無個性   作:PSβ


原作:東方Project
タグ:東方
その鼠、個性的な無個性につき。

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無個性

 

 

私は昔から個性が無かった。

腕っぷしは弱くはないが、強くもない。

知識には多少の自信があるが、胸を張れる程ではない。

思想は悪ではないが、善でもない。

そんな私は、部下として扱うにはとても便利らしい。

現に毘沙門天様は多くの雑務を私に命じてくださる。

今の任務もその一つ…と言うには、少し個性が強すぎるな。

毘沙門天の代理、寅丸星の部下兼見張り役。

寅丸星は、今は私のご主人様であり、かつ監視対象でもあるという、何とも不思議な関係だ。

彼女を一言で言い表すならば…『光』だ。

その心には一欠片の闇すら存在せず、周りの者全てを照らす存在。

少し天然なところも、彼女の光を増大させる一因になっているだろう。

神の代理をするに足るだけの光が、彼女にはある。

そんな彼女を見ていると、時々思うことがある。

こんな私が部下で、良かったのだろうかと。

彼女は、私には眩しすぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、皆さんお疲れ様でした」

静寂に包まれていた部屋に聖の声が響くと同時に、私の意識は現実に引き戻された。

目を開くが、外の光に眉を顰める

長時間座禅を組んでいた足は、少し動きがぎこちない。

まるで寝起きのような身体を、伸びをして解す。

仏教徒の嗜みである、座禅。

暇潰しに、と始めたものだったが、今ではすっかり考え事の時間になってしまっていた。

「ナズーリン、お疲れ様」

座禅が終わった部屋の片付けをしていると、聖が話しかけてきた。

「ああ、聖。片付けなら私達がやっておくよ」

ちなみにこの場に残っているのは、私と聖、そして一輪の3人だけだ。

他の妖怪や人間は、終わるなりそそくさと外へ出ていってしまった。

あいつらは本当に無我の境地を目指しているのか、甚だ怪しいところだ。

「ありがとう。ナズーリンは本当に優秀な子ね」

私が、じゃなくて他の奴らが出来ていなさすぎるんだと思う。

それと、妖怪なのだから子供扱いはやめてほしい。

「そうですね。それに、今日の座禅だって1回も叩かれなかったし…もう本当に煩悩が無いんじゃない?」

しかし、私が反論するよりも先に一輪が同調した。

同時に、聖の表情が若干曇る。

こいつは、また考えなしに迂闊なことを言って…

「それは違うさ。煩悩があるから、座禅をするんだ。聖だってそうだろう?」

「その通りよ。流石ね、ナズーリン。そこまで仏の心が分かっていながら、なぜ仏門に下ろうとしないの?」

ぐっ、そっちへ繋げてきたか。

私が命蓮寺に居ながらどの宗派にも属していないのは、ちょっとした理由がある。

そもそも私の思想は、どちらかと言えば道教寄りなのだそうだ。

だが道教に入ればご主人と敵対するも同じ。

だからと言って、自分の考え方を曲げてまで仏門に下りたくもない。

そんな葛藤があり、結局無宗教を貫いているのだ。

そしてそれを包み隠さず話してしまえば、要らぬ心配をかけるかもしくは、仏教に洗脳的に勧誘してくるかのどちらかだろう。

つまり、この場は適当にはぐらかさなければいけない。

「いやぁ、これはただの知識だよ。この程度なら、一輪だって分かってるさ。ねぇ、一輪?」

「え゛っ!?も、もちろんですよ聖様!私だってそのくらい分かってますよ?」

とりあえず一輪に振ってみたが、正解だったようだ。

「はぁ…仕方ないわね。とりあえず、一輪の修行は増やしておきます」

「そんな!?」

一輪には悪いが、良い弾避けになってくれた。

「それと、ナズーリン」

そう言うと聖は、私の耳元に顔を近づけた。

「何か悩みがあるのなら、相談してくださいね」

「!!」

「それじゃあ、片付けお願いね」

聖は去っていった。

まるで全てを見透かされているようだった。

宗教のことだけではない。さっきの座禅のときのことまで、全て。

聖は優しく、そして完璧な人間だ。

きっと相談すれば、優しく返してくれるだろう。

だからこそ…聖に相談したくはなかった。

しかし今のやり取りで、無性に誰かに相談したくなってしまった。

優しすぎず、ある程度頭の切れる誰かに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどのぉ。それで儂を呼びつけたってことか」

マミゾウはニヤニヤしながらこっちを覗き込んでくる。

「からかわれるのは分かってるさ。でも、マミゾウくらいしかいないんだよ、頭の切れそうなやつが」

命蓮寺の他のメンバーと言えば、ご主人、一輪、村紗、ぬえ…相談したいとは思わない。

「ふむ、からかうかどうかは内容にもよるかのう。ほれ、話してみい」

一瞬、どちらを言うか迷った。

しかし、宗教の方は今のスタイルを貫くとある程度心が決まっている。

もう片方…私の心にずっと潜む、大きな問題について相談することにした。

「なあ、マミゾウは私の個性って何だと思う?」

「普通なところじゃな」

まるで当然、と言うかのように即答した。

「…それは個性が無いって言うんじゃないか?」

「そうかの?こんなに個性的な妖怪が沢山居る中で、『常識』を振りかざせるのはお前さんくらいじゃよ。これはこれで随分と個性的じゃないかえ?」

そう…かもしれない。

私も一度その結論に至ったことがある。

けど…

「ダメだ…それじゃダメなんだよ…!」

「何故じゃ?個性が必要な瞬間なんて、そうそうあるとは思えんが」

確かに、中々無いだろう。

だからこそ、私は今の今までこんなに悩むことはなかった。

だがしかし、現に私は今、個性を欲しているのだ。他人には無い何かを。

何故なら…

「ご主人と、釣り合わないから…」

「釣り合う?寅丸と対等になりたいのか?」

「そうじゃない、けど…」

私とご主人とでは、差がありすぎる。

「私じゃなきゃいけない理由は無い。いつか…捨てられるんじゃないかって…怖いんだ」

沈黙。

まるで事実を肯定されたかのように重い空気に、私は顔を上げられなかった。

「お前さんは…」

ようやく口を開いたマミゾウの言葉は…

「相談する相手を間違っておるよ」

私を突き放したようにしか聞こえなかった。

「今は何もせんでいい。そのうち全てを打ち明けたくてたまらなくなるさ。お前さんのご主人にな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数週間が経った。

結局悩みは解決せず、むしろ更に心に影が差したようにさえ感じた。

『明日にでも見限られるのではないか』とビクビクするようになった。

そんなある日のこと。

「あぁご主人、掃除は終わったよ」

その日は珍しく、掃除なんてものを命じられていた。

昔と同じような雑務。見限られる前兆かと思っていた。

「気分転換になりましたか?」

「は?」

予想外の言葉に少し戸惑う。

「聖が、ナズーリンの様子がおかしいと言っていたので、何か悩んでいるのかな、と」

ありがとう、と言うべきだった。言いたかった。

しかしその瞬間、心の底からふつふつと湧き上がってくる何かがあった。

『そのうち全てを打ち明けたくてたまらなくなるさ』

マミゾウの言葉が、今ようやく理解できた。

 

 

「気楽でいいよなぁ、ご主人は」

「はい?」

「私がご主人のことで悩んでるのも知らないで、私のことを気遣って…眩しい」

「私の…こと?」

「天然っていうのはずるいよなぁ。人のことにはすぐ首を突っ込むくせに、自分のことになるとまるで関係ないっていうような反応をする」

「ナズーリン…もしかして私のこと、嫌い…でしたか?」

「嫌い?嫌いな訳あるか。むしろ好きだ。大好きだ。だからこそ…ご主人に聞きたい。何で私なんだ?代わりなんていくらでもいるのに、どうして?理由があるなら…教えてほしい」

 

言い切った。

心の中に詰まっていたもの。言いたかったことを全て言った。

ご主人に、今の私はどう写っているだろうか。

下を向いて、スカートを掴んで、目に涙を貯めた私の姿は。

しばらくして、ご主人は語り始めた。

それは説法を説くような、優しくも力強い口調だった。

 

「私は、獣でした。妖獣とはいえ、知性が高いとは言えない、獣。そんな私が、毘沙門天様の代理を任されるなど、誰が予想したでしょうか。私は、何よりもまず知性を磨きました。仮にも毘沙門天を名乗る者が、舐められてはいけない、と。人型になれるようになる頃には、人間と差し支えない程度の知性を私は持っていました。その結果、どうなったと思いますか?…何も変わらなかったのです。人間も妖怪も、皆一様に私を『獣のくせに』と罵るのです。あの聖でさえ、初めは私のことを、人間でも妖怪でもなく、『獣』として認識していたのです。でも…あなただけは違いました。あなたは私に対して、『普通』に接してくれたのです。獣だからと嘲ることもなく、部下だからと気を使ったり謙ったりしている訳でもない。あなたにとってのその『普通』は、私にとって唯一無二のものだったのです。ナズーリン、あなたが自分をどう評価していたとしても、私にとってナズーリンはナズーリン、不変でありかけがえのないものなのです。代わりなど…何処に存在するでしょうか」

 

「ご主人…」

そんな風に、思ってくれていたなんて。

これじゃまるで、怖がっていた私が馬鹿みたいじゃないか。

『私の個性って何だと思う?』『普通なところじゃな』

悔しいけど、マミゾウの言葉は全て正しかった。

「それに、さっきナズーリンが大好きって言ってくれたの、とっても嬉しかったです。私も、ナズーリンのことが大好きですから」

「っ!!」

ずるい…ずるいよ…

そんなこと言われたら…

我慢していた涙が、溢れてしまうじゃないか。

「ごしゅじんっ!!」

私はご主人の胸に飛び込んだ。

その抱擁の優しさは、彼女が私の神様であることを実感させた。

 

 

 


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