皆で綴る物語   作:ゾネサー

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ピースの行方

 明條学園との練習試合の翌日。放課後の解放感からなる喧騒が学校を包み込む中、女子野球部の部室では練習試合の反省会を兼ねたミーティングが行われていた。

 

「パームボールは手のひらで打ち出すようにリリースされる。つまり最初の軌道はこうなるわ」

 

 東雲によって評価すべき点と改善点が洗い出され、野崎が投げたパームボールについて鈴木から解説が行われているところだった。ホワイトボードにストレートとして斜め下に向かうように直線的に書かれた軌道と比較するように同じ地点からパームの軌道が書き出されると、リリース時点ではほとんど地面と水平になるように書かれた。

 

「ストレートより高いんですね」

 

「そうね。だからバッターに高いボールだと錯覚させやすい特徴があるわ。けれど回転が少ないし球速も遅いから、リリースしてすぐに縦に落ち始める」

 

 鈴木が書いた線が山なりに下方向に向かっていくとストレートの軌道と交差し、その後も少し歪な弧を描くようにしてパームの軌道が書き終えられた。

 

「私はあの時、チェンジアップの軌道を想定して真ん中低めに来ると思いました。けど実際にはホームベースにバウンドして……」

 

「す、すいません。私も軽く投げたことしかなかったので、まさかチェンジアップじゃないとは知らず……」

 

「チェンジアップはストレートと同じ腕の振りで投げられる球速の遅いボールのことを指す意味があるから、違うわけではないんだけどね」

 

「へー。昨日のエースピッチャーが投げてた変化球と似てるわね。あれもカーブだけど、さらに詳しく分けたらスローカーブって話だったし」

 

「なるほど……」

 

 逢坂の言葉に合点がいった様子で皆が頷くと、ミーティングの最後として東雲が話を切り出した。

 

「今月末には大会が始まるわ。その一週間前に紅白戦を行うわよ」

 

「えー! 今週末にやろうよ!」

 

「……近いわ」

 

 昨日の練習試合を見てやる気が沸いていた有原は東雲に詰め寄るように迫ると、息が届くほどの距離まで近づいたため注意されていた。

 

「はぁ。有原さん……貴女覚えていないの?」

 

「何を?」

 

「試験1週間前からは部活動禁止……つまり今日から試験が終わるまで紅白戦どころか練習も出来ないのよ」

 

「え……ええー! そ、そんなぁ……体動かしたくて堪らないのに、練習も出来ないの!?」

 

「自主練はしても問題ないでしょうけど……」

 

「あ、そっか!」

 

「……でも貴女、そんな余裕ないでしょう?」

 

「う……それは、そのー……」

 

 勉強を不得手とする有原が東雲の指摘から逃れるように目を逸らすと河北と目があった。

 

「翼、現実から目を背けても何も変わらないよ」

 

「ううう……その通りです……」

 

 河北に諌められ逃げ場がないことを悟った有原は観念したように野球道具に伸ばそうとした手を引っ込めた。

 

「これでミーティングは終わりね。今日から試験が終わるまで図書室で勉強会を開くから、予定がなければ苦手なところを教え合う場にしましょう」

 

 鈴木の言葉に各々が返事を返すとミーティングの終了に伴い、我先にと逢坂と秋乃が部室の扉へと向かっていく。

 

「じゃ! 翼ちゃん達、勉強頑張ってねー」

 

「じゃあねー」

 

「待ちなさい。あなた達は強制参加よ」

 

 しかし彼女達が扉にたどり着く前にそれぞれの肩に鈴木の手が置かれ、時が止まったように二人は静止する。そんな体を無理矢理動かすように逢坂が首を恐る恐る振り向かせた。

 

「……な、なんで……?」

 

「あなた達、入部当初からやけに仲が良いと思っていたら……二人とも一学期に同じ追試を受けていたのね」

 

「ええーっ! なんでしってるの?」

 

「掛橋先生から聞いたのよ……。新入部員の中に成績が心配な生徒がいるって話をね」

 

「だ、大丈夫よ! 今回はきっとなんとかなるわ!」

 

「うんうん!」

 

(どこからそんな自信が湧いてくるのかしら……)

 

「言っておくけれど、あまり勉強を疎かにしているようだったらスタメン選考にも響くわよ」

 

「嘘でしょ……!?」

 

「お、おうぼうだー!」

 

「さ、行くわよ」

 

 騒ぐ逢坂と秋乃の背中を押すと渋々といった様子で二人は歩き出した。

 

「あおい! ウチらも行こう!」

 

「慌てることはないのだだんちょー。あおい達にはこのサイコロ鉛筆が……」

 

「いや、今学期からは筆記が多くなるんだ!」

 

「そ、そういえば……でも、あおい達に勉強を教えられる二年生が……はっ!」

 

 彼女達の視線の先には今すぐにでも帰ろうとドアノブに手をかけている倉敷の姿があった。

 

「ま、舞子! ウチらを助けてくれ!」

 

「え……アタシ? そういうのは九十九に……」

 

「九十九は裏切り者なのだ! 生徒会の仕事が忙しくてミーティングにも顔を出してこないのだ!」

 

「それはしょうがないでしょ……。アイツなら事前に断りくらい入れてるだろうし」

 

「というわけで、ウチらを助けてくれないか!」

 

「……悪いけど、アタシは行けないわ」

 

「ううっ……そうか……」

 

「残念なのだー」

 

 岩城と阿佐田がうなだれながら図書室へと向かっていくのを見届けると、倉敷は扉を閉じながら携帯端末を取り出し、帰り道へと歩を進めたのだった。

 

 ノックの音が響き書類作業を進めていた九十九が顔を上げて返事を返すと生徒会室の扉がゆっくりと開かれていく。

 

(あおいか? 事前に忙しいことは伝えておいたのにな……ん?)

 

「会長」

 

「よしてよ。もう会長じゃないんだから」

 

「……そうでしたね」

 

 九十九の予想は外れ視線の先にいたのは元生徒会長である能見志保だった。彼女は栗色の髪を揺らしながら近づくとまだ暖かさの残るブラックコーヒーの缶を九十九の頬に当てた。

 

「もう日が暮れるのに、ずっと作業してたんでしょう? 少し休んでもいいんじゃない」

 

「お気遣いありがとうございます」

 

 九十九が手を添えるようにして缶を掴むと手を離した能見は空いている席に座り、カフェオレを取り出して喉を潤す。

 

「あなたもこれが良かった?」

 

「いえ、苦味がある方が脳がスッキリするのでブラックコーヒーの方が嬉しいですよ」

 

「そこだけは譲ってくれないのよね……って、そんなことを言いにきたんじゃなくて」

 

「何かありましたか?」

 

「図書室で勉強してる時に女子硬式野球部が勉強会を開いてるのに気づいたんだけど、倉敷さんの姿が見当たらなかったのよね。適正審査の時のいざこざがあったから気になって……」

 

「ああ、そのことですか。大丈夫だと思いますよ。特に誰かと険悪な雰囲気になっている様子もないですし、恐らく自主トレをしているんじゃないでしょうか。昨日の練習試合で完投した野崎さんと自分を比べてスタミナが無いことを気にしていたようですし、ランニングをしているのかもしれないですね」

 

「そうだったのね」

 

 思い過ごしで済んだことに能見は安堵の吐息を漏らすと今度は九十九の方から話しかけられる。

 

「私としてはあおいが真面目に勉強していたかが気になりますね」

 

「ええと……あの子か。剣道部のキャプテンの塚原さんに見てもらいながら真面目にやってたように見えたわよ」

 

「……そうですか。良かったです」

 

(おかしいな。ミーティングが終わったあたりの時間にあおいからNINEで『二年生組はだんちょーとあおいのふたりぼっちなのだ! 九十九許すまじなのだ〜』と連絡が来たんだが……塚原さんと親しい岩城さんが呼んだのかな)

 

 唇の下に右手を添えるようにしながら推測を立てた九十九は目線を能見の方に戻すと休憩時間が終わるまで近況を話すのだった。やがて九十九は進んだ時計の針に気づくと能見に提案した。

 

「……会長、そろそろ休憩を終わりにしましょう」

 

「まだクセが抜けないみたいね」

 

「あ……すいません」

 

「相変わらずね。そこまで真剣に謝ることでもないわよ」

 

 本気で申し訳なさそうな顔をする九十九を見て能見は吹き出すと、席を立って出口へと向かっていく。すると思い出したように振り返った。

 

「あ、そうだ。中野さんにあなたの方からフォローを入れてもらえる?」

 

「中野さんに……ですか?」

 

「一度警告はしたんだけどね……図書室で大声を上げていたから外に連れ出して説教しちゃったのよ。大学入試が近づいてピリピリしてる三年生も増えてきているし、お灸を据えないとと思って」

 

(……怒らせてしまったのか。生徒会長を務めていた時、彼女を怒らせるとその真面目さが故に鬼の如き表情になることから『般若(はんにゃ)の能面』を見た者は曲がった志を保つことは出来ないと恐れられたあの人を……)

 

「分かりました」

 

「それと試験勉強に配慮して他の人を早めに帰らせて残って作業してるみたいだけど……あまり無理しないでね」

 

「生徒会と並行して野球部の活動をさせて頂いてますから。その分の作業をするのは当然です。それに……去年の秋に同じことをした方がいましたからね」

 

「確か職務を放棄するわけにはいかないとその指示を聞かなかった人もいたわね」

 

「それは……」

 

「ふふ。その時に比べたらあなたも少しは表情が柔らかくなったわ」

 

「そう……でしょうか。自分では良くわかりません」

 

「変わらないところは変わらないか。でも少しずつ変わっていけばいいと思うわよ。じゃあね、あまり遅くならないうちに帰るのよ」

 

「はい。お疲れ様でした」

 

 部屋を出て行く能見を見送った九十九は先ほど言われたことを反芻するように思い出しながら僅かに口角を上げて作業を再開させるのだった。

 

 やがて日が沈み九十九も帰路についた頃、野崎は高架下へと赴いていた。静かな空間にバットのスイング音だけが響く中、それを遮るような足音が聞こえてくる。

 

「……アンタさぁ。暇なの? 毎週ここに来てるじゃない」

 

「いえ、暇というわけでは……。それに、高坂さんもそれは同じですよ」

 

「アタシは用事が……まあ、別にそんなことはいいのよ」

 

「……?」

 

 乾いた足音が止むと、高坂は目を逸らしながら舐め終えた飴の棒を包装袋にしまい、その視線を野崎が持つバットへと移す。

 

「今日は投げないの?」

 

「はい。今日はノースローでと言われているので……」

 

「ああ。昨日練習試合って言ってたわね。……で、どうだったの?」

 

「7回を投げて3失点でした……」

 

「ふーん……それは自責点も3?」

 

「自責点……ですか?」

 

「……まさかアンタ、ピッチャーやってて自責点を知らないなんて言わないわよねぇ」

 

「……す、すいません」

 

「はぁ……アンタが失点したイニングに3つ目のアウトを取るチャンスがあったらそのイニングのそれ以降の自責点は0、還ったランナーがエラーで出ていたならその失点は自責点に含まれない。本当はもう少し説明必要なところあるけど、とりあえずこの二つね」

 

「そういうものがあるんですね……。ええと、確かにエラーはありましたが……」

 

「なによその曖昧な言い方。はっきりしなさいよ」

 

「トリプルプレーを狙う際にエラーが出て、結果アウトが一つしか取れず……」

 

「随分お粗末な守備ね」

 

「そ、そんなこと……皆さん必死で……」

 

「ふん。そんな甘いこと言ってるからアンタ達の野球はお遊びなのよ」

 

「うっ……」

 

 射抜くように睨み付ける高坂に野崎はその身をたじろがせる。

 

「ま、今はそんなこと言ってるんじゃないの。とりあえずそれがダブルプレー取れるプレーだったとして、アンタの自責点は?」

 

(つまりランナーが後一人減って大咲さんにホームランを打たれたと仮定すると……)

 

「2点……ですね」

 

「……そう。エラーなんてものはないのが当たり前。それで取られた点はそっち側が直すべき欠点よ。だからアンタはその2点を取られた原因を潰しなさい」

 

(……言い方は厳しいですが、指摘として言っていることは正しいのかもしれません)

 

「……分かりました!」

 

 野崎が目を見てはっきりと返事を返すとそれに対して高坂は軽く頷く。

 

「それと、今日はアンタに話があって来たのよね」

 

(ずっと考えてた。野崎に野球を教える理由を……。酷いことを言った代わりに教えた一回目はともかく、二回目はそんな必要なんて無かったはずだった。けど考えに考えて……一つだけあった)

 

 纏まらない考えが彼女の中でパズルのように散っていた。心の中で高坂は散らばったピースを集め、一つ一つ当てはめていく。外枠から埋めるように嵌めていくと足りないピースが後一つとなった。その最後のピースを高坂は押し込むようにして差し込んでいく。

 

「話……ですか?」

 

 高坂の方から話があるとは思っていなかった野崎は怪訝そうに高坂の顔を見下ろすと、高圧的な態度をよく取る彼女にしては珍しく髪を指先で弄りながら視線も横に逸らして話を切り出した。

 

「野崎、アンタさ——」

 

 ——その告白の約三分前。ある三人組が喫茶店から出てきていた。

 

「やー、満足満足」

 

「野崎さんに教えてもらったこのお店のティラミス美味しかったね」

 

「最高だったね……! また食べに来よう!」

 

「大丈夫なのー……加奈子。最近体重気にしてなかったっけ?」

 

「うっ! し、試験終わったらまた沢山運動するから大丈夫だよ……!」

 

「ふふ……」

 

 夜風に当たりながら新田、永井、近藤の三人が駅に向かって歩いていく。すると近藤が覚えのある声に気づいた。

 

「あれ? 今、野崎さんの声がしなかった?」

 

「え? 聞こえなかったけど……」

 

「私もー。気のせいじゃない?」

 

「いや、確かにこっちの方から……」

 

 先ほど声が聞こえた方向を頼りに近藤が歩いていくと二人もその後ろをついていく。すると高架下にいる野崎を上から見下ろすようにして見つけていた。

 

「あっ! 本当にいたね」

 

「ホントだ! のざ——」

 

「待って。誰かと一緒みたい。……あの人は!?」

 

「咲ちゃん、知ってるの?」

 

「鈴木さんに映像を見せてもらったことがあるんだ。あの人は全国No.1(ナンバーワン)投手(ピッチャー)って言われている向月高校の高坂椿さんだよ……!」

 

「ええっ! なんでそんな人と一緒に……」

 

 三人は坂の上から覗くようにして不思議そうに二人の様子を見守っていると静かな高架下に反響するようにして彼女達のもとにも高坂の声が聞こえてきた。

 

「野崎、アンタさ——向月に来ない?」

 

「えっ……!」

 

(これしかない。最初から野崎を向月に迎え入れるつもりで、教えた。それ以外あるはずがない)

 

 高坂の誘いに距離がある場所から聞く三人にも野崎の動揺は見て取れた。

 

「や、やばいよ! 引き抜きじゃん!」

 

「止めにいかないと……!」

 

「待って……二人とも」

 

 慌てて身を乗り出そうとする二人の腕を掴んだ近藤はそのまま二人を落ち着かせようとした。

 

「どうして止めるの……?」

 

「いいの咲! 野崎が引き抜かれても!」

 

「良くないよ。私も野崎さんと一緒に野球したいもの」

 

「なら……!」

 

「……でも、もし高坂さんと野球する道を選びたいと野崎さんが言うのであれば、それを私たちが無理やり止めるのは違うと思うんだ」

 

「ううっ……で、でも……」

 

「……それに……」

 

 高坂の言葉を受け止め、自分の中で結論を出そうと考え込む野崎。二人の間に静寂が広がる中、野崎はゆっくりと顔を上げた。

 

「私は信じてるもの。この前の練習試合で私たちが分かち合ったわがままは……里ヶ浜高校で共にやっていく証のためなんだって」

 

「高坂さん、お誘いありがとうございます。名門である向月高校、その特待生である高坂さんが私を評価して誘って頂けたのは素直に嬉しかったです。……ですが、そのお誘いは断らせて下さい」

 

「……なんでよ。設備も格段にこっちの方が上よ。上手くなりたいならうちでやるべきよ。心配なのは何……お金? それはアタシが勧めれば特待生にはねじ込んで免除くらいさせてあげるわぁ……!」

 

 野崎の返答に高坂は身を乗り出すようにして迫る。その様子に野崎は驚きながらも落ち着いて返事を返した。

 

「確かにこちらはまともなブルペンもありませんし、部費も決して余裕はない。設備は間違いなく向月さんの方が充実していると思います」

 

「だったら……!」

 

「でも私は……里ヶ浜高校の皆さんと共に上手くなりたいんです」

 

「——! ……そう……」

 

(どうして……なんでアタシは……野崎の返事に安心した?)

 

 普段の余裕のある表情は崩れ、高坂の虚になっていく瞳は野崎の上に重なるようにしてある人物を映し出した。

 

(……認めたくない。でも、少なくとも……アタシが野崎に野球を教えた理由は引き込もうとしたからじゃないってわけ……!)

 

 心にぽっかりと空いた場所に押し込むようにして差し込まれた最後のピースは弾かれて溶けるように霧散していった。

 

「……行こう。二人とも」

 

「え……行っちゃうの?」

 

「まだ、しつこく勧誘してくるかもだよ?」

 

「そうだとしても大丈夫よ。それにこうやって勝手に覗いてるのもあまりいい趣味じゃないしね」

 

「そりゃ……そっか。うん、分かったよ!」

 

「だ、大丈夫だよね……うん! 帰ろっか」

 

 三人がその場を離れ駅へと向かっていく。その間に高坂は野崎に渡されたスポーツドリンクを飲んで乱れた息を整えていた。

 

「……ふぅ。取り乱して悪かったわね」

 

「いえ……気にしてないですよ」

 

「……名門向月の誘いを断ったこと、いつか試合で後悔させてやるんだからぁ」

 

 落ち着きを取り戻した高坂は普段のやや高圧的で毅然とした態度へと戻っていた。

 

「望むところですよ。……ただ今は置いといて、普段教えて頂いているお礼に喫茶店でティラミスをご馳走させて下さい」

 

「ティラミス?」

 

「よく飴を舐めていられるので甘いものが好きなのかと……」

 

「……まあ、嫌いじゃないけど」

 

 野崎の誘いに悪い気はしなかった高坂だったが現実に引き戻すような振動に気づくと、ポケットの中に入れたボタンを押して振動を止め、翻して背中を野崎に向けて歩き出した。

 

「それはまた時間ある時にお願いするわ。……用事があるのよ」

 

「そうですか……残念です。また、会いましょう」

 

 高坂は軽く手を挙げるとコンクリートを叩くような足音を響かせながら道を上っていく。やがて上まで来たところで素振りの練習を再開させた野崎のスイング音に気づき一度振り返ってから再び歩みを進め始める。

 

「大会までもう1ヶ月を切ったか……」

 

 そう呟きながらポケットから左手で取り出したのは飴ではなく先ほど振動していた携帯受信機。貼り付けられたラベルには『総合病院』と記されており、それを見た彼女は一抹の不安を感じていた——。




プライベートの方も落ち着いてきたのでまた週一のペースで更新していきます!
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