勇者よ、人間性を獲得せよ   作:じーくじおん

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どうも、二期放送中に一話しか投稿できなかったカスです。リハビリがてら自分の処女作をセルフリメイクしてたら筆が乗りました。コロナも以前と比べ落着いてきた……わけでもないですが時間ありしだいまた執筆していけたらなあ…と……。


EP31 三勇教の真実

 「すっごーい! ソラールお兄ちゃんがいっぱいだね、パパ!」

 

 「こ……これは、なんというかインパクトがありますね」

 

 「……貴公、気を使う必要はないぞ」

 

 「そ、そんなハベル様!」

 

 無事メルロマルク王都の城下町に到着した一行だが、着いて早々彼等は目の前の光景に圧倒される。

 

 出店が連なる所々に、馴染みある手書きの太陽顔が描かれた装飾が施されているのだ。どの出店も満遍なくホーリーシンボルの旗を掲げ、挙げ句に太陽のペンダントや指輪、果ては騎竜に跨がる彼を模した小像等の小物まで売り出している様は、良くも悪くも崇拝の念を感じるほど。

 

 フィーロのために適当な出店から【太陽の紅饅頭】なる物を買ったときに、店の者へラフタリアが話を聞けば、どうやら商人ギルドの重鎮が命の危機に陥ったのを彼が無償で救ったことによるものだとか。それは金銭に厳しい重鎮とやらの価値観を丸ごとひっくり返すようなもので、言わば剣の勇者のファンになってしまったと。

 

 いくら見知ったとは言え、町に入って物々しい太陽顔の羅列が目に入るのはいかがなものかとハベルは思うが、周りの様子を見るにどうやらそうでもないらしい。

 

 曰く、この状態になっているのは城下の辺りだけだとか。下級身分の民衆には、太陽の様に暖かい善意のみで動く彼を英雄視する者が多いのだという。

 

 人の噂とは火が伝う程に早いもので、既に竜殺しの偉伝も耳に入ってきた。彼の地で変人や奇人と罵られ続けても、太陽の様に皆を照らしたいと言い続けた本人がこの光景を見ればどう思うだろうか?

 

 さて、それはさておき……。

 

「……本当に良いのか?」

 

 昼時を丁度過ぎた頃、当初の目的地であるメルロマルク王都の教会前に馬車を駐めた後、ハベルは再度メルへと問いかける。

 

「ですから、何度も申し上げてるじゃないですか。王都に着いた時点で私の目的は達成されたも同然。なれば勇者様のご都合を曲げてまで気を遣わなくても良いのです」

 

「しかし、私一人を教会の前で待つ必要もなかろう。送迎であれば、我が従者がいる」

 

「いえ……それは…いろいろと、その不味いというか……」

 

 この問答は城下で昼食をとったときから続いていた。彼女は道中、自分の出自を語らなかった。この手の話題を避けているのは明白であるが、そこに悪意は感じられず、彼女らしからぬ自信のなさと都合の悪さが滲み出ていた。

 

「…っ! とにかく!! ハベルさんが先に用事を済ませればすむ話ですから! 私ならそれこそ従者の方々も居ますし、何より女の子には女の子同士でしか話せないこともありますので遠慮は不要です! さあ、さあさあ!」

 

「ぬぅ…そこまで言うのであれば……」

 

 小さな身体に押される岩鎧の巨体という可笑しな絵面はここでしか眺めることができないだろう。不思議なことに終始ハベルは彼女に成されるがまま、教会へ押し込まれるように入って行く。

 

 その刹那、ラフタリアは見逃さなかった。教会に足を踏み入れた瞬間、威圧感を纏った不穏な主人の姿を。それはまるで、これから戦場に赴くような気迫であったと……。

 

 

 

 剣と槍と弓、それぞれを重ね合わせたシンボルがハベルを出迎えた。そもそもの話、なぜ彼等は排斥しているはずの盾まで召喚したのか……もはや彼は教会で目にする物全てに疑心を抱く程、三勇教への不信を募らせていた。

 

「ヒッ…た、盾の悪魔……」

 

「忌まわしき不死の怪物め…一体何をしに……」

 

「救いの主よ…精霊の子よ…どうか我らを悪魔の手からお守りください……」

 

 教会に足を踏み入れた時、瞬く間に野次馬の如く信徒へと囲まれた。教会の中央にある『龍刻の砂時計』にまるで近寄らせぬように現れ、二階のギャラリーにまで忌避の視線をハベルに突き刺している。

 

 不死人として慣れたものだと思っていたが、こうも露骨に数を揃えられると流石に辟易とした不快感がハベルの中に生じる。

 

「おや、これはこれは盾の勇者様。わざわざ教会まで何用ですかな?」

 

 早急に事を果たそうと考えていた矢先、他の信徒とは一線を引くきらびやかな装飾を身につけた老師から声が掛かった。その姿は初見にあらず…城庭にてモトヤスと決闘を行った際に立ち会っていた三勇教の教皇。

 

「……バルマス教皇」

 

「おお、四聖勇者様に覚えてもらえるとは恐縮です。ああ、信者達のことは申し訳ない。彼等はただ国王陛下からの令を守ろうとしているだけなのです。盾の勇者一行のクラスアップはこの国では行うなと」

 

「クラス……アップ? 初めて耳にする単語だが、それは?」

 

「おや、いけませんなぁ。四聖勇者ともあろう者がそのような事もご存じないというのは。貴方様だけではありませんが、『勇者』の肩書きに甘んじてはいけませんよ。本来勇者とは―――」

 

 突然の新たな単語に首を傾げただけのハベルに対し、教皇は小さな子に諭すように説教を始める始末。元来、説教を生業とする聖職者の存在とは、ほとほと相性が悪かったことを思い出す。

 

 火継ぎの祭祀所でも彼は聖職の女性に信仰の無知を咎められ、何度も説教を受けさせられた。剣を振るうのみの騎士にとって信仰など触れる機会すらなかったのだから。お陰で『回復』の奇跡が詠唱できるまでの信仰は身に付いたが、対価のように考えている時点で彼女の伝えたいことは何一つ響いてはいなかったと言えよう。

 

 だからこそ、ハベルは長ったらしい説教を岩のように黙ってただ聞き流していた。聖職者のソレはただ口を開きたいだけだと知っていたからだ。

 

「―――であるから、常識であるクラスアップについてはここでなくとも聞けるでしょう。わざわざお越し頂いた訳ですが、今回はお引き取りを……」

 

「ああ、いや、今回足を運んだのはそのためではない」

 

「おや? では一体……っ!?」

 

 彼が懐から取り出した物を目にした瞬間、余裕綽々であった教皇の表情が一転する。辺りの信徒もざわつき始めたことから、ハベルの中で疑念が確信に変わった。

 

「盾の勇者様、ソレを一体何所で?」

 

「……元々は貴公の信徒が手にしていたのだがな。村を飲み込む程の呪いに呑まれ、信徒二人は魔物に堕ちた。引導を渡した結果がこれだ」

 

「成程……我が信徒がご迷惑を。樹木の魔物の被害に遭ったというレルノ村のお噂は兼ね兼ね。ええ、確かに回収を命じたのは私です。しかしながら神が賜わした遺物をわきまえず己が手にしようとは……我が信徒とは言え当然の報い、神罰が下ったのでしょう。無論、そうとは知らずも、ソレを利用しようとした民達も」

 

「……貴公、やはり」

 

 螺旋状の破片を目にしたバルマス教皇の纏う雰囲気が、聖職者とは思えぬ程にひりついていた。それは、彼が次に口にすることに起因しているだろう。

 

「さあ、勇者様。それをこちらに。我ら三勇教は神物の回収と保管を国王から直に許しを得て承っております。さあ、あるべき場所へと返すときが来ました」

 

「……陛下はこれが何かを知っているのか? これだけで村一つ滅ぼす程の代物……いや、それで済んだだけでも良かったものだ」

 

「陛下は我々の崇高な理念のみを承知であれば良いのです。さあ、何をためらう必要があるのですか……ああ、これは失礼を。私としたことが返礼について何も言いませんでしたね。ただいまこちらで金貨をご用意いたします。何分、盾の勇者様は金銭に大分お困りかと存じ上げて―――」

 

「いい加減にせよ、貴公!」

 

 ハベルの語気が鋭く響き、バルマス教皇を遮った。彼の纏う威圧が高まり、殺意の一歩手前へと赴いていく。人と呼ぶには過ぎた気を当てられ、信者の中には失神してしまうものさえ居た。

 

「貴公等はまるで理解していない! これは我が世界において最も忌むべき火の異物だ! 決して人の手に収まる代物ではないのだ! 火の時代を知らずが故に侮り、火を畏れぬ者達の末路を私はこの身をもって知っている。この欠片が火種になるやもしれんのだぞ! 貴公が何を考えているかは知らないが、こんなものは――――」

 

「始まりの火に身を投じただけの不死人が、随分と言ってくれますな」

 

「―――なっ!?」

 

 しかし、今度はハベルが黙る番だった。なんという事なく口にした教皇の言が、彼の思いを容易に打ち砕く。

 

「違いますかな? 大王たる神に仕えし蛇にそそのかされ、欺瞞の使命を与えられ、挙げ句の果てにただ利用されていることにも気が付かず、ただ火継ぎを成しただけの不死の貴方が、火について何を? 一介の亡者でしかない貴方が火の時代の何を知っていると言うのですか?」

 

「……貴公、一体何を言って」

 

「良いでしょう。大切な欠片を回収してくださった貴方には、我等の理念をお話しするべきですね。我々は近々、改宗するつもりです」

 

「……何だと?」

 

「ご存じの通り、現メルロマルク国王は亜人嫌いで有名な御方。穢れた獣の血を引く彼奴等に崇拝されている盾の勇者を廃すべく三勇教は生まれました。ハベル様には申し訳ありませんでしたが、そうでもしなければ国教になるまで我々が益を得ることも叶わなかったのです。我々の真の目的に近付くためには、実りある俗的なものが色々と必要でした」

 

「……三勇教は偽りだと?」

 

「もとより四聖勇者の救済に頼りきるのは、辞めにしようと思っていました。ああ勿論、勇者様方への敬意は忘れません。あなた方は神に選ばれ、世界の危機に真っ向から立ち向かう貴き方々なのですから。ですが我々はこれより、自らの手で厄災を払い、未来を掴まねばならぬのです」

 

 教皇の顔つきが一見穏やかなものに戻り、首に提げていた三勇教の銀のロザリオを外した。周りの信者達も倣うように槍、弓、剣の装飾を外していく。代わりに彼等が身につけ始めた金のロザリオに、ハベルは岩兜の中で目を見開いた。

 

 それは過酷な試練の旅路に挑む不死人達の休息の象徴、立ち込める火に突き刺さる1本の剣。彼等が模しているものに合点がいったハベルは立ちくらみを覚えるほどに衝撃を受けていた。

 

「……バカな。それは……篝火、だとでも」

 

「火の時代は素晴らしい。神々があの酷く不安定な世界で人と共生され、安寧を築きあげてこられたのも『始まりの火』があってこそ。ならば我々は? ただでさえ魔物が蔓延り、浅ましき人々の淀みに満ち、災厄の波に侵されんとするこの世界を正すにはどうすれば良いか。そして波が始まる以前に、真なる神の天恵が我等三勇教にもたらされました。我ら哀れな子らに与えられた機会こそが、その欠片なのです」

 

 まさに絶句だった。ハベルの抱いていた懸念の遙かに上をいくバルマス教皇の思想へ。偶然ではなかったのだ。彼ら不死人を召喚せしめた三勇教の仔細は不明だが、ここまで来ればある程度の見当はつく。

 

「……始まりの火を、この世界に熾そうというのか」

 

ハベルの問いに、教皇は笑みを浮かべるのみ。それこそが答えだった。

 

「既に多くの欠片が我々の手にはございます。いずれその時が来ようかと」

 

「……頼む、バルマス教皇。考え直してくれ」

 

「理由を伺っても? それは四聖勇者としてですか? それとも不死人として? 貴方も実際に見て感じたことでしょう。人外の魔物もデーモンも、何が違うというのです。災厄の波にさらされずとも、人は弱く、儚い。故に現メルロマルク国王とてそうです。他者を蹴落とし自らの安寧を守ろうとする浅ましき者で溢れかえっている。神々の統治なきこの世界で正しき人が……我々が生き残るには、火の力が必要なのです」

 

「……違う! この世界の人々にそんなものは要らない。貴公は知らないのか? 例え火の力を使おうと、人間である以上は貴公の言う浅ましき者などいくらでも出てくる。それに波や呪いに呑まれた村の人達を見たか? 彼等は確かに儚いが、決して弱くはない。皆が協力して必死に生きていた。それが人間と言うものではないのか!」

 

 ハベル自身がそれを教えてもらった。冷え切った闇のなかにあった心を、人であった頃に与えられた温もりを思い出させてもらったのだ。大切な従者である彼女を筆頭に、彼女と育んだ娘とともに、ハベルは人の暖かさを思い出した。たとえ教皇の言う浅ましき者達の手が及んだとしても、それを供に手を取り合い、撥ね除けられる者達もいるということを学んだ。

 

「それは貴方が強き不死だからこそ言えること。所詮は命の理から外れた傍観者の視点です。我等弱き小人は文字通り災厄の波に呑まれれば、忽ちにして貴方の語る尊さなど灰燼の様。そのような世界で我等が安寧を得るには、火の力が不可欠なのです」

 

「なら……私を見ろ。火の力が燻り始めてから生まれた呪いの産物を! 火はやがて必ず消えゆく。後に残るは灰のみだ。この世界を、ロードランのようにしたくはないのだ。本当に人の世を望むのであれば、分かってくれないか、バルマス教皇」

 

 人が人であることの素晴らしさを、他ならぬ定命の者が否定するなどあってはならない。その一心でハベルは語りかける。

 

「心配はご無用です、不死の勇者」

 

 しかし無情にも、かの教皇には幾分も届かなかった。

 

「既にあなた方の伝承によって火継ぎの儀は有効であることは明白。神々とは言え、全てが手探りであった原初の頃とは違います。この世界に新たな火を顕現させ、我等は人を超え、より上位の存在となって導くのです。災厄の波を乗り越えた先に、よりよき人の世を存続させるために」

 

 彼は既に、火に魅入られていた。必死なハベルの説得を全て撥ね除けたバルマスは対照的なほど終始冷静で、薄ら笑みを浮かべる程度の余裕を見せた。自信に満ちあふれた彼に付き従う信者達がどこまで理解しているかは知らないが、彼の言う火の時代を盲目的に捉えていることには違いない。

 

 そして彼は本心から言っているのだろう。火の時代の再現こそが災厄の波から人類を救う唯一の方法だと。だがハベルは、彼の瞳の奥で燻る狂気の火種を、どうしようもなく見出してしまっていた。

 

「さあ、不死の勇者ハベル様。螺旋の欠片をお渡しください。そして我ら三勇教はその名を改めると共に、民衆に広まったあなたの汚名を払拭してみせます。我ら『暁の白教』と供に、新たな人の時代、火の時代を作りましょう。浄化の火のもとで、世界に安寧を築くのです。勿論、直近の波をお収め次第、剣の勇者様にもお声がけをします。火継ぎを成したあなた方のお力があればきっと……」

 

 教皇の手が盾の勇者に差し伸べられる。もはや、答えはとうに決まっているというのに。

 

「……そうか。残念だが―――」

 

 ハベルが断った瞬間、彼の足下に魔力が流れ込み、魔方陣が出現した。バルマス教皇の顔から笑みが消える。

 

「ではここで果てなさい、盾の悪―――!?」

「私の答えは……これだ!!」

 

 欠片を内に収め、教皇の眼前にて黒騎士の大剣を展開する。呆気にとられた教皇の隙を逃さず、確実に刈り取るつもりで特大剣を突き立てた。しかし、あと一歩のところでハベルの身体に異変が起きる。

 

 足回りの魔方陣が完成され、とてつもない虚脱感に見舞われた。全身が鈍重になった彼の特大剣は教皇を掠めることもできず、その足下に突き立てられる。

 

「―――くっ!? やってくれましたね、盾の悪魔!」

 

「ぬぅっ!? この術は!」

 

 掛けられた魔法……いや、奇跡には大いに身に覚えがあった。黒い森の庭で棄てられていた石の騎士が使用していた【緩やかな平和の歩み】そのものだ。

 

 術中にハマり緩慢な身動きのハベルへたたみ掛けるよう、二階から詠唱が聞こえてくる。しかし、紡がれた呪文はこの世界の馴染みあるものではなかった。簡素な詠唱によって信者達から放たれたのは、もっとも基礎的なソウルの魔術。【ソウルの矢】の青き魔弾が数を成して鈍重なハベルに降り注ぐ。

 

「―――っ!」

 

 勇者の小盾が光り輝く。更に、黒き特大剣を収めて重量を減らすと、ハベルは背中のマントをくるりとなびかせる。勇者のスキル【魔法防護】を無意識に発動させ、同時にマントに付呪された魔法耐性で奇跡の魔方陣を振り払い、ソウルの矢をことごとく散らしていった。

 

「そ、そんな……あれだけの数の魔術を」

 

「聖なる我らがソウルの秘術が効かんとは……おのれ悪魔め」

 

(やはり間違いない、こいつらがやろうとしていることは…。しかし厄介だな、既に一介の信者どもまでソウルの業を会得しているとは。どうやって……っ!? まだ来るか!)

 

 いつの間にか三勇教直属の騎士に囲まれていたバルマス教皇の背後から、鋭い殺気が2つ飛んできた。不可視の魔術を駆使し、ハベルの眼前に現れた白装束の戦士が二刀の曲剣で強襲を仕掛けてきた。

 

 絵画守りにも似た彼らの動きは手練れそのもの。飛びかかる彼等のうち一人は小盾で弾き飛ばされたが、もう一人は盾を乗り越えて剣を振るわせる。ハベルの肩に乗り移った戦士はそのまま彼の肩口へ双剣を突き刺し、鎧を貫通し肉を抉った。

 

 どす黒い不死の血が出血し、白装束を染めていく。確かに手応えはあった……が、仕留めるには程遠かった。剣に手を掛けていた戦士の両腕をハベルはわし掴み、力の限りに叩き付けた。

 

 純粋な筋力の差から受け身も碌に取れず、大理石の床へ全身を打ち付けられた戦士も所詮人の身。痛みに喘ぐ隙を晒している戦士へ、ハベルは肩口に突き刺さったままの曲剣を引き抜き、その首を一振りで斬り飛ばす。

 

 鮮血が吹き出す間もなく白装束ごとソウルに帰すのを見届け、ハベルは肩に刺さったもう一刀を、背後から音もなく飛びかかってきたもう一人の戦士へ投擲する。投げた曲剣は脇腹へ命中、宙で体勢を崩し咄嗟に着地の受け身を取る。

 

「ぐっ―――ヒッ!?」

 

 地に足が着く寸前、小盾越しのハベルの手が無慈悲に戦士の頚部を掴む。これまで教団の邪魔者を葬ってきた彼らだったが、これほど無機質で恐るべき相手はいなかっただろう。人間らしさの一切を感じさせぬハベルに恐怖の声を抱くが、それも僅かの間のみ。

 

 腹部に曲剣が深々と差し込まれ、真っ赤な鮮血が装束を染めた。盾の勇者であるハベルが彼らの武器を振るえたことといい、この世界独自の技術『ブラッドコーティング』を持ってしてもまるで意味を成さないほどの出血量、紛れもないソウルの業を用いた曲剣の成せる業だった。

 

 もう一人の戦士もソウルに変え、ハベルは改めてバルマス教皇を見定めた。その姿は決して勇者とは程遠い……ロードランの地を踏破した一人の不死人に戻っていた。

 

「盾とは言え、これが勇者とは……我らが謳ってきた三勇教もあながち間違いではなかったようですね」

 

「何とでも言うが良い。だが、貴様は火に魅入られた。その時点で私の敵だ。世界の異物と化した貴様を到底、生かしておくことはできん」

 

「異物とは……そのものであるあなたに言われたくはありませんね。それで、どうしますかな? まさか我々がこの状況を想定していなかったとでも? それを踏まえてもう一度考えなさい……あなた一人でまだ、続けますかな?」

 

「……愚問だな」

 

 ハベルは岩の大盾と大竜牙を構えると、それを返答とした。一触即発、しかしああは言ったものの、未だ覚悟の決まりきっていない信者達を横目にしながら、冷や汗を浮かべるバルマス教皇が命を下すその瞬間だった。

 

「ハベルさん! 大変です! あねうン゛ン゛、槍の勇者様方が兵士を引き連れて一方的に言い掛かりを……えっと、これは……?」

 

 横槍とはよくまあ言ったものだ。それも最悪のタイミングで……。

 

 




亀更新な当作品に誤字訂正、評価、感想、お気に入りをしてくれた読者様方には感謝しかありません。
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