに回して? 手錠するから」

「親父ぃいいいいいい!! アンタの娘のツンデレの緩急が激しいよぉおおおお!! 殺意と近親相姦の温度差っておかしくね!?」

「お前の妹だろう、自分で何とかしなさい」

「あんなに可愛かったのに、どうして俺の童貞を狙うようになってしまったんだ!!?」

 

 ぎゃあぎゃあ、毎日騒がしく、喧しく、けれども愉快な家庭のお話だ。

 長男は元気があり余り過ぎて、時々、女悪魔に童貞を狙われる中学生男子。片思いの同級生が居るらしく、女悪魔のエロスに抗う日々が続いている。

 長女は、ちょっと頭のおかしな小学校六年生。兄とは一つ違いの年の差である。最近、胸の中にわだかまる想いが爆発して、ちょっとあれなツンデレと化した。なお、兄の童貞を狙っているのは半分ぐらい冗談である。

 

「はっはっは、相変わらず俺たちの子供は元気がいいなぁ。な? 母さん」

「そうですね、お父さん」

 

 そんな二人の様子を眺めるのは、一見普通の夫婦だ。

 ガタイが良く、無駄のない引き締まった筋肉を有する中年と、その傍らで柔らかな笑みを浮かべる美しい女性。

 周囲からは、美女と野獣などと揶揄されることもあるが、実際の夫婦間のバランスとしては、猛獣使いと調教済みの大型犬だということを、夫婦と近しい者たちは知っている。

 

 ――――ザザザッ。

 

 そんな家族団らんの家の中で、僅かなノイズが発生する。

 まるで、世界が止まったような錯覚。

 誰しも気づけない世界の間隙の間に、一人の少女が妻の傍らに現れる。

 少女は、静かに妻へと微笑みかけて、一つ、問いかけた。

 

『ねぇ、幸せ? 天原玲音』

「見てわからない? 岩倉玲音」

 

 少女の問いに、妻はにひっ、と幾つになっても直らない邪悪な笑みで応えた。

 

「あぁあああああああ!! 岩倉ちゃんだぁ!! ひゃっほう! 遊びに来てたんだ!」

「あ、久しぶりっすね! 岩倉ちゃん!」

「あのさ、こっそりと娘に会いに来る感覚なのは良いけど、気付かない振りをして欲しいなら、演出考えた方が良いよ? 俺は大人になったからある程度空気を読んであげるけど、子供たちは御覧の通りだから」

『……………………ばーか!!』

 

 その後、実は出現に気づいていた家族からのアタックにより、少女は拗ねた表情で、幻影の如く消え去っていく。

 なお、少女当人は、子供たちから座敷童的な存在であると認知されて、懐かれているのを知らない。

 

「ちぇー、残念。久しぶりに岩倉ちゃんと遊びたかったのに」

「岩倉ちゃんにも都合という物があるだろう、妹よ」

 

 そんな様子を、夫婦は揃って苦笑して愉快そうに眺めている。

 きっと、幾度も世界の危機が訪れようとも。

 絶望の足音が、これ見よがしに踏み鳴らしても。

 天原という名の家族は、鼻歌交じりに超えていくだろう。

 何せ、天原晴幸という、稀代の大馬鹿野郎が作り上げた、幸せの形なのだから。

 

 

●●●

 

 

 かくして、物語の幕は下りる。

 一人の馬鹿が、世界を鼻歌交じりに救って見せた喜劇の。

 あるいは、騒がしい夏休みのジュブナイルが。

 

 もしくは、たった一人の少女が生まれ変わるための物語が。

 ある意味では、喜劇。

 ある意味では、他愛ない日常。

 ある意味では、神話の如く。

 

 しかし、あえて、この物語に題名を付けるとしたら、体裁を整えて、こうするとしよう。

 

 女神のペルソナ(仮面)が、たった一人の人間として、愛しい異邦人と添い遂げるために生まれ変わる、一風変わった物語。

 故に――――――【女神転生異聞録ペルソナ】と。

 




蛇足的なおまけもあったりします。
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