ワンピース~俺の推しが女体化してるんだが?~ 作:ジャミトフの狗
「ちょ、オメェどこの馬の骨だ!!」
「ば、バギー!! 静かにするガネ!! せっかく『LEVEL4』に戻れたのに、ここで見つかったら今度こそ終わりだガネ~!!」
「貴方たち、『鳴無』のツバメって人しらないかしら」
「だから誰だって言ってんだよ、このスットコドッコイ!!」
「って、この女懸賞金2億ベリーのトラファルガー・ローだガネ!!」
「に、2億だァ!?」
「ああ、もう。私の事はどうでもいいから質問に答えて。知ってるの? 知らないの?」
「知らねぇよそんな奴ぁ!!」
「だから静かにするガネーー!!」
「そう、じゃあ『LEVEL5』に行く階段は知っていて?」
「『LEVEL5』だぁ~!? そんな場所知ってても案内する訳―――」
「いや待てバギーっ。こいつも麦わらと同じ億越えのルーキー、実力は折り紙付きのはずだガネ!! そして幸い『LEVEL3』への階段と『LEVEL5』への階段は近い、利用できるガネ!!」
「おおお!! さすが相棒だぜ!! おい女ぁ! この道化のバギー様が『LEVEL5』までの道のりをしっかり教えてやるから―――」
「そう、『LEVEL3』と『LEVEL5』の階段は近いのね。ありがとう」
「え、どうして聞こえたって、もういないのだガネーっ!!」
「なんだとあの女ぁ~~!!! 人が親切にしてやろうってのにっ!!」
「ちょ、ちょっとナニよこれー!!」
大声で叫ぶのは例の変態さん、もといボンちゃん(本人がそう呼んでほしいとのこと)。バレリーナのように何回も回転する様はさながら大道芸人である。
「たかだか狼が群れを成してるだけだろ」
俺とボンちゃんの前に立ちはだかるようにして現れたのはちょっとやばい目つきをした狼の群れであった。とはいえ、ただの獣畜生にしては統率が取れているようにも見える。油断は禁物だ。
「あんの囚人どもめ~!! あちしたちを騙したわね~い!!」
一人の囚人がここいらで怪しい人影を見たという証言の下、エンポリオ・イワンコフを探していた俺達はいかにも危険そうな針葉樹林に訪れた。結果は御覧の通りだ。気づけば俺たちは囲まれていた。
「そりゃあお前、人様に優しく出来る奴がこんなところにいる訳ないだろ」
「ン~~~!! でもこんな犬っころ相手にしてる時間なんてないわよ~~ん!!!」
まだ一時間程度の付き合いだが、この人本当に無駄にテンションが高くて鬱陶しい。焦るのは分かるがもっと落ち着いてほしいものだ。そのウザさたるや、こんな冷凍庫みたいな場所にいるのに何故か暑苦しく感じるほどである。
ただまあ、こんな地獄みたいな場所でも我を貫き通せる精神には敬服する。ある意味心強い。
「ボンちゃん、お前は麦わらを頼む」
「りょ~かいよ~ん!!!」
武器はないため徒手空拳で臨むしかないが、十分だろう。狼の数は100を超えている。戦闘が長期化するのは望ましくない。したがって俺が遊撃して、さっさと終わらすのが最善だろう。
麦わらを乗せたソリを引くボンちゃんの前に俺は立つ。すると同時に、狼の集団は一斉に飛び掛かってきた。
「
空中に身を躍らせる。そのまま身体を捻り、独楽の要領で高速回転。正面、および側面の畜生どもを文字通り蹴散す。耐久力はあまりないようで、たった一撃で骨を砕く感触を得る。それが九つ。まだまだ数は有る。
今の一連の流れで脅威を感じたのか、狼の過半数がこちらに狙いを定めたらしい。好都合だ。
着地すると同時に近くを駆けていた狼の首根っこを掴み、そのまま
「さ、流石『LEVEL5』の囚人っ!! 伊達じゃないわねい!!」
ボンちゃんの方に僅かに意識を向けると、向こうもどうにかこうにか狼の襲撃に対応していた。見た感じ、フォローさえしっかりすれば問題なさそうだ。少なくともタイマンで彼があの狼に後れを取ることはないだろう。
狼たちは相当飢えていたのか、目の前の同胞が次々に絶命しようとも構わずに向かってくる。また最初に感じた通り、この狼の群れは中々に統率が取れている。まるで軍隊のように。おかげで俺達は未だに包囲網を突破できずにいた。俺一人ならこんな畜生らの包囲なんてすぐに振り切って見せるのだが、さて。
「どこかに指揮してる個体がいると見た」
闇雲に殺してもしょうがない。相手が軍隊なら指揮官を潰すの定石である。襲い来る狼を蹴って殴って首をへし折りながら、俺は周囲を見渡す。遠くで俯瞰する、とりわけ強そうな個体はいないものか。
「———いた」
他の個体よりも一回り大きい狼が、集団の奥でふんぞり返っていた。根拠はないが、アレがこの群れの長なのだと直感する。覇気ってほんと便利。特に見聞色は黄猿との戦闘を通じてかなり上達している気がする。
獣人形態に変態する。腕が一本不在なのと辺り一面吹雪いているためバランスは取り辛かった。が、空は飛べた。そして飛行できるのなら後は早い。
「
初速にして音速。空気を壁として蹴りだせる程にまで発達した爆発的な脚力は、飛行に優れたツバメの翼と組み合わせることで継続的にその速度を可能にさせ、更に加速させる。数値にしてマッハ2。音速の約二倍である。
狭い牢獄の内で過ごしてきた犬畜生どもにとって、
いかに統率力があろうとも、いかに数を揃えようともアレらはただの獣。常識に縛られたまま自然で生を甘受する彼らにとってみればある意味、天災にも等しい一撃。矢の如く降下する男の先から、凄まじい衝撃と爆音が轟いた。その凄まじさたるや、男を囲っていた狼の群れは塵芥のように掻き消え、辺り一面に生えていた樹木も揺らされ根元を剥き出しにさせる。
さて、そんなとてもとてもすごい速度で蹴られた狼はどうなるでしょう。
「こりゃあミンチよりもひでぇや」
血肉に塗れた足先に目をやりながら、そのようにつぶやく。統率者がいなくなったという事実に加え、今眼前で起きた惨劇を前にして狼の群れは震え逃げていく。
振り返ると、あんぐりと口を開けて地面に手をつくオカマが一人。どうやら彼も吹き飛ばされたようで、たっぷり時間をかけて状況を把握した後、こちらに詰め寄ってきた。
「あ、アンタねぇ!! 大技使うならやる前に言いなさいよーん!! びっくりしてあちし何十回も回ったじゃなぁ~~い!! ジョ~~ダンじゃなーーいわよーう!!!」
やはり喧しいボンちゃんがビシビシと叩いてくるが、表情を見る限り喜んでいることが分かる。
「悪かったって。それより麦わらは―――」
「流石は世間を騒がすルーキーの一人。中々の実力だ」
「んあ?」
サングラスの男が一人、俺達の背後を取るように立っていた。彼は厚手のロングコートを着ている。ちょうど真ん中を割るように黄色と白で配色されたソレは、流石に看守の物ではないと分かる。
「お前、誰だ」
「私はイナズマ。君たちを助けに来た」
★
「そ、そんな夢みたいな話があるのっ!!」
目玉が飛び出そうなほどボンちゃんは驚き、その勢いのまま回転し始めた。意味不明である。
イナズマ、そのように名乗った男も俺達と同じく囚人であるという。彼が言うには、この先にインペルダウンの囚人たちが築き上げた楽園があるという。山のような飲食料、チェスやオセロを始めとした娯楽品、銃や刀などの古今東西のありとあらゆる武器防具。とにかく何でもあるらしい。彼の奇抜なファッションもそこからきているのだろう。
さて、そんな楽園の名は『LEVEL5.5番地、囚人たちの花園、ニューカマーランド』。何ともまぁふざけたネーミングセンスだ。
「あー、一ついいか?」
気になることがある。先導するイナズマの背中越しに聞くと、彼は相当アルコール度数が高いのか何故か凍らないワインを飲みながら、こちらに顔だけを向けてくる。
「なんだ」
「この広い海だ。その楽園を在り得ないと断じるつもりはない。だが一体どうやって、この凶悪な犯罪者たちが集うインペルダウンの囚人たちを束ねているんだ?」
集団を纏めるには秩序とそれを敷く者が必要である。しかしソレらをものともしないのが俺達犯罪者、つまり海賊な訳で。中には話の分かる者がいるだろうが、大半は危ない奴ばかりだろう。だからこれは『ONE PIECE』の一読者として純粋な疑問だった。
「どうやら君には良識があるようだ。当然、運よく楽園に到達した囚人の中には凶暴な奴もいた。しかし、我らの指導者はそういった輩をも改心させる術を持っている」
「へー、面白いな。なんだそれ」
「私の口から言える訳がないだろう」
「そりゃそうだ」
まだ出会ったばかりの人間に自らのボスの能力を話すつもりはないようで、彼はその言葉を最後に正面に向き直り足早になる。まぁそんなに甘くはないか。むしろガードが甘くないことに安心する。どうもこの世界の住人は守秘義務を怠る人間が多いからな。
「それじゃあ、あちしからも質問。イナズマ、あなたエンポリオ・イワンコフというオカマ知らないかしら?」
一通り回転して満足したらしいボンちゃんは奇妙なステップを踏みながらそのように聞く。因みに現在麦わらを乗せたソリを引いているのはこいつである。さっきから回転してばかりだが、それで器用に麦わらを運んでいるのは素直にすごいと思う。いや、本当にまったく無駄な動作なのだが。
「知ってるも何も、私たちの主導者だ」
「え、え~~~!!!」
イナズマの返答にまたもや目玉が飛び出そうになるボンちゃん。もう見てて飽きない。イロモノすぎる。
「詳しい話は本人から聞くといい」
「え、ええ! ツバメちゃん!! あの『奇跡の人』なら麦ちゃんを絶対助けられるわよ!!」
ガバっとこちらに顔を向けて、ボンちゃんは本当に嬉しそうな顔をする。
「ああ、そうだな」
この先の展開を朧気ながらも覚えている俺としては少々複雑な心地になるが、一応笑顔を返しておく。するとボンちゃんはわなわなと震えて「急いでいっくわよーん!!」とイナズマを急かした。なんなら彼を追い越してクルクルと飽きずにまた回りだした。
「ところで『鳴無』のツバメ」
「うん?」
「君の船長はフレバンス出身だと聞いたが、本当か?」
「———っ」
あまりに唐突過ぎて、息が詰まった。しかし顔には出てない、大丈夫だ。
「……悪いがそれは個人情報だ。どうしてもその話をしたいのなら、俺じゃなく本人にするといい」
イナズマ、彼は革命軍*1の幹部である。そして革命軍の情報収集能力は凄まじいと聞く。だから恐らく、ローの
「ふむ、それもそうだ」
「ただ一つ言っておくが、あいつは身内以外には相当ドライだ。世界の事なんて眼中にないと思うぜ」
「……なるほど。手強いな、君も」
「はは、アンタらほどじゃない」
★
「待っていて、必ず助けるから」
『LEVEL4』から『LEVEL5』へと降りるための螺旋階段を駆け下りるのは一人の女性。肩に長刀を携えた彼女の名はトラファルガー・ロー。己の半身を取り戻すため、ローは単身で地獄とさえ形容される監獄に挑んだ。
しかし世界一の監獄は伊達ではない。侵入すら困難であるはずのインペルダウン。その地下四階にまで至るまで、彼女はいくつもの幸運に見舞われた。
一つ目は侵入の折、監獄外に配置された軍艦の注意が七武海の一人である『海賊女帝』、ボア・ハンコックに向いていた事。二つ目は既にインペルダウンには侵入者がおり、加えてその侵入者は杜撰にもすぐに発見されて監獄内が大きく混乱していた事。そして最後の三つ目が———
「彼の爪、保管しておいてよかった」
ビブルカードの職人が
別名『命の紙』とも呼ばれるソレは、人の爪の欠片から作りだすことが出来る。この紙はその爪の持ち主に向けて常に向かい続けるという性質を持っており、そしてローが持っていたのはハートの海賊団副船長の爪。つまり彼女は目的の人物がどこに幽閉されているのかをノーリスクで知ることが出来たのである。
そうした様々な幸運とオペオペの能力、そしてロー自身が持つ単独行動の心得が合わさり、今の今まで誰にも気づかれる事なくここまで辿り着くことが出来たのである。
「……あと、少し」
長い時間をかけ、ついに目的地に到着する。ビブルカードは平行に動いていた。
扉を開けると痛みすら感じるほどの冷気が吹きさす。お世辞にも防寒に優れた服装ではないが、歩を進めることに躊躇いはなかった。ただ一気に人体が凍えていくのを感じる。そういえば、先ほど上の階でたくさんの汗をかいた後であった事を思い出す。
「……早く、助けないと。彼、きっと、寒い思いしてる」
言いたいことはたくさんある。だけどそのためには二人とも生きて帰る必要がある。だからこんなところで倒れる訳にはいかない。
今週のジャンプ見てすっごい興奮しました(挨拶
ところで自分ヤンデレが大好きなのですが(唐突
皆さんはどのようなヤンデレが好きでしょうか?
自分は基本どのようなヤンデレも受け入れる所存ですが、すぐに暴力に訴えるのは如何なものだと思います。
最後に、この作品は読者の皆様の誤字報告で成り立っております。この場を借りて感謝させてください。ありがとうございます!!