勇者よ、人間性を獲得せよ   作:じーくじおん

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EP3 始まりの日

「勇者様のご来場」

 

 ハベルとソラールは王の前へと跪くと、楽にして良いとの声かけがなされたため、元康と樹を倣い、自然な感じで姿勢を正した。

 

 翌朝、王からの招集がかかった為、勇者四人は揃って謁見の間へと集合する。扉を開けると、そこには様々な出で立ちの男女が合計12人、一列に揃っていた。騎士、戦士、魔術師、魔女、聖職者、盗賊のような軽い装いの者まで幅広く揃っており、メルロマルク王の人望の厚さが窺われる。

 

「前日の件で勇者の同行者として共に進もうという者を募った。どうやら皆の者も、同行したい勇者が居るようじゃ。さあ、未来の英雄達よ。仕えたい勇者と共に旅立つのだ」

 

 ハベルが同行する者を3人見定めていると、王からそのようなお達しが下された。すると、すぐに12人はそれぞれの足取りでこちらに向かってくる。まあ確かに、彼らは『贈り物』ではない。自分が仕える勇者は自分で決めるのが筋というものだろう。

 

 そうして、メルロマルク王が選り抜いた仲間たちは順調に各々の前に集まっていった。ソラールの所には5人、樹の所には4人、元康の所には3人。計12名が誰と揉めることなく、自分の選んだ勇者のもとへ足を運ぶことができた。

 

「・・・ん? んん?! お待ちください陛下! なぜハベル殿の所には誰一人としておらんのですか!?」

 

「うぬ。さすがにワシもこのような事態が起こるとは思いもせんかったなぁ・・・」

 

 これは一体どういう事か、とソラールは慌てた様子で王へと抗議の声を挙げる。対する王は、どこか涼しげな様子で現状を把握していた。まるで今の状況が、何ら不思議なことではないかの様に。

 

 それもそのはず、現在城内では勇者達の中でも特に『盾の勇者』はこの世界の理に疎く、協調性がまるで無いとまで囁かれているのだ。自らの友がそんなことになっているとソラールは知る由も無く“外れ”となった彼を案じ、一人焦っていた。

 

「やはり『盾』であるが故、ということでしょうか」

 

「しっかしアレだな。ここまで偏るとは・・・人望ってやつは怖いな」

 

 焦っているのは、ソラールだけであった。

 

「なあ、貴公等。俺を選んでくれたことは大変嬉しいが、誰か盾の勇者の方へと歩み寄る者は居ないか? ハベル殿は俺と同じ・・・否、それ以上に腕の立つ者であることは俺が保障するぞ! ・・・どうだ?」

 

 ソラールが頼み込むも、仲間達はお互いに顔を見合わせては首を横に振るばかりで、そこから移り行く気配は全くなかった。

 

「理想は均等に3人ずつ分けたほうが良いのでしょうけど、いくらソラールさんと言えど、無理矢理では士気に関わりそうですね」

 

 樹の言葉に、その場に居る者全員が頷いた。

 

「し、しかし! それではハベル殿は波までの間、一人で旅立つことになってしまうのだぞ!」

 

「だが、こうなってしまっては仕方がないであろう、ソラール殿。ハベル殿にはこれから自身で気に入った仲間を勧誘して人員を補充してもらおう。勇者達には月々の援助金を配布するが、代価として他の勇者よりも今回の援助金を増やすとしよう」

 

「そ、そのような問題では―――」

「メルロマルク陛下、ありがとうございます。ですが、そのような御気遣いは無用であります」

 

 そう、焦っていたのはソラールだけであった。ハベルは彼が無礼を口にする前に言葉を遮り、王の前へ一歩踏み出した。

 

「・・・・・・一応聞くがハベル殿、それは一体どういう事かね。援助金の増額はいらんということか?」

 

「全くもってその通りでございます。この世界に召喚される前から、私には仲間と呼ぶべき者はなく、ずっと一人で旅をし、戦ってきました。それがこちらの世界でも同様になっただけのこと・・・・・・陛下がお気になさることなど、何一つもありませぬ」

 

「貴公・・・・・・」

 

「・・・ではハベル殿は、今後新たに仲間を勧誘する気も無いと?」

 

「今の所は・・・」と頭を垂れるハベルを横目に、元康はとうとう不満を隠さずに呟いた。

 

「強がり言いやがって。それってここに集まってくれた皆を端から信じてませんでしたって言ってるようなもんじゃねぇか」

 

 元康のその一言に同調するかのように、この場の空気全体が盾の勇者に対する不信感を強めていく。それはそうだろう、ソラール以外の誰も彼のロードランの地を知らないのだ。選ばれし不死人だけが足を踏み入れることが叶い、己の使命のために呪われたソウルを持つ存在と戦い続ける過酷な地。故に、召喚されたばかりであるはずの彼の言動は、こっちの世界の住民からすればただの強がりか、狂っているとしか思えなかった。

 

 

 

 

 

「あ、では槍の勇者様、私は盾の勇者様の下へ行っても良いですよ」

 

 しかしそんな空気を一変するかの如く、元康のグループから赤毛の目立つ女性が一人、片手を上げて立候補する。

 

「き、君。本当に良いのかい?」

 

「はい、だってこのまま盾の勇者様が一人仲間はずれなんて、なんだかかわいそうじゃないですか」

 

――――可哀想?

 

 何を言っているんだこの女は? とハベルは思わず彼女の方へ顔を向ける。しかしフルフェイス状のハベルの兜により表情が分からなかったが故に、彼女は何を勘違いしたのかハベルの目線が自分に向けられている事に気づき、うっすらと微笑みを浮かべると露骨なまでにウィンクを放った。

 

―――違う、そうではないのだ貴公。

 

「・・・・・・ではそういうことだ、ハベル殿。そなたのためではなく、この冒険者のために援助金は増額しておこう」

 

「・・・・・・寛容な心遣いありがとうございます、陛下」

 

 ハベルは決して納得していなかったが、皆の前で彼女の申し出を無下にし、恥をかけるわけにもいかなかった。抗議の言葉を飲み込み再度メルロマルク王へと頭を下げると、使用人がそれぞれ一人ずつ手にしていた金袋を勇者達に渡した。

 

「ハベル殿には銀貨800枚、他の勇者殿には600枚用意した。これで装備を整え、旅立つが良い。そなた達の活躍、期待しておるぞ!」

 

「「「「は!!」」」」

 

 青年二人も不死人二人に倣って王に敬礼を済ませ、二度目の謁見を終える。そうして勇者達は謁見の間を後に城の外へ出ると、早速貰った援助金を活用して仲間と共に装備を整える、伝説の武器の性能を確かめるべく戦いに赴く等、個々の目的のために別行動をとることになった。

 

「ではな貴公! 波までの間油断するんじゃないぞ! おっと、それは俺もか。ウワッハッハ!」

 

「仲間の件は残念でしたが、お互いこれから頑張りましょう」

 

「いいかハベル! 男として絶対に彼女を守るんだぞ、いいな!!」

 

 別れ際、ハベルは2名に励まされ1名に釘を刺された。そうして赤毛の冒険者と城門で二人きりになったとき、彼女はハベルの手を握って向き合った。

 

「それでは改めまして盾の勇者様、私の名前はマイン=スフィアと申します。これからよろしくお願いしますね!」

 

「・・・・・・ロードランのハベルだ。これからよろしく頼む、マイン殿」

 

 握られた手にぎこちなさを感じたハベルの反応を見て、マインはクスッと笑みを浮かべてはさらに距離を詰めていった。

 

「もう、『マイン殿』なんて堅苦しいのは辞めてください。私たちはこれから一緒に冒険する仲間なんですから。遠慮無く『マイン』で結構ですよ。」

 

「では、遠慮無く・・・・・・マインよ、私は断じて、決して、 “可哀想”などではない!」

 

「・・・・・・は?」

 

 覚えておけ、と少しばかり荒い語気で強調するハベルに、マインはポカンとしてしまう。仲間に選ばれなかったことよりも、彼の中でわだかまりが残ったのはその一言であった。大きく頑強そうな鎧を着ておきながら意外な彼の一面を見て、マインは先程浮かべた笑みとは違い、吹き出すように笑った。

 

「・・・・・・私はそんなにおかしなことを口にしたか?」

 

「ァッハハハ・・・ごめんなさい、盾の勇者様って他の勇者様達よりも何を考えてるか分からなかったから、どんな人だと思って身構えたらつい・・・プッ!」

 

 ぬう、と納得がいかない不死を横に、マインはひとしきり笑い続けると気が済んだのか、改めて彼の方へと向き合った。

 

「では盾の勇者様、これから城下を案内しますわ」

 

 

 

 

 

 

 城と町を繋ぐ跳ね橋を渡ると、そこは見事な町並みであった。北の不死院で百年の時を過ごす前、呪われし闇の刻印(ダークリング)がその身に出現する前の王国騎士として仕えていた頃でも、これほどの賑わいをハベルは見たことがなかった。そのためか、周りの目など気にしないといった風に、ハベルは目にするもの全てに興味を引かれ、所々で立ち止まっては周りの人々の楽しげな話し声に耳を傾けていた。

 

 堅苦しい佇まいや鎧に似合わず案外と幼げな盾の勇者を見かね、しばらくしてからマインが装備を整えるために武器屋を提案し、先導していく。ハベルとしても、こっちの世界の武器質を確かめたかったこともあり、彼女が知っているという店へと引っ張られるまま向かった。

 

 武器屋に到着すると、ハベルはまず内装を見て回った。店内には彼が把握している武器種以外の代物も置いてあり、見たところしっかりとした良い店である。武器の他にも鎧やら弓矢、クロスボウに使うボルト、長旅に必要な小物の数々等、バラエティーに富んでおり、マインが絶賛していた理由が垣間見えた。

 

「ほーう、こりゃまたすげぇ。こんな立派な石鎧は見たことがねぇ。とんでもないお客様が来たもんだ。いらっしゃい!」

 

 店の奥から出てくるなり、ハベルの鎧を見て感心している様子の店主から元気良く挨拶が交わされた。スキンヘッドと立派な髭で顔の所々に傷があり、体つきはまさに筋骨隆々であることから、元は武人であることが窺える。更には人の良さが全身からにじみ出ていたその雰囲気は、まるでアストラから来たあの鍛冶師をハベルに思い出させていた。

 

 一人で感傷に浸っていると、マインが持ち前のコミュニケーション力を活かして先に店主と交流を図っていた。彼女がこちらを指さし、店主が驚いているところを見るに盾の勇者であることを紹介してくれているのだろうか?

 

「盾ってことはハズレな奴か、見たところ良い鎧してんのにもったいねえなぁ」

 

「・・・・・・ぬぅ」

 

 人づての噂の広がり具合は恐ろしい・・・改めてハベルはそう認識した。

 

「まあ、その姿(なり)だしめっきりの素人ってことはねぇな。さっき商品を見回していたようだから教えとくが、ここの物はほとんどが俺のオーダーメイドだぜ。それでお得意様になってくれるんなら、盾だろうが何だろうが関係ねぇ。あんちゃん名前は?」

 

「ロードランのハベルだ。貴公の察する通り鍛冶師には前の世界でも大いに世話になった。貴公の腕前がそれ以上か同等であれば、世話にならない理由はないな」

 

「へっ!言ってくれんじゃねえか。気に入ったぜ、あんちゃん。これからよろしくな!」

 

 人柄と元気が良い武器屋の店主をハベルは一瞬で気に入り、握手を交わした店主も同様であった。

 

「では、勇者様。私は防具を見てきますので」

 

 ありがちな男同士の絡み合いとなった瞬間を見計らってか、マインは断りを入れてから足早に防具が売られている領域へと足を運んでいった。道中で既に身につけている軽装では心許ないと相談されてはいたが、見るからに筋力と持久力が無いところを見れば妥当ではないか? と思わざるを得ない。

 

「そういやあんちゃん。得意な武器はあるかい?」

 

「・・・ぬ? ・・・そうだな・・・ここに並んである種類の物はほとんど使っていたが、最終的に落ち着いているのは重い代物だな」

 

「重い代物っていったら、大剣・大斧・大槌・槍斧とかかい?」

 

 「そんなところだ」と適当に流し、『魔法鉄の直剣』という聞き慣れない素材の片手剣をハベルは右手で何気なしに掴んでみた。これを買う気は無かったが、鍛冶の腕と未知の素材を使った得物がどの程度かを把握するには、シンプルな直剣が一番分かりやすいと思ったからだ。

 

 だが、右手で直剣の柄を握った瞬間、城で試した呪いよりもさらに強烈で鮮明とした呪痛がハベルを襲い、思わず剣を落としてしまった。

 

「ッ!!」

「おい! あんちゃん、大丈夫かよ!?」

 

 店主の目から見ても異常であったのだろう。慌てて駆け寄ってきては、小さな拡大鏡のような物をとりだし、落とした直剣を確認していた。他の商品を試しても同様であったことから、またこの伝説の武器の呪いであることが容易に想像できる。

 

「ふーむ、一見するとスモールシールドだが、何かがおかしいな・・・・・・」

 

 店主にもそのことを話すと、今度はその拡大鏡をハベルの装備している小盾へと向けた。

 

「真ん中に宝石が付いているだろ? こっから何か得体の知れねぇ強力な力を感じるな。こいつには鑑定の魔法が付与されてんだが……畜生、まるで分かんねぇと来たもんだ。呪いの類なら一発で分かるんだがな」

 

 「ふむ」とハベルは唸り、右手元にソウルを集中させてハルバードを展開する。すると、先程とはうってかわって何かが起こる予兆も無く、普通に右手へ装備することができていた。

 

 この違いにはやはり不死人には切っても切り離せない『ソウル』が関わっていると、ハベルは睨んでいた。

 

 ソウルというものは通貨だけではなく、篝火を通してソウルを取り込み己の力を限界まで高める事ができる等、万物多用の代物であった。

 

 当然武器を製作する際にも少なからずソウルを宿すことで、武器を満足に振るう為に求められる能力を代償とし、多大な威力と耐久性を獲得し、更には雷や炎、魔法などの属性を付加することも可能としている。

 

 私がこちらの武器を装備できないのは、ただ単にこちらの武器がソウルを宿していないため、盾の所持しているソウルが呪いとなって拒絶しているのではないか・・・と、ハベルは一人考察し、恨みがましげに小盾を睨んだ。そして、一通り見終わって満足したのか、店主は目線を彼に向けてトレードマークの髭を撫でる。

 

「面白いものを見せてもらったが、呪いとあっちゃ買えねぇわな。気の毒だから、嬢ちゃんの装備はいくらかまけといてやるぜ」

 

「良いのか、貴公? すまないな」

 

「・・・・・・おいおい、あんちゃん。こういう時は何割引きにするかってのを店主である俺と交渉するもんだぜ」

 

「ぬ・・・・・・すまない貴公。どうも・・・そういうのはからっきしでな」

 

「あー、あんちゃんそっちは素人ときたか。そんなんじゃこの先苦労するぞ?」

 

 「・・・覚えておこう」と言ったところで、マインは女性向けの可愛らしげに装飾された軽めの鎧と、値の張る素材を用いたであろう『銀鉄の直剣』を一度に持ってきた。

 

「・・・貴公、先程のおまけの話はどの程度だろうか?」

 

「オマケしても銀貨480枚だ。悪いがこれ以上はまけられねぇ」

 

 現在の所持金の半分以上をつぎ込むことに、流石のハベルも躊躇した。だが、良いものを装備していなかったせいで怪我をしたと騒がれても困る。道中で魔物の素材を売るか依頼をこなすかで金を稼げると彼女から聞いたため、それで挽回すれば良いだろう。先程から目を輝かせ、しきりにハベルの腕に自身の豊満な胸を当ててくる彼女を払いのけ、ねだられた物全てを購入した。

 

「それじゃあ、そろそろ戦いに行きましょうか! 頼りにしてますよ、勇者様」

 

 満足した装備を手に入れたからか、早速着替えるとマインは気持ち高らかに店を出ていった。店主に礼を言ってからハベルは彼女について行き、2人揃って城門へ向かって歩みを進めるのであった。

 




マインって最初にアニメで見たときはめっちゃくちゃ良い子に見えて、ああ正ヒロインだなぁ・・・と思っていたので自分が転生したら間違いなくハメられエンドですね。間違いない(大事な事なので2回)
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