「守備のタイムお願いします」
「タイム!」
近藤が球審にタイムを要請するとプレイが中断され、大咲も構えたバットを下ろすと、里ヶ浜内野陣がマウンドへ集まっていく。
「夕姫ちゃん、ごめん!」
「か、顔を上げてくださいともっちさん。外野まで運ばれた難しい打球でしたし、捕れないこともありますよ」
申し訳なさそうに謝る河北を野崎が落ち着かせているところに新田が何かを言おうとしたが、言葉が上手く出てこず、誤魔化すように近藤に話しかけた。
「えっと……あいつさっきホームラン打ってたよね。満塁策、だっけ。あれやるの?」
「いや、次のバッターも良い当たり打ってるし、5点目のランナーを二塁に進めてまでやるのは危険だと思うんだ」
「そっか」
「それで守備位置なんだけど、長打が出たら一塁ランナーも還ってしまうから外野は定位置として……内野は前進させたいの」
「……!」
近藤の言葉に皆思いがけないことを聞いた風に眉を上げた。
「二塁経由でのダブルプレーを取りに行く中間守備じゃなく、三塁ランナーをホームで刺す陣形ですか……」
「次の一点を出来るだけあげたくないんだね」
「前出たら、飛んでくるボール速くなるねー」
「よーし、やったろうじゃん!」
口元をミットで隠し相手チームには聞こえないように発せられた各々の意見を聞いた近藤はしっかり頷くと野崎の目を真っ直ぐに見つめた。
「野崎さん。下位打線は低めの制球で抑えてこれましたが、上位はそれだけだと抑えきれないみたいです。なので……ここからは高低に加えて四隅も混ぜていこうと思います」
「四隅……ですか」
「はい。ただ初回のように多投はしないつもりです。もう一度私に……チャンスを頂けませんか」
「そんな……チャンスだなんて。私は近藤さんのリードを信じて投げますよ」
「……ありがとうございます」
野崎の返答に近藤は一瞬柔和な微笑みを見せるとすぐに表情を引き締め直し、集合した内野陣を解散させ、自身もホームに向かって歩いていった。
(この試合……ここまでの私はきっとキャッチャーとしての役割の半分も果たせていない。それは悔しいけど、事実。でもそこで止まっちゃだめだ。初瀬さんの言う通りミスは無かったことにはならない。そしてミスから学べるものもあるはず。だからミスを無かったことにしてもいけない……!)
キャッチャーボックスまでたどり着いた近藤は大咲から見えないように後ろを向いて息をゆっくり吐き出すと、振り返って大きな声を出した。
「ワンナウト! 内野前進、集中していきましょう!」
(……へぇ、さっきホームラン打ったアタシに対して内野前に出すんだ。……上等よ!)
前に出てくる4人の内野手を視界に捉えながら大咲はバットを構え直すとグリップを握る手に力が入った。
近藤のかけ声と前進する内野を通して定位置で構える外野手にも自然と力が入る。
(4点目をやりたくないんだな……。ウチがなんとかしてやる。こっちに打ってこい!)
(さっきは捕れなかったけど今度来たらなんとしても捕ってやる! ランナーだって還さないわ!)
(……凄い緊迫感が伝わってくる。大事な場面だと思うし、出来ればこっちに打って欲しくない、けど……もし飛んできたら。その時はしっかり練習でやってきたことを出したい……!)
近藤はキャッチャーマスクを被るとその隙間から見える一人一人を見渡すようにしながら座った。
(初回のリードは鈴木さんのノートを参考にした……。でもそれだけじゃダメなんだ。野手の守備位置やランナーの有無、目の前のバッターの狙いや野崎さんの状態。今の状況に合わせて私が組み立てるんだ!)
球審からプレイ再開のコールが上げられると一瞬の間を挟み近藤からサインが出される。すると定位置より前に出ていた秋乃が一塁ベースへと向かっていった。
「バック!」
(っと……!?)
野崎の牽制が秋乃のミットに収まるとコーチャーの指示を受けて戻った一塁走者の腕にタッチされる。
「……セーフ!」
(少しでもゲッツー取られないようにと出過ぎたか。ファーストが前出てるとはいえ気をつけないと)
「いいよゆうきー! 白羽の矢が立ったみたいだったよ!」
「そ、それだと小麦さんが何かに選ばれたことになっちゃいますね……」
ユニフォームについた砂を落とすと一塁走者はボールを投げ返す秋乃を見ながらリードを少し抑えて取った。
(初球はここにお願いします!)
(分かりました。近藤さん、私はあなたが構えたところを目がけて……今私に投げられる全力のボールを投げ込みます!)
一塁走者、三塁走者の順に首を動かして確認した野崎はセットポジションからクイックモーションへと入り、足を前に踏み出した。
(どうせ内には来ない! さっきみたいに外一辺倒で来るんでしょ!)
それに対し大咲はバッターボックスギリギリまで足を踏み込み、外へのストレートを待った。
(……えっ!)
そのままスイングに移行しようとした大咲は慌ててバットを止めると体の近くに来たストレートに大きく仰け反る形になった。
(危なっ! 現役人気アイドルの顔にぶつけるつもり!?)
「ストライク!」
「な……」
「野崎さん、ナイスボールです!」
「ありがとうございます!」
球審の判定に不服そうにする大咲を横目に近藤はボールを投げ返した。
(やっぱり四隅はコントロールしきれないか。要求したインハイより高さもコースも中に寄った。それでも1打席目で遠慮なく踏み込んできたバッターに内を見せれたのは大きいはず。インハイの後は対角線のアウトローがセオリーの一つだけど、初回はそれでコントロールを乱した。さらに今はクイックで投げているし、ここは難しいボールじゃなく……)
ボールを受け取った野崎はサインに頷くと今度はあまり間をおかずにボールを投じた。
(真ん中……けど低いか? いや、いけっ……!)
真ん中低めに投げられたストレートに反応した大咲はバットを振り出した。
「……ストライク!」
(くっ、振り遅れた……。このスピードボールを打つなら迷ってる暇はないわね)
(よし! 追い込めた……。でも焦って3球で勝負しちゃダメだ。ここは……)
野崎はボールを受け取りながら息を吐き出すとサインに頷き、一度三塁ランナーの方を見てから長くボールを持つと、3球目のストレートを投げ込んだ。
(……高い!)
「ボール!」
真ん中高めに投じられたボールは大咲の感じた通り高めに外れており、見送られてボールとなった。
(高めに外したってことは最後は低めで勝負してくる? 今の残像に捉われずにしっかりついてく……!)
大咲は一度打席を外して素振りをし、自分の中で捉えるイメージを固めてから打席へと戻った。
4球目。野崎が右足に体重を乗せると近藤が構えているミットを目がけて指先からボールを放った。大咲はそのボールに対しバットを振り出そうとしたが、眉を動かすとバットを止めに入り、スイングが途中で止められると少し動かされたミットの中にボールが収まった。
(く、クロスファイヤー……!?)
左投手から右打者の内角へと投げられた角度のあるストレートに大咲は思わず驚嘆する。
「……ボール!」
「スイング!」
近藤のアピールで球審から一塁審判に確認が行われるとノースイングの判定が出され、2ボール2ストライクとなった。
(くっ……ストライクかボールか際どいとこなのに、バットが出しきれなかった! 変化球は一球も来てないんだし、ストレートのタイミングに合わせて、振り負けずに振り切ってみせる……!)
(内のボールゾーンに構えたら少し中に入ってきたけど、そのくらいのズレは想定してた。……ここは神経使う四隅じゃなく、低めの制球で勝負しよう)
(低めのストレートですね。ミットが少し外気味に構えられてるから、それを狙って……。このバッターに入れにいくのは禁物、練習してきた通りにしっかり腕を振り切るんだ……!)
先ほどホームランを打たれたバッターに対して上がっていく心拍数を少しでも抑えるようにミットを胸の前で構えるとクイックモーションに入り、スリークォーターの投球フォームからボールが投じられた。
(低め……迷うな、いけっ!)
真ん中低めやや外寄りへと投げられたストレートに大咲はシャープなスイングで応じる。ストレートのタイミングで待っていた大咲が振り出したバットはその先でボールを捉えると、すくいあげるようにして弾き返された。
(……!)
野崎は頭上を越えていった打球の行方を振り返って確認するとホームに向かって走り出す。
「センター!」
(と、飛んできたぁ……!)
近藤の声が外野まで届く中、永井はボールを見上げるとその足を後ろに向ける。
(……ダメ! 有原さんや九十九先輩に余分に後ろに下がってって言われたのはあくまで慣れるまで。皆と比べてまだまだかもしれないけど、それでも練習、したんだ。ボールはここに落ちて……くる!)
足の向きを前に戻した永井は一歩分右にずれるとミットを上に構えて落ちてくるボールを待った。
(くうぅ……! 外への踏み込みが少し甘くなって芯で打てなかった……!)
(加奈ちゃんはほぼ定位置のところで構えてる……ここは)
(微妙か……? いや、キャプテンの足なら!)
段々と打球の外野方向への伸びが落ちていき、降下していくボールは永井が構えたミットに収まった。
「ゴー!」
「バックホーム!」
捕球と共にベースの端を踏むようにしていた三塁ランナーがスタートを切るとミットからボールを取り出した永井もホームに向かって送球を行った。
(二塁行くのは……難しそうね)
バックホームに合わせて二塁を窺うように飛び出した一塁ランナーは送球の高さを見て足を止める。送球が内野の位置まで来たところで近藤が指示を出した。
「美奈子、ノーカット!」
「分かった!」
中継に入った新田がカットをやめるとその目の前をボールが通過し、マウンドを越えたところでワンバウンドすると近藤のミットに収まる。既にスライディングを敢行しているランナーに対してホームで構えていた近藤はホームに滑り込んでくる足を押さえ込むようにしてタッチを行った。やがてスライディングの勢いが収まると同時に近藤は立ち上がり、様子を窺っていたランナーが一塁ベースに戻るのを確認する。すると背後から球審の判定が上げられた。
「アウト!」
「……! アウトに……出来た……」
「スリーアウトだー!」
「体格の大きい上級生のスライディング、凄い迫力でした。ですがナイスブロックです……!」
近藤が思わずコールに振り返りすぐには信じられないような様子で目を瞬かせていると秋乃が飛びつくようにして抱きつき、その様子を見た初瀬は穏やかな微笑みをこぼした。後ろからの急な衝撃で少しバランスを崩す彼女の目にカバーに入っていた野崎の安堵と嬉しさが混じったような笑顔が映る。そして目が合うとお互いにミットを合わせ、抱いた感情を分かち合っていた。
「加奈子ー! 良いバックホームだったぞ!」
「やってくれたわね加奈子ちゃん! アタシがやろうと思ったのにー。このこのー」
「わっ……!?」
外野では好送球を見せた永井が両サイドから岩城と逢坂に肩を抱かれ、褒め称えられながらそのまま歩いてベンチへと戻ってきた。
「さてさて永井選手。今のプレーのご感想は?」
盛り上がるベンチで永井が祝福されていると中野がペンをマイクがわりにしてインタビューを始めていた。
「えと……練習でやってきたことが、出来て、その……嬉しくて。後、楽しい……です」
永井の返答に中野だけでなく他の部員も頷いているとまだグラウンドに残っていたナインもベンチに戻ってきた。
「……ね、翼」
「ん……なーに?」
永井の言葉を聞き嬉しそうに頬が緩んでいた有原に河北が小声で話しかける。
「凄いよね、皆。私は……翼みたいにプレーで皆のこと支えたいって、出しゃばって、結局足を引っ張っちゃった……」
「ともっち……」
「東雲さんに経験者が崩れたら試合にならない可能性もあるって言われたのに、全然ダメだよね……」
「それは……違うよ」
「え……?」
「その……確かにさっきまでのともっちは空回りしてた、かもしれないけど。でも皆の支えになるために頑張ろうって気持ちは悪いものじゃないと思うんだ。だからさ……」
上手い具合の言葉が思い浮かばず言葉が途切れた有原だったが、考え込んでいた顔がパァッと明るくなると柵に手をついて声を張り上げた。
「新田さん、流れきてるよ! ピンチの後にチャンスあり! まずは塁に出ていこー!」
「翼……」
バッターボックスへと向かう新田にベンチから激励を送る翼を河北はポカンと口を開けて見ていた。
「私、東雲さんや和香ちゃんみたいにアドバイスとかするのあんまり上手じゃないからさ。キャプテンなのに……なんて思ったこともあったけど、でも誰かが出来ないことを誰かが補えるのがチームなのかなって。そう考えたら、私は私に出来ることをやればいいんだ! って思えるようになったんだ」
「自分に出来ることを……」
声をかけられてベンチに振り返る新田の方に視線を移した河北は先ほどの出来事を思い出した。
(凄い……ストライク送球だ)
「……河北、ちょっといい?」
「新田さん……?」
ピンチを凌いだ喜びを皆が共有する中、新田は永井や近藤のもとには行かず共に二遊間を組む河北に話しかけていた。
「その……ごめん!」
「ええ!? ど、どうしたの……?」
「わたしさ……前にサボったでしょ。サボり仲間が欲しくて普通に行くつもりだった加奈子を誘って、無断で……」
「……そうだね。正直、ショックだったよ」
「う……ホントにごめん!」
「……聞いてもいいかな。どうしてサボったの?」
「……わたし、本気で野球するってことの意味が全然分かってなかったんだ。練習は結構厳しいし、他のことする時間も格段に減って……何より皆凄い熱心に練習してて、わたしはそこまでする覚悟……みたいなものが足りなかったんだと思う」
「……今は、どう?」
「ううん……まだ凄く自信をもってやれる! って感じじゃないんだけどさ。この前試合をスタンドより近いベンチで見て、わたしも……試合やりたいなって思えたんだ。だから今はとりあえず自分に出来ることからやってこうかな……って思ってるよ」
「新田さん……」
(新田さんがサボった時……私自身上手くないんだから練習しなきゃダメだって奮起してたのもあって、大分怒ったし、今もスッと納得はしてない。けど……私も里ヶ浜高校への進学が決まった時に翼と一緒に野球をやりたいって伝えた。でもいざ始めてみるとてんで初心者の私は段々と置いていかれるようになって。その時になってようやく本気で野球をするってことの意味を味わった。だから……覚悟が足りなかったっていうのは分かる気がする。……自分に出来ることから、か)
その出来事を思い返した河北は気持ちを整理すると柵の近くまで行き、息を大きく吸い込んで声を張り上げた。
「新田さん、打てるよ! バット振っていこう!」
「河北……うん! 任せといて!」
新田は声をかけてきた河北と有原の方に軽く手を振ると前に向き直り、右打席へと入っていった。
大咲が投球姿勢に入りボールを投じるとアウトコース低めに投げられたストレートを新田は見送った。
「ストライク!」
(あおい先輩の指示はストレート狙い。けど私は小麦みたいに低めのボールを打ち返すのはまだあんまり上手くない。だから狙いは高めのストレート!)
(ストレート見たか……1打席目と同じ手はどう?)
2球目。内に投じられたボールは弧を描いて真ん中低めへと曲がっていく。このボールも新田は見送った。
「ボール!」
(小麦や逢坂みたいに変化球打つ練習してないし、遅くて当てられそうに見えてもやってきてないんだからわたしには打てない。わたしに出来るのは……)
3球目。大咲が踏み込み縫い目に指先をリリースするギリギリまで乗せたようなストレートがインハイに投げられた。
(高めのストレートを振り抜くことだけっ!)
(振り遅れてる! 差し込んだ……!)
キィン。新田が振り抜いたバットがボールを捉えると打球は一二塁間方向へのライナーとなって放たれた。ややセカンド寄りの打球だったが、飛びついても届かない高さの打球だったためそのまま見送られるとライト前に落ち、ヒットとなった。
「やった……!」
(く……オープン気味に開いてた分、完全には差し込めなかったか)
「新田さん、ナイバッチー!」
河北の声援に新田が大きく手を振って応えているとネクストサークルから初瀬が右打席へ向かっていった。
「阿佐田先輩」
「どうしたのだ?」
「初瀬さんへのサイン、私から出してもいいですか?」
「ふにゃ? いいけど……どうするのだ?」
阿佐田の前に立った鈴木が代わりにサインを送る。すると初瀬は力強く頷いてからヘルメットのつばを掴んだ。
「そのサインは硬球に慣れてない新入部員には……」
「大丈夫です。初瀬さんなら、やれます」
初瀬は息を大きく吐き出してから打席に入るとバットを目と同じ高さに上げ、目線と水平方向に構えた。
(さっきのスイングを見るにこの打者はさほど打撃が上手いタイプじゃない。ここはランナーを進めずにアウト一つ取るわよ)
(簡単にやらせはしない。打ち上げさせるつもりで……!)
大咲が目で牽制するとリードを広げようとした新田の動きが止まり、その瞬間クイックモーションでインハイに投じた。
(芯の先に当てるように……!)
バントの姿勢を崩さずそのままバットにボールが当てられると跳ね返されたボールが大咲の前に転がった。
(二塁で刺してやる!)
「みよ、一塁に!」
「うっ……はい!」
張り切って飛び出した大咲だったが打球の勢いが抑えられており、間に合わないと判断したキャッチャーが一塁への送球を指示した。その指示に従って大咲は一塁に投げると余裕を持って初瀬はアウトになった。
(で、出来た……!)
「わっ……」
初瀬が二塁へと進んだ新田の方を見ながらベンチに戻ろうとすると緊張が緩んだのか足をもつれさせ、慌てて一塁コーチャーを務める宇喜多が支えた。
「だ、大丈夫?」
「す、すいません……。練習でやってきたことが試合で出来て、つい安心しちゃいました」
「……うん……!」
その言葉に宇喜多が何度も頷くと、初瀬は支えてくれた礼を伝えてからベンチへと戻っていった。ネクストサークルから出てきた近藤とすれ違う時に褒められ嬉しそうにしてベンチに入ると中野が近づく前に先に鈴木が話しかけ、互いに練習の成果を嬉しそうに分かち合っていた。
(1アウト二塁か……外野前進、このランナーは還さないわよ)
右打席に入った近藤を見ながらキャッチャーは外野を前に出すと少しずれたマスクを被り直し、気合を入れ直した。
(8番はバントは上手かったけど、スイングはヒットを打てるような感じじゃなかった。となればこの9番は打撃がダメなタイプのキャッチャーでしょう)
大咲がスローカーブを投げ込むと体の方に投げられたボールが弧を描いて内のゾーンへと入り、見送られてストライクとなった。
(さっきの打席は全部見送ってきた。こういう打者にボール球を投げてもカウントを悪くするだけ。次もストライクに……)
2球目。アウトコース真ん中へとストレートが投じられた。
(ストレート来た……!)
近藤はこのボールに踏み込むとバットを上から振り下ろすようなダウンスイングで振り出し、ボールを弾き返した。
(なっ……)
打球は一二塁間へと転がっていく。牽制のために二塁に寄っていたセカンドがその打球に反応して飛びつくと、そのミットの先をボールが抜けていった。
(よし。還れる……!)
「新田、ストップ!」
「おっと……!?」
倉敷の指示で三塁を蹴った新田が慌ててベースへと戻る。ライトからの鋭い送球がホームへと投げられると三塁走者が突っ込んでこないことを確認したキャッチャーが前に出て捕球し、一塁へ投げる構えを見せると一塁を少し回った近藤もベースへと戻った。
(……やられた。8番よりいいスイングするじゃない。せめてさっきの打席、一回でもスイングを見れていれば……)
「みよ、ごめん。判断が甘かったわ」
「大丈夫ですよ! まだ点取られてないですし」
「……そうね。ここで抑えましょう」
「はい!」
ホームのカバーに入っていた大咲とすれ違い様に会話したキャッチャーがホームに戻ると左打席へと入る秋乃を立ったまま見つめる。
(よーし。打つぞー!)
(1アウト一塁三塁。中間守備と前進守備どちらを取る……?)
地面を二、三度足で叩くようにして足場を整えた秋乃を見ながら決断したキャッチャーは指示を送ったのだった。