妄想わーきんぐ。ぽぷら   作:つば朗ベル。

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(18)  旅行の始まり

「着いたよ~、小鳥遊くん」

 相馬さんの声を聞き、アイマスクを外すと、もう、島に到着した所だった。

 ――そうだ。今日は、旅行当日。八千代さんの当てた旅行のチケットで、みんなで、この謎の小島に飛行機に乗ってきた。日本の無人島らしい。いや、普通どこか分かるよなぁ? ってな感じなんだけど、なんか割と、知られてない場所らしくて、とりあえず、沖縄の近くらしいということは聞いた。

 

 あの、伊波さんの家に出向いた日から大体、一週間後くらいの旅行前日に、いきなり旅行の日程を聞かされ、半ば強制的に飛行機に乗せられていたという訳である。まあ、家の前まで迎えが来てとても助かったが。やむをえず、旅行中の最低限の家事はなずなに任せてきた。なずなが居て本当に良かった。

 そう言えば、店の方は臨時休業にしているらしい。まあ、今は夏休みなので平日を使ってこの旅行に来ている。2日程度、臨時休業にすることはそれほど難しいことではなかったらしく、音尾さんも「丁度いい機会だからパァーっと遊んでくるといいよ」なんて言って、承諾してくれたらしい。

 

 バスに乗って、しばらくするとホテルに着いた。ここが予約しているホテルらしい。ホテルの横を見るとそこには、光が反射して綺麗に色づく海と、広大な森が広がっている。なんという大自然だろうか。

「すごい、自然です! これは、北海道も目じゃない景色ですよ!」

 圧倒的な光景に山田が目を輝かせて言う。

 予想通りというかなんというか、この旅行が始まって以来、山田のテンションは常に高い。山田が一人で海に向って走っていくと、かぶっていた麦わら帽子がふわりと風にゆれながら道に落ちた。その麦わら帽子をさりげなく、でも、大事そうに相馬さんが拾う。

「おら、置いてくぞー、やまだー」

 佐藤さんが、そう言って色々荷物を持ちながら海沿いに向う。同じく荷物持ちをさせられている相馬さんも持っていた麦わら帽子を頭にかぶると、その後について行った。

 それに続くように、店長や八千代さん、山田や伊波さんも、歩き出す。

「いこっ? かたなし君?」

 ……そして、せんぱいと俺も。

 なんだか、伊波さんと、せんぱいと三人で海に行った日のことを嫌でも思い出してしまう。おそらく、俺以外の二人もだろう。だか、伊波さんもせんぱいも、そんな様子はおくびにも出さずに他のメンバーとも普通に振舞っている。さすがに女は強い――と言ったところだろうか。

 

 あの、海の日から3週間程度しか経ってはいないというのに、実際にはもっと時間が経っている気がしてならない。まあ、それだけ、重厚な時だったという事だろう。あの、前までは単に可愛いとしか思っていなかった種島せんぱいが、今では恋人だものな……これだけのことがあったのだ、今までが濃い日々だったのは間違えない。

 

 今日はこの海で遊んで泳ぎ疲れたら、みんなでカレーを作って晩御飯を食べるのだそうだ。海の前まで来ると、旅行が始まってから常にワクワクが止まらない山田を筆頭に、女性陣が、キャッキャ言いながら、水着に着替えにホテルに向った。

「女どもはさすがに元気だな……」

 佐藤さんが、女性陣を遠めに見ながら言った。

「そりゃあねぇ、楽しまなきゃ損じゃない? 佐藤くんだって、今日くらいクールに決めてないで楽しんだほうが得だよ?」

 相馬さんがいつもの調子で言った。

「クールになんて決めてねぇよ」

「アハハ……ねえ? 小鳥遊くんも、そう思うよね?」

 ――えっ!? 俺に振るんですか? 相馬さん……。

「ええ……まあ……そうですね、せっかくみんなで旅行なんて、多分もう無いでしょうしね?」

「……いや、小鳥遊くん! 確かにその可能性は高いけど、そんなネガティブな言い方しなくても……!」

「ああ、すいません……」

 俺達、男性陣も着替えるため、ホテルに向って歩く。その歩いている最中、

「まあ、いいや、そう言えば、小鳥遊くん、種島さんとはどうなったの?」

 相馬さんが臆面もなくストレートに聞いてくる。

「……ええ、まあ、割といい感じだと思いますよ?」

 もう、色々してしまっているということが、ばれるのは嫌な俺は、あまり詮索されないよう無難な言い方をした。

「えっ? まだ、そんなに進展してないって事? ああ、でも大丈夫! 今回の旅行で、色々と準備もしてるからね! 種島さんと小鳥遊くんの愛が深まるように!」

 おいおい、相馬さんはいったい何を考えているんだ……? 俺とせんぱいはもう、大丈夫だからあまり、厄介なことはして欲しくないのだが……。

「だっ、大丈夫ですよ、相馬さん、うまくやってますから……」

「ほんとかい? 遠慮しなくても、大丈夫だよ」

 ――アハハハハ。いつもの笑顔で、屈託もなくそう言う。

 ……本当にこの人はなにをする気なんだろう……?

 

 着替え終わり、みんな海で遊んでいた。北海道の海とは違い、とても気持ちいい。これが本州の海か。伊波さんなんかは、あの海の日のことを思い出してしまってあんまり楽しめないんじゃないかと思っていたけど、はしゃぐ山田のおかげか、場の雰囲気も良くなり問題ないようだった。俺は初めて山田が居て良かったなんて思ったのだった。

 

 そんなことを思っていたからだろうか、その辺りを執拗に動き回る山田が、俺の近くに来た。

「やまだっ!」

 呼び止めると、頭に「?」マークを浮かべ、アホ面で俺の前で立ち止まる山田に俺は、

「……ありがとうな」笑顔で言うと、

「えっ……なんですか? 小鳥遊さん、なんでいきなり山田に礼を言うんですか? 気持ち悪いです!」

 ――気持ち悪がられた。

「……も、もしかして、スクール水着姿の山田に見とれていたんですか? ひゃああ!」

 そう言って、山田は胸の前で手を結び、青い顔をして俺から体を遠ざける。

 そんな気持ち毛頭無かったものの、そう言われて改めて山田を見てみると青く競技用水着に似たスクール水着を着ている。いわゆる新スクだ。せんぱいと違い、胸が大きくない山田にはそのワンピースの水着がある意味とても似合っていた。山田特有の黒髪と、独特の昔ながらの日本人女性のような容姿、そして、成熟しきっていない顔と体……。

 ……なんだろう? 案外、可愛くないか? こいつ……。

 

 ――ハッ! なにを俺は、可笑しなことを考えているんだ! 山田だぞ!? あの! ……いや、しかし、せんぱいとは違い、こう、ロリを地で行く山田ならではの魅力というか……いやいや、なにを言っているんだ。おちつけ、宗太。

 も、もしや、俺は今まで、可愛いだけで、恋愛対象ではなかったせんぱいのような存在が恋愛対象に成り代わってしまったことによって、山田のようなタイプにも、良さを見出せるように……!? ――それじゃあ、俺はロリ………………っ!

 ――さて、くだらないこと考えてないで泳ぐか!

 

 一旦、頭の中をまっさらにして海に身を投じる。

 ――海の中はとても気持ち良かった。

 

 

 

 ……んもう……かたなし君ってば、わたし以外の女の子ばっかり目で追って……。そりゃあ、八千代さんとか、スタイル良いし、葵ちゃんの水着姿も初めてだろうから、見ちゃうのはわかるけど……。

 ……って、葵ちゃん? あれっ? かたなし君って、葵ちゃんなんて、全然そんなじゃなかったよね? なんで、葵ちゃんばっか見てるんだろ……? も、もしかして、葵ちゃんの良さに気付いちゃったの? そんなぁ……わたしに続いて葵ちゃんまで、いいなんて言い出したら、ますます、ちっちゃいもの好きってことに…………ハッ!

「ちっちゃくないよ!」

「……ど、どうしたの……? ぽぷらちゃん?」

 黄色の可愛いビキニを着た八千代さんが、突っ込んでくれたのだった。

 

 ――その後、みんなで、海で遊んだ。ビーチバレーなんかもした。まあ、全然バレーにはなっていなかったけど、みんな笑って楽しそうだったから、良かったんじゃないかなと思う。

 ……ちなみに、わたしはバレーは苦手だ。胸元にきたボールを受ける時、胸がじゃまで、レシーブがしにくいからだ。たぶん、胸の大きな子にしかわからない悩みだと思うけど……。

 

 そうやって、みんなで遊んだり、疲れたらパラソルの日陰で休んでいたりしている内に、気付けば、もう、午後5時を回っていたらしい、大勢で遊んでいると時間が経つのが早いなと、身に沁みて思った。その内、佐藤さんや相馬さん、かたなし君の男性陣が晩御飯の準備を始め出した。泳ぎ疲れたわたしも、彼らの元へ向う。

「あっ、佐藤さん、かたなし君、晩御飯の準備するんでしょ? わたしも何か手伝おうか?」

「おう、そうだな……種島……お前、飯盒の使い方、知ってるか?」

 飯盒を持った佐藤さんが言った。

「あっ! 馬鹿にしてるでしょ? 佐藤さん、わたしだって飯盒くらい使えるよ! 小学校で使ったことあるし」

「おお、じゃあ、種島は適任だな……ということは、今年の夏に使ったばかりという事か」

 ポン、と手を叩いて佐藤さんが言う。

「わたし、小学生じゃないよ!」

 まったくもう……佐藤さんは……。

「ホラ、じゃあ、種島、冗談は置いといて、ご飯炊いてくれ、一人1.5合位で計算すればいいだろう……あ、いや、店長がいるから、プラス4合位にしておくか」

「うん、分かったよ!」

 わたしは、飯盒を持って、火をおこしやすそうな所に移動した。それにしても、最近の飯盒は丸いんだな……その、飯盒は最近の物らしい、昔のような長い円のような形ではなく、普通に丸かった。

「せんぱい! 手伝いましょうか?」

 

 と、飯盒を見ながら、さて、どうしようかと思っていた時、かたなし君がやってくる。こう、困ったときには何も言わなくても来てくれる人って本当に良い人だと思う。そして、そんな良い人のかたなし君の恋人の自分は本当に幸せだと思う。

「あ~、うん、えっと、どうすればいいのかなっ?」

「まずは、米を研ぎましょう、そして、水に浸けておくんです」

「えっ? 研いだら直に火にかけないの?」

「ええ、直に火にかけるより、少し水に浸けておいたほうが、ふっくら炊けるんですよ、本当は30分位浸けたほうがいいんですが、15分位でいいでしょう」

「へーそうなんだ」

 近くにあった流しに移動し研ぐ準備をし、腕をまくりながらわたしが言った。

「水は米の重量の1.5倍でOKです。最初は強火で炊いて泡を吹かなくなってきたら、火を弱くしていくんです」

 まるで、慣れた事の様に語るかたなし君。

「なんだか、詳しいね? かたなし君」

「えっ? ああ、実は俺、たまに趣味で飯盒使ってご飯炊くんですよ」

「……趣味で!? 変わってるねぇ……」

 

 その後も、かたなし君の、プロ顔負けの指示を受けながら、わたしは飯盒でご飯を炊いた。かたなし君曰く、飯盒でご飯を炊くと、慣れていない人は大概失敗するのだそうだ。かたなし君自身も、何度も失敗したことがあるらしい。

 

「じゃあ、後は弱火で、ぐつぐつしなくなったら、フタを取って、食べて確認してみてください、炊けてたら、飯盒のフタをしっかり閉めてから逆さにして、10分蒸らしてください」

「フタ取っちゃっていいの?」

 よく、フタは絶対取るなと言うけど……。

「いや、炊き上がった頃だったらいいらしいですよ、じゃあ、後はせんぱいに任せますね、俺は佐藤さんのほうを手伝ってきます」

「あ、うん」

 かたなし君は、そう言うと、佐藤さんのほうに向って行った。

 

 ――かたなし君と、二人でご飯の支度するなんて……なんだか、新婚さんみたい……。ふふ、そんな未来も……悪くない……かな?

 そんな想像を膨らませていると自分の頬が火照って熱くなっていた。恥ずかしくて顔をバタつかせる。

 

 ――それはまるで、今も尚、火にかけられぐつぐつと踊っている飯盒のようだった。

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