その中に唯一『人間』ではない者が混じっていた。それは『人間』という皮を被った『サラリーマン』。世界を動かす上で絶対に必要な概念。唯一無二の存在にして権化。
その名に己が存在を表すことを許された彼の名は『司波 三叉(しばみつや)』
またの名を『シヴァ』
インド神話における最強の『破壊神』である。
神とはなんだろうか? 偉大にして神聖? 奇跡にして厄災? 人間達は我らを敬い畏れ、そうして様々な事を言い伝えていく。
だが当人達…………『俺達』からしたらそんなことはまったくないんだよなぁ、これが。
神なんて敬られちゃいるが、実際はただの労働者だ。『世界』を回していくために働くサラリーマン、それが俺の感想です。
そもそもだ、神の役割なんてものは人間が働くシステムと何ら変わりが無いのである。
『世界』という名の会社を作る『創造神』、そしてその会社を運営するために俺等は役職と役割を持って働いている。だからって創造神が一番偉いのかと言えばNO。彼等は創ることが出来るがソレ以外はまったくさっぱり駄目なのである。だからこそ、創ったものを活かしていく為に俺等が働くのである。
ここで人間達との違いがあるのなら、それは労働理由だろうか。人間が労働するのは生きるために金銭を稼ぐためだ。金によって物流や福祉などを回している以上金がなくては生きていけない。当然だろう。
だが神は違う。神は別に食べなくても餓えないし、病気にかかることは稀だ。その病気さえ治癒を司る神に頼み込めば大体は治る。
んじゃなんで働くのかと言えば、それは正直『そういうもの』だからとしか言いようが無い。
そう、神に労働理由なんて無いのである。ただそうしなければいけないという強迫観念にかられ、ブラック企業も真っ青なうん千年規模の労働を強いられるのだ。まさに神の世界は真っ暗(笑)なのであった。
そんな神だが多少の慈悲は存在する。まぁ、これがなかったら正直自殺してるね………死ねないけど。
実は神の労働に対して二つだけ労働に見合うかは分らないが対価があるのだ。
一つ、下界に影響を及ぼし『英雄』を誕生させ、それの活躍を特等席で見られる。要は自分で作ったキャラクターが活躍する映画を一番良い席で見られるというものだ。クソが付く程の労働の疲れに少しばかりの娯楽をというものだ。
そして二つ…………人間の外装を纏って約100年程の『有給休暇』を取れるということ。
千年以上の労働者にはそんな有休休暇が与えれる。それによって下界にバカンスに来るのだ。転生システムを使って赤子から入っても良し、自分のなりたい年齢の人間の姿で居続けるのも良し。100年たったらまたハードワークの再開である。
そして俺も再びくして下界に遊びにきたのであった。
その日はいつもと変わらない日だった。
いつもと一緒の朝、賑やかな教室内で俺は静かに辺りを見回す。朝の挨拶をするもの、昨日見た番組について話し合うもの、今日の授業に関して話すもの、部活の朝練で疲れたもの、様々だ。
そこにあるのは人の営み、青春の一時。それらの空気を感じて俺は笑う。
「和かだねぇ」
そんな感想が漏れ出してしまう。だって仕方ないだろう、今まで忙しかったんだから。
「何ジジ臭い事言ってるのよ、司波君」
そんな俺に突っ込みを入れるのはこのクラスのトップカーストの一人である八重樫 雫だ。女性にしては高い身長にポニーテールという髪型。可愛いよりも美人という言葉がしっくりとくる女子で、よく後輩女子達からお姉様と慕われている。
そうそう、俺の名は『司波 三叉(しばみつや)』という。安直だったのは否めないが、高々100年程度ならこんな名前で十分だろう………偽名だし。
「別にジジ臭いって事は無いだろう。事実なんだし」
そう答えると彼女は苦笑を浮かべる。どうやら呆れられたらしい。そんな彼女に続くように長髪の可愛い美少女が俺に挨拶をする。彼女の名は白崎 香織。このクラスのトップカーストに属するクラスの二大美少女で八重樫と双璧を張っている。
そんな彼女の挨拶を返すと今度は如何にも眉目秀麗な男が挨拶してきた。この男の名は天之河 光輝。このクラスのまとめ役であり如何にもな正義感。好青年なだけに万人に受けが良いのだが、正直俺は好きではない。何故なら『薄い』から。
神が見たいのは『英雄』である。彼はヒーローには成れるが英雄には絶対になれない。そういう性質であり、そういう意味で薄いのだ。まぁ、平和な世の中ではこの程度しか生まれないのだろう。和かなのは嫌いじゃないが、そういう意味では好きではないな。あの滾るような生き様は魅せられて仕方ないのだ。正直癖になる。それが見られないとなると悲しいとしか言い様ない。
そんな風に少しばかり悲しさを感じつつもこの平穏を楽しんでいると、突如としてそれは起った。
突如として床が光りだし地震のように室内が揺れ始める。その事態に周りは混乱し阿鼻叫喚に落ちた。
まぁ、当たり前の事だろう。だが俺はそうならない。何故なら誰かは分らないが、俺は知っている。俺にとってなじみ深いものだからな。
「誰だ、この世界に干渉する馬鹿(神)は?」
この力は神の力だ。神というのはその力に特有の性質がある。所謂神威と呼ばれるものだ。それを感じるということはこれは神の力によって起っているということ。
そして俺はこの事実に青筋が額に浮かび上がる。基本、神は他の世界(会社)に干渉しない。此方で言えば所謂営業妨害となるからだ。それが許されるのは死んだ後の魂を引き寄せることくらいである。それを生きた状態のものを自分の『世界』に引き入れようとするのだ。ルール違反も良いところである。
そんなことを許す程俺等は甘くない。このままこの転送を強引に吹き飛ばすことも出来るが、せっかくだ。
「馬鹿に少しは教えてやろうか………ルールを違反するとどうなるかってことをな」
そしてニヤリと嗤う俺は周りのクラスメイト供に光に飲み込まれ、そして次に目を開けばそこは異世界であった。俺にとって知ってはいるが知らない場所。見知らない風景に怯えるクラスメイト達。そんなクラスメイトを元気づけ纏める天之河 光輝達。
そんな俺達に現れたのは神官服を纏った集団。彼等曰く、俺達はこの世界の創造神であるエヒトに魔人族殲滅のために呼ばれたらしい。
その事実に担任である畑山 愛子は生徒に殺し合いをさせる気かと怒るが向こうは聞き入れる気が無い。そして天之河 光輝は薄っぺらい正義心を唆されて皆に戦うよう説得を始めた。
さて、もう十分だろう。下手人の名前は分った。有給休暇中の俺を気付かないという間抜けを起こした馬鹿にこれ以上付き合う必要も無いだろう。
だから俺は……………休暇を止めた。
「何、付き合う必要は無いぞ。何故なら…………この馬鹿は今すぐ己が『破壊』する」
そして噴き出す神威。世界が震え額の第三の目が開き、空間から己の武器たるトリシューラを出すと破壊の炎を噴き出し始める。
当然周りの人達は己の変身に混乱するが、気にするつもりもない。己はただ、このマナー違反者にこう告げるだけである。
「有給中の己をよくも引っ張り出したな。その上異世界の干渉というマナー違反………その不敬、己がその名をもって破壊してやる。我が名は司波…………破壊神シヴァなり。大人しく干渉を止めるなら貴様を破壊するだけで止めてやる。だがもしこの巫山戯た真似を止めぬのなら、そのときはこの世界も何もかもを全て破壊し尽くす。破壊の名を冠する己の破壊を嘗めるなよ?」
そして手始めにこの世界の壁を壊してやることにした。
さぁ、選べ…………ロクに働かぬニート(エヒト)よ。労働者の苦労をその身に刻んでやろう。
こうしてこの世界はまぁ、色々な意味で終わりを迎える。
ありふれた職業で異世界最強…………始まらない。