妄想わーきんぐ。ぽぷら   作:つば朗ベル。

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(2)  楽しかった行きのバス

「伊波ちゃ~ん!!」

 待ち合わせの公園に一足着いていた伊波ちゃんに声をかけた。

「あっ、種島さん! おはよー!」

 伊波ちゃんはソワソワした面持ちでいたようだ。私服は白のフリフリワンピースを中心に色々可愛くあつらえていた。

「今日、私服かわいーねぇ!」

「そ、そう? ありがとう……海に行くってことだったから、あんまり厚着してもと思って……」

「それにしても、今日は本当にわたしも来て良かったの? せっかくのデートだって言うのに……」

「え? 全然だいじょうぶだよ! だって種島さんが来ることがデートの条件だったんでしょ? それに、種島さんがデートを取り付けてくれたんだし……」

 

 申し訳なさそうに伊波ちゃんが言う。たしかに、わたしが来ることはかたなし君に言われたことだったけど、どうにか二人で行かせる方法もなかっただろうか? 何て、あれから思う事もあった。やっぱり、二人とわたしを含めた三人とじゃ、結構違うだろうし、伊波ちゃんはああ言ってるけど、多少無理にでも二人で行かせるべきだったんじゃないだろうかとも少し思う。

 ――そんなことを、考えていた時、丁度、向こうからかたなし君がやってくる。わたし達を見ると、少し焦って小走りで駆けて来ると、

「おはようございます、せんぱい! それと伊波さんも。ちょっと待たせてしまいましたか?」と言った。

「うんうん、わたし、15分前からここについてたし……」

 伊波ちゃんが言う。時計を確認すると、待ち合わせの時間の3分前だった。それからわたし達は、バス乗り場まで、一緒に歩く。バスが来るまではまだ10分以上ある。ここからそこまで5分もあれば着くので、話しながらゆっくり歩いた。

 

「海、楽しみだねー! 伊波ちゃん!」

「うん、そうだねー! わたし、昨日からわくわくして寝れなかったよー!」

「へー、伊波さんってやっぱり、子供っぽいんですね、俺より年上なのに」

「やっぱりって、何!? 小鳥遊君、わたしのこと子供っぽいって思ってたの!?」

「ええ、思ってましたよ。だって、伊波さんって歳の割に言動とかしぐさとか、子供っぽいじゃないですか」

「ガーーン! 種島さん、わたしは年下の男の子から子供っぽいって言われちゃったよ……ショックだよ……!」

「い、伊波ちゃん! そんな気にすることないよ! ……ホラ、かたなし君って、小さい子供とか好きなんだから……! 子供っぽいって思われてるってことは、好かれてるって事じゃないの?」

「えっ!?」伊波ちゃんが動揺して言う。

「はっ!? そっ! そんな、俺は無意識の間に伊波さんを褒めてしまっていたのか!? で、でも、せんぱい! 違いますよ! 『子供っぽい』と『子供』では、俺の中では雲泥の差があるんですから!」

 焦った様子でかたなし君が言った。

「で、でも、かたなし君、わたしのことは子供っぽいって思ってるんだよね?」

 わたしがかたなし君にそう聞くと、

「何言ってるんですか! せんぱいは『子供っぽい』じゃなく、『子供』なんです!!」

 力強い拳を握り締めてそう言った。

「ガーーン! 伊波ちゃん、わたしもショックだよ……」

 

 そうやって、三人で楽しく会話しながら、バスに乗り込む。

「ほら! かたなし君、伊波ちゃん! 後ろ空いてるよ?」

 わたしはそう言って、二人を後ろの席に誘導する。右端の窓際にかたなし君。真ん中にわたし。左に伊波ちゃんが座った。本当は伊波ちゃんはかたなし君の隣にしてあげたかったけど、さすがにそれをすると伊波ちゃんがかたなし君を殴るか、気絶するか、どちらにしても厄介なことになるだろう。

 実際、わたしを真ん中に置いたこの距離でも伊波ちゃんは、割といっぱいいっぱいのようだった。

 

 バスが走り出すと、車よりも高い位置から見下ろす光景になんだが、ワクワクした気分になった。いつもと同じわたしたちが住んでいる町なのに、こうして、バスに乗って、みんなと乗っているだけで見え方がまるで違った。休日でいつもより車通りが多いからだろうか。あるいは、この絶好の海日和と言えるほどの、晴天の空にあるのだろうか。『ブォーーン』『プシュー』と言った、普段聞きなれないバスの出すBGMに心を通わせているからだろうか。

 

「まったく、いい天気でよかったですねーー!」

 晴天の青空を見て、かたなし君が言う。

「うんうん! ほんと、絶好の海日和だよ!」

 窓側に身を乗り出してわたしが言った。

「ほんと、いい天気~~」

 伊波ちゃんも同じように思っているようだ。

「そう言えば、かたなし君、今日は家事とかしないで良かったの?」

 足をバタバタさせながらわたしが聞くと、

「ああ、そうですね、今日は天気が良いので、また、梅干してるんじゃないですかね、なずなが」

 と、かたなし君。

 なずなちゃん……梅干すんだ。

「あ、ねえ、種島さん。わたしね、今日クッキー作ってきたの? 良かったらどう?」

 そう、伊波ちゃんがゴソゴソとポーチからラッピングした可愛らしい袋を取り出しながら言った。「はいっ」と、袋をわたしに向けて差し出してくれる。

「ええー? これ、伊波ちゃんが作ったのーー? 凄い! 開けてみていーの?」

「うん、そんなに大げさなものじゃないけど……食べてみて、あっ、た、小鳥遊君も良かったら……」

 いつものように、赤面して伊波ちゃんが言うと、かたなし君は、

「あっ、俺もいいんですか? 丁度、小腹が空いていた所だったので助かります」

 と言って笑った。

 わたしは、クッキーを一つ手に取りそのままパクつくと、袋をかたなし君に渡す。

「お、おいしーい! まだ、温かいんだね!?」

 そのクッキーは、まだ温かくて、手作り独特の生っぽい素材の美味しさがあって、甘さ控えめなのに自然な甘みが引き立っていた。

「これは……プレーンクッキーなのに、やっぱり手作りだと、ここまで美味しくなるもんなんですね? 伊波さん凄いじゃないですか!」

 かたなし君にも高評価なようで、驚きなが言った。

「……そんな、クッキーって意外と簡単だから、そんなに凄くないよーー!」

「いや、それでもわざわざ作る人って案外少ないものなんですよ、その手間を惜しまないのが立派なんですよ」

「そ、そうかな……?」

 いつになく、褒めるかたなし君に伊波ちゃんは初めて見るくらいにのぼせていた。

 しっかり者が好きなかたなし君には、伊波ちゃんは性格の上では相性がいいのかもしれない。二人が素直になれば……案外、すんなり上手くいくような……そんな気がする。

 

 ――わたしは、二人の間を取り持つキーピットになれればいいなって、この時、本気で思っていたんだ……。

 

 

 

 ――なぜ、せんぱいは伊波さんを呼んだのだろう? そして、なぜ俺はせんぱいを呼んだのだろう? 俺はこれ以上にないほどの良い天気で晴れ渡る空を見ながらバスの重低音を聞いて思った。

 ただ、なんてことはない。その理由は分かっているのだ……大体は。ただ、俺は考えることを放棄しているだけ……。伊波さんの気持ちも、それを俺に気付かせようとするせんぱいの気持ちもなんとなく分かってしまっている。だけど、俺は気付かないふりを続けていた。実際に俺の勘違いかもしれないというのもあるし、なんというか、俺なんかで良いのか……とか、色々と理由をつけては、答えを示すのを避けているのだ。

 

 ふと、横に目をやると、せんぱいと伊波さんが楽しくお喋りを続けていた。女の子同士でしか分からない類の会話だった。俺は、一人、海までの到着時間ケータイを見たり、今回のデート(?)の計画を確認していた。

 今回の海の旅では、2時間ほどの時間をかけて、近隣の海水浴場までバスで向う。昼頃には着く予定なので、そこで、海に入って遊んで、遅い昼食として、外でバーベキューでもして、伊波さんの門限の6時までには帰れるように4時前の帰りのバスに乗って帰るのが今回の予定だ。バーベキューの道具は現地で借りて、食べるものは近くで買うことにしていた。

「…………」

 もう一度、二人を見ると、ついさっき程ではないものの、まだ二人で楽しくお喋りをしている。やはり、せんぱいを連れてきて良かった。俺一人では、こういう待ち時間とかに何を話して良いのか分からないものな……。俺は、姉3人と妹がいるおかげで、女性自体には別に免疫はあるけどもそれはやっぱり家族だからで、普通の女性(大半が年増の)にはやっぱり、何を話して良いのか分からない時がある。だから、せんぱいが伊波さんの話し相手になってくれるのは俺としてはとても助かっていた。

「……って、かたなし君! なに、一人でたそがれてるの!? せっかくなんだから一緒にお話しようよ!」

 そんなことを思っていた時、不意にせんぱいが俺に話しかけてくる。子供のようにぶー垂れるように俺を上目遣いで怒ってくるせいぱいは本気で可愛かった。……って、それはいいとして、せんぱいに気を使わせてしまったな。

「ああ、そうですね、でも俺も男ですし、たぶん、お二人の会話には参加できないと思いますけど……?」

「えーー? そんなことないよーー! だって、かたなし君の家族の話だよ!?」

「へ~~それなら、俺も参加……って! なんで、俺の家族の話をしてるんですか!」

 俺の隣でどうどうと俺の家族の話してたのかよっ。

「えっとねぇ~、梢さんが色々なこと教えてくれるとか~~」

「梢姉さんの話はやめてください」

 俺が言うと、

「えーー? じゃあ、誰が良いの?」

 せんぱいは困った表情でそう聞いていた。

「そうですね……じゃあ、一枝姉さんもだめだな……泉姉もアレだし……なずな……って、俺の家族って変人ばっかりだった!?」

 かろうじて許せるのが、なずなだが、それも違う意味で嫌だな。

「そんな、小鳥遊君の家、いい人ばっかりだったよーー?」

 と、小さい声で伊波さんが会話に参加する。

「そうだよ、なずなちゃんとか良い子だよねーー?」

 それに、便乗するようにせんぱいも言った。

「あ、いや、たしかになずなはそんなに変な奴じゃないですけど……俺の妹ですし……」

「まあまあ、かたなし君、結構、シスコンなんじゃないの? これはなずなちゃんルートのフラグだよ!!」

 せんぱいはたまに出るおばさんっぽい口調で言う。

「って、そんなわけないじゃないですか! なんですか! フラグって!」

「……あ、でも、なずなちゃん、この前、わたしに小鳥遊君のこと聞いてきたし……」

 伊波さんが言う。

「伊波さんまで! なに言ってるんですか……そりゃあ、なずなは妹だから大事にはしていますけど……」

「きゃー! めくるめく、妹との愛の逃避行! それはゆるされない禁断の愛だった!」

 伊波さんもノリノリで何言ってんだこの人は……。

「と、とにかく、なずなとは当たり前ですけど、そんなことはありませんよ、今後一切!」

「今後一切って……まるで、昔とか、ちょっと前まであったかのような言い方……きゃー!」

 ダメだ……この人、なんかスイッチ入っちゃってるよ、好きな恋愛小説の影響かなんかなんだろうか……?

 ――ていうか、俺も、伊波さんに言われたからって訳じゃないと思うけど、なんだか、本当に少し前までなずなと何かあった気が……? デジャブ!?

 

 ――まあ、そんな、くだらないけどその時は楽しい、そんな会話を三人で海水浴場に着くまでしていた。なんだか、せんぱいも伊波さんもいつものワグナリアにいる時とは違う一面が見えてなんだか、不思議な気分だった。

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