仁川麻子の高校生活   作:ぷよん

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【旧】1章 出会い編
1話 転生


「……」

 

 とある一軒の住宅の一室。そこで一人の少女が目を覚ました。髪の短い日本人形みたいな、地味で小学生並に小さいその少女は、今の自分の状況を確認すると、もそもそと着替えながら登校の準備をし始めた。

 

「麻子ー、起きてるー!?」

「大丈夫」

 

 母親に呼ばれた少女――仁川麻子は、母親にそう返事すると、『慣れない様子で』服を着替え始めた。何故麻子が高校生になっているにもかかわらず、着替えそのものに手間取っているのか。それは彼女がここに『生まれた』ことに理由があった。

 

 

―――

 

 

 遡ること数時間前。『彼』は『別の世界線の未来』において、若くして突然静かにこの世を去った。世間的には特に名の知られている人物ではなく、せいぜい村人A程度の存在感でしかなかった彼であるが、ことその日本の『裏麻雀界』においては、彼を知らぬ者はいないというレベルには知られていた。

 

 彼は神出鬼没で悪魔じみた打ち方をすることで知られ、対局した者を精神的に丸裸にすることでも知られていた。そう、何を隠そう彼は『人鬼』、『傀』であったのだ。傀がこの世を去ったということは、裏麻雀界で瞬く間に広がり、激震を与えた。あの神か悪魔かの存在かのように思えた傀も人間であった……ということが衝撃だったのかどうかは定かではないが、ともかくそれほどまでに彼は影響を与えていたのである。

 

 しかし彼はその得ていた地位、財産には特に未練も何も無かった。どこぞの白髪の雀士の如く、そのようなものには興味が無かったのである。それよりも彼が求めていたのは、麻雀であった。それも、なるべく強い打ち手を。それしか生き方を知らない、という訳ではないものの、やはり彼のアイデンティティとも言えるものは麻雀であったのである。

 

 そんな、欲があるのか無いのかよくわからない彼に対し、ある神が興味を持った。金でも地位でも無く、麻雀を求める。そんな常人からはかけ離れたような、死んで魂だけになった彼に接触を図ったのである。

 

「――よ、お主の願い、叶えられないこともないぞ」

「……ふむ、続けてください」

 

 滅多に見せないような、純粋に興味を持った傀の表情。本来相手は人間であるにもかかわらず、まるで傀に値踏みされているかのような錯覚を覚えた神であったが、そこは流石の神。すぐに立て直すと、続けて口を開いた。

 

「お主がこれから行く先は、麻雀が世界的に広まって表に認められた世界。そこで様々な魑魅魍魎達と対局をすることになる。相手には退屈しないじゃろう」

「……」

 

 傀は無言であったが、表情からして続けてくれ、と言わんばかりであった。ここまでで、傀としてのこのような純粋な顔を見ることができたのは、生涯、そして死んでからも通してこの神しかいないかもしれない。手ごたえを感じた神は、更に続きを話し始めた。

 

「ちなみに行く先は長野県の、ある何でもない高校じゃ。そこでお主は高校生雀士として打っていくこととなるじゃろう。お主の性格からして、最初から有名なところに行くよりも、その方がより楽しめると思うぞい。もし行くのなら、ある程度の情報も授けてやろうと思っとる。麻雀ではなく、日常生活で必要な知識じゃな」

「……わかりました、いいでしょう」

 

 どうせ死んだ身である。こうして新しい生を得られるだけでも貴重なのだ。日常生活で使う知識というのが傀には少し気になったが、あえてそこには深く突っ込まなかった。そこの部分を知らなくとも、それはそれで面白そうであったからである。こうして、傀、もとい仁川麻子――後に『清澄の黒い悪魔』と呼ばれる高校生最強雀士が誕生することとなった。

 

 

―――

 

 

 そんな麻子は、初めて身につける女性用着衣の扱いに四苦八苦していた。一応前情報の知識として、(ある程度の家族構成とか経歴と一緒に)神もそれの扱い方を教えてくれてはいたが、それでも今まで男だった身としてはすぐに扱えるはずもなく。

 

「(……失敗した……)」

 

 おそらく麻子は前世も含めて生まれて初めて、後悔という感情を僅かながらに抱いたのであった。

 

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