勇者よ、人間性を獲得せよ   作:じーくじおん

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コードヴェインが楽しいのが悪い(言い訳)。ソロプレイで何とか闇の住民ルートクリアしました。黄金色の騎士とジュウゾウ・ミドウは絶対に許さない・・・。噂のオンスモがまんまオンスモで笑いましたけど、経験済みだからかそれほど苦戦はしませんでしたね。黄金色の騎士とジュウゾウ・ミドウは絶対に許さない・・・(大事なことなので以下略)


EP18 紡がれる誓約

 昼間に行われた副業のサーカス・ショーが終わり、店内の奴隷達は各々の檻の中で休息に入っていた。この店の奴隷達が一日三食の破格な待遇を受け続けていられる理由が、主にこの副業のお陰である。数多く存在する奴隷商店の中でも、此処での待遇は格別に良い方であるため、例え獣や魔物と同等に見世物として扱われても、奴隷達は一切の文句を言わなかった。

 

「では、奴隷紋の種類はどういった物にしましょうか?」

 

「そうですね・・・とりあえずは一番安い物でお願いします」

 

「おい、貴公。この手を離せ、私は―――」

 

「一番安い物ですか・・・となると呪いの方はあってないような物ですが、まあ貴女方にはもう必要なさそうですし、良いでしょう!」

 

 そうしてまたいつもの奴隷商店としての営業時間となった今、普段とは違いガシャガシャとした足音と喧騒な店主と客とのやりとりに、店内の奴隷達は檻の中から一斉に目を向ける。すると視線の先に映った光景に、奴隷達の目はこぞって見開かれる事となる。

 

 一ヶ月くらい前に此処を訪れ、全身をまるで強固な岩と圧倒的な威圧感で固めたかの様な鎧男が、すっかり見違えるほど立派に成長した亜人の娘に大人しく手を引かれているのだ。あの重圧な殺気に当てられてから荒々しさが消え去り、すっかり消沈していた黒い毛並みの獣人も、信じられない物を見たといった風に開いた口がふさげられずにいる。

 

「では、私めは早速準備をしてきますので、その間にお二方は話をつけておいてくださいね! 良いお返事を期待しておりますぞ!」

 

 グフフフッ! といやらしげに白い歯を見せ、奴隷商は店の奥へと軽快にスキップをしながら引っ込んでいく。上機嫌な奴隷商の後ろ姿へ手を振って見送るラフタリアに、ハベルの兜越しからジトッと重たい視線が突き刺さる。それを想定していないわけもなく、彼女はいつにもなくキリッとした真面目な表情でハベルと向き合った。

 

 ハベルにとって彼女が口走った事とは、身につけた者に倍の苦痛を受けさせる『災厄の指輪』を自ら装備するのと同等なまでに納得のいく物ではなかった。だが従者の真っ直ぐな目を見るにあたって、奴隷商の言うとおり話を付ける必要があるだろう。

 

「・・・・・・ラフタリアよ、私が欲しているのは奴隷ではない。私と共に戦える戦士であり、忠実な従者だ」

 

「はい、それは重々承知しています」

「・・・・・・であれば分かるだろう。もはや貴公が奴隷である必要性など皆無だ・・・確かに私の愚行で貴公を不安にさせている事は承知している。だが・・・その・・・だからといって貴公が無理に忌まわしい印を刻まずとも・・・私はもう―――」

 

「待ってください! 私は決してハベル様を疑っているわけではないのです。これは・・・単に私のワガママなんです」

 

 未だ自分自身を許せてはいないハベルを庇うように、意図せずラフタリアの声は大きくなる。そして彼女は主人の左手を掴み、自身の奴隷紋が刻まれていた胸元へと置くようにギュッと力を込めて握りしめた。

 

「ハベル様の言うとおり、私にとって奴隷紋とは忌まわしい代物でした。いつまたあの痛みが襲ってくるのか怯えながら生き続け、お前は一生そのままだと魂に刻まれるような感覚を忘れたわけではありません。ですが、あの日・・・ハベル様に買われたあの日から、私にとって奴隷紋とはハベル様との誓約の証となりました」

 

「・・・誓約・・・だと?」

 

 はい、と返事を返しては何気なく頷く彼女の口から放たれた『誓約』という言葉に、ハベルは少なからず動揺する。ハベルの世界において誓約とは、交わした者の生き方そのものを決める最も意義深い行為であるからだ。

 

「ハベル様と出会わなければ・・・ハベル様が差し伸べてくれた手を掴まなければ、私は役立たずで無力な奴隷のまま死んでいったでしょう。戦い方や生きる意味をハベル様は教え、導いてくださいました。その大切な思い出の切っ掛けとなる証を・・・私はあの場で無理矢理奪われました」

 

 言わずもがな、城庭での事件である。あの時のラフタリアはというと、無理に押さえ付けようとした国家騎士達を残らずねじ伏せてからも槍の勇者一行がしつこく介入してきたが為に、彼らの言い分をさっさと呑んでからハベルを探しに行くつもりであったのだ。にもかかわらず、相も変わらずな槍の勇者の言動に、彼女の堪忍袋の緒が完全に切れてしまった。

 

 気が付いたときには剣の勇者が連れ戻してくれたが、あの日からラフタリアの中で一抹の不安が消えずにいた。奴らにとってはなんて事の無い解呪の儀式が、ラフタリアにとってまるでハベルとの今までを否定された様に感じているのだ。この不安を消し去る方法に思い当たるのがただ一つ・・・。

 

―――それが・・・奴隷紋の掛け直しか・・・。

 

 彼女の真意を理解したハベルは納得せずとも理解を示していた。それに彼女は主人に似たのか、岩のように頑固な節がある。ハベルも思うところがある以上、これ以上の話し合いは必要ないと判断し、仕方がないか、といった感じで首を縦に振った。承諾を得られた事に表情を和らげるラフタリアであったが、但しだ! とハベルは付け足すと、左腕にはめられた籠手を外していく。

 

「ハベル様、それは・・・」

 

 焼けただれた様な彼の左腕には、不死人の証とも言うべきおぞましい呪いの象徴、ダークリングがハッキリと刻まれていた。まるで太陽が闇に喰われたかのような惨たる印、意味を知る者からすれば奴隷紋以上に忌避感を感じるべきだが、初見であるラフタリアはまじまじと眺めていた。

 

「これは・・・不死人()が不死人としてあるが故の証だ。今の貴公にとって奴隷紋がそうであるようにな・・・・・・。この私との誓約というならば、紋の場所も合わせるのが道理というものだろう。良いな?」

 

 これはハベルなりの気遣いでもある。今回の件の様に、ラフタリアの胸元にデカデカと描かれた奴隷紋を見た奴がまた下らぬ因縁を付けてくるかも知れない。なにより、ラフタリア自身が良くても周りの印象は如何だろうか? 

 

 いくら言おうが、これから彼女に刻まれるのは奴隷紋であることに変わりはない。せめて周りに認知されない様な目立たない場所に刻み込み、少しでも彼女に降り掛かる災の種を減らしてやりたいが為である。

 

「ハベル様・・・はい、勿論です!」

 

 ラフタリアは顔を綻ばせ、彼の掲げた条件を快く呑んだ。ハベルの気遣いが伝わったのもそうだが、何よりハベルとのお揃いというのが彼女にとっては嬉しかったのだ。

 

 その後、タイミングを計ったかのように奴隷商とその部下が誓約に必要な道具を一式揃えて姿を現した。奴隷商は手慣れた手つきで奴隷紋をラフタリアの左腕へと入れていく。前に入れた者と違って一番安値と言う事もあり、誓約の際に生じる呪痛もないに等しい。加えてハベルの眼前に発現したステータス魔術による奴隷制限の項目も、彼は全て取っ払った。これで、ラフタリアは晴れて奴隷へとその身を戻したわけだが、その意味合いも何もかもが以前の彼らとは違っていた。

 

「しかし・・・あのちんちくりんのガリガリをよくぞここまで・・・流石は私が見込んだ勇者様です! ここまで上玉なら非処女でも金貨20枚はイケますぞぉ!」

 

「なぁ!? わ、私は処女です!」

 

「ならば金貨35枚・・・・・・っ!?」

 

 処女であれば価値が違うのか、そして顔を真っ赤にしてまで彼女の宣言は必要だったのか、そんな疑問を抱く前にハベルは『黒騎士の剣』を目にもとまらぬ早さで展開し、奴隷商のでっぷりとした首元へと刃を押し当てた。

 

 脂の乗った舌からいつもの質の悪い冗談が反射的に引っ込む代わりに、額からは油汗が吹き出ている。この店に初めて顔を出した時と同等の殺気を瞬時に醸し出したハベルにラフタリアは慌てふためき、周りの部下や奴隷達も震え上がった。

 

「は、はは・・・いやですねぇ、盾の勇者様。ほんの冗談ですよ」

 

「・・・そうか、私のコレも冗談で済みそうだ」

 

 凄まじい殺気と手元の大剣を納めるハベルに、ラフタリアを含め周りの者達は安堵の息を吐く。質の悪い冗談はお互い様のようだ。

 

「・・・しかし、これでも貴公には感謝をしている。あの場で貴公に声を掛けられなければ、私はこうしてラフタリアと出会う事もなかった訳だしな」

 

「そんなトンデモございません! 私めはただいつものように商売をしたまでです。しかし・・・感謝・・・感謝ですかぁ・・・」

 

 奴隷商はずんぐりな身体をくねらせながら、先程あんな目に遭ったばかりだというのにも関わらず、卑しい目線をハベルに向けていた。

 

「感謝していると仰られましても、私も一介の商人であります故、言葉ではどうにも伝わりにくいものですなぁ・・・」

 

「・・・貴公、何が言いたい?」

 

「またまた勇者様もお人が悪い。私めのような卑しい商人が唯一喜ぶ物といったら勿論コレでございましょう? と言うわけで紹介いたしますはコチラァ!!」

 

 ハベルの目の前で親指と中指、人差し指を擦り合わせる動作の後、奴隷商がどこからともなく取り出したのは魔法書ほどの大きさの卵が陳列された木箱であった。十中八九、これを買えという事なのだろう。

 

「銀貨100枚から挑戦ができる魔物の卵クジでございます! 勇者様の育成の腕を見込むなら、どんな魔物が出ようと戦力になること間違いなしでございますよ!」

 

「・・・クジということはハズレもあるのだろう。いくら私とてそんな物に手を出すと―――」

 

「これは心外な! 虚言でお客様の心を誘う事はあれど、自慢の売り物を詐称するなど商人の風上にも置けません! 最低でもフィロリアル級の魔物が必ず入っておりますよ!」

 

 それはそれでどうなのだと思いつつ、ハベルはまったく聞き覚えのない・・・というより魔物の名前など一々覚える気も無い彼はゴトッと兜を傾げる。見かねたラフタリアに、町で馬の代わりに荷車を引く大きな鳥の事だという説明を受け、彼はようやく合点がいった。畜産や戦闘等々、育て方によって多様な活躍が見込める魔物だという。

 

「卵には特別な魔法をお掛けしておりますので、すぐに孵りますし成長も早いですよ!しかも今なら大当たりを引くと! なんとびっくり金貨20枚相当のドラゴン『騎竜』が貴方の手にぃ! どうですか、お一つ!?」

 

「・・・竜が・・・使役できる・・・ぬぅ・・・しかしだな・・・」

 

「まだ迷ってらっしゃるのですか? ああ、勇者様の感謝とは何にもならない言葉だけだったのですね。おまけに殺気立てられ剣を向けられる始末・・・おお、私めは悲しい! 感謝というのもきっと偽りだったのでしょう。嗚呼、私の見込んだ勇者様であればと思いましたが・・・シクシクメソメソ」

 

「・・・ぬぅぅぅ・・・・・・」

 

 奴隷商がハンカチを顔に当てているが、誰がどう見てもクサイ演技そのものだ。だが、今のハベルの心を揺さぶるには充分である。その結果として、満面の笑顔で見送られながら店を後にする盾の勇者の手には専用の保育器に入れられた卵があり、従者はどうにもならない溜息をつくのであった。

 

「前から思っていたのですが、買い物があまり上手ではないのですね」

 

「・・・・・・ぬぅ・・・・・・」

 

 

 

 

 日が落ち始めるまえにリユート村へと足を進める頃、卵から孵った魔物を見て戦力になりそうであればそのまま仲間として加え、そうでなければそのままリユート村に預けようという話となって両者は落ち着いた。

 

 奴隷商の話が真実であれば最低でも卵から孵るのは万能なフィロリアルだ。復興が必要なリユート村では重宝されるに違いない。例えフィロリアルでなくとも愛玩としか役に立てぬ魔物など、使命の妨げとなるだけだ。戦力にならないのであれば一緒に居る必要も、育てる余裕もないというものである。

 

 そんな事を考えている内に、二人は道中何事もなくリユート村へと到着する。村は確かに半壊している建物が多いが、生き残った者達が比較的破損が少ない家に纏まって生活している。

 

 波が襲う以前、ハベルによって村の特産品である炭鉱を魔物から取り戻し、ある程度の活気を取り戻す事ができていた事もあってか、村の復興に取り組んでいる者達も多くみられた。波による被害は決して少なくはないが、住民達の復興を目指した活気を見れば、村が元の状態に戻るのもそう遠くはないだろう。

 

 村の入り口まで足を運ぶと、ハベル等の存在に気が付いた何人かの村人が快く迎え入れてくれていた。案内されるがままに村の中へと足を進めていくと、倒壊した見張り台の傍には運び込まれたであろう大きな魔物の亡骸が存在していた。

 

 素人目からでも分かるほど、コレがソラールの言っていた波の元凶である魔物だろう事は、部位を剥ぎ取られ尽くされた亡骸と成ってからでも明らかである。それほどこの魔物の放つ雰囲気や亡骸に纏わるソウルの量は、この世界の物とは異様なまでに逸脱していた。

 

「これが災厄の波から出てきた魔物・・・命を失ってからでもこんなに恐ろしいものなのですね。これはどうするんですか?」

 

「ん? ああ。もう素材となる部分は他の勇者様方が剥ぎ取っちまったみたいだし・・・食肉になる部分も宿屋の奴が残らず取っちまったからなぁ。後は埋めるしかないだろうが、今は村の復興で忙しくてそれどこじゃないんだよ。腐らす前に済ませちまいたいんだがどうにもなあ・・・」

 

「ふむ・・・では、もうコレはいらんのだな?」

 

 確認をとったハベルは魔物の亡骸の前に立ち、人一人分の背丈ほどもある『黒騎士の大剣』を展開した。不思議に眺める村人達の視線を構わず、ハベルは特大剣を振り下ろして亡骸を豪快に解体し始める。すると血飛沫をあげる事無く亡骸はみるみるうちに灰へと変化し、回収されずにあるソウルがハベルの四聖盾へと残らず吸収されていった。

 

 突然の奇行に見学していた村人達は目を見開くまでに驚愕したものの、すぐさまラフタリアが四聖勇者のスキルであるというその場凌ぎのフォローもあり、事を納めていった。少しのざわつきで済んだ様子にホッと息をついてから、ラフタリアはハベルの元へと駆け寄った。

 

「ハベル様、ああいう事をされるのでしたらどうか一声掛けてください。村の人達がびっくりしてましたよ」

 

「・・・ぬ・・・・・・すまない。あのままでは余りにもったいなかったものでな」

 

 そう言って、ハベルは先程死体を解体する際に手に入れた《次元のキメラ》のソウルを手元にくべ、一瞬で握り潰してはソウルへと変換し、四聖盾へと吸収させる。

 

 このようにハベルがソウルを盾へと吸収させるのには大事な意義があった。あの事件の後でステータス魔術から発覚した事だが、四聖盾はソウルを代償に日々進行するはずのハベルの亡者化を食い止めている事が分かった。ソラールのソウルをある程度吸収した際に亡者から戻ったのもそのためだろう。

 

 しかしながら不死人が故のソウルを司る業が、ラフタリアをはじめとするこの世界の住民にとってはおぞましく異形であることに変わりない。その自覚を持って欲しいラフタリアであったが、促した傍から業を行った彼の様子を見るに難しいのだろうと半ば諦めかけていた。

 

「皆さん集まってどうしました? ・・・・・・おや! 盾の勇者様方ではございませんか!」

 

 復興作業から戻ってきた村長が中央の騒ぎを聞きつけては、二人の顔を見た途端に破顔する。疲労している身体で駆け寄っては村を救ってくれた事に関して礼を述べ、その後村人達から話を聞き、後回しにせざるを得なかった死体の処理をしてくれたハベル等に再度頭を下げ始めた。

 

 周りから向けられる感謝の想いに慣れぬハベルはタジタジとなり、その様子をラフタリアは微笑ましく眺めている。一種の様式美と化しつつある光景であったが、不意に村長の口から気になる言葉が聞こえてきた。

 

「いやぁ、盾の勇者様()()()手伝っていただけるとは大変ありがたいです。是非ともリユート村が復興した暁には何か―――」

 

「待て、他にも誰か居るのか?」

 

「ええ、丁度今朝方に村の復興を手伝いたいと剣の勇者様がお一人で―――」

 

「おお! ハベル殿にラフタリア殿、この村に居れば顔を見せると聞いたものでな!  ん? おお!? ハベル殿、背中のそれはマントか! 流石はエルハルト殿だ見栄えが良い! 一気に勇者らしくなったのではないか? ウワッハッハ!」

 

 噂をすればなんとやら、すっかりと聞き慣れてしまった笑い声の方に顔を向けると、復興作業に取り組んでいる村人達の中心にて、一際沢山の端材を荷車で難なく運んでいるソラールがこちらへと向かってきているではないか。いったい何故、という顔を並べる盾の勇者一行に村長は和やかに口を開いた。

 

「災厄の波を打ち払ってくださったばかりだというのに、剣の勇者様は村に来てすぐ復興作業を手伝うと言ってくださったのですよ。それだけではなく国からの報奨金の半分である銀貨二千枚を寄付してくださいまして・・・本当に勇者様方には何とお礼を申し上げればよいか・・・」

 

「領主殿、気になさらずとも良いと言ったではないか! こんな状況を黙って見過ごすなどできるわけがない。俺が好きでやってる事だからな! そうだ、先程の報奨金の話で思い出したぞ。ほら、ハベル殿達の分だ」

 

 ソラールは懐から金袋を取り出すと、荷物()を抱えているハベルを見かねてラフタリアへと放り投げた。彼女は咄嗟にそれを受け取ると、思った以上の重量に取り落としそうになる。中身を見ると、そこには手に取った事もない量の銀貨がギッシリと詰め込まれていた。

 

「ソ、ソラール様! これは!?」

 

「うむ! 見ての通り報奨金、銀貨千五百枚だ。貴公等は城に居なかったからな」

 

 何事もなく口にするソラールであったが、あの王が盾の勇者用に報奨金を渡す事があるとは考えられなかった。となると、この金の出所は・・・・・・。

 

「い、いけませんソラール様。これでは貴方の分が!」

 

「良いのだラフタリア殿。村を守った貴公等が何もというのはいくらなんでも道理に合わん。第一、俺だけがこれほど貰っても使い道に困るというものだ」

 

「で、でも―――」

 

「待て、ソラール。貴公の従者はどうした?」

 

 ハベルのふとした問いに、ラフタリアもハッと彼の周りを見渡した。ハベルに言われて気が付いたが、いつも彼の後ろで待機しているはずの仲間が見当たらないのだ。痛いところを突かれたソラールはグッと言葉を詰まらせるも、ハハハ・・・と、彼らしくも無い乾いた笑い声と共に少しずつ語り始めた。

 

「俺のやり方にはもうついて行けないと・・・どうやら嫌われてしまったみたいでな・・・せめて報酬を分けようとしたんだが、その金を見るとあんたを思い出すから、と言って聞き留めもせずに・・・・・・思えば、俺は彼らを振り回してばかりだったかもしれん。そのツケが回ったんだろう」

 

 短い間ではあったが、彼らとは共に同じ釜の飯を食い、盃を共にする程確かな仲間として行動を共にしていたつもりであった。だからこそ、罪人である盾の勇者にこれ以上深入りをするなら・・・と言われたときにはついついムキになり怒鳴ってしまったが、まさか出て行かれるとは終ぞ思ってもいなかった。

 

 バケツヘルムを被っていて良かった、とソラールは苦虫を噛み潰したような表情を伏せたまま語っていた。しかし声色までは誤魔化す事ができず、話を聞いた二人もある程度察したのか、顔を下げてしょぼくれていた。だから言いたくはなかったのだ、とソラールはどうしようもない気持ちを無理矢理押し込め、ハベルの肩をバシバシと叩く。

 

「おいおい、聞いてきた貴公等が気にしたところでどうしようもないだろう! ハベル殿と同じくかの地(ロードラン)を一人で渡ったのだ。このぐらい、今さらどうという事でもない。それに俺は考える事が苦手でな。元から変人だの狂人だのと言われ続けてきた男だぞ? これからだって俺なりにできる事を探して前に進むだけだ。そうだろうハベル殿?」

 

「・・・そう、だな。貴公がそう言うのなら、そうなのだろうな・・・・・・だが、少なくとも貴公の周りはそう思ってはいないようだぞ」

 

 「なに?」と首を傾げるソラールであったが、辺りに視線を向けると先程まで作業を共にしていた村の男達の姿があり、話を聞いていたのか彼らは真っ直ぐソラールを見つめていた。そして不思議に思う彼の手をラフタリアは優しく握り、笑みを浮かべた。

 

「ハベル様の仰るとおりです。この場で貴方をそんな風に言う人なんて誰も居ませんよ」

 

「そうだそうだ! あんたが居なけりゃ、こんなにも早く作業は進まなかったぜ」

 

「村の誰よりも進んで復興に加わってくれたんだ。お陰で皆、沈まずにやれてるよ」

 

「戦いだけじゃなくて手伝いまでしてくれるなんざ、こりゃ絵本の勇者様より全然良いぜ!」

 

 ラフタリアを皮切りに、周囲の村人達も剣の勇者を元気づけ始める。彼らの言葉は虚勢を張り続けた勇者の胸に深々と突き刺さり、彼は気が付けば自然と目頭が熱くなっていた。彼もハベルとは違った方向で不器用なのだ。

 

「・・・明日からは私達も手伝おう。この村は大いに世話になったところだ。それに、ラフタリアに聞いたが次の波まで四五日もの時間があるではないか。何も焦る事など無いからな・・・・・・貴公もそれで良かろう?」

 

「勿論です、ハベル様!」

 

「貴公等・・・嗚呼、本当に・・・・・・」

 

「では、皆さん。続きは明日からと言う事で今日は休んでください。明日からはありがたい事に盾の勇者様方も加わってくださいます。より一層気合いを入れてこの村を蘇らせましょう!」

 

 涙腺が限界近くまで来ていたソラールに助け船を出すよう、村長が号令を掛ける。おぉーっ! という掛け声を挙げて、村人達は我が家へと戻っていった。

 

 勇者一行も宿屋へと向かい、銀貨一枚の宿代を払って部屋を取る。ソラールと共に食事の場では宿の主人の作る料理に舌鼓を打ちながら、ラフタリアの先生である奥方にハベルは挨拶を交わし、ついでに文字の享受を依頼すると酷く驚かれてしまっていた。

 

 しかしその後は色々と気遣ってくれたのか何も聞かず、食事が終わってから時間を作ってもらい、一から基本の、それこそ子供に教えることばの絵本を使いながらハベルはマンツーマンで指導を受けていた。その間にラフタリアは貰った魔法書で自らに適性のある幻影魔法の項目を開き、目を細め額に皺を寄せながら必死に学び、ソラールは部屋に戻って早々に眠りについた。

 

 そんなものだから、誰も部屋に預けた保育器に入っている卵が少しずつ動き始め、僅かなヒビを入れた事には気が付かないのであった。

 

 




次回遂にあの子が登場・・・。
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