妄想わーきんぐ。ぽぷら   作:つば朗ベル。

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(19)  シェフカレーと主婦カレー

 ――さて、せんぱいのほうは、もう大丈夫だろう。佐藤さんのほうは、佐藤さんもプロみたいなものだし、問題はないと思うけど、一応手伝えることがあったら手伝おう。

 

 しばらく、歩いた所にある、軽い休憩場のような所で、佐藤さんと相馬さんが、カレーを作っていた。まだ、野菜を切っている段階で始めて間もない。まあ、まだご飯が炊けるまで時間はあるからな、しかし少し遅れ気味かもしれない。

 

「佐藤さん、もうご飯の方、炊いてますから少し急いだ方が良いかも知れませんよ」

「ああ、そうか。まあ、分かってるけど、どうせ、一晩寝かせたカレーは食えないんだ。それに夏なんだし、ご飯が多少冷めても問題ないだろ」

 いつもとは違い、Tシャツ短パンにサンダルというラフな格好で、包丁を握る佐藤さん。店の服以外で料理をしている姿はかなり新鮮だった。

「ああ、そうだ、小鳥遊……ついでだからお前も作らないか? 鍋も二つあるし……」

 ふとこちらに目を向けて言う佐藤さん。

「えっ……でも、せっかく佐藤さんが美味しいカレー作ってくれるのに……俺のカレーなんか主婦のカレーですよ?」

 謙遜したように俺が言うと、

「いや、ていうかな、8人いるんだぞ? しかも、店長いるから12、3人分と言った所か? それを俺一人が作るとなると、大変なんだよ……つまり、最初からお前も手伝わないといけないんだよ……」

 ――なるほど……たしかに。

「でも、野菜切ったりとかすればいいですし……佐藤さんの作るカレー、結構興味あるんですよね、俺」

 俺も、料理は毎日しなくてはいけない家庭の事情で、今では料理は結構好きだった。だから、ワグナリアでバイトを始めたというのもあるし、カレーは作る人によって全然違う味になるから佐藤さんの作るカレーには、結構興味があった。

「……いや、大丈夫でしょ! 佐藤くんもどっちにしても作るんだし、俺は逆に小鳥遊くんの庶民的なカレーのほうが気になるなぁ」

 洗い終えた野菜を持ってきた相馬さんが言った。

 

 ――ていうか、さっきまで、遠くにいたのに聞いてたのか!? この人。

「……えーー、そうですか? う~ん、どうしようかなぁ?」

 正直、いつも、家で料理をしている俺にとって、こういう時くらい他人の作った料理が食べたいという気持ちが強い。

「佐藤くんだって、小鳥遊くんに作ってもらったほうが面白いって思うよね!? それで、二人のカレーを食べ比べるんだよ~、それで、みんなでどっちのカレーが美味しかったか、勝負って言うのも面白くない?」

 突然、思いついたように相馬さんが言う。作業の手を全く休めずに話す所を見ると、さてはこの人、事前に考えていたんじゃないか? この事を…………。

「俺は、そんなつもりで言ったんじゃないんだか……」

 予想通りというか……佐藤さんは、乗り気ではない様子だ。

「えー? ダメだよー、さとうく~ん! ホラ、轟さんに良い所見せるチャンスじゃない? 『やちよ……そのカレー、俺が作ったんだぜ?』『えー? 佐藤くんが!? こんなプロのシェフみたいな味出せるなんて……佐藤くん……好き!』……みたいな感じに……!」

 なぜか、テンション高い相馬さんがそんな風に演技しながらジェスチャーも交えて言う。

「な、なるかよ! そんな上手く……!」

 否定する佐藤さんだが、テレているのか、頬が少し赤かった。

「やっぱり、佐藤さんの手伝いを……」

 俺がそう切り出した時、なにやら、佐藤さんに耳打ちする相馬さん。喋り終えた相馬さんが佐藤さんの元を離れ、しばらく、佐藤さんは無言で人参を切っていた。……そして、

「よし……小鳥遊…………勝負だ!」

 いきなり、俺の方を直視して力強く佐藤さんが言った。

 ――な、なにを言ったんだぁ!? 相馬さん!?

 

 ……そんな訳で、俺と佐藤さんのカレー対決が始まっていた。ま、まあ、良いだろう。勝負となれば、より完成度の高い佐藤さんのカレーが食べれる訳だし、佐藤さんのカレーに俺のカレーがどれほど通用するのかも、ちょっと気になる所でもある。佐藤さんのカレーが『シェフカレー』なら、俺のカレーは『主婦カレー』だ!! 主婦の本気を見せてやるぜ!

 

 

「相馬さん! 相馬さん!」

「なんだい? 山田さん?」

「小鳥遊さんと、佐藤さん、カレー作り出してからは、一切こっちを見ずに真剣に取り組んでますよ!?」

「そうだね~、すごい集中力だね~」

「所で相馬さんは、そんな二人を眺めているだけで楽そうですね? お二人を手伝ったりしないんですか?」

「いやね、野菜全部洗い終わって、この勝負のこと持ちかけたら、もう、二人とも集中するから、一人でやるって言ってね?」

「……まさか、相馬さん。手伝いが面倒だったから、この勝負を持ちかけたんじゃ……?」

「アハハ……まあ、それも計算の内さ、何しろ、今日みたいな日までバイトみたいなことしたくないからね!」

「相馬さん、ほんとにずるっこですね~、山田まみれです……」

「山田まみれ!? 山田さんみたいってこと!?」

「そうです!」

「あっ、そういや、佐藤くんが料理に使うスパイス一個渡し忘れてた! 山田さん、ちょっと佐藤くんに渡してきてくれる?」

「えっ、佐藤さんに? 山田、怒られたりしませんよね……?」

「どんだけ佐藤くん、怖がってるの!? 大丈夫だよ佐藤くんだって、怒られるようなことしなかったら怒らないよ……」

「ですよね! じゃあ、山田行ってきます!」

 相馬は、カバンから、ハーブらしき植物を取り出した。

「ハイ! 山田さん、渡してきて」

「えっ? これ、まさかいわゆる……」

「ちょ、ちょっと! 山田さん! そういうギャグは止めとこう! 違うから! 問題ないから全然!」

「えへへ……すいません。山田とちりでした」

「山田とちり!? ……まあ、いいや佐藤くんに渡してきて」

 山田は、佐藤の元へその植物を渡しに行った。

「おう、悪いな、山田。これ必要だったんだよ……」

「でしょう? 佐藤さん、山田は役に立つでしょう?」

 ――フフン、と、胸を張る山田。

「なに、調子に乗ってるんだ……自分の持ってきたものが何かも分かってないくせに」

 意味深に佐藤が言った。

「へ? そんな、だって山田、相馬さんに言われた通りに……!」

「相馬の差し金かよ……じゃあ、返って相馬に、何だったか聞いてみることだな」

 ――タッタッタッ……山田が駆け足で相馬の元に戻ってくる。

「相馬さん! なんか佐藤さんに馬鹿にされましたけど、さっきの何だったんですか!?」

「ププッ! ああ、あれね、昔、山田さんが悲惨な出来事を経験した時の物だよ」

「……へっ? それって……?」

「シャンバリーレだよ」

「……おべらっ!?」

 

 

 

 なんだか、騒がしいな、特に山田……。

 ――が、よし、後は仕上げにこれを入れて…………よし、まあ、いい味だろう。あと、最後にもう一つ、これを……こんなもんか。最後に、味見して……うん! 悪くない。

 さて、出来た。『宗太必殺主婦カレー』完成だ!

 

 隣の佐藤さんを見ると、どうやら佐藤さんのカレーも完成したようだ。ムッ! なんだ、この本格的なスパイスの香りは……! さすがは、佐藤さんだな……こんな慣れない環境で、きっちり仕事をしてくるとは……。

「おーー! いい匂いじゃない! 二人とも出来たの?」

 遠くで座って見ていたらしい相馬さんが、声をかけてきた。

「俺のほうは……」

 佐藤さんが答えた。

「ええ、俺も出来ましたよ」

 俺が言うと、「みんな呼んできるよ~」と、言って相馬さんが、海に向って行った。

 

 ――腹を空かせたみんながワクワクした表情を見せながら集まってくる。ついに試食の時となった。そう言えば、せんぱいの炊いたご飯はしっかりと出来ていた。水加減もまあ、良好であり、85点と言った所だろうか。そんな位には良い出来だった。その美味しそうなご飯を使い捨て用の紙皿にのせていく。おこげも出来ていて、飯盒で炊いた良さがしっかりと出ていた。

 

 二つのカレーを食べ比べるため、店長以外は軽めに盛った。

「よーし、それじゃあ、早速食べよう! みんな、どっちのカレーが美味しかったか、公平に判断するんだよ!」

 ノリノリで相馬さんが合図をした所で、いただきますという声と共にみんな一斉にカレーを食べ始める。食べる順番は決めていないが、大体の人は、見た目が庶民的なためか、俺のカレーを先に手を付けているようだった。

「美味し~い!」

 自分でご飯を炊いたこともあるのだろう。せんぱいが、顔をほころばせて、美味しい美味しいと大げさに言うと、つられたように、チーフや伊波さんなども、美味しいと言って、嬉しそうにカレーをほおばる。

 なずなや、梢姉さんからは言われ慣れているが、普段聞くことのない人達にこうして、自分の料理を褒められると、どことなくこそばゆい気持ちになった。

 ――続いて、佐藤さんのカレーを食べ始める一同。

 俺も、みんなの反応が気になり、まだ手を付けていなかったが自分のカレーの反応を見た所で、食べようと手に取った。

「これは……」

 佐藤さんのカレーは、見た目は少し黒く、ひき肉と定番の具を一通り入れたカレーだった。とろみがやや少なく、圧巻なのは、カレー専門店顔負けの、スパイスの効いた香りで、食べる前からもう、その香りだけで体が火照るような感覚すらした。早速一口食べてみる。甘さは控えめで、見た目ほど辛いわけではないが、ある程度の辛味と独特の……味――これは、苦味か? が、ある。かといって、きつい味という訳でもなく、野菜の甘さや、各スパイスの味が、際立ち、とても深い味わいだった。おそらく、一晩寝かせて、野菜とこのルーが融合すればもっと美味しくなるのだろう。

 

 これは、完全に負けだな。と、潔く他のみんなの反応を見てみると、以外にも「おいしい……かな」とか「うーん」とか、微妙な反応をしている。山田なんか早々に皿を置いて、俺のカレーをまた食べ始めている。総じて、女性陣には不評なようで、店長以外は、微妙な顔をしている。

「相馬さん、どうなんでしょうか?」

 正直、どういうことかと疑問に思った俺は、違う意味で微妙な顔をしていた相馬さんに声をかけてみた。

「あーー、カレーの評価かい? まあ、見た通りじゃないかな? その顔を見ると、佐藤さんのカレーの方が美味しいと感じたみたいだね? やっぱり、料理している人だからかなぁ」

「えっと、俺、正直、明らかに自分のより佐藤さんの方か美味しいと感じるんですが、相馬さん個人はどうですか?」

「俺個人は、小鳥遊くんのかなぁ。ま、好みだけど、ていうか小鳥遊くんのもかなり美味しいと思うよ? さすがにいつも家で料理してるだけはあるよ」

「はぁ……でも、女性陣の反応は露骨ですね?」

 今尚、微妙な顔をしている女性陣を一瞬確認してから、相馬さんのほうを向きなおして言った。

「まあ、女の子にはあんまり好まない味付けだろうね、これは。佐藤くんのカレーが本格的なのは明らかだけど、女の子は日本風の甘口カレーが好きだからね」

「えと、家にはなずなとかもいますし……まあ、姉達の好みに合わせていますね、ハイ」

「でしょ? だったら、彼女たちの反応は普通じゃないの?」

「けど、作った本人が、負けたとはっきり認識しているのに……なんか、変な感じです」

 

 ……まあ、自分のカレーはいつも食べているから飽きているというのもあるのかもしれないし、実際、なずなや姉達からは評判が良いのはお世辞だと思っていたけど結構本気で言っているのかもしれない。

「それで、なんで相馬さんは微妙な顔をしていたんですか? 他の女性陣とは違う理由ですよね?」

「ああ、俺? 俺はねぇ、よく、佐藤さんはこんな女の子ばっかりの中でこのカレーを出してきたな、と思ってね? まあ、それでも佐藤くんは自分の作りたいものを作ってきたんだろうなってね? 料理でも何でもそうだけど、自分のやりたいことって、自分のやりたいようにしたいものじゃない」

「なるほど……そうですね」

 俺がそう答えると、彼女らの反応を見ても特に驚いた様子もなく佐藤さんがこちらに向ってくる。そして、

「おう、小鳥遊! お前のカレー上手いよ、これは俺の負けだ」

 なんで、残念そうな素振りなんて全く見せずに言った。

「え? あ、ありがとうございます、でも、俺は佐藤さんのカレーの方が断然美味しいと思いましたけど……」

「おっ! マジでか?」

 俺が言うと、佐藤さんは珍しく驚いたように、すぐに聞き返してきた。

「ええ、本気で。だから、彼女らの反応は驚きました」

 俺が言うと、佐藤さんは遠くを見つめ、一呼吸おくと、

「まあ、俺は予想通りだよ。実際、美味しいと言われた事はあんまりないからな」

 と、悟ったように言った。

「けど、このカレー、色々スパイスも良い味を出していますし、野菜の甘みも出ていて、美味しいですよ。この香りはガラムマサラですよね? 他にも色々スパイスが入ってますよね? でも、その割に優しい味わいでもあって、おそらくヨーグルトか、ココナッツミルクも入ってますよね」

「……そこまで、分かるやつはお前が初めてだよ。ただ、それほどスパイスは多くは入れていない。おそらく苦味が少しあるからそう思ったんだろうが、苦味は、ビールで出している」

「ビール? ……なるほど。この苦味はビールで演出していたんですか、黒い色からカレー粉を炒る事で苦味を出していたのかと思っていましたがそうだったんですね」

「もちろん、黒いのはカレー粉を炒っているからだが、ビールを加えることでこの味を出しているんだ。入れるビールも色々試してみたよ」

 ――梢姉さんが、家で飲んでいる安いビールではないだろうな……。

「しかし、お前のカレーも本当に上手いじゃないか? これは庶民的なカレーとは言え、何か工夫をしているだろう?」

「おお、さすが佐藤さん、分かります? 実はこれ、インスタントコーヒーを入れることで、ちょっとコクを出しているんですよ」

「インスタントコーヒー? ……主婦ならではの発想だな」

 驚いたように佐藤さんが言った。

「アハハ、そうですね。なんせ、家計を切り盛りしていますからね、材料費を大きくはかけられないんです。そうなると、家にあるそれほど高くないもので……となる訳です。コーヒーの種類も色々試しましたが、一番ポピュラーな家族で飲んでいるものが良いようですね」

「まさか、そんな低予算でこれほどのカレーを作れるとはなぁ」

「他にも、人参と玉ねぎを多めに使って、先によく炒めておくことで、野菜の甘みが出やすくしています。野菜の甘みが特に出るのは人参と玉ねぎですからね……そして、仕上げに日本風にする必殺の調味料を入れます。それはしょうゆです」

「へー! しょうゆなんて、なるほどねぇ」

 

 遠くから声が聞こえたと思うと、丁度、相馬さんがおかわりを持ってきた所だった。

「しょうゆを入れることで、なんていうか、馴染みのある味になるんですね、しょうゆは減塩のものが特に良いです」

「まあ、そこまで工夫していたんじゃ、どっちにしても俺の勝ちはなかったな」

 佐藤さんはそう言って、ハァと息を漏らすと、タバコをくわえ火を付けた。

「えっ? そんなことないと思いますよ? 俺は完全に負けたと思いましたし」

「ま、お前にそう言わせただけでも、作った甲斐が合ったよ」

 佐藤さんはテレているのか、口元をほころばせながら、横を向き髪の毛をいじった。

「二人とも……もう、勝負はついたような感じでいるけど……まだ、みんなの投票がまだなんだから勝負はついてないよ?」

 苦笑しながら相馬さんが言った。

 

 

 ――作ったカレーが綺麗に全員の胃袋(主に店長の)に収まった所で、相馬さんが手作り感あふれる投票ボックスを、ババーン! と、自分で言いながらみんなの前に出した。普通のメモ帳を裂いただけの工夫のない用紙に全員が、どちらのカレーが美味しかったのかを書き投票する。作った俺と佐藤さんは投票をしないので、店長、チーフ、伊波さん、せんぱい、相馬さん、山田の6人が投票する事となる。

 

 キャキャ言いながら、女性陣が紙に名前を書き込む。その光景はまるで学校で、好きな男子について騒いでいる女子のようだ。

 全員が投票し終わった所で、相馬さんが「じゃあ、おまちかねの~」なんて、テレビの司会者みたいに大げさに言って、場を盛り上げる。が、それが女性陣には好評なようで、ワクワクした顔で見ている。今更、気付いたのだが、相馬さんは今回の旅行でそういう『盛り上げ役』を買って出てくれているのだろう。我ながら、今更気付いたことに恥ずかしかった。

 

 相馬さんの手から、出てきたメモ帳の切れ端が、隣の山田の手に渡り、名前が読み上げられる。山田は本当に相馬さんの事が好きだな――まあ、俺には関係のない事だが。

 俺の名前が、二回連続で呼ばれ、やっぱりそうなのかと複雑な気持ちを抱いたが、その後、佐藤さんの名前が二回呼ばれた。どうやら、俺の圧勝という事でもないようだ。そして、次に呼ばれた名前は佐藤さんだった。「おお!」と、みんながどよめく。これで、俺2、佐藤さん3票。次の最後の投票で決まる。

「ついに最後の一票で決まるね~引き分けか……佐藤君の勝ちか……?」

 相馬さんが、相変わらず場を盛り上げるよう大げさに言った。そして、最後の紙が山田に渡される。

「え~……あ、ああ、これは、小鳥遊さんです!」

 山田はなぜか一瞬、首をひねった後、思い出したような顔で言った。

 それを見て、以外にも佐藤さんが、「おい、ちょっと……」と、山田の元へ向い「見せてみろ」と言って山田から受け取ったその紙を直に見ると、

「あーーこれは、無効票だな!」

 なんて、苦笑いをしながら言い出した。

「えっ? どうしてですか?」

 気になった俺が、聞くと、

「ホラ、小鳥遊……これを見てみろ」

 佐藤さんはそう言って、みんなに見えるようにその紙を差し出した。

 そこには、「かたなし君」と書いてある。しかも名前の後の大きなハートマークが書いてあり、かなり恥ずかしい。

「この、種島の書いた票は名前が間違えている! 無効票だ!」

 かっこよく、佐藤さんが言った。

「え~~! なんで、わたしのって分かったの~!」

 せんぱいは、あくせくしながら言う。

 ――いや! それは分かるでしょう!? せんぱいっ!

「種島、こいつの名前はかたなしじゃない! 小鳥遊だ!」

 佐藤さんが、今更過ぎることを堂々と言った!? ていうか、佐藤さん途中からコレ、やるつもり満々だっただろう……!? 相馬さんも、腹抱えて笑ってるぞ!?

 みんなも、雰囲気から冗談だと気付いたのだろう。せんぱい以外、みんな笑い出した。まあ、佐藤さんも最初から真面目に勝負するつもりもなかったのだろう――。

 みんなが笑い合う中、さりげなく、一枚の紙を佐藤さんに渡す相馬さんの姿が見えた。そこには、「佐藤くん」と可愛らしい丸文字で書いてあり、それを見た佐藤さんの顔がほころぶ。

 ……なるほどな。チーフ以外に佐藤くんと呼ぶのは相馬さんだけで、あの文字を見る限り、あれはチーフのものということか……。

 

 ……しかし、相馬さんが似せて書いたとか……? いや、それはない……よな……?

 ――気付けば、そんな良い雰囲気のまま、そのカレー対決は終了していたのであった。

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