皆で綴る物語   作:ゾネサー

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星に願いを

「おおっ! 美味いぞ!」

 

 一点の躊躇もなくおにぎりにかぶりついた岩城は口をモグモグさせると、快活な笑みを浮かべながら嬉しそうに野崎に向かってそう伝えていた。

 

「ま、まさか……野崎の料理が? 小学生の時からの悪い癖だったのに……」

 

「……いや、そうとも限らないんじゃないかな」

 

「どういうこと?」

 

「忘れたかい? 以前の合宿でも岩城さんは野崎さんのカレーを美味しそうに食べていたことを」

 

「あ……そうだったわね」

 

 怒涛の勢いで美味しそうに食べ進める岩城を見て倉敷は野崎の気を遣いすぎてしまう性分から料理においても余計なことをしてしまう癖が直ったのかと思ったが、九十九の言葉を受けて落胆の吐息を漏らしていた。

 

「ゆっきーのおにぎりを食す他の5人の有りや無しやはあっちを見ればすぐに分かるのだ!」

 

 おにぎりを手に取った6人の部員のうち岩城を除いた5人。そのうちの1人を阿佐田は指差した。

 

「我が野球部一の食のスペシャリスト……かなかな! かなかななら、正確なジャッジが出来るはずなのだ!」

 

「……確かにね。永井さんは野球部に入る前『おいしいものクラブ』を自称し、食べ歩きをしていたという。彼女の舌に間違いはないだろう」

 

 阿佐田が指差す先にいたのは岩城にも負けず劣らずの勢いで今にもおにぎりにかぶりつこうとしている永井。彼女に足を止めた部員たちの注目が集まると、そんなことは露知らず目の前のおにぎりしか見えていない永井は訴えかける空腹に応えるように口を開き、三角に握られたおにぎりの一角を崩した。

 そのまま目を輝かせて咀嚼する永井を阿佐田たちが固唾を飲んで見守っていると、突然衝撃が走ったように永井の目が見開かれた。

 

「これは…………!?」

 

(だ、ダメか……!)

 

 そんな永井の反応を見た阿佐田たちは僅かに抱いていた期待が露と消えていくように感じられていた。

 

「鶏レバー入りカレー風味のおにぎり……! おいしいっ!」

 

(な……何っ!?)

 

 だからこそ満面の笑みへと変わっていく永井を見て大きな驚きを覚えたという。

 

「お米のほのかな甘みと、カレーのスパイスと、絶妙な塩加減が混じり合って噛む度に口の中に広がってくる……! 中に入ってるレバーも一口サイズで食べやすくて、くさみも全然無い……むしろ塩胡椒が効いてて、お米との相性も抜群……!」

 

 見た目からカレー風味であると当たりをつけていた永井はサプライズのように飛び出したレバーに虚を突かれていたが、噛めば噛むほど口の中に幸せが広がってくるように感じられていた。そんな彼女が美味しそうに一口、もう一口と食べ進めて幸せを噛み締めていると、それを見たみんなは固唾ではない唾を思わず飲み込んでいた。

 

「スパイスと千切りにされたバジルが食欲をそそって……ああ……!」

 

 食べ進めていくうちに永井は目をつぶって視覚を閉ざし、味覚に集中するようになっていた。すると彼女の心の中にF1カーにのる自分自身の姿が浮かび上がっていく。

 

「もうわたし完食(ゴール)まで止まれない……!」

 

 そこからはもう無我夢中という表現が相応しく、まさしく我を忘れて食べ進めていく。そして最後の一粒が喉を通った瞬間、彼女の心にチェッカーフラグを横目にゴールインしたビジョンが映し出されていた。やがてその目が開けられるとまるで完走した永井を祝福するかのように他のみんなが駆け寄ってくる。

 

「あ、あおいにも一つ頼むのだ!」

 

「ワタシも欲しいにゃ!」

 

「わっ……!? みなさーん。落ち着いてください。ちゃんと人数分ありますので……!」

 

 否。彼女たちはおにぎりを求めて駆け寄ってきたのだ。我先にと雪崩れ込むみんなに野崎は慌てて一列に並ぶように伝えながらも、嬉し笑いをこぼしていた。

 

「およ? 加奈子のはカレー系なんだ。わたしのシャケとパクチーのおにぎりだよ。ごまも振ってあってめっちゃ美味い!」

 

「小麦もみなこと同じのだー。ん〜、いい匂い!」

 

「アタシはミントとパイナップルのおにぎりね。ヨーグルトも入ってるのかな? 美味しいし、美容にも良さそう!」

 

「あ、私も逢坂さんと同じですね。最初は組み合わせに驚きましたが、食べてみると爽やかでとても美味しいです!」

 

「ウチのは……。……とにかく美味しいぞ!」

 

「岩城先輩のは永井さんと同じおにぎりみたいですね」

 

「そうか! はっはっは!」

 

(妙ね……野崎ならパクチーとミントとバジルを満遍なく入るようにすり潰しそうなものだけど)

 

 元気よく列に並ぶ後輩たちを優しく眺めるように少し後ろについていた倉敷は先におにぎりを食べ始めた6人の会話が耳に入ると、僅かに違和感を覚えていた。

 

「惜しむらくは人数分ぴったりなことかな。せめてもう一個……いや、二個……! 全種類制覇……!」

 

「おー! かなこが燃えてるー!」

 

「三つは少し多いですね……夕食も頂きましたし」

 

「そうだよー。この時間に食べすぎると太るよー」

 

「ううっ。最近たくさん運動してるから大丈夫だもん」

 

「あはは。確かに。加奈子はけっこー動いてるもんね。そういえばちょっとスリムになった?」

 

「えっ! 本当に……!?」

 

「いいなー加奈子ちゃん。アタシももう少し痩せたいわ」

 

「逢坂さんが……意外ですね。既に十分痩せられているように見えますが……」

 

「それが実はね、子役時代には縁が無かったジャンクフードを気に入っちゃって、よく食べるようになって……その反動が来ちゃってるのよねー」

 

「そうだったんですか……」

 

「麻里安ちゃんはどうなの?」

 

「私は元々少食で……ただ本を読んでばかりで運動はしてこなかったので、普通くらいだと思います」

 

「そっかー。じゃあアタシたちの中で一番痩せてるのは小麦ちゃんかもね」

 

「えへへー。褒められちゃった」

 

「あと結構咲もシュッとしてるんだよねー」

 

「あれ? そういえば咲ちゃんは……?」

 

「そーいえば見当たんないね。まだ読んでるのかな?」

 

 先に食べ始めた部員たちが次々と食べ終えていき、残る初瀬が最後の一口を食べ終えた時だった。

 

「おかわり欲しい人ー?」

 

 縁側から顔を覗かせた近藤がサンダルを履いて降りてくると、おにぎりを乗せたトレイを手に素振りを中断したみんなのもとにやってきた。

 

(……そういうこと。そういえば近藤は『鉄人』っていう中華料理屋の娘だったわね)

 

 野崎と同じくエプロンをつけた彼女を見て倉敷は先ほど感じた違和感に対する答えへのおおかたの目星をつけると、胸のつかえが一つ取れたような気がしていた。

 

 今から約1時間前。鈴木に渡された界皇の打者の資料を念入りに読みふけっていた近藤はふと顔を上げると、読んでいる間に他の部員が何処かへと出ていったことに気がついた。集中している近藤の邪魔しないようにとあえて声をかけずにという他の部員の配慮からだったが、状況が把握しきれない彼女は一度部屋を出て外を覗ける縁側まで出ていこうとした。すると縁側まで出る前に曲がり角を曲がってすぐ、座って何かを見守っている宇喜多が見えるとバットのスイングが重なり合って聞こえてきていた。

 

(そっか。みんな素振りをしてるのね。……そうだ。なにかお夜食でも……材料もっと買っておくんだったなあ。お米はまだあったはずだから、早炊きするとして……塩おにぎりくらいなら作れるかな)

 

 奇遇にも野崎と同じく塩分を取れるようにおにぎりを作ろうと近藤は宿舎の台所へと足を運び、そこで野崎と顔を合わせていた。すると野崎はちょうど一つ目のおにぎりを作り終えたところだった。そのおにぎりに対して近藤が抱いた印象は二つ。一つは見た目が良いということ、そしてもう一つは彼女の料理人としての鼻が微かな違和感を感じていたこと。見た目が美味しそうなだけに彼女は迷ったが、最後には自分の料理人としての感覚を信じてそのおにぎりを味見させてもらった。すると……

 

「しよっぱっ……!」

 

「疲れを取るには塩分を摂ると良いと聞いたので……」

 

 宇喜多が懸念を抱いたように野崎は必要以上におにぎりに塩をつけてしまっていた。あまりのしょっぱさに近藤はたった一口だけで参ってしまう。しかし、それでも彼女は二口目を口にした。

 

(うっ……。これは……そっか、塩のついている場所が偏っている部分があるのね。今食べた部分は……甘い……)

 

「あ、あの……近藤さん。美味しくなければ無理はなさらないでください……」

 

 野崎は彼女なりに工夫して作っていたつもりではあったが、食す近藤の表情を見てお世辞にも美味しいと言えるものではないことを察していた。しかし、そんな野崎の言葉に近藤は首を横に振った。

 

「……野崎さん。私はこの世で一つだけ苦手なものがあるの」

 

「そ、それは……?」

 

「それは……出された料理を残す人よ!」

 

「こ、近藤さん……!」

 

 近藤は食べるのを最後までやめなかった。彼女は料理人の娘としても『おいしいものクラブ』の一員としても舌に自信がある方だった。そんな彼女にとって食べたものの味を言葉にすることができなかったのは後にも先にもこの時だけだったという。

 

「……シャケ、レバー、パイナップル。入っていた大きな具はこの三つね」

 

「は、はい。そうです」

 

「この具にまぶされた緑色の粉は……?」

 

「ミントとパクチーとバジルをすり潰したものです。以前はミントとパクチーの二つをすり潰したんですが、微妙な香りと不評だったのでそれならばとバジルを足してみました」

 

(なんで……?)

 

「……あとどうして砂糖も塩と同じくらい多めに振ってあるの?」

 

「しょっぱいのが苦手な方がいるといけないと思って……」

 

「……そう。分かったわ。さぁ、やるわよ野崎さん!」

 

「て、手伝っていただけるんですか?」

 

「勿論よ。ビシバシいくからそのつもりでね!」

 

「は、はいっ! ありがとうございます!」

 

 野崎への質問を終えた近藤は素早くエプロンを身につけていた。その瞳には危機感から来る闘志が浮かび上っている。

 

「まずはレバーを一口大に切って、しっかり洗って!」

 

「分かりました!」

 

「その間に塩をひとつかみと水をたっぷりボウルに入れてと……レバーを漬けるわ」

 

「えっ。大丈夫なんですか……?」

 

「こうしないとレバー独特のくさみが残って、他の食材にも移ってしまうし、全体の味が落ちてしまうのよ」

 

「なるほど……そうだったんですね」

 

「のんびりしてる暇はないわよ。次!」

 

「はいっ」

 

 こうして野崎と近藤は共同でおにぎりを作り始めた。料理経験が豊富な近藤は自分が料理の中心となる作業を担当して野崎には単純作業を頼むという選択肢もあった。しかし近藤は野崎に作り方を丁寧に教えていき、あくまで彼女が主体となって料理を推し進めるようにしていた。そのため作業時間は多くかかっていた。

 

「待って野崎さん。ご飯に直接塩をつけるんじゃなく、こうやって手に塩水をつけて握るのよ。そうすれば味が均一に広がっていくから」

 

「わ、分かりました!」

 

「力はいらないわ! ご飯はぎゅっと潰すように握るんじゃなく、ふわっと包み込むように!」

 

「は、はい〜!」

 

(近藤さん……こういう姿は普段はあまり見られないので少しびっくりしました。料理のことになると妥協せず、かなり熱く語られるんですね)

 

(ふう……まさかこんなところで美奈子におにぎりの握り方を教えた経験が生きるとは思わなかったわ)

 

 こうして紆余曲折を経てついに今外に出ている人数分のおにぎりは完成したのだった。再びお礼を伝えられた近藤は「どういたしまして」と微笑むと野崎を送り出し、永井を始めとしておかわりが必要な部員もいるだろうなと考えて残ったご飯分のおにぎりを作り、今それをトレイに乗せて持ってきたのだった。

 

「倉敷先輩」

 

「野崎?」

 

 そんな近藤にも部員が並び始めると、野崎の方に並んでいた部員の方にはおにぎりは配り終えられていた。野崎は一度縁側に座る宇喜多におにぎりを渡してから、倉敷の方にやってくる。

 

「どうぞ」

 

「……ああ。ありがと」

 

 トレイに乗った最後の一個のおにぎりを手に取った倉敷はそのおにぎりをぼおっと見つめていた。

 

「……何かあったんですか? 帰ってきてから表情が冴えないですが……」

 

「気遣わせて悪いわね。ちょっと界皇のデータ見て不安になってたのよ。アンタも見たでしょ?」

 

「はい。鈴木さんに目を通しておいて欲しいと言われて……」

 

「さきがけみたいに下手したら試合が終わる頃には二桁得点を入れられてるかもしれない。データだけ見ればそんな可能性も十分あり得ることだと思うと、正直ね……アタシは本当に界皇の打線を抑えられるのかって考えちゃって」

 

「倉敷先輩……」

 

「……けどこれ見てたら、少しはそんな不安も和らいだわ」

 

「えっ?」

 

「一人で何もかも全部やろうとしなくていいってね。紅白戦の時に鈴木に言われたこと思い出したわ」

 

「……そうですね。一人だけじゃなく、二人の力でバッターに立ち向かえば勝機はあると思います」

 

「そうね。けど、それだけじゃないわ。後ろにはアンタがいてくれる」

 

「……!」

 

「それがどれだけ心強いか……。おかげでアタシは目の前のことに全力を注げるわ」

 

「私も……ですか。……そうですね。私も前に頼れる先輩がいてくれるから、引っ張られるように力が出せる。そう思います」

 

「……久しぶりに思い出したわこの感覚。アンタとドッジボールをやってた時以来ね……」

 

 近くの座れる場所に腰を下ろした二人は夜空を見上げながら話していた。

 

「アタシは料理詳しくないけど……レバーとかは分かりやすくそうだし……確かパイナップルやシャケも疲労回復を助けてくれるんじゃなかったっけ」

 

「あ、はい! その通りです!」

 

「さっきこれ見てたら不安が和らいだっていうのはアンタのその気遣いが分かったってのもあるのよ。……はい」

 

「えっ! 私のは最後に残ったので大丈夫ですよ!」

 

「大人気すぎてもう無いみたいよ」

 

「ええっ!? ……その……いただきます」

 

 鶏レバー入りカレー風味のおにぎりを半分食べたところで差し出してきた倉敷に野崎は戸惑ったが、既に近藤のトレイからおにぎりが無くなってしまったことに気づくと、途端に思い出したかのようにお腹が空いていた。倉敷の伸ばした手から申し訳なさそうにおにぎりを受け取った野崎は早速一口かじった。

 

「美味しい……」

 

「ふふっ、良かったわね」

 

 近藤の手を借りて自分の手でも作ったおにぎりを口にした野崎は思わずそう呟いていた。そんな野崎を見て倉敷は微笑を浮かべると、見上げた夜空は一筋の流れ星によって彩られていた。

 一波乱あった夜が明け、金曜日。この日は午前中に近くの運動場で基本的な動きを確認するだけで練習は終えられ、午後からは休養となっていた。夜になり昨日行った自主練も明日に疲れが残らないよう禁止され、ミーティングで最終確認が行われるとそれぞれ明日に向けての思いを抱きながら眠りについたのだった。

 ——そして日が昇り三回戦当日。岩城が閉じていたカーテンを明けていき、差し込む日差しと岩城の声で寝ぼけ眼が次々と開かれていった。

 

「ふわぁ……翼、おはよー」

 

「んん……おはよー、ともっち」

 

「今日はよく眠れた?」

 

「うん! ばっちし眠れたよ! 今日は頑張るぞー!」

 

「朝からうるさいわ有原さん……その元気は試合が始まるまで取っておきなさい」

 

「あ、おはよう東雲さん。分かったよ! あー……早く試合したい!」

 

「焦らなくても今日の第一試合だからすぐよ……」

 

「そういえば翼、試合が始まる前に呼ばれてるんだっけ?」

 

「うん! 大咲さんがインタビューしておきたいから、試合前に少し時間を作って欲しいって!」

 

「そっか。またテレビカメラで緊張しないようにね」

 

「ちょ、ちょっとー! あれはだって急に始まるから——」

 

 特に大きなトラブルもなく朝を迎えた里ヶ浜女子硬式野球部。賑やかな翼に引っ張られるように、ある種の期待感のようなものが部全体を包み込んでいた。

 

(翼もみんなも、もう少し緊張して声出ないかと思ってたけど、思ったより元気だね。昨日のミーティングでの翼の締めの言葉のおかげかな)

 

 昨日のミーティングが終わった時、明日に迫った試合に向けてキャプテンから意気込みを話すことになり、急に振られながらもみんなの目を見て正直な気持ちを伝えた翼の姿を河北は思い出していた。

 

「えーと……みんな! 今まで厳しい練習をやってきたよね。それは試合で野球を本当に楽しむために必要なことだって、東雲さんや和香ちゃんと話し合ってそう思ったから、厳しくしてきたんだ。でもね、もう少し……よく考えてみたんだ。どうして私は野球を楽しいと思うんだろうって。厳しい練習をして、ぶつかり合ったりもして、辛いことも、苦しいことも、0じゃないのかなって……」

 

「翼……」

 

「……有原さん」

 

 慣れないながらも自分の感じて、考えてきたことを翼はみんなに伝えていく。

 

「それでも楽しいって思えるのは……きっと、私たちに可能性があるからなんだと思うんだ」

 

「……もう少し詳しく説明出来るかしら?」

 

 言葉が完全にまとまりきってはいない様子の翼を見て、東雲が横から彼女のフォローを入れると、翼は必死に胸の内にある言葉を引っ張り出してきた。

 

「えっとね。きっと私たちは全員可能性を持ってるんだ。けどそれは同じ大きさじゃなくて……人によっては小さかったり、大きかったり。それを人に比べられることもあるんだと思う」

 

「……そうかもしれないわね」

 

(私も兄のことを気にしないようにしながら、どこかで私と兄の持つ可能性を比べていたのかもしれない……)

 

「けど、その可能性はずっと同じじゃないと思うんだ! 練習をしたり、試合をして経験を積んだり……そうすることで自分の中の可能性を大きく出来るんだと思う! 自分の中の可能性を少しでも広げたいから、甘やかされずに厳しく野球に打ち込みたかったんだと思う!」

 

「……そう、だね。うん。私もそうだと思うよ、翼」

 

 視線を河北に移して叫ぶように絞り出した言葉に河北も頷くと、翼も頷き、一度深呼吸を挟んでから最後の気持ちを絞り出した。

 

「一度負けた相手に勝てるようになった! 今まで不可能だったことが出来るようになった! 私が野球を楽しいと思う一番の理由は……そんな出来なかったことが、頑張って、出来るようになったときの……達成感なんだって、そう思うんだ!」

 

 河北から新入部員の方へと視線を動かしながら、翼は一人一人の目を見つめていく。そんな翼の言葉に部員全員が頷いた。

 

「だから明日は……精一杯楽しもう! 私たち全員の可能性で、王者界皇に……挑戦しよう!」

 

 全てを伝えきった翼に部員全員の心強い返事が返ってくる。それはもちろん思い出した河北自身の返事も含まれていた。やがて思い出した河北の目が開かれると、ちょうど岩城が目の前のカーテンを開き、窓からは今日の試合を期待させるような晴天の日差しが差し込んできたのだった——。




今回は後書き長めです。

【更新ペース関連】

試合入るところまで行く目算でしたが、試合当日までとなりました。今回は料理知識調べるのにリソースを割きすぎたのかもしれません。ただ適当な知識で料理を語りたくなかったので、慎重になったのは後悔してないです。でも一応日曜目安更新なのに平日にずれ込むことが多いのは申し訳ないです。けどこれを月曜目安にするとさらに奥にずれそうな気がしてるので、しばらくはこのまま日曜目安でやっていこうと思います。

【本文関連】

前話のラストを21:37分に追加修正しました。誤字脱字を除いた修正部分は足を止めなかった6人の部員についてです。最初は具体的に誰が足を止めたと書いていたんですが、そこを人数のみの表記と変えさせてもらいました。
前回あそこで区切った意図は野崎の料理で衝撃が走った部分に考察の余地を残したかったからです。最初は具体的に書く方が考察に繋げやすいと思い書いたんですが、考えが変わり人数のみの提示の方が面白くなりそうと思ったので変更させていただきました。

①合宿での出来事を新入部員は知らない。②新入部員の数=6人

説1.足を止めなかった6人は全員新入部員であり、走った衝撃は良くない側のやつである。

③アニメ9話の描写からしても岩城が足を止める理由はない。
④ ③を前提とすると、新入部員が全員駆け寄ると1人多い。⇒新入部員の中で1人だけ駆け寄らなかった人物がいる?⇒近藤を除く新入部員はこの場にいる描写がある。近藤がいて駆け寄らなかった可能性は捨てられないが、3話のちょっとしたおにぎりの話・近藤は料理屋の娘・野崎ともバッテリーを組んで親交が深いなどの描写から、近藤が何かした可能性がある。

説2.足を止めなかった部員は近藤を除く新入部員と岩城。近藤が何か手を打っていれば、走った衝撃は良い側のやつかもしれない。

というようなそれぞれの受け取り方が出来るよう変更をさせていただきました。これはそういう考え方にならなきゃダメとかそういうことではなく、詳しく考察はせず次がどうなるか待ってみたり、あるいは全く違う説が出てきても良いと思います。この場においては、そういう風に考察できる余地を残したかったということです。
いわゆる叙述トリックのようなものに挑戦するのはこれが初めてで、個人的にはワクワクしながら書いてました。

長々と書いてしまいましたが、読んでいただいた方ありがとうございました。
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