【月光の神】ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか   作:クックダッセ

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そして、激闘の後は出来事(イベント)がついてくる

───

 

「ああああああああああッッ!!」

『ブモオオオオオオオオッッ!!』

 

その死闘を、レフィーヤ・ウィリディスは息をすることさえ忘れて見つめていた。

 

白と紅が、激突する。

砕けた石床が跳ね、轟音が迷宮の壁を震わせる。

怪物の咆哮は耳をつんざき、少年の叫びはそのすべてを押し返すようにまっすぐ突き抜けていく。

 

信じられなかった。

本当に、信じられなかった。

あそこにいるのは、ほんの少し前まで、自分たちよりずっと頼りなく見えた少年のはずだった。危なっかしくて、放っておけなくて、でもどこか目を離せない、そんな白髪の男の子。

 

なのに今、その少年は、自分よりも遥かに強く、遥かに大きい怪物へ真正面から立ち向かっている。

処女雪のように白い髪が、戦いの中で激しく揺れる。

汗に濡れ、血に汚れ、それでもなおその白さは失われない。

 

そして、その瞳。

宝石みたいに輝く真紅(ルベライト)が、今は意志の炎を燃やしていた。

怖いはずなのに。痛いはずなのに。

今にも倒れてしまいそうなくらいぼろぼろのはずなのに。

 

その瞳だけは少しも死んでいなかった。

まっすぐだった。

どこまでも、どうしようもなく、まっすぐだった。

 

だからレフィーヤは、胸の奥をぎゅっと掴まれた。

 

これを、物語の英雄みたいだと言わずして、何と言えばいいのだろう。

これが、冒険者ベル・クラネルの姿。

 

傷だらけで。

無様なくらい必死で。

なのにどうして、あんなにも綺麗に見えるのだろう。

 

「……『アルゴノゥト』みたい」

 

誰かが、ぽつりと呟いた。

その声は、レフィーヤの胸にすとんと落ちた。

 

ああ、本当に。

まるで物語から抜け出してきたみたいだった。

滑稽だと笑われても、無謀だと切り捨てられても、それでも自分の信じたものへ手を伸ばす。

誰もが無理だと思う相手に、挑んでいく。

そんな在り方は、昔から語られてきた英雄譚そのものだった。

 

そして、きっと。

ここにいる全員が、同じものを見ていた。

レフィーヤだけじゃない。

リリも、アリーゼも、【ロキ・ファミリア】も。

 

あの瞬間だけは、誰もがあの白髪の少年から目を離せなくなっていた。

夢中になっていたのだ。

あまりにも眩しい、その輝きに。

 

レフィーヤ自身、英雄になりたいなんて思ったことはなかった。

世界を救いたいだなんて、そんな大それた願いを抱いたこともない。

 

ただ故郷を滅ぼした、あの竜を倒したい。

そのために強くなりたかった。

そのためにオラリオへ来た。

 

それだけだったはずなのに。

どうしてだろう。

胸の奥が、熱い。

まるで小さな火種が落ちたみたいに、心のどこかがじんわりと燃えている。

 

憧れなのか、焦りなのか、それとももっと別の名前のつく感情なのか、レフィーヤにはまだわからなかった。

ただひとつだけ、はっきりしていることがある。

 

あの少年と出会った時点で、運命は決まっていたのかもしれない。

 

******

 

「んっ……」

「ベル!!」

 

重たかった瞼をゆっくり開いた次の瞬間、僕は状況を把握するより先に、勢いよく誰かに抱きつかれていた。

 

「うわっ!?」

 

ふわっと甘い香りがして、柔らかい感触が胸にぶつかる。

びっくりして固まった僕だったけど、その次に来たのは恥ずかしさよりも痛みだった。

 

「いっ、いだだだだだっ……!」

「えっ!ベル!?だ、大丈夫ですか!?」

 

慌てて離れたレフィーヤが、泣きそうな顔で僕を覗き込んでくる。

山吹色の髪がさらりと肩から流れ落ちて、揺れる耳がぴんと立っていた。

すごく心配してくれていたんだって、その顔を見ただけでわかった。

 

全身がぎしぎしするし、ちょっと動くだけであちこちが悲鳴を上げる。

自分の体なのに、自分の体じゃないみたいだった。

 

「レフィーヤ……ここ、本拠(ホーム)?」

「うん。私たちの本拠(ホーム)だよ」

 

言われて、僕はようやく周りを見渡した。

小さな部屋。

見慣れた壁。少し古びているけど、どこか落ち着く空気。

物がぎゅうぎゅうに詰め込まれていて、正直広いとはとても言えない。

でも、その雑多さが逆にいつもの景色で、僕はようやく、帰ってきたんだと実感した。

 

ここは間違いなく、僕たちの本拠(ホーム)だ。

そして、僕が寝かされているのは、普段神様とレフィーヤが一緒に使っているベッドだった。

 

「そういえば僕……ダンジョンでミノタウロスと戦ってたような……」

「そう。そして、あの強敵を撃ち倒したんです」

「すごかったわ、ベル!まるで英雄みたいだったわ!」

「リリさん! アリーゼさんまで!」

 

声のした方を見ると、台所の方から二人がやってくるところだった。

リリさんは湯気の立つ飲み物を持っていて、アリーゼさんはいつもの明るい笑顔を浮かべている。

 

差し出されたカップを受け取ると、じんわりとした温かさが手に広がった。

その熱が、冷え切っていた体の奥まで少しずつ染みこんでくる気がする。

 

僕はそっと口をつけた。

温かくて、少しだけ甘い。

ほっとして、肩の力が抜ける。

 

「そういえば、神様は?」

「ベル、気づいていないのですか?流石に唐変木というか……」

「横、見てみなさい」

 

レフィーヤが呆れたように息をついて、アリーゼさんが片目をつむって促してくる。

 

言われるままに横を見た、その瞬間だった。

僕の思考が止まる。

 

このベッドで寝ていたのは、僕だけじゃなかった。

僕のすぐ隣で神様が、すやすやと眠っていた。

 

えっ。

つややかな蒼髪が枕に広がって、規則正しい寝息がすぐそばから聞こえた。

 

疲れていたのもある、けど!!……いやいやいや!

横に神様が寝てたのに気づかなかったの、僕!?

しかも、真横!?こんな近くに!?

 

驚いた勢いで僕は飛び退こうとして───そのままベッドから転がり落ちた。

 

「うわああっ!」

「ん……ベル……?ベル?」

 

どすん、と床に落ちた衝撃で、神様が目を覚ます。

まだ夢の中にいるみたいにぼんやりした顔で、横にいるはずの僕を探しながら、何度も名前を呼んでいた。

そして、床に転がっている僕を見つけた次の瞬間。

 

「ベル!!

「うあああっ!か、神様、危ないですよ!」 「危なかったのはベルの方だ!!お前たちが帰ってきた時、死んだみたいに眠っていたんだぞ!」

「ご、ごめんなさい……神様」

「でも、無事に帰ってきたのだからそれでいい……ベルは冒険者なんだからな」

「神様……」

 

神様はそのまま僕に抱きついてきた。

ぎゅうっと強く。怒っているみたいで、泣きそうみたいで、でもやっぱり安心したんだってわかる抱きしめ方だった。

 

胸の奥がじんわり熱くなる。

本当に心配かけちゃったんだな……

 

「はいはい、お二人でリア充め爆発しろ(イチャイチャ)してるところ、私も割り込みますよー」

 

次の瞬間、リリさんが神様を僕から引きはがした。

 

「うわっ!?」

「きゃっ!?」

 

しかも、そのまま神様を寝床へぽいっと放る。

か、神様を、物みたいに扱ってる……!

 

そこで、ふと僕は疑問に思った。

レフィーヤがいるのはわかる。

同じファミリアなんだから当然だ。

でも、リリさんとアリーゼさんがここにいるのは、なんでなんだろう。

 

僕の記憶だと、ミノタウロスと戦っていて、リリさんが来てくれて、それから……僕が倒したていう記憶のはずだけど……

 

「なぜ私たちがここにいるのか、疑問のようですね、ベル」

「私たちも、あなたたちのファミリアに入れてもらうわ!」

「ええっ!?

「私も確認したんですけどね、【ロキ・ファミリア】じゃなくていいんですか?って」

 

リリさんが取っ組み合おうとしてる神様を、片腕で抑えながら、アリーゼさんが片目を瞑り、レフィーヤが苦笑いしながら言った。

 

確かに最初は【ロキ・ファミリア】に入るって話だったはず。

Lv的にも全然問題ないどころか、むしろいきなり幹部扱いでもおかしくないくらい強い二人なのに……。

 

「私は一言も【ロキ・ファミリア】に入るなんて言ってませんよ」

「えぇ!?私、ロキ・ファミリアに入るって言ったんだけど!」

「それは貴方だけです。私は元からここに入るつもりでした」

「それ言ってほしいんだけど……」

 

リリさんが淡々と答える姿に、対してアリーゼさんは本気で驚いた顔をしていた。

 

今日だけで衝撃の記事(ニュース)が多すぎて、頭が故障(パンク)しそうだった。

 

「どうして僕たちのファミリアに入ってくれるんですか?……いや!嬉しいんですけど!」

「どうして、と言われましても……強いて言えば、【ロキ・ファミリア】より好みってことね」

「何言っても無駄だ、ベル。……まあ私としてはありがたい……のか?いや、レフィーヤもそうだが、次は女が二人……?女性が多すぎる……まあ私は処女神でもあるし、本来ならそうあるべきではあるのだが……って、今後も絶対女が増えるだろうこれ!なんて女たらしなんだベル!!」

「ひぃっ!ご、ごめんなさい!!」

 

神様が途中からぶつぶつ考え込み始めたと思ったら、最後すごい勢いで怒鳴ってきた。

 

な、なんで!?僕、何か悪いことしたっけ!?

 

でも、ともかく。

僕たち【アルテミス・ファミリア】は、四人の構成員になった。

最初の一か月は、僕と神様の二人だけだった。

 

そこにレフィーヤが来てくれて、少しずつ賑やかになって。

そして今度は、リリさんとアリーゼさんまで加わってくれた。

 

改めて本拠(ホーム)の中を見回す。

……うん。さすがに狭い。

それに、僕だけ男で、あとはみんな女の子っていうのが、なんというか……ものすごく気まずい。

落ち着かない。居場所がないわけじゃないのに、妙にそわそわする。

 

「今の(ホーム)で暮らすのも悪くないですが、さすがに狭くなってきたので、私の手持ち(ポケットマネー)で家を建てました」

「えぇっ!?さ、流石に悪いですよ!!

「同じ家族(ファミリア)なんです。これくらい当然です」

 

リリさんは目元こそ見えないけど、口元は三日月を描いていた。

 

聞けば、新しい家はリリさんの手持ち(ポケットマネー)の七割ほどを使って、今【ゴブニュ・ファミリア】が建築中らしい。

完成までは一か月くらい。

その間は、この教会でみんな一緒に暮らすことになるそうだ。

 

……本当に、急に色んなことが変わっていく。

でも、不思議と嫌じゃなかった。

むしろ、胸の奥が温かくなる。

僕も頑張らなきゃ。

同じファミリアとして、ちゃんと支えられるように。

 

「僕、ダンジョン探索頑張ります。いつかになるか分からないんですけど、きっと返しますから!」

「ふふっ。では、待っていますよ、ベル」

 

「なんか、あの二人いい感じじゃない?レフィーヤ、アルテミス様」

「アルテミス様、きっと私たちいること忘れてますよ!!」

「ふっざけるな!!ベルから離れろ新参者!!」

 

神様が血相を変えて飛びかかる。

 

騒がしくて、狭くて、落ち着かなくて、それでも笑い声が絶えないこの場所は、前よりずっと家族(ファミリア)になっていた。

 

******

 

ベル・クラネル

Lv.2

力: I 0 耐久: I 0 器用: I 0 敏捷: I 0 魔力: I 0

 

《発展アビリティ》

【直感 : I 】

 

《魔法》

【オリオン・ボルト】

・破邪の一撃。

・誓いによって威力上昇。

・誓いによって消費魔力上昇。

 

【フォティノス】

付与魔法(エンチャント)

・光魔法。

・詠唱式【光よ(ルクス)】。

 

《スキル》

【】

 

 

 

リリルカ・アーデ

Lv.6

力: I 0 耐久: I 0 器用: I 0 敏捷: I 0 魔力: I 0

 

《発展アビリティ》

【耐異常 : F 】【疾走 : G 】【槍使 : F 】【聖戦 : H 】【連攻:I】

 

《魔法》

誓槍煌閃(ヴォウ・ラディアンス)

・疾駆魔法。

・力と敏捷の値によって威力向上。

 

憤怒の聖餐(アイリス・レクイエム)

・破壊衝動。

・衝動を高めれば高めるほど補正。

・衝動の丈によって任意解除変更。

 

《スキル》

光縁道標(ルミナス・アリアドネ)

・道標。

・光影で行先(ルート)を示す。

精神力(マインド)消費。

 

断絶の赤(スカーレット・アイソレーション)

・一定の自身の血の量で破壊属性付与。

・敵と認識した時のみ発動可能。

・血の量に応じて補正。

 

 

アリーゼ・ローヴェル

Lv.6

力: I 0 耐久: I 0 器用: I 0 敏捷: I 0 魔力: I 0

 

《発展アビリティ》

【狩人:G】【耐異常:H】【火閃:G】【剣士:H】【近接:I】

 

《魔法》

【アガリス・アルヴェシンス】

・炎属性付与魔法。

・詠唱式【花開け(アルガ)】

・爆散鍵【炎華(アルヴェリア)】

 

《スキル》

正華紅咲(ルブルード・べギア)

・戦闘時、力の高補正。

・逆境時、耐久・器用の高補正。

・大敵交戦時、敏捷・魔力の高補正。

・三条件達成時、継続時間に比例して力・敏捷・魔力にさらに補正。

 

正闘正火(バトレアテ・アシラス)

・近接戦闘時におけるスキル効果増幅。

・魔法発動時における魔法効果増幅。

 

 

「ステイタス更新完了だ」

 

神様にそう告げられ、僕たちはそれぞれ用紙を受け取った。

 

新しく刻まれた恩恵。

そこに記された数字や技能を見て、僕は思わず息を呑む。

 

─── Lv.2、ランクアップ。

 

嬉しい。

すごく嬉しい。

でも、それ以上に胸が熱くなったのは、自分一人でここまで来たわけじゃないって、ちゃんとわかっているからだった。

 

リリさんとアリーゼさんも、どうやら同じく昇華(ランクアップ)していたらしい。

 

リリさんは静かに微笑み、アリーゼさんはその場で飛び跳ねるみたいに喜んでいる。

 

「おそらく、あの都市外にいた黒炎のモンスター討伐かしら?」

「ええ、おそらくですが……正直、竜の谷の討伐より何倍もきつかったですからね」

 

僕の知らない言葉がさらっと出てくる。

都市外の戦い、黒炎のモンスターなど。

まだまだ僕の知らないことが、この世界には山ほどある。

 

そう思い知らされると同時に、もっと強くなりたいって気持ちも強くなった。

 

「さて、高Lvの冒険者が入ってきたわけだが、団長はどうするんだ?」

 

神様がひとつ伸びをしながら、僕たちにそう聞いた。

 

団長。

その言葉に、僕はきょとんとする。

たしかに今までは、僕と神様とレフィーヤだけだった。誰が団長かなんて、ちゃんと考えたこともなかった。

 

僕がみんなの顔を見回すと、レフィーヤも、リリさんも、アリーゼさんも、まるで最初から決まっていたみたいに微笑んでいた。

 

「「「当然、ベル・クラネル」」」

「ふっ、そうだな……」

「ええええっっ!?ぼ、僕ですか!?一番このファミリアの中で弱いですよ!?」

 

思わず、僕はぶんぶんと腕を振った。

やっとレフィーヤに追いついてLv.2になれたばかりだ。

 

リリさんとアリーゼさんなんて第一級冒険者だし、どう考えても僕より適任だと思う。

 

「確かに、Lvや強さだけで見れば、ベルは一番下でしょう」

「だ、だったら……」

「けど、私はあなたに惹かれて入ったのよ、ベル」

「え……」

「だから、みんな期待しているんだ。ベル・クラネルという存在に」

 

リリさんが言う。

アリーゼさんが笑う。

神様も、まっすぐ僕を見ていた。

 

その視線は、誰一人冗談を言っていなかった。

本気で、僕しかいないと思ってくれている。

 

僕はまだ半人前だ。

このファミリアの中で、一番弱い。

 

それでも。

みんなが僕を認めてくれている。

期待してくれている。

その事実が、胸の奥に小さな火を灯した。

 

最後に、レフィーヤが一歩前へ出る。

そして、僕に向かって手を差し出した。

 

「【アルテミス・ファミリア】は、これから走り出すんですよ。団長」

「……っ!はいっ!」

 

僕はその手を取る。

 

「僕は【アルテミス・ファミリア】団長、ベル・クラネルです!!よろしくお願いします!!」

 

誓った。

幼い頃から憧れてきた英雄に。

誰かに手を引かれるだけじゃない、自分の足で前へ進める冒険者に。

 

まだ、弱い。

まだ、足りない。

それでも、もう立ち止まらない。

 

この誓いを胸に。

僕たち【アルテミス・ファミリア】は、ここから走り出す。

次回書くのは

  • 14話
  • ベル過去編
  • リリ、アリーゼ過去編
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