岩倉玲音と俺の夏休み。それとペルソナぁ!!!   作:げげるげ

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ようやく、ペルソナらしくなって来ました。多分。


第7話 自分と向き合う系の覚醒シーンは、馬鹿にはあんまり意味が無い

 率直に言って、厳しい状況だった。

 体中が鈍痛で疼き、動けはするものの全力は出せない。

 加えて、敵対者であるゴスロリ少女の動きは、速い。速すぎるほどに。

 

「あはははははっ! 先ほどまでの威勢の良さはどうなさったのです!? これじゃあ、只の嬲り殺しですわよ!?」

 

 人の限界を超えるほどに、速い。

 こちらが瞬き一つする度に、相手は十数メートルほどの距離を移動していて、日傘の鋭い突きをこちらに食らわせてくる。

 幸いなことに、急所は勘で外し。鋭い日傘の突きは、筋肉の鎧で防いでいるのだが、このままではいけない。ジリ貧だ。

 

「くっ……せめて、俺が全力を出せれば……どこかの誰かさんたちが、敵と一緒に俺をボコボコにしなければ! あーあ! 全力を出せていれば、まだ対抗手段があったのになぁ!」

 

 なので、俺は戦闘不能となった主な原因に対する二人に対して、露骨に非難の視線を送る。

 あー、せめてなー? もうちょっとなー? 君たち二人が、手加減してくれればなー? ゴスロリ少女の攻撃を耐えることに集中して、戦闘不能にはならなかったのになー?

 

「…………」

「真面目にやれ、馬鹿」

 

 なお、玲音も京子もリアクションが冷たい。

 玲音は侮蔑を含んだ視線で此方を見て来るし、京子なんかはまるで俺がふざけているような始末。いやいや、マジで痛いんですよ? おまけに速いしこいつ。

 だから、まぁ――――目が慣れるのに、時間がかかったんだ。

 

「あはははっ! さぁ、これでフィニッシュ――う、ううお!?」

「いえーい、見切った」

 

 人外の領域に踏み込んでいるほどの、高速移動。

 けれど、人はやろうと思えば、高速で動く物体だってバットで打ち返せる。その移動が、分かり易く直線的だったら、尚更だ。

 故に、俺は日傘の突きを紙一重で見切って、力任せに掴み取った。

 

「んなっ!?」

 

 ゴスロリ少女の驚愕の声。

 力任せの蛮勇の代償として、俺の右掌はずたずたに切り裂かれたが、問題ない。所詮は薄皮一枚。肉までは損傷していない。

 

「うお、らぁあああああっ!」

 

 そして、この千載一遇のチャンスを逃すほど、俺は馬鹿では無い。

 あの高速移動は直線的。しかも、動くには膝を曲げておかなければならないという準備行動がある。つまり、至近距離ならば、高速移動で逃れる前に、攻撃が可能。

 喉からせり上がるのは、咆哮。

 俺は加速する思考の中で、左手のひらを鞭のようにしなやかなにしならせ――――すぱぁん、とゴスロリ少女の尻を勢いよく叩いた。

 

「みぎゃん!?」

 

 尻尾を踏まれた猫みたいな悲鳴が、ゴスロリ少女の口から叫ばれる。

 正直に言おう。

 俺とこのゴスロリ少女との相性は、悪い。戦闘の相性以前に、俺は自分よりも年下の女子を殴ることは出来ない。せめて、同い年か、年上で会ってくれれば、遠慮なく腹パンかませるのだが、相手はまだ幼い外見の少女だ。甘いと思われても、暴力を振るうなんてことは到底、俺には出来なかった。

 だからこその、スパンキングである。

 古今東西、悪いことをした子供に対する罰というのは、お尻ぺんぺんだと決まっている。

 つまり、外見幼い子供だったとしても、スパンキングによる愛の鞭ならば、許されるのだ。少なくとも、俺の良心は許してくれる。

 

「お、おおおおおおおおおっ」

「みゃぁあああああああああああ!!?」

 

 すぱーん、すぱーん、すぱーん、と俺はゴスロリ少女を逃がさず、尻への攻撃を緩めない。

 分かっている。相手の方が速い。今の有利は、一瞬の隙を突いただけの有利。しかも、俺は自身の心情で、相手を一撃で叩き伏せる攻撃が出来ない。

 なら、やることは一つ。

 幾度もスパンキングを繰り返し、相手を逃がさない。

 そして、相手の心が折れるまで、何度も攻撃の手を緩めない。

 例え、玲音や京子からの視線がより一層冷たくなったとしても、だ!

 

「お前の! 心が! 折れるまで! 俺は! お前の尻を! 叩くのを! 止めない!」

「みゃっ! やめっ! ひぐっ! いたぁ! ワタクシのっ! おしっ! みぎゃあ!?」

 

 幾度もスパンキングを繰り返していく内に、俺は手ごたえを感じていた。

 相手の臀部を叩いた衝撃では無く、俺のスパンキングが相手の精神まで響いている、という確信だ。もう少し、あと、もう少し、恐らくは後十発で、ゴスロリ少女の心は折れ――

 

「いい加減に、するんですのぉおおおおおおおっ!!」

 

 勝機を見出した瞬間、俺の体は謎の衝撃によって吹き飛ばされて、ごろごろとアスファルトの路面を転がった。

 

「ち、いっ!」

 

 ある程度転がった後、そのままの勢いを利用して立ち上がり、すぐさま体勢を整える俺。

 一体、何があった? まるで、ゴスロリ少女の体から、いきなり爆風が巻き上がって、俺が吹き飛ばされたみたいな現象だった。

 

「ゆ、許しませんわ、絶対……これでもワタクシ、ナイツの中では穏健派であると自称していましたのに、ここまでの屈辱を受ければ、もう、殺すしかありませんわ。【岩倉玲音】を除いて、皆殺し、ですのっ!」

 

 俺の視線の先に居るゴスロリ少女の周囲が、おかしい。

 両目から――眼帯の下からも――涙を流しつつ、左手で軽く突き出したお尻を抑えるという、情けない格好であるというのに、ゴスロリ少女の周囲に凄まじい竜巻現象が起こっている。

 明らかに、非現実的な、現象。

 控えめに言っても、命の危機を感じるれべぇ事態である。

 

「おい、馬鹿晴幸っ! やばいぞ、逃げろ!」

「……あー、逃げろとおっしゃられましてもねー?」

 

 俺が逃げたら、まず京子が殺されるパターンじゃん、これ。

 ヘイトを取った者の義務として、せめて、最後まで対峙しないとね。

 

「真名解放」

 

 そして、俺はそれと対峙することになった。

 

「ペ・ル・ソ・ナ」

 

 ゴスロリ少女の口から呟かれるのは、四文字の単語。

 荒々しく眼帯をむしり取った先に見えたのは、金色の瞳。人間のそれでは無く、猛禽類の如き、それ。

 

「来なさい、我が半身――――ガルーダ」

 

 ゴスロリ少女の言葉と共に、突風が辺り一面を吹き抜けた。

 荒々しい風。

 無数の竜巻。

 それらを制するように、ゴスロリ少女の傍らに出現したのは、金色の大鷲だった。

 だが、それは恐らく、動物では無い。いや、あの餓鬼みたいな怪物の同類ですらない。そんなのとは比較にならない、圧倒的な威圧を金色の大鷲から感じていた。

 

「ガルーダ。疾風を纏いし刃で、愚か者を切り刻みなさい」

 

 金色の大鷲の羽ばたき。

 生じるのは、明らかに異常な風。竜巻。

 俺は、それを苦笑しながら、さて、どうするかと身構えて、

 

『理想の貴方と、繋がりたいですか?』

 

 聞き覚えのある、誰かの声が聞こえた。

 

 

●●●

 

 

 気づくと、俺は教室に居た。

 自分の学校のそれじゃない。何処かの学校の教室。見覚えは無い。ついでに、人影も無い。窓から外を覗くと、ざざざざざあ、という土砂降りの雨が降っている。

 こんな雨じゃあ、傘なんて意味ないな、などと思っていると、ふと、声が聞こえた。

 

「理想の貴方と繋がるには、試練が必要です」

 

 声の方向に視線を向ける。

 俺の右隣の席。机の上に、お行儀悪く座っている、玲音――――いや、【ペルソナちゃん】が、不気味な笑みを浮かべて俺を見ていた。

 

「理想の貴方になるためには、弱い貴方を殺さなければいけません」

 

 彼女の手に携えられているのは、一丁の拳銃。

 黒くて、重々しい、人殺しの道具。

 警察官などが良く持っているような、小さくて、けれど、人を殺すのには充分な口径のそれが、何故か、【ペルソナちゃん】の右手にある。

 

「ほら、殺すべき貴方の弱さが、そこに居ますよ?」

 

 【ペルソナちゃん】から、左手で指差された先。

 俺の背後の席。

 そこには、『学生服姿の俺』が居た。

 老け顔で、ガタイが良く、筋肉質。間違いなく母親の血を引く、巨体の俺だ。少し、考え事をしていて仏頂面になると、友達から「ねぇ、怒ってる?」などと言われてしまうこともあるので、普段から気を付けて愛想よくしなければならない。

 そんな『俺』が、にやにやと厭らしい笑みを浮かべて、俺を見ていた。

 

「さぁ、目を逸らさず。まずは見つめてください。貴方の弱さを。普段、目を逸らしている部分を。知ってください」

 

 淡々と紡がれる、【ペルソナちゃん】の言葉。

 それに応じるように、『俺』が口を開いた。

 

「――――――玲音の鎖骨は、エロい」

 

 おい、何言ってやがるんだ、この馬鹿は。

 

「くく、くくくくっ。なぁ、俺よ、随分格好つけているみたいだが、俺自身は誤魔化されないぜ? どれだけ心の中で目を背けようが、『俺』は知ってんだ。そう、玲音ぐらいの年齢の女の子でも、実はストライクゾーンに入っていることをな!」

「さっきまでのシリアスな空気をぶち壊すのやめようぜ、『俺』」

 

 あまりに予想外の発言だった所為か、【ペルソナちゃん】の笑みが崩れて、侮蔑の視線をこっちに向けているじゃないか、まったく。

 

「いや、でも、何となくわかるよ、これ。あれでしょ? 過去の自分と向き合って、こう、なんやかんやするの。なんかこう、自分の目の背けて来たことに対して、決断を迫られる感じの奴でしょ? だったら、せめて、もう少しシリアスなのを出してよ」

「く、くくくっ、馬鹿だな、俺は。この俺たちに、シリアスなトラウマっぽい過去があるとでも?」

「いや、いやいや、待とう。なんかはある、なんかはあるでしょ? ほら、悩みなく馬鹿面晒して今まで生きて来たわけじゃないしさ! 過去にそれなりに悩んだり、色々事件に関わったり、人の闇に触れて来たこともあったじゃん!」

「全部、その場のノリで解決してきたじゃん。特に後悔とかもなく、普通に良い思い出として消化して、今まで生きてきたじゃん」

「た、他人と自分との違いとかは!? ほら、俺って他の人より頑丈だし!」

「頼りにされることはあっても、恐れられることはあんまりなかっただろうが。基本、俺って温厚な馬鹿だし。むしろ、恐れられているのは性癖の寛容さぐらいじゃない?」

「性癖の寛容さ!?」

「うん、だからもうそれで行こう? 性癖関係で、過去と向かい合うイベントやろう? 諦めよう? これが俺だよ」

「…………んー、まぁ、しょうがないよなぁ。じゃあ、リテイクで」

 

 こうして、自分会議の後、俺はシリアスなイベントをリテイクすることにした。

 

「く、くくくっ! いい加減認めるがいい! 玲音の発育不良な肉体の絶妙なエロさを! 玲音と暮らすことにより、お前の性癖は広がったのだと!」

「だ、駄目だ、そんなの……っ! 俺は、貧乳よりも! 胸が大きいのが好きで!」

「おいおい、目を逸らすなよ。おっぱいの大きさ? ああ、確かに、お前は巨乳が好きだっただろうさ、今まではな? だが、お前は成長したのさ。成長したことによって、より多くの胸を愛することが出来るようになった。そう、膨らみかけの玲音の胸ですらも!」

「ぐっ! つまり、このまま成長するといずれ、京子の無乳にも性的興奮を!?」

「や、流石に虚無に対してムラムラしない」

「ですよねー」

 

 俺と『俺』は、それっぽくシリアスを装った会話をしつつ、ちらりと横目で【ペルソナちゃん】の様子を伺う。

 さぁ、イベントを進めてくれても構わないのよ? と露骨に視線をちらちら送る。

 

「…………ばーか」

 

 なお、【ペルソナちゃん】は可愛らしい罵倒を一つ残すと、その場から煙のように消え去った。

 え? この後、どうすればいいのん?

 

「おーい、『俺』よ。なんか居なくなったんだけど? え、大丈夫? この後のイベント進行大丈夫?」

「やー、そもそも、お前が『俺』を認めている時点で、既に終わっているというか、開幕で終了したから、あちらも何もすることが無かったというか、うん。とりあえず、覚醒イベントは終わったから、現実に帰りなさい」

「もっと格好良く覚醒したかったんですけど!」

「仕方ないじゃん、それが俺だ」

「まぁ、分かるけどさぁ」

 

 肩を竦める『俺』の言葉を受け入れ、俺はため息を吐く。

 無人の教室。

 窓の外に降りしきる雨。

 そうだ、何時までもこんなところで一人漫才している場合じゃあない。

 

「覚醒の言葉は分かっているな?」

「流石にね。馬鹿の俺でも分かる」

「じゃあ、元気よく、吠えるように叫ぼうか。下手に格好つけても、格好付かないのが俺だし。だから、せめて、元気よく」

「ん、分かった。じゃあ、聞いている奴らがビビるぐらいに、大きな声で。せぇーのっ」

 

 故に、俺は叫ぶ。

 この場所で理解したことを。

 自分の中から湧き上がる力を、一つのヴィジョンへ結ぶための言葉を。

 

「「――――ペルソナぁ!!!」」

 

 

●●●

 

 

 湧き上がる力が。

 言葉と共に結ばれた、ヴィジョンが。

 疾風を纏う刃を砕き、振り払ったのを確認した。

 

《我は汝。汝は我。我は汝の心の海より出てし者。冥府より溢れ出た、死者を裁く者、【ヤマ】。共に、か弱き罪の繋がりを断ち切らん》

 

 そのヴィジョンは金髪の偉丈夫だった。

 赤銅の肌を持ち、骨で作られたような荒々しい長剣を携える、審判者。

 ――――ヤマ。

 俺は知っていた。

 そのヴィジョンが、俺の心から溢れ出た、俺自身であることを。

 

「あ、あららららら? おかしいですわねぇ? なんですの、それ? なんですの、その魔力! 意味がわかりませんわ! 宿主? 宿主だから!? そんな、馬鹿な――――自分を殺さず、ペルソナを手に入れることなど、出来るわけが、ありませんわ!」

 

 ゴスロリ少女は、目に見えて動揺していた。

 ガルーダ、と呼んでいたゴスロリ少女のヴィジョンが、ぶれている。ノイズが混じって、まともに形を為せていない。

 それもそのはず。

 俺は、知っていた。

 このヤマが出て来た理由を。

 俺が今、やるべきことを。

 まるで、最初から知っていた事柄のように、俺はこの力の使い方と、使い道を知っていた。

 

「裁定の時間だ」

 

 本体である俺が指差すと共に、ヴィジョンであるヤマが、白亜の長剣の切っ先をゴスロリ少女へ差し向ける。

 それだけで、まるでゴスロリ少女は金縛りに合ったのかのように動けなくなった。

 

「泰山府君の名において命じる。死者よ。自ら、生を放棄した、愚かなる死者よ」

「や、やめっ、嫌だ! ワタクシは! 『私』は! 惨めな自分になんか戻りたくない! やだ! やめろぉおおおおっ!」

 

 

 喚くな、騒ぐな。

 裁定は、覆らない。

 

「――――在るべき場所に、帰りやがれ!!」

 

 俺の言葉と共に、ヤマが振るう白亜の長剣が、ノイズ交じりのヴィジョンごと、ゴスロリ少女を切り裂く。

 裁きを受けたゴスロリ少女は、「うあ」と小さい呻き声を残すと、その場に倒れ込んだ。

 だが、傷は無い。

 血の一滴すらも出ない。

 代わりに、空を覆っていた無数の電線が、伸び切ったゴムのように次々と弾けて、千切れていく。空がひび割れて、コンクリートの路面も、卵の殻の如く、割れて、崩れていく。

 

「よいしょっと」

 

 俺は倒れ込んだゴスロリ少女を小脇に抱えると、次第に酷くなっていく、この場の崩壊を避けながら、二人の下へ向かう。

 呆然と、半口を開けた状態で俺を見る京子の下へ。

 どうしようもない馬鹿を見るような目をしている、玲音の下へ。

 

「…………ふっ」

 

 そして俺は、ニヒルな笑みを浮かべ、精一杯格好つけて上で、二人へ告げる。

 

「――――やりすぎちゃったぜ♪ これ、なんか街が壊れているんだけど、大丈夫かな?」

 

 まず、玲音が俺を逃がさないためなのか、がっしりと背中から俺の腰回りに抱き付いてくる。

 やれやれ、なんでそんな小柄な体なのに、しがみ付かれるとまったく動けなくなるんだか。とても不思議。しかも、片手はゴスロリ少女を抱えているから、元々碌に動けもしないという、ね? あー、しかも、京子さん、グーで素振りしてらっしゃる。あの、グーは駄目じゃありませんか? それはね、拳を痛めるから、止めた方がよろしいのでは――――

 

「少しは後先を考えろ! このっ、大馬鹿者ぉっ!!」

「ぶべらっ!!?」

 

 崩れ行く街。

 ひび割れる空。

 無数の電線が、火花を上げて千切れていく最中。

 俺は、京子から強烈な右ストレートを食らい、ものの見事に意識が暗転した。




主人公のペルソナのヤマは、どちらかと言えばペルソナ罪と罰という漫画版のヤマになります。
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