勇者よ、人間性を獲得せよ   作:じーくじおん

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これからも読者の方々の期待に応えられるよう頑張ります。m(*_ _)m


EP4 束の間の平穏  

 途中、王国騎士であろう者達の過剰な敬礼を受けたことにハベルは気になりつつ、2人揃って城門を抜けると、そこには見渡す限りの草原が続いていた。一応石畳の道があるが、一歩街道から外れると何処までも草原が続いていると思うくらいには緑で覆いつくされている。

 

「では勇者様、このあたりに生息する弱い魔物を相手にウォーミングアップを測りましょうか。盾の勇者様のお手並み、是非とも拝見させて貰います」

 

「・・・・・・貴公は戦わないのか?」

 

「私が戦う前に、勇者様の実力を測りませんと」

 

「・・・・・・そうか」

 

 彼女の言うことも一理ある。勇者として召喚された手前、まずは力を見せつけないことには何事も始まらないだろう。と、早速ハベルは手前の草原から複数の小さなソウルがこちらに向かってくるのを感じ取った。遠目から確認すると、何やらオレンジ色の風船のようなデーモンが明確な敵意を持って向かっているのが分かる。

 

「勇者様、あそこに居るのはオレンジバルーン。とても弱い魔物ですが好戦的です」

 

 マインの説明を聞き流しつつ、『ハルバード』と『黒騎士の盾』を展開させて構えると、バルーン3匹がガア! と吠えながら同時に牙を向けてきた。盾で防ぐまでもないと判断したハベルは軽々とハルバードを横に一薙ぎすると、一瞬にして3匹同時にバルーンを破裂させる。パァン! という軽快な破裂音が響くと、ごくごく少量のソウルが己の中に流れてくるのを感じた。それと同時に、黒騎士の盾へと変化した四聖盾の宝石が光り輝き、《オレンジシールド》という文字が目の前に現れだした。

 

 いきなりのステータス魔術の発現に気を取られるも、背後から更にバルーンの気配を感じ取り、ハベルは目の前の残光を払って武器を構え直す。どうやら運良く群れに当たったようだ。身体を慣らすには物足りぬ相手であるが、好都合と言えよう。

 

「その調子ですよー! 盾の勇者様、頑張ってー!」

 

 見晴らしの良さそうな丘、そこの立派な大樹の木陰で応援しているマインに応える間もなく、次々と湧いてくるオレンジバルーンと少しばかり固く赤い同種であろう個体を一撃で数十匹ずつ屠り続け、ハベルは己の具合に異常が無いことを確かめる。

 

 何分数が多いため何匹かに噛みつかれはしたが、ハベルの鎧には傷一つ付くことはなかった。戦闘にある程度の収まりが見えると、先程まで遠くの誰かを見ていたであろうマインがこちらに向かって走って来るのが見える。

 

「流石ですね勇者様。王様の前で豪語していた通りの実力みたいで、私・・・思わず見惚れちゃいました!」

 

「・・・・・・そうか・・・・・・では次は貴公の番だな」

 

 「えっ」と息を呑むマインを余所に、今度はハベルが木陰へと移り、大樹に背中を預けた。

 

「えっと、勇者様。これは一体どういう」

 

「私は力を見せた。・・・・次は貴公の番だ。安心したまえ、貴公のために何体か残しておいた」

 

 ハベルの言う通り、先程の群れの残党はこぞって彼に恐れを抱いて震え上がっていた。撤退するか機を見ていたところ、急にハベルが奥へと下がったため、今バルーンの目の前にいるのは先程の鎧男よりも貧弱そうな赤毛の女。当然、全員揃って戦意を取り戻しては牙を剥き、今にも飛びかからんとしていた。

 

「あはは・・・。勇者様も冗談を言うのですね」

 

「・・・・・・まさか貴公、できないとは言うまいな? 可哀想だから仲間になってあげる、と陛下の前で豪語したのだ。さあ、マイン。存分に見せつけてくれたまえよ」

 

 無論、ハベルに悪意は一切無い。ただ単純に、一人で旅に出る予定であったハベルの元へわざわざ名乗りを上げた彼女の実力を測りたかっただけである。彼の挑発的な発言もマインのやる気を出させるための発破に過ぎない。

 

 だが、彼の意図は何一つ彼女には伝わらず、むしろ皮肉にしか聞こえていなかった。笑顔をひくつかせ、戦闘態勢を取っているバルーンを見やるマイン。心なしか、その数は残していた分よりも増えている気がした。

 

「・・・・・・ええ、良いですとも勇者様、やってやろうじゃない! かかってきなさいよバルーン如きがぁ!」

 

 ブチ切れたマインを待っていたと言わんばかりに、バルーン達は一斉に襲いかかる。彼女は怒りに任せ、次々と一撃でバルーンを破裂させていく。群れの中心に飛び込んだため四方八方から噛みつかれるも、自身の得意分野である風魔法を乱発しながら順調そうにその数を減らしていった。しかし、初撃の時点で既にハベルの眉間には皺が寄っていた。

 

 

 

 

 

 彼女が息を切らす頃に、増援を含め残ったバルーンは全滅した。頃合いを見てハベルは駆け寄るも、彼女は一瞥もせずに足下に散乱しているバルーンの残骸を拾い、持っていた布袋へと集め始めた。

 

「貴公、バルーン共の死骸など集めてどうする気だ?」

 

「死骸なんて言い方辞めてください! これらモンスターの素材は戦利品として、素材屋の商人と交渉して硬貨と交換してもらえるんです。ちなみに相場だと、このオレンジバルーンの革は二枚で銅貨一枚ってところですけど・・・。冒険者と呼ばれる私たちは、こうやってお金をやりくりしてるんですよ! 勇者様が倒したバルーンは何故か残らず灰になって素材ごと消えてしまいましたけどね!!」

 

「・・・・・・ぬぅ、以後気をつけるとしよう」

 

 ソウルとは命の根源に近いものでもある。故に万物の中でも生物の営みには必ずソウルが存在している。ある程度ソウルの流れを操ることのできる不死人によって命を絶たれ、ソウルが宿主から流れ尽きた肉体は灰と帰する。それに対して不死人はソウルが完全に尽きても肉体が残り続け、やがて亡者と呼ばれる人間性の欠片も無い呪われた存在へと堕落する。これが、不死人が忌み嫌われる由縁であった。

 

「分かれば良いんです・・・・・・それはともかく、勇者様。日も落ち始めてきた頃ですし、今日はこれぐらいにしませんか? 私、いっぱい戦ってもう疲れちゃいました。どうです? これから宿に戻って私たちの門出を祝ってお食事でも・・・」

 

「・・・・・・昼間に見た宿か?」

 

「はい、覚えててくれたんですね。では―――」

「では貴公は先に部屋を取って休んでいてくれ。私はもう少し奥の方を見てくる。後で合流するとしよう」

 

 またもや「えっ」と驚嘆の声が漏れ、少しも歩調を合わせようともしないハベルにマインの笑顔は先程よりも強く引き攣る。一方、マインを置いてハベルはハルバードと黒騎士の盾を展開しながらグングンと草原を進み、より強い魔物の出現する森の方へと歩みを進めるのであった。

 

「・・・・・・何なのよ、あいつ」

 

 笑顔を解き、まるで別人のように表情を歪ませ一人呟きながら、森の暗闇へと消えてゆくハベルをマインは睨み続けた。周りに人がいれば、あまりの豹変ぶりに彼女の人間性を疑うだろう。「まあ良いわ、あと少しだし」と彼女は独りごちては背を向け、いつも通り笑顔を貼り付けた表情へと戻し、軽い足取りで宿へと向かう。

 

 背後の森で多くの魔物の断末魔が木霊し、幾重にも響き渡るのを聞かぬまま・・・。

 

 

 

 

 

 ハベルが宿に戻ったのは、日が完全に沈んでから数時間たった後であった。マインが指定した宿に戻ると、彼女は宿屋と並列している酒場のテーブルでただ一人待っていた。二部屋を確保したのは良いが、その後でどうしても勇者様とお食事をしたかった、とのことである。流石のハベルもここまでされては断るわけにもいかず、彼女の誘いを素直に受け入れ晩食を共にした。

 

「・・・・・・ねえ、勇者様。私、上手くやれたでしょうか?」

 

 食事中ですら兜を外さず、器用に面頬の隙間から黙々と料理を口にし続けるハベルに、マインはワインを口にして艶っぽく顔を赤らめながら問いかける。

 

「・・・・・・ハッキリ言うと、貴公では力不足だ」

 

 しかしどこまでも、マインが好ましいと思う回答をこの男は口にしなかった。料理を口に運ぶついでにばっさりと放たれた彼の言葉は、マインの口角を何度もひくつかせた。

 

 装備に頼りきった立ち回り、後先考えずの攻撃動作、魔法の命中精度・・・・・・自ら弱いと称した魔物に対してのマインの戦い方を見て、ハベルが下した評価はこの一言に尽きた。

 

「今日一日を通して見ても、このまま私と追従して旅をするのは貴公とて辛かろう。先程宿内でモトヤスの姿を見た。戻るのであれば今の内であるぞ」

 

 ソラールのような持ち前の明るさや暖かさは無く、元康のように女性の扱いに長けているわけでも無いような自分と一緒に居ては、ただひたすら苦痛なだけではないのか? 今のように時間を労してまで食事を共にしたいような人間性を有している人物ではないことは、ハベル自身が一番よく分かっていた。

 

「・・・そんな、勇者様・・・・・・私は・・・」

 

 グスッと鼻を鳴らし、涙が彼女の頬を濡らした。マインの嗚咽が店中に響くと、途端に周囲の客の注目を集めていく。マインの容姿はこの世界でもかなり良い方だ。それこそハベルが来るまで、彼女が何度酒場に居る男達に声を掛けられたことか・・・。そんな彼女を泣かせたとあっては、周りの目がハベルに向けるものは一つしか無い。ハッキリとした敵意である。しかし周りがいくらどのような空気を形成しようと、一向にハベルから慰めらしき反応は見られなかった。

 

「・・・・・・分かりました。勇者様から直接そう言われては、仕方ありませんね。私は槍の勇者様のところに戻ります。こんな自分勝手な私をまた仲間に入れてくれるかは分かりませんが・・・」

 

 哀しげな表情のまま涙を拭い、すぐさまいつもの笑顔を顔に貼り付ける。そして、ワインボトル一本をあっという間に飲み干し、先程から空のままの状態であるハベルのグラスに、マインは手元にあった新しいワインを注ぐ。

 

「では、最後に乾杯させてください。私たちのこれからと、勇者様の武運を祈って」

 

 そう言って、マインは手元のグラスを前に傾ける。ここまで気まずい雰囲気をおくびにも出さない彼女に、ハベルは思わず感心の念を抱く。彼女のためを思っているとはいえ、酷いことを言っている自覚は少なからずあるのだ。そのため、彼女の乾杯に応じないという選択肢はなかった。

 

「・・・貴公に太陽の導きがあらんことを祈って」

 

「「乾杯」」

 

 2人での最初で最後の晩食を締めくくるべく、グラス同士の心地よい音を聞き、同時にワインを煽るのであった。

 

 

 

 

 

 ワインに仕込んだ睡眠薬が効いたのか、ハベルは乾杯の後、すぐに自分の部屋へと足を運んでいた。そうして皆が寝静まった夜中、マインは予め部屋を取ったときに宿屋の店主から貰った合い鍵を使い、ドアを少しばかり開けて部屋の様子を確認する。ベッド上にハベルの姿が無かったため見える範囲で見渡すも、彼の姿は見られなかった。不思議に思った彼女は更にドアを開け、物音を立てないように部屋へと侵入した。

 

「ヒッ!!?――――――」

 

 漏れた悲鳴を直接口元を両手で覆うことで無理矢理飲み込んだ。ハベルはベッドを使用せず、ドアから死角の位置であり、丁度部屋に侵入したマインの隣にて、石鎧を完全装備のまま壁に背を預けて座り込んでいたのだ。しかし、マインが近くに居るにもかかわらず何の反応も見せなかったところをみるに、眠っているのだと彼女は判断する。

 

―――まったく、ここまで非常識で野蛮とは・・・・・・ホントにハズレの勇者様だこと。

 

 今日一日のことを改めて振り返り、マインは心の中で口に出さなかった分も含めて盛大に毒づいた。四聖勇者の伝承によれば、召喚される勇者の殆どは異世界のごく一般人と聞いていたのに、何なのだこの男は・・・・・・。街を見学する様子は他の勇者と同じく浮かれていたかと思えば、いざ戦いとなれば纏っていた雰囲気は一変。一切の妥協すら許さず、自らの歩調を崩そうともしない。実に利用しにくい、彼女の嫌う一番のタイプである。

 

 けれど、そんな思いも今日一日我慢すれば良いだけのこと。こいつの今日の帰り時間からして、森の相当奥まで行ったに違いない。つまり、この私が直々に教えた通り強い魔物の素材を換金したであろうこの男の所持金を全ていただき、少し頭の緩そうな槍の勇者様へと貢げば自然と自分が勇者様の一番になり、その分いくらでも支配しやすくなる。

 

 そんなことを考えながら、マインはひたすら戸棚を漁りまくる。しかし、いくら部屋中を探しても、目当ての金袋どころか彼の私物らしきものすら見つけることはできなかった。この部屋で探していないのは、残りあと1箇所だけ。そう、戦いの最中で瞬時に武器を展開・収納することができていたハベル自身であった。

 

「普通大事な物はこういう安全な場所にしまっておくでしょ。ホント非常識な馬鹿はこれだから・・・」

 

 本当のことを言えば、彼女は絶対に得体の知れない彼に触れたくなかった。だが、ここまできて辞めては、ハベルの言った通りノコノコと槍の勇者の元へと戻る事になってしまう。それだけは断じてご免であった彼女は、強い葛藤の後、覚悟を決める。常人では一晩どんなことをされても起きることは無いと言われている強烈な睡眠薬の効果を信じて、死んだように眠っているであろう彼の懐へと手を伸ばした。

 

 瞬間

 

「盗みとは、感心しないな・・・・・・」

 

 彼女の伸ばした腕をがっしりと掴み、兜の前まで引き寄せる。あまりにも突飛な彼の行動と彼の纏う深淵のような雰囲気にマインは強い恐怖を感じた。振り払おうと躍起になって藻掻くが、ビクともしない。やがてハベルはゆっくり力を緩めて彼女を離すと、今度はその手に『黒騎士の剣』を展開させる。

 

「だからこそ、貴公には恐ろしい死が必要なのだろうな」

 

 大剣の刃が向けられ、全身で殺気を感じ取ったマインは背を向けドアへと逃げようとする。しかし、恐れのあまり足がもつれ、上手く歩けないところにハベルの蹴りが背中に直撃する。体勢を崩して俯せに倒れ、痛みに喘いでるうちに大剣の切っ先が目の前にかざされた。灼熱の炎に焼かれたかの如くドス黒い刃を目にしたマインは、堪らず自身の最期を悟った。盾の勇者に対する憎悪と生への悔恨を胸に、彼女はギュッと目を瞑り、大剣が振り下ろされるのを待った。

 

 「・・・・・・・・・・・・あ、あれ?」

 

 いくら待っても、彼女が想像できる範囲の死が降り掛かってこない。そう思いうっすらと目を開けてみると、目の前にはいつの間にかドス黒い刃ではなく、探し求めていたハベルの金袋が置いてあった。

 

「貴公の目的は最初からソレであろう。卑しき者のソウルなどたかが知れている。とっとと立ち去れ、この売女めが」

 

 ハベルは『黒騎士の剣』を殺気と共に収納し、元の位置へと戻っては死んだように動かなくなった。マインは無意識のうちに涙を流しながら呆気にとられ、やがてまだ自分が生きていることを自覚すると、目の前の金袋を乱暴に掴み取り、一目散にドアへと駆け込み逃げるように出て行った。

 

 

 

 

 

 翌朝、部屋の窓から太陽の光が差し込んだとき、ハベルは意識を取り戻した。薬を盛られたことは、彼女が注いだワインを飲んでから感じた倦怠感で既に把握していた。今のハベルの体では、どれだけ酒を飲もうが酔うことも、自然と睡魔が襲ってくること自体があり得ないのである。

 

「・・・・・・・・・・売女めが」

 

 そう1人呟くと、ハベルは立ち上がり、所々の関節を鳴らして身体をほぐした。露骨な態度にどこか疑ってはいたが、完全に信じていなかったわけでは無かったのだ。気分転換を兼ねて部屋の窓を開け、街の景色を眺めていると、宿の前に王国騎士の格好をした者達が操る馬車が2輛、こちらの方へとまっすぐ向かってくるのを確認した。

 

 嫌な予感がしたのも束の間、馬車は2輛とも宿の前へと駐車し、荷台からは大勢の武装した王国騎士が降りて宿の中へと入ってきた。複数の甲冑音が響き、やがてそれらはハベルの部屋の前に集中した。叩かれる前にドアを開けると「抜剣!」の号令と共に、騎士達は剣をハベルへと一斉に向ける。

 

「貴様が盾の勇者だな? 陛下から貴様に召集命令が下った。ご同行願おうか!」

 

隊長らしき騎士に声を掛けられ、ハベルは自分の置かれている状況を瞬時に推測した。

 

「・・・・・・売女めが・・・。・・・・・・分かった、手枷はどうする?」

 

「・・・大人しく同行するのであれば、必要は無い」

 

「そうか・・・。すまないな、貴公。理解があるようで助かるよ」

 

 隊長の判断に他の騎士達は困惑するも、その後も指示通りハベルを拘束すること無く馬車へと乗せた。そうして、ハベル自身も大人しく騎士の誘導に従い、メルロマルク城へと再度足を踏み入れることとなった。

 




動かないと思っていた奴が近づいたら急に動き出すのは正にフロム(確信)

本当は免罪云々はちゃっちゃと済ましたいのだけれど、結局五話掛けてまで引っ張ってしまった・・・・・・。
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