King of chicken   作:新藤大智

7 / 7
ご都合主義ここに極まれりな最終話をどうぞ。ちなみ2話目のヒソカの内面を読んでからだと理解し易くなるかもしれません。分かりにくく申し訳ない。


最終話

 とある国のとある場所では、この世の何を捨てても許される。

 

 かつて独裁者の人種隔離政策から始まったその地は、1500年以上も前から廃棄物の最終処理場として存在していた。公には無人地帯となっているが、実際には行き場をなくした多くの人々が廃棄物を再利用することで生活をしている。

 

 そんな場所に一人の男がいた。特に秀でた身体能力や頭脳を持たない、どこにでもいるような平凡な男。そんな彼にある最初の記憶は、ゴミ漁りをしている自分だ。物心が付くかつかないかの子供の時に捨てられたが、幸運にもなんとかゴミ漁りで命を繋ぐことが出来た。

 

 ここは様々な理由から数多くの人種が集まっている。犯罪者、捨て子、故郷を追われた民族、等々色々な理由で行き場を失った人々が最後にここに来る。

 

 普通は多くの人種が集まればそれだけ対立も多くなるはずなのだが、ここにおいてはその常識は当てはまらない。全てを受け入れるこの場において、彼等は異様なまでに固い結束で結ばれている。もし、同胞が不当な扱いを受ければ自爆テロで報復することに何の躊躇もないほどに。

 

 一人の為に何十人も人間が笑顔で命を投げ捨てる。昨日までは隣で同じくゴミ漁りに精を出していた人物が、次の日には笑顔のまま物言わぬ肉塊に変わっているのだ。外の住民からすれば異常な精神構造と言わざるをえないが、ここの住民はそれを異常だとも思わない。生と死に対する意識が決定的に違っていた。同胞に対する絆は何よりも重く、命の価値があまりに軽すぎる。

 

 そんな異常の中で育ちながら、彼は至極真っ当な思考のまま育った。仲間への不当な仕打ちに対して報復することは構わないと思う。しかし、同時に報復で命を投げ出すなど正気の沙汰ではないとも思っていた。なぜ彼等は命を簡単に投げ出せる?今まで何の為に生きていたのか?死は怖くないのか?命は一つだ。命を失えばそこで終わり。その先には何もない。だからこそ大切にするし、精一杯生きて輝かせようとするのではないか。

 

 命の価値があまりに軽いその場所で、彼はいつしか誰よりも生きたいと願う様になっていた。自分は絶対に命を投げ出さない。笑顔のまま物言わぬ肉塊になった同胞を見て、彼は心の中で決意する。必ずこの場所から抜け出して、自らの生を全うしてやると。

 

 やがて月日は流れ、ようやくこの異常から抜け出す時が来た。幾ばくかの金と苦労して手に入れた身分証を手に意気揚々と外の世界へと出る。

 

 期待に胸が躍った。新しい生活への一歩を踏み出す毎に力が湧いて来る。戸籍も人脈も金もない。そんな彼が外に出るためには、多くの時間と多大な労力が必要だったが、彼は一心不乱に目標に向かって走り続け、とうとう幸せに生きる権利を掴んだ───と、思っていた。

 

 世界は理不尽で満ちている。

 

「キミ、ちょっといいかい?♦」

 

 最初に出会った人物は、世界でも特級の危険人物であった。自らをヒソカと名乗る人物は、まるでピエロのようなメイクと服装をしていた。嫌な予感。彼は殆ど反射的に急いでいるからと断りを入れ、そそくさと立ち去ろうとする。見知らぬ相手、しかも、あそこの住民達と少しベクトルは違うが、危険な匂いがプンプンと漂っている。そんな人物を相手にほいほい誘いに乗るほど馬鹿ではない。

 

 しかし、ヒソカから逃げることは叶わなかった。見えない何かに拘束されたかと思うと、引きずられるようにして連れ去られてしまう。連れていかれた先は廃工場。嫌な予感が確信に変わる。

 

 そこでヒソカは彼をあらゆる方法で痛め付けた。肉体と精神の両面からじわじわと嬲る。死なないように手加減を加えていたが、むしろその方が絶望が長引くだけであった。ただの一般人では三十分も持たない内に殺してくれと叫んでいだろう。そんな拷問が三日三晩に渡って繰り返される。

 

 ヒソカが彼をターゲットにした理由は特にない。ただ強いて言うのなら、生命力に満ち溢れていた彼が死の恐怖に折れた時、どんな顔をするのか見たかっただけである。

 

 誤算は、彼が決して折れることなく生存への意思を持ち続けたこと。ヒソカの予想では、一時間もしないで心が折れるとみていた。そして、折れた時に素晴らしい表情を見せてくれるだろうと楽しみにしていたのだが、一時間が過ぎ、二時間が過ぎ、さらには一日、二日と過ぎても彼が折れることはなかった。どれほどの屈辱を味わわせようとも、絶望させようとも、見苦しく命乞いをしながらも決して生きることを諦めない。最初は興味本位のただの戯れであったが、いつしか彼の瞳に映る生命の輝きに惹かれていた。

 

 彼が死んだのは四日目の朝を迎える前のこと。ヒソカは彼を殺さず生かさずの状態で留めていたが、如何せん拷問は専門分野という訳でもないので加減を見誤った。冷たくなった彼を前にしてヒソカは初めて喪失の感情を味わう事になる。

 

 そして、彼が死んだ後に事は起きた。死者の念が発動する。無論、彼は念能力者ではなかった。しかし、死にたくない、生きたいという世界中の誰よりも強烈な意志が三日三晩に渡る拷問の中で念を作り上げる。

 

 その能力は、名付けるのであれば憑依転生と言ったところか。簡単に言えば魂を別の器(体)に移し替えることが出来る能力だ。ただし死後の念であるだけに死んだ後でしか発動できず、器を選ぶのは念能力自体が判断をすることになるが。

 

 念能力は発動と同時に、彼の無念を汲み取り行動を開始する。即ち、平和に生きたいとの願いを叶える為、こんな危険極まりない世界にいられるか!とばかりに世界を捨て、次元すら超えて現代の日本にまで辿り着く。そこで極々一般的な夫婦の子供として生まれ変わりを果たすこととなった。

 

 生まれ変わった彼に前世の記憶は殆どない。本来の憑依転生であれば記憶を持ったまま生まれ変わるはずだったが、念能力が意図的に前世の記憶を抹消していた為だ。理由は前世の最後が悲惨の一言に尽きるから。幼い頃に親に捨てられ、苦労して新たな一歩を踏み出した矢先に未来への道を断たれる。そればかりか最後は凄惨な拷問死。こんな悲惨な記憶を覚えていたら碌な人生を送れない。結果、前世の記憶は害悪にしかならないと判断され抹消されることになる。

 

 現代日本での生活は穏やかなものであった。魂の奥底では前世の出来事をほんの僅かながら記録しているため、今の臆病な性格が形成されることになるが、それでも前の世界に比べれば危険が格段に少ないこの世界は暮らしやすかった。無論、平和な日本でも凶悪な事件がゼロという訳でもないが、確率的に殆ど無視できるレベル。友人や家族にも恵まれ、順風満帆とまでは言わないものの平穏無事に過ごしていた。

 

 だが、不幸は再び起こってしまった。事件に巻き込まれることはなくとも、事故に巻き込まれてしまう。臆病な性格ゆえに人一倍安全には気を配っていたが、トラック同士の正面衝突事故に巻き込まれてはどうしようもない。勢いよく弾かれたトラックに逃げる間もなく轢かれてしまう。世界を超えてまで求めた平穏な生活は、僅か十数年で終わりを迎えてしまった。

 

 そして、死をトリガーにして再び死後の念が発動。彼の魂は次の憑依先を探す為に世界を彷徨うが、暫く放浪した後で結局元の世界に戻る決断を下すことになる。

 

 この世界は元の世界よりは幾分か平和だったが、いくら注意していても突発的な事故を防ぐことは出来ない。仮に世界最高の素質を持つ肉体に憑依しても車に轢かれればあっけなく死んでしまう。ならばどうするか?

 

 考えた結果、理不尽な暴力を受けても、突発的な事故に遭遇しても、それらを歯牙にもかけないほど強大な力をもった肉体に憑依すればいいのではないか?そのように結論を出したのだ。

 

 この世界は概ね平和であるが、個人の肉体性能にさほど差がない。プロの格闘家でも10人の素人を相手にすれば成す術もないだろう。それに対して前の世界は個人差が非常に大きい。たった一人で武装した数百人を相手に出来るレベルの人材も珍しくなかった。

 

 ならばその世界で圧倒的なまでの強者の肉体に入り込めば、理不尽な暴力にも事故にも屈することもないはずだと判断した。そして、再び次元を超えて前の世界に舞い戻り、世界中を隈なく探してついに至高の肉体を見つけ出す。

 

 それこそがメルエムの肉体だった。自我が形成される前であり、それでいて最上級の素質をもつ。これ以上の肉体は存在しないと断言できる。念能力は即座に憑依転生を実行し、最高の肉体に臆病な彼が入り込むこととなった。これがメルエムの肉体に憑依した経緯。

 

 そして、前々世での因縁は世界と時を超えて今ここに再びの邂逅を果たすこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あは」

 

 ヒソカは立ち上がった彼を前にして表情を歪める。

 そこにあるのは、歓喜であり狂喜。彼の瞳に宿る光を見て、冷めた精神が再び高揚する。

 

「………あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」

 

 かつて見た命の輝きと全く同じそれを目の当たりにしてヒソカは確信を抱く。

 

「先程の発言は撤回するよ!キミは本当にどれだけ僕を───っ!!」

 

 彼だ。

 

 才能も何もない。平凡な力に頭脳しかなかった、しかし、誰よりも生への執着を見せた男。今のヒソカを作り上げた原点。かつて生命の輝きを魅せた男が目の前にいる。

 

 理由など知らない。どういう訳か分からないが、彼がまたこうして目の前に現れた。それだけで感情が抑えきれない。いや、抑える必要などなかった。ただ感情のままに互いの名を叫ぶ。

 

 

「ヒソカァーーッ!!!」

「メルエムゥーーッ!!!」

 

 

 両者の衝突は激化の一途を辿りつつ、次第に単純な殴り合いへと変化していく。

 

 彼は元々戦闘技能を持ち合わせていないので、真正面からの殴り合いになるのは仕方がない。しかし、本来ヒソカは真っ向から立ち向かう戦闘スタイルではないはずである。

 

 ヒソカの念能力であるバンジーガム。それは、シンプルで応用範囲がとても広い能力であるが故に、敵に能力の内容を知られてもマイナスに働かない。その汎用性及び応用性を活用し、一つ一つの動作や言葉での揺さぶり、ちょっとした仕草などから相手を惑わして意識の虚をつく。天才的な格闘センスと悪魔的な頭脳、狂人の精神性を組み合わせたトリッキーな戦闘スタイルが本来の姿だ。

 

 今のような単純な殴り合いでは、本来の持ち味を半分も生かせない。バンジーガムを心臓からさらに全身に巡らせることにより、幾分か打撃の威力を吸収しているが、それでも肉体的に優位に立つ相手に対してあまりに下策であり、ヒソカらしくない。

 

 だが、それでよかった。

 

 今の彼との戦いで下手な策略など不要。真正面からぶつかり合ってこそ、渇望は満たされる。自らの直感に従い、ヒソカは本来の戦い方を捨てたのだ。

 

 

 そこから先は、技巧も駆け引きも何もない。

 

 拳と拳が、オーラとオーラが、剥き出しの魂と魂が、激突する。

 

 互いに一歩も引かない。

 

 一発殴られれば二発返す。二発殴られれば三発で返す。

 

 殴っては殴られ、蹴っては蹴られ

 

 骨が折れ、血が飛び、内臓が潰れながらも戦う事を止めない。

 

 すでに肉体は限界を超え

 

 意思の力のみで体を動かす。

 

 ベクトルは違えど、生きる為に

 

 全てを振り絞って

 

 生を求める。

 

 

 

 

 そして、その先に

 

 

 

 

 

 

(あぁ、そうか。僕は今この瞬間のために───)

 

 

 

 

 

 

 全てを賭した死闘の中でヒソカの渇望は満たされていた。薄っぺらな嘘のような世界で、ただ一つ本物に思えた光。かつて欲した命の輝き。生と死の狭間にて、ヒソカは求めてやまない輝きを手にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とっとと諦めろや!いい加減しつこいっての!」

「くく、そう言わないで最後まで付き合ってもらうよ♣」

 

 ヒソカが願いを成就させた一方、それに付き合わされている彼としては、たまった物ではなかった。そんなに戦いたいのならば、クロロにでも突撃しておけと声を大にして叫びたい。世界の何処かで逆十字を背負った男が珍しい事に悪寒に身を震わせたが、それは置いておく。

 

(このクソピエロが!)

 

 既にヒソカに対する恐怖はない。と言っても、前々世の記憶が戻った訳ではなく、臆病な性格が根本から治った訳でもないので、正確に言えば別の感情で恐怖心を塗りつぶしている状態だ。つまり、此方の迷惑も顧みず、それでいてこれ以上ない程に生き生きとして挑んでくるヒソカに、彼にしては珍しく本気でキレていた。当たり前だ。彼の願いは平穏に生きる事。ただ普通に生活していればそれで叶うというのに、命を懸けた死闘など冗談ではない。

 

 だが、なぜだろうか?

 

 怒り心頭の感情とは裏腹に、その行動に少しだけ理解を示している自分もいた。ヒソカの行動は彼にとって迷惑千万。ともすれば平穏を乱す敵として憎悪の対象になってもおかしくはない。しかし、怒りの感情はあれど、何故か憎しみの感情は沸いてこなかった。仮に前々世の記憶を全て思い出してもそれは変わらないだろう。本人は認めないだろうが、心の何処かでヒソカと自分はある意味で同類なのだと気付いているのかもしれない。

 

「っ!」

 

 拳と拳が重なる瞬間、空間そのものが弾けたかのような衝撃が辺り一帯を襲う。その反動で数十メートルほど吹き飛ぶが、体勢を崩すことなく着地。そのまま油断なく構える。

 

「ねえ、メルエム。一つ提案があるんだけどさ♦」

 

 軽く乱れた呼吸を整えていると、ヒソカは彼に一つ提案を持ちかける。

 

「………なんだよ?」

「この甘美な時間を終わらせるのは凄く惜しいけど、そろそろ決着を付けないかい?♠」

 

 恐らく碌な提案ではないだろうと、警戒心バリバリで聞き返したが、返答に少し驚く。戦闘狂のヒソカが自ら決着を付けようだなどと言うとは思っていなかった。

 

 というのも、そろそろ限界が近づいてきている。

 

 ヒソカの状態は目もあてられない程に酷い。彼から受けた攻撃の数々、闇のソナタによる侵食、そして王の鼓動による肉体への負荷。本来であれば戦闘どころか、数十回は死んでなければおかしい程のダメージが蓄積されている。今は崩れ落ちそうになる肉体をバンジーガムとドッキリテクスチャーで無理矢理固定しているに過ぎない。精神が肉体を凌駕する事例はままあるが、これはその最たるものだろう。

 

 しかし、いくらなんでも精神力だけで無限に限界を超えられる訳がない。ヒソカの体は持って後数分もあればいい方だ。本当の限界はすぐそこまで迫っていた。

 

 一方で彼にも余裕はなかった。元の強靭な肉体と桁外れのオーラのおかげでヒソカよりはダメージは少ない。だが、致命傷には及ばないものの内臓の一部が潰され、左腕は複雑に折れ曲がっている。また、体の各所からの流血も馬鹿に出来ない。これ以上長引けば遠からず支障が出て来るだろう。彼が有利なのは変わらないが、いまだ勝敗の天秤はどちらにも転びうる。

 

「………分かった。次で終わらせる」

「うん、ありがとう♦」

 

 一つ頷いて了承の意を示す。ヒソカは最後に正真正銘全てを彼にぶつけたい。そして、彼としてもこれ以上戦闘が長引くのは避けたい。

 

 両者の思惑が一致。前々世からの因縁の戦いに終止符が打たれようとしていた。

 

 二人は一気にオーラを練り上げる。あまりに膨大なオーラが干渉し合い、二人の周囲はまるで空間が歪んでいるようにすら見えた。そして、殆ど一瞬でオーラを練り上げると同時。両者は示し合わせたかのように踏み込む。

 

 一歩目から音速の壁を突破、二歩目で百式観音すら超えて、三歩目でその先へ───

 

 ヒソカと彼を除いた全てが緩慢な時を刻む。世界は二人のためだけに動く。二条の閃光が交差する刹那。極限まで引き伸ばされた時間の中で数十メートルの距離は一瞬でゼロになり、最後の一手が繰り出される。

 

 

「「オオォォオオォォ───ッッ!!!」」

 

 

 ヒソカの右拳が彼の頬を捉えた。寒気がするほどのオーラが込められた拳は、奥歯を数本まとめてへし折り、挙句にあごの骨を粉砕してみせる。

 

 しかし、そこまでだった。

 

 トップクラスのハンターですら掠った瞬間に顔が弾け飛ぶであろう一撃を受けてなお倒れない。彼は逃げ出したくなる本能を無意識下で抑え込むと、殴られたままさらに一歩進み、ヒソカの心臓に拳を突き立てる。

 

 バンジーガムで出来た心臓は、ゴムとガムの柔軟性と伸縮性を併せ持つ。その絶大な耐久力はフィンクスの100回転リッパー・サイクロトロンやウヴォーのビックバンインパクトを直で喰らっても平然と耐えるだろう。しかしながら、彼の拳はその比ではなかった。拳の一点に薔薇の破壊力数発分を込めた一撃に耐えられるはずもない。

 

 閃光が交差した後、立っていたのはただ一人。

 

 

(………お見事)

 

 

 心臓に大きな風穴を空けて倒れ込むヒソカ。

 

 そして、口から大量に出血しながらも、しっかりと地に足を付けて立っているメルエム。

 

 前々世から続いた因縁は、今この瞬間をもって決着となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長いようで短かった死闘はメルエムの勝利で幕を閉じる。結果のみを見れば順当な勝利と言えなくもないが、決して楽な戦いなどではない。ヒソカが彼を倒す可能性も確かに存在していた。

 

 身体能力やオーラ量の差も勝敗を左右する要因の一つ。だが、何よりも敗北を決定付けたのは、ヒソカが死闘の中で満足してしまったこと。元々彼に勝つことが目的なのではない。無論、全力を尽して勝ちにいったが、真に重要なのはその過程。生への渇望を満たす事であり、生きる実感を得ること。それが最大の目的だ。ある意味でヒソカもまた勝者と言えるが、それを叶えてしまったことで勝利への執着が薄れてしまった。

 

 元々ヒソカは長く穏やかに生きるつもりなどない。自分の人生は碌な最期を迎えられないだろうと考えていた。なにせこれまで刹那的に快楽的に多くの人を殺めてきたのだ。恨みつらみは死ぬほど買っている。そんな自分の最後は、強敵との戦いの中で死ねたら良い方。あるいは罠に嵌められるか毒で死ぬという線もあるだろう。それでも構わない。好き勝手してきたツケが回って来ただけの事。

 

 そう思っていたのだが、結果はこれ以上ない程に最高の形で終わることとなった。

 

 初めて生きるということを実感し、そして、それを与えてくれたのは誰よりも求めていた彼だった。これ以上の終わり方が他にあるだろうか。いや、そんなもの存在しないと断言できる。

 

(………凄く楽しかったなぁ………でも、出来れば最後に一つだけ………)

 

 無茶の反動が祟り、肉体が崩壊し始めている。あと数十秒でヒソカの命は尽き果てるだろう。いや、そもそも心臓に穴が空き、生命力もオーラも殆ど底を突きかけているのに死んでいない事がおかしいともいえる。徐々に薄れゆく意識の中、ヒソカは最後の気力を振り絞りメルエムへと視線を向けた。

 

(メルエム、僕に止めを………駄目か………もう口すら動かない………)

 

 最後の願い。だが、それを口にするだけの力はもう残っていない。

 

 ヒソカは死へと近づくたびに闇のソナタのオーラが徐々に肉体を侵食してきていることを感じていた。今までは精神力とオーラでなんとか侵食を半身までで抑えてきたが、もはやそれも叶わない。首から下はもはや全滅。このままでは死ぬ前に意識まで侵食されてしまうかもしれない。ヒソカは完全に侵食される前に自分のままで、彼の手により死にたいと願う。だが、それは叶わない。

 

「………わがっだ」

 

 そう、思っていた。

 

 伝わるはずのない願いは、しかし彼に確かに届いていた。砕けた顎を無理に動かして倒れ伏すヒソカにそう言うと、翼を生やして一瞬で天高く舞い上がる。そして、彼の姿が空に消えたかと思えば、曇天の空を切り裂いて目も眩むような極光が現れた。

 

 

 “全てを照らす光(メルエム)

 

 

 それは、彼の莫大過ぎるオーラを絞りつくし、全てを熱と光のエネルギーに変換して作り上げた人工太陽。威力のみを求めて作り上げた念の一つであり、戦闘中に使うにはリスクと隙が大きすぎることから使う事はないと思っていた。しかし、現状でこれ以上の念は存在しない。

 

(あぁ………なんて綺麗なんだろう)

 

 それは、まさしく全てを照らす光であり、かつてみた輝きそのものだ。ヒソカは迫りくる太陽に、己が身を焼かれながらもその美しさに見惚れていた。

 

 そして、あまりに上等すぎる最期をくれた彼に万感の思いを籠めて感謝を送る。

 

 

(メルエム………僕の我儘に付き合ってくれて………本当に………ありが……とう………)

 

 

 太陽が地に墜ち、全てを包み込む。ヒソカを骨どころか灰も残らず焼き尽くし、闇のソナタのオーラすら物理的に滅却する。文字通り全てを消し去り、後には何も残らなかった。

 

 ヒソカ=モロウ。

 彼とは違うベクトルで生を望んだ男は、その死の間際にようやく本当の意味で生きて、そして短い生涯に幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒソカの最後を看取った彼は、上空でただ一人佇む。

 

(………ありがとう、か)

 

 ヒソカの最後の思いは、彼へと届いていた。なにもロマンチックな理由ではない。ヒソカが最初にくっつけた赤いバンジーガムは、蜘蛛の糸よりも細くなりながら死ぬその時まで彼に繋がっていたのだ。そのバンジーガムを通して思いが伝わっていた。

 

(本当に最後まで迷惑かけやがって………我儘って分かってるなら最初から巻き込むなっての)

 

 オーラが枯渇寸前のメルエムはふらつく体を何とか制御しながらヒソカに悪態をつく。彼は覚えていないが、前々世では殺され、さらに今世では望まぬ死闘を強要させられた。悪態の一つや二つでは割に合わないだろう。

 

 だが、やはりというか、憎しみといった感情はこれっぽっちも湧いてこなかった。

 

 彼とヒソカの根源は、ある意味で同じである。ヒソカは、一瞬であっても空に大輪の花を咲かせて輝く打ち上げ花火を望み、彼は細く小さくてもいいから長く輝く線香花火を望む。それだけの違いであり、ヒソカは自らの望みを果たし、そして本望のままに死んだ。好き勝手に生きて彼に特大の迷惑をかけて、しかしそれでもその生き様と死に様はどこか眩しく見えた。

 

(じゃあな、ヒソカ。お前の事は大嫌いだったよ。けど………………いや、やっぱなんでもない)

 

 最後に思った言葉は、胸の奥底に仕舞い込む。少しだけ、ほんの少しだけヒソカを羨ましく思ってしまった等と口が裂けても言えない。

 

 彼は最後にヒソカの居た場所を一瞥すると、踵を返して去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒソカとの死闘から数か月後。

 

 彼は傷付いた体を癒すと元のぐーたらな生活に戻りつつも、少しずつではあるが戦闘訓練を始めていた。また、それと並行して除念用の念能力と、四次元アパートに変わる逃走手段の構築を進めている。

 

 ヒソカとの死闘は、彼の中で決して忘れられない出来事として刻み込まれていた。自堕落な生活のツケとまでは言わないが、きちんと戦闘経験を積んでいればあそこまで追いつめられることはなかっただろう。今でも臆病な性根は変わっておらず、相変わらず戦う事は嫌いだが、時折ゴンやキルアと会って手合わせをして鍛えている。

 

 二人とも会う度にどんどん強くなってその成長率には彼も舌を巻くほど。まだまだ負けることはないが、キルアはゾル家でピカイチの才能と称される片鱗を見せつけ、ゴンはゴンで負けっぱなしなのがよっぽど悔しかったのか負ける度にもう一回、もう一回としぶとく彼に食い下がる。その内this wayだのFIRST…COMES…ROCKとか言い出さないかちょっぴり不安になるほどだ。ゴンには是非とも大天使のままで居て欲しい。

 

 クラピカとレオリオとは直接会う事は稀だが、連絡は取り合っていた。主にレオリオからは取り留めもない無駄話や受験勉強の愚痴などで、何だかんだでレオリオとは結構気が合う仲だ。

 

 クラピカからは緋の目や蜘蛛の情報があれば教えてほしいと言われている。正直、ヨークシンのことを教えるか否か迷ったが、ヒソカがいない影響がどう出るか分からなので胸に仕舞っておくことに。もしかしたらヒソカからの情報がなくても、原作のようにネオンのところに雇われて結局ヨークシンに行くかもしれないが、その時は陰ながら見守って危なくなったら助けるつもりでいる。彼が手伝えばヨークシンで全滅させることも十分可能だろうが、流石にまだ正面切って蜘蛛と戦り合うほど覚悟は決まっていない。

 

 それから意外な事にネテロとも稀に連絡を取り合っていたりする。どこでネテロと彼が繋がったのかと言えば、ヒソカとの一件の所為だ。街から百km以上離れた荒野で戦ったと言っても、戦争も斯くやと言わんばかりの戦闘は遠く離れた街からでも容易に観測できる程だった。当然、このような大事件には原因究明のためにハンター協会が動く。特に今回はネテロが直々に動く事態となった。

 

 そして、様々な状況や街の防犯カメラの映像から疑惑の目を向けられた彼だったが、ネテロの取り調べを受けた結果、無罪放免となる。というのも彼等の死闘の跡地は、どう考えても個人で作り出せる様な光景ではなく、戦争や災害後の有様だったことから隕石や何らかの自然災害が原因であるとネテロが強引に結論付けたからだ。

 

 もっとも、内心では十中八九彼がやっただろうと確信しているので、言葉の端々にこれは一つ貸しじゃ、と匂わせるのを忘れない。彼も一番厄介な人物に借りを作ってしまったことに頭を抱えるが、後始末やら事実隠蔽やらで骨を折って貰っているので嫌々ながら受け入れた。

 

 もっとも、

 

『もしもし、儂じゃ。久しいの、メルエム。一年ぶりくらいか?』

「ネテロか。(とっても嫌な予感がするが)用件はなんだ?」

『まあ、あれじゃ、借りを返して貰おうと思ってな?ちょいと手伝って貰いたいことがある』

「………何があった?」

『それがのう、なにやら暗黒大陸の厄災が人界に紛れ込んだみたいでな、それで───』

「………(白目)」

 

 後にネテロに対して借りを作ってしまったことを盛大に後悔することになるが、それはまた別の話となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後の彼がどのような生涯を辿るのかは分からない。

 

 ただ一つ言えることは、彼が寿命以外で死ぬことはあり得ない。

 

 どんな困難があろうとも、どんな厄災が振りかかろうとも、時には逃げて時には逃げ腰で戦って、地を這い蹲ってもしぶとく生き残る。

 

 そして、世界の誰よりも臆病な彼は、今日もどこかで元気にびびっていることだろう。

 

 

 

 

 

(やっぱり借りなんて作るんじゃなかった!もう、お家に帰るぅー!!)

 

 

 

 

 

 だって彼は───King of chicken なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにてKing of chickenは完結とさせて頂きます。
元は息抜きの一発ネタでぶん投げ作品だったので、かなり無理のある念能力の設定やら伏線やら描写不足のところがあったかと思いますが、ちょっとでも楽しんで頂けたら幸いです。一応の完結ですがネタが浮かべば続きを書くかも?多分ないと思いますけど。

それではこれまでお付き合い頂きありがとうございました。感想や評価などあればよろしくお願いします。
最後に誤字脱字報告など凄く助かりました。ありがとうございますm(__)m

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

護衛が道(作者:豊秋津)(原作:HUNTER×HUNTER)

HUNTER×HUNTERの世界で生きるボディーガードのお話。▼続くかどうかは分かりません。


総合評価:10083/評価:8.22/連載:15話/更新日時:2020年02月16日(日) 12:00 小説情報

S級ヒロイン【金色の闇】(作者:カンさん)(原作:ワンパンマン)

進化の家の実験体だった一人の少女が、命辛々に流れ着いたのは人類最強の男の元で……。


総合評価:10168/評価:8.22/完結:11話/更新日時:2025年01月08日(水) 19:45 小説情報

炭治郎 in 地獄の轟家(作者:俺はお兄ちゃんだぞ!!)(原作:僕のヒーローアカデミア)

無惨を倒し禰豆子、善逸、伊之助を一緒に暮らしていた炭治郎。▼カナヲと結ばれた後、痣の代償して寿命を迎えて亡くなった。▼しかし意識を取り戻した時、轟家という家族の長男として生まれ変わっていた。▼※もし炭治郎が轟家にいたらというIFものです。▼燈矢(荼毘)はこれにより次男になります。▼


総合評価:8747/評価:8.78/連載:3話/更新日時:2025年12月19日(金) 19:00 小説情報

え?俺が幻影旅団の4番ですって!?(作者:ハンマーしゃぶしゃぶ)(原作:HUNTER×HUNTER)

ハンターハンターものは頭が良くて考察鋭い作品が多い。▼面白いけど疲れる。▼なので、馬鹿っぽい作品で、皆さんの知恵熱発動の脳みそを癒やしたい。▼むしろ自分が癒やされたい。だから自家発電した作品。▼※旅団贔屓作品。


総合評価:38329/評価:8.93/完結:11話/更新日時:2023年09月06日(水) 19:32 小説情報

オレが目指した最強のゴンさん(作者:pin)(原作:HUNTER×HUNTER)

転生したのはオリ主でもモブでもなく主人公。▼多くの苦難が待ち受け、最後は全てを犠牲にしてリタイアする。▼しかしその一瞬のきらめきは、どうしようもなくファンを惹きつけた。▼「オレは、最強のゴンさんになる!」▼ ▼作者の妄想の中で最強のゴンさんを目指します。▼ご都合主義、独自解釈にご注意下さい。


総合評価:45858/評価:8.92/完結:117話/更新日時:2024年12月27日(金) 02:13 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>