窓から差し込む日差しに「ん・・・」とベッド上で身体をもぞもぞと動かしながら、ラフタリアの意識は徐々に覚醒していく。自力でベッドに辿り着いた記憶の無いラフタリアは、おぼろげな意識の中で昨晩の記憶を徐々に思い出していく。
そう・・・昨晩はソラールと共に宿で食事を摂り、ハベルが彼女の先生でもある宿の奥さんに文字を教わった後、ラフタリアとハベルは一階の部屋を一室借り、二人で勉強会を開いていたのだ。文字を勉強するのに丁度良いと言って、宿屋の主人が持ってきた三勇者の絵本を片手に、ハベルは基礎的な読み書きをラフタリアから教わっていた。
盾の物語が無い事に一抹の不満はあったものの、ラフタリアは意欲充分な主人の期待に応えるべく、一生懸命に気合いを入れてハベルに向き合った。ただ一つ誤算だったのは、少しばかり味覚を取り戻したとは言え、ハベルが亡者である事を彼女はすっかり忘れていた事だ。
そう、あらゆる人間的感覚を失った亡者に睡眠は不要。疲れや眠気を一切覚えぬハベルに、ラフタリアは己の体力の限界を超えてまで付き添った。結果、簡単な文法を書き熟せるにまで至ったハベルを見て安心したラフタリアは、事切れるようにその場に伏してしまったのだ。
そして、薄れゆく意識の中で最後にうっすらと覚えているのは、ハベルがラフタリアをいわゆるお姫様抱っこでベッドに・・・・・・。
ああ、やってしまった・・・と彼女は恐る恐るといった感じでゆっくりと目を開ける。視線の先には絵本と薬の指南書を手に、保育器が置かれた机に向かって自習している主人の後ろ姿があった。彼の背中を見つめていると、不意にまたあの記憶が蘇る。ぽぽぽっと頬に朱が差しはじめ、どうしようもなくなった彼女は頭を覆うように布団をかぶってしまう。
そうして自分の心を落ち着かせようとした彼女であったが、パキパキッ! パキィッ! という不自然な物音を耳にすると、彼女はバッと顔を上げる。警戒の混ざった視線の先には、卵の殻が散乱している床をコロコロと転がる保育器が目に入った。
そのまま恐る恐る視線を上げていくと、同じく卓上を凝視しているハベルと、そしてそのハベルを見つめ続ける小さな魔物の姿が見られた。
赤ん坊ながらに全身を覆うふわふわと丸みを帯びた薄いピンクの羽毛、つぶらな青い瞳に小さな黄色いくちばし、その姿は間違いなくフィロリアルの雛であった。
「・・・・・・! ピィッ!」
「ぬぉ!?」
しばらく見つめ続ける両者であったが、先に均衡を破ったのは言わずもがな雛の方であった。まだ生まれたばかりだというのに、よちよちとした羽からは想像もつかぬほどの速度と勢いで、フィロリアルはハベルの兜へと飛びついた。
初めて目にした生命の誕生にぼうっとしていたハベルはこの不意打ちを甘んじて喰らい、バランスを崩して椅子から転げ落ちる。重厚な岩鎧がガタンッ!と宿全体に衝撃を響かせ、奥方や主人をはじめ宿泊していた者全員が目を覚まし、ハベルの部屋へと集まったのはごく自然なことであった。
「ウワッハッハ! いやはや、赤ん坊ながらハベル殿を地に伏せさせるとは、随分と見込みのあるフィロリアルではないか! なあ貴公? ウワッハッハッハ!」
「・・・・・・ぬぅ」
朝食を終えるまでソラールはひとしきり笑い続けていた。宿の主人や他の宿泊していた者達も、これまで彼のイメージにそぐわぬ今朝の姿に微笑みが絶えることはなく、暖かい目線をハベルに向けていた。
騒ぎの原因であるハベルは向けられる視線にどこか居心地の悪さを感じつつ、恨めしげに隣で煮豆にがっつくフィロリアルを睨む。宿の主人がわざわざ用意してくれた煮豆を美味しそうに平らげ、二皿目に突入したばかりの雛はハベルの視線に気が付くと、ニッコリとした表情を浮かべた。魔物ながらに表情豊かな彼女は、ピヨッ! と元気に返事をし、またも煮豆に向かっていく。そんな雛に怒りの感情など湧くはずもなく、兜の面頬からは長い溜息がゆっくりと漏れ出す。
フィロリアル・・・・・・翼はあるが飛ぶことはできず、代わりに自分の何倍もの重さの荷馬車を引ける自慢の脚力を有す。家畜から馬の代わりまでなんでもござれの万能型で有名な魔物である。宿の主人も飼育していたことがあり、話を聞くに最初から使役用で生まれた個体は成体になると荷車を引くことを好むようになり、専用の荷車を与えると喜ぶのだそうだ。
「元気いっぱいで食欲旺盛、とっても可愛い女の子が生まれましたね」
「・・・雌か・・・しかし、使役用の魔物というのはどれもここまで人懐っこいものなのか?」
ハベルの疑問は尤もである。亡者である彼は人間や魔物を問わず、本人が意図せずとも対峙した者に言いしれぬ本能的な恐怖や忌避感を覚えさせてしまう。積み上げてきた物があるからこうして交流の場に居れるというもの。だと言うのに、このフィロリアルは初見でハベルに飛び付いて甘えてくる始末。そして今も尚、ハベルのそばを離れようとはしない。
「そうさね~。フィロリアルってのは基本的に人懐っこい種族だけど、この様子だと所謂刷り込みって奴かも知れないね。卵が孵った瞬間に立ち会ったんだろう?」
「むむ? では、彼女はハベル殿を自分の親だと思っている、ということか! 良い父親に成らねばな、貴公!」
「そういうこと。大事に育てていかないといけないね、勇者様」
「・・・なっ!?」
彼の疑問に首を傾げる従者と剣の勇者を見かねてか、宿屋の奥方が済んだ食器を片付けながら、これまたニッコリとした笑みで説明した。一方、とんでもないことをサラリと告げられてしまったハベルの方はギクリと岩のように固まってしまった。そして、いつの間にか煮豆を平らげて満足げな雛を見つめると、呼応する様に目が合った。
「・・・私が・・・この子の・・・父親・・・・・・?」
「ピィッ!」
ぼそりと呟く彼に、まるで返事をするかのように鳴いたフィロリアルはハベルの籠手から器用に駆け上がり、肩にちょこんと乗っかっては頬ずりをし始めた。一連の動作からも、完全に奥方の推測が正しいだろう。ならば、この村に預けるという方針は最初からなるべく考えない方が心持ちが良い。
「コレばかりは難しく考えることも無いと思うぞ、ハベル殿。それに彼女は貴公に懐いている。なに、いつも通りにしていれば問題は無いさ。村の復興が終わるまでは俺も面倒を見ようじゃないか!」
「この子のためにも、頑張って良い父親になりましょう! ハベル様なら絶対大丈夫です! 自信を持ってそう言えます。私も精一杯手伝いますから」
「・・・う、うむ・・・」
余り乗り気では無かったはずの従者の豹変を疑問に思いつつ、なるようにしかならないというソラールの二人に背中を押され、ハベルは黙ってすり寄ってくる小さなふわふわの頭を撫でるのであった。
「そう言えば、名前を決めねばならんな?」
「・・・・・・ぬぅ・・・・・・」
それからは勇者一行が参加したリユート村の本格的な復興作業が再開された。瓦礫の撤去、周囲の森からの木材確保、倒壊した建築物の再建、村の周囲のパトロール等々、不死人が故に疲労を知らず、一切の休みを挟まずに作業を続ける勇者二人の働きぶりは村の全員を唸らせるほどであった。
騎士の出であるソラールとハベルは最悪を見越し、特に睡眠を必要としないハベルは夜間もずっと見回りを欠かさず、ひたすら村に近づく魔物を駆除していった。特に「災厄の波」の被災後ということもあり、周囲の魔物達がここぞとばかりに狙ってくるということは前の世界での国家騎士時代からの経験上、大いに考えられた。竜や自然による災害の後、必ずと行って良いほどその地には弱った民達を狙って、亡者やデーモンどもがソウルを求めてやってきたものである。
村の安全を守りながらの復興に励む勇者の姿は、村人等の士気を高めるのにこれ以上ないほど充分であった。
ラフタリアもハベルと共に森へと魔物の駆逐に赴くほか、宿の奥方と共に炊き出しの手伝いやハベルが作成した薬の配給等を行っていた。若く可愛い健気な獣人の存在は、自然と野郎達のモチベーションを底上げする結果となったのは言うまでもない。
そんなこんなで一週間も経たないうちに、勇者一行の尽力でリユート村の外観はほぼ波が訪れる以前の状態まで復興する事ができた。波での戦闘により全壊した村中心部の見張り台も再建し、四聖勇者の紋が描かれた旗を天辺に添えたお陰か前の物よりも立派に見え、今では村の復興シンボルとなった。
「・・・・・・案外、何とかなるものだな」
「うむ、そうだな。完全に元通りというわけでは無いが、後は村の者達に任せても良いだろう。しかし・・・・・・」
しみじみと呟くハベルに、ソラールは満足げに同意する。一度目の波の被害状況を考えれば、勇者二人の援助があったとはいえ、すぐに復興が叶ったのは充分すぎるくらいである。そしてすぐ、目の前を瓦礫を積んだ荷車で機敏に運搬する白いフィロリアルを目にし、ソラールは笑みを浮かべた。
「フィーロは働き者のよい子に育ってくれたな。流石はハベル殿だ! しかし、魔物の成長というものは存外早いものだな。よもや二日で成体になるとは思いもしなかったぞ」
「・・・売人の奴隷商が言うに、卵には成長を補正する魔法が掛けてあったそうだが・・・・・・復興には欠かせぬ即戦力にはなったな」
あれからフィロリアル・・・もといフィーロはしばらくハベルの傍に付きっきりであった。復興作業の時や魔物の討伐の時でさえ、彼女は器用にハベルの頭部や肩部にちょこんと乗っかり、行動を共にした。その結果、ラフタリア以上にフィーロは著しいの一言では済まされぬほどの成長を遂げた。メキメキ、ピキピキと身体がきしむような音が聞こえたかと思えば、見る見るうちに体長は増していき、僅か一日でハベルの腰部まで生育していった。
勿論育成に関わった三名は心配しかしなかったが、勇者が育てたとなればこんなものだと宿屋の夫妻から言われてしまったため、特段どうすることもできなかった。その後も夫妻の助言の下、食べたい分だけ食べさせ、村の子供達と遊ばせたり等、成長を見守るほか無かったと言えよう。
結果、村の皆に可愛がられながらフィロリアルは二日を掛けてハベルよりも一回り大きい成体へと成長を遂げた。ことのほか知恵も悪くなく、村人等と協力して荷車を引いて瓦礫の撤去や資材の運搬を手伝うばかりでは無く、何とハベルやソラールと共に魔物の討伐に加わることもあったのだ。最初はがむしゃらに突っ込むばかりであったが、傷つきながらもソラールやハベルの戦い方や指示を学び、今では様になる戦いぶりを発揮してくれている。
ちなみにフィーロという名前だが、命名の際に岩のように固まって考え込んでしまったハベルを見かね、ラフタリアが咄嗟に口にしたものだ。彼女曰く安直すぎでは・・・と不安を抱えていたが、名付けられた当人は元気よく返答し、親しみやすくて良いではないか! とソラールに背中を押されたこともあり決定した。
「ところで貴公、どうするか決めたのか?」
言わずもがな、これからフィーロを仲間として同行させるか、である。そして今日に至るまで彼女の活躍ぶりを見てきたハベルの答えもまた、とうに決まっていた。
「・・・荒削りではあるが、充分な戦力になる事は先の見回りでも明らかだ。内に宿すソウルの輝きも申し分ない・・・・・・なにより、あれほどまでに懐いてこられては・・・な?」
「そうかそうか! いやはや、もし貴公が連れて行かぬのならば俺の仲間に、とも考えたのだが、杞憂で何よりだ! ウワッハッハ! ・・・・・・グスッ」
「・・・貴公、何を泣いている?」
「な、泣いてなど無い! ただ、そうさなぁ・・・あの小さく幼かったフィーロがここまで立派に成長すると、感慨深くてなぁ・・・」
「・・・まだ一週間と経ってはいないがな」
「日にちの問題ではないのだ貴公! 俺はッ!!生命の尊さというものにだなぁ―――」
「ハ、ハベル様!」
感情が昂ぶり思わずスイッチが入ってしまったソラールを遮り、息を切らし慌てた様子のラフタリアが駆け寄ってきた。尋常ならぬ雰囲気を放つ彼女に、不死人等の纏う気も瞬時に引き締まる。彼女は息を整える間もなく、村の入口方面を指さした。
「国家騎士団の方々が・・・槍の勇者様とマルティ王女を連れて村にッ!」
ラフタリアの発した名前に、二人の勇者は揃って溜息を漏らすほかなかった。確実に面倒事になる予感しかしなかった三人は、足並みを揃えて村人等が集まり始めた騒ぎの中心へと足を運ぶのであった。
「村の皆様方。このたび、波での功績を称えられ『槍の勇者』モトヤス様がこの地の領主に任命されました!」
「と言うわけで、みんな! 俺が此処の新しい領主になる北村元康だ! 波を完全に防ぐ事ができなかったのは俺達四聖勇者の責任だ。だから、四聖勇者である俺がこの村の領主になったからにはもっとこの村を大きく豊かにしていこうと思っている。まずは皆で協力して、この村を完全に元通りにしていこうじゃないか!」
王族の護衛として配備された騎士団長は村の中央部、再建されたばかりの見張り台の周囲に騎士達を展開させ、大々的に村人達を集めさせた。そして、即席の壇上から赤毛の冒険者マインは国からの礼状を広げて高らかに宣言すると、それに連なって槍の勇者である元康が真っ直ぐな瞳で語り出した。
そんなやる気に満ちあふれた彼の意思とは反し、村人等の表情はこぞって曇り、不満げな様子を隠そうともしていなかった。やがてブツブツと不平不満の声が聞こえ出すと、かの四聖勇者が駆け付けたにも関わらずの反応に、流石の元康も困惑する。
「ま、まあ待ってくれみんな! 国の次期王女となるマインのアドバイスを参考に復興の政策を考えて来たんだ。俺は明日からこの村に通行税を掛けようと思う! 金額はまだ決めていないが、参考までに村の出入りで銀貨50枚ずつを考えているんだけど・・・皆から何か提案は無いか?」
あくまで自分達は村のみんなの味方だと歩み寄る姿勢をアピールする元康であったが、彼の提示した参考の金額に、その場の全員が呆れを通り越していた。この村の宿代は食事を含めて一日銀貨一枚である。それは炭鉱が戻り、村全体が活気を取り戻して住民が増えた時からも変わらぬ値段だ。
それに槍の勇者が繰り返し口にする復興という言葉・・・リユート村の現状を何も把握していない証拠である。波での騎士達の対応といい、如何に国が自分たちの村を気に掛けていないかが分かってしまい、村人達の不満は募る一方である。
「あの・・・領主は私のはずですが・・・事前の連絡も無しにというのは余りにも―――」
「国の決定に異を唱えると?」
流石の村長も黙ってはいられずに口を開くが、マインは睨み付けて剣の切っ先を向ける始末。他の騎士達も同様に反発する村人等へ槍を向けはじめ、正に一触即発の空気が蔓延し始めたその時である。
「では、俺達ならば口を挟めるのかな? モトヤス殿」
聞き覚えのある勇ましい声が聞こえると、元康とマインは揃って顔を歪ませた。壇上にズカズカと乗り込み、村長に代わって彼らに対峙したのは、犯罪者の汚名を被る化物勇者のハベルと、自身に恥をかかせた奴隷の亜人従者、そして太陽のように熱い勇者ソラールであった。特に、未だハベルと親交を保ち、行動を共にしているソラールの存在は、心の底から尊敬している元康にとっては様々な意味でショックを与えていた。
「例え剣の勇者であるソラール様でも、此処はもはやモトヤス様の領地。口出しは不要でございます。盾の勇者に至っては論外です! 犯罪者には即刻出て行って貰います!」
「・・・相も変わらず口の減らぬ女だ。なあ貴公、これではどちらが従者か見当も付かぬな?」
「てめぇ、何を偉そうに!」
あれほどボコボコにされ、最終的には命を奪われそうになった相手にも関わらず、元康はハベルに対して堂々と向かい合っていた。だが、彼が更に言葉を発する前にたたみ掛けるかの如く、ソラールは広場全員の目線を捕らえて話し始めた。
「一つ聞かせて欲しい。貴公等はこの村を見て回ってどう思った? 被る害を考えず、波の魔物諸共に自らの手で焼き払ったはずの村の現状を見てどう思った? 俺には貴公等の助けは何も要らんと見えるぞ! 先程から貴公等が騒ぐ復興とて、貴公等の手を借りずにここまで進んできた。むしろよくもそんな事を皆の前で口にしたな、と思っていたところだ! そして何よりも―――」
ソラールはビシッ! と国家騎士団の方へと指を差し、これまで以上に怒気の籠った声を張り上げた。
「貴様等は誰に槍を向けている! 災厄の波で被災した村人等と知って、何故槍を向ける事ができる! 真に復興を願う心があると口にしておきながら、何故そのような蛮行ができる! 貴様等それでも騎士か! 恥を知れッ!!」
ソラールの言葉に・・・何より『剣の勇者』のもっともな言葉に都合を悪くした騎士達は、次第に擬していた槍を渋々と納め始める。騎士達の心を押したソラールの言葉を皮切りに、とうとう村の住民からも抗議の声が上がる事となる。
「そうだそうだ! 俺達はお前等の助けなんか要らないぞーッ!」
「クェーッ!クェーッ!」
「今までだって何もしてこなかったくせに、今更出しゃばらないでよ!」
「クァーッ!クァーッ!」
「そもそも復興を手伝ってくれたのは、盾の勇者様と剣の勇者様じゃないか!」
「クェーッ!クァーッ!」
「直接我が村を守ってくれたのだって盾の勇者様です! どうせ領主に迎えるのでしたら、私は盾の勇者様に任せますッ!」
「・・・・・・いや待て村長、それは困る」
村人等に混じってフィーロも騒ぎはじめ、辛うじてせき止められていた反発が爆発する。そんな中、どさくさに紛れてとんでもない事を公言した村長を治めるハベルをよそに、元康はソラールへと詰め寄った。
「待ってくれソラール! 元々騎士のあんたや一般人の俺が考えられる案には限界ってもんがあるだろ? さっきも言ったようにマインは王族だ。幼い頃から教育を受けてきた彼女には、俺達が見えていない事や考えつかない事だってあるかも知れないじゃないか! もうちょっと彼女を信用したって―――」
「その信用がないから俺は言っているのだ、モトヤス殿。確かに俺は貴公の言うとおり騎士の出だ。だからこそ、神聖なる決闘と宣っておきながらそれを汚し、救うべき民に剣をあてがって尚涼しい顔をする彼女をどうして信用できるものか!」
勿論それ以外にも沢山の理由があるが、元康の口から騎士という言葉が出たからこそ、ソラールは元騎士として最も分かりやすく当てはまる理由を口にする。断固として退かぬ様子を崩さぬ彼の姿に、元康はうろたえるほか無かった。
だが何と言われようとも、彼は自分を信じてくれる仲間である故か、国王の娘であるマインのやり方を間違っているとは思えなかった。現に今も尚、多くの批判の中でマインは羊皮紙を広げて村人への理解を求め続けている。村人達の身を案じ、決して折れずに自分の意志を貫き通す彼女の姿は、女性でありながら格好良く元康の目には映っていた。そんな逆境に立つ彼女の支えになってあげたいという気持ちを、一番尊敬していた勇者に理解されないというこの現状。元康にはそれがどうしても分からなかった。
一方、そのマインはわざわざ国の令状まで見せつけたにも関わらず一向に従おうともしない村人等をもてあましていた。さらには予測のしていなかった剣の勇者の介入により劣勢に立たされる体たらく。そんな彼女を見てはいられず、騎士団長は村人鎮圧のための強行に出る。
なんと、何名かの騎士が手綱を付けた四足歩行の騎竜を壇上へと誘導させ始めた。彼の常套手段としていつも使われ続けた馬よりも大きな体格を誇る騎竜はすぐさま自身の役割を察し、騒ぐ民衆へと牙を見せて唸り声を挙げる。いかにも獰猛なその姿に村人達は数歩下がり、怯えて口を噤んでしまう。騎士団長の余計な気遣いに焦る槍の勇者一行に対比するかの如く、盾と剣の勇者一行はその暴挙に堪らず剣を抜き、正に一触即発の空気が立ちこめる。
だが、突如として騎士団長とマインの周囲に黒装束の集団が出現した。
「我らの事はご存じでしょう、マルティ様。女王陛下より一通の書状をお持ちして参りました」
騎士団長の首元にナイフが宛てがわれるのをよそに、黒装束の一人が丸められた羊皮紙をマインの元へと差し出した。声色、そして細身の体つきからして全員女性である。あのマインが文句の一つも言わずに縮こまり、恐る恐る受け取っている様子からも、立場腕前共にただ者ではないことが分かる。呆然とするラフタリアとソラールを横目に、ハベルはその集団にも警戒を高めていた。
彼女にとって相当不都合なことが書かれていたのか、書状を読み終えたマインの顔がみるみる青ざめたかと思えば、唐突に顔を真っ赤にしてこちらを睨み付けてきた。
「勝負よ! 私達の所持する騎竜とそこのフィロリアルによる村の権利を掛けたレースでね! じゃなきゃこんなの・・・納得できるわけ無いじゃない!!」
癇癪を起こしたマインに、ハベルは脱力する。いっそ、先程の力づくの展開になった方が良かったのではないかと思うほどに・・・。
性格と見た目(人型)はちょこっと変える予定。