妄想わーきんぐ。ぽぷら   作:つば朗ベル。

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(20)  安らぎのとき

 晩御飯を食べ終えた俺達は、そのままホテルの部屋でくつろいでいた。綺麗な畳で、窓を開けると先ほど入った綺麗な海が一望できる風情のある部屋だ。

 部屋には、俺と相馬さんと佐藤さんの3人が居る。女性陣5名は、隣の部屋だ。それなりに良いホテルなので、壁が薄い――ということも無いと思うのだが、彼女らがわいわい騒いでいる様子は、こちら側でもはっきり分かった。

「……よくもまあ、女性陣はこんな何も無い部屋でこれだけ騒げますね……」

 皮肉めいたように俺が言うと、

「……まあ、女の子はおしゃべりだからね……多分、山田さん辺りが、部屋の扉という扉を開けまくってるんじゃないかな?」

 吹き出しながら相馬さんが言った。部屋に入ってから真っ先にタバコをふかし始めた佐藤さんも、「ハハッ」と、その光景を思い浮かべたのか、大きく笑う。それにつられて俺も笑った。

 

 ――ひとしきり笑うと、みんな黙った。もちろん、隣の部屋からは相変わらずドタバタと話し声が聞こえる。こちらの部屋から聞こえるのは、佐藤さんのタバコをふかす息の音だけだ。人数の違いがあると言え、どうしてこうも男女でこれだけ違うのだろう。家みたいに誰かが騒がしくしている訳ではなく、こうも男ばかりだと間が持たない。まあ、落ち着くという意味では最高なのだが、旅行として来ている今はどうなのだろうと思う。

「……あっ、これ……なんか、お茶入ってますね……お二人も飲みますか?」

 

 沈黙に耐えかねた俺は、テーブルに置いて合ったポットに目をやり、二人に言った。なぜだが、家に居る時のように世話を焼かないと落ち着かない。「ああ」とか「うん」と言う二人の声を受け、コップに冷えたお茶を注ぐ。

「……なんか、これ、花の香り……ですかね? ジャスミン茶ですかね?」

「ん、そうだけど、これはさんぴん茶じゃないかな?」

 一口飲んで、相馬さんが言った。

「さんぴん茶?」俺が相馬さんに向って言うと、

「沖縄の方ではジャスミン茶のことをさんぴん茶って言って、結構飲まれているらしいよ?」

「へぇ……さすが、相馬さん、物知りですね……」

「俺は……これは、あんまり好きじゃねぇな……」

 感心していると、佐藤さんがそう言ってお茶をテーブルに戻した。どうやらジャスミン茶はあまり好きではないらしい。まあ、俺も苦手ではないが、それほど好きではない。

「えと……そう言えば、今回の旅行ってこの後、どうするんですか? 俺、ほとんど予定聞いてないんですけど……」

 微妙すぎる雰囲気に耐えかねて俺が、相馬さんに話題を振った。

「ああ、今回はねぇ~、もうちょっと時間がたって暗くなった頃に、きもだめしでもしようと思ってね!」

「えっ……きもだめしって……どこで、ですか?」

 つい怪訝な顔をして言う俺。

「さっき、遊んでた海の右側の奥に大きな森があったでしょ?」

「え、まさか、あそこに入るとか言うんですか!?」

「うん、そう!」

 ――にへら……と、満々の笑顔で即答する相馬さん。

「おいおい、大丈夫かよ? 厄介事はごめんだぜ?」

 遠くで、相変わらずタバコを吸う佐藤さんが、天井を見ながら目だけこちらに向けて言った。

「大丈夫だよ~! 佐藤くん、ホラ、きもだめしと言えば! 男女が二人組でお互いに肩を寄せ合って、キャーって叫ぶ女の子に抱きつかれるものだよ!?」

 佐藤さんの方を向き、人差し指を立てて相馬さんが言う。

「……お前、まさか……どうにかして、お前の思い通りの組にする魂胆なんじゃ……?」

 佐藤さんの言ったことは俺と思った事と同じ――だった。

「えっ? そんなの不公平じゃない! くじだよ、くじ。……あーでも、佐藤くんがどうしても……って、言うなら、俺が裏で細工してもいいけど!」

 ――アハハハハハ……笑いながら、ハイテンションで言う。

「いいよ……そんなこと、しなくても」

 だが、佐藤さんはそう言って突き放す。

「え~? ほんとにいいの? 佐藤くん、だって、もし、種島さんなんかとペアになっちゃったらどうするの? 色々不味いんじゃない?」

 ――どういう意味だよっ!? 俺に気を使ってくれているのだろうか?

「……たしかに、それは悪い気もするなぁ」

「でしょ、でしょ?」

「いや……だが……」

「……ぶっちゃけ、佐藤くんは、轟さんと、一緒になりたくないの?」

「…………いや」

 下を向き、顔を隠しながら佐藤さんがポツリと口にした。

「じゃあ、決まりだね! 小鳥遊くんだって、種島さんとペアになりたいでしょ?」

 ――ここまで、ばれていたら隠す必要も無いか……。

「ええ、そうですね、お願いします」

「おおっ! ほらぁ、佐藤くん! こうやって、小鳥遊くんみたいに堂々としないと! 恥ずかしがらないでさぁ!」

「お……俺と小鳥遊じゃ、立場が違うだろうか! ……でも、まあ……たしかに、俺も、もっと積極的にならないといけないのかも知れないな……小鳥遊を見習って」

 ボソボソと、考え深い感じで佐藤さんが言った。

 ――俺の場合は、もう、行く所まで行っちゃっているからなぁ……。正直、せんぱいとこれからもずっと一緒に居るだろうし……少なくても俺はそうしたいと思っている。俺が心配なのは、せんぱいに飽きられるとか……そんなことだし……。

 

 ――しかし、なぜ、相馬さんは、わざわざこんなことを? そこまで、佐藤さんとチーフをくっつけたがっているのか……あるいは、何か、相馬さんにもメリットが……? なんだろう……俺とせんぱい――佐藤さんとチーフがペアになったとすると――?

 ……もしかして、自分も山田と、ペアになりたかった目的を悟られないように進めている――なんてな。そんなことあるわけないか……。

 

 

「ええ? きもだめし?」

 暗くなったら、きもだめしをする――という八千代さんの言葉に私が反応する。さらに八千代さんは「相馬くんに聞いたのよ」と付け加え、

「なんだかね? 相馬くんが今回の旅行のこと、色々決めてくれてね? ホテルやら飛行機から、行事やら……私、すごく助かっちゃった!」

 嬉しそうに、このホテルの一室を見回しながら言った。

「へ~、相馬さん、頼もしいですね~」

 相馬さん……何が、目的で? ……って、そんな風に考えるのは失礼だよね……!

 ――男女ペアで、きもだめし……か。でも、それだと、女の子が二人あまるじゃない! 多分、杏子さんと……ってことなのかな? いや、普通にくじとかで決めると、当然、杏子さんとペアの男の子なんかも出るかもしれないわけで――やっぱり、これは、相馬さんが、裏で根回しをしているとしか――。

「誰と、ペアになるか楽しみねぇ? 私は杏子さんとがいいわ!」

「えへへ、そうだね……」

 と、言ってみたものの、八千代さんが杏子さんと当たる可能性は低いんじゃ? ていうか、相馬さんが根回ししているとしたら、どういうペアにするつもりなんだろう――?

「ぽぷらちゃんは、やっぱり、小鳥遊くんがいいのよね?」

 八千代さんが言った。ちなみに、伊波ちゃんはさっき、葵ちゃんと一緒にお土産を見るため一階に行っている。

「え……あ……うん、そうかなぁ」

 自分でも歯切れの悪い返事だなぁと思った。でも、わたしはまだ、伊波ちゃんとの事が尾を引いていて、素直に今の状態に喜べない。わたしは伊波ちゃんとは、もう、前みたいに話すことは出来ないのだろうか――?

「どうしたの……? ぽぷらちゃん? なんだか、元気ないみたいよ? 小鳥遊くんと、上手く行ってないの?」

 わたしの陰気な様子を察したのか、八千代さんが不安げに聞いてくる。

「あっ! な、なんでもないよ?」

 即座に手を振って否定して見せたものの、

「いいのよ? 一人で背負い込まなくても、ほら、私に話してみて?」

 優しくそう言ってくれる八千代さんだったが、まだ私が渋っていると、

「……私じゃ、頼りないかしら?」

「えっ? そんな……そんなことないです」

 急にしゅんとした顔を見せるものだから、ついつい八千代さんに乗せられてしまった。

 

 ――でも、考えてみれば、八千代さんは前に小鳥遊くんがわたしのことを無視し出した時に、一緒に話せるように助けてくれたことがあった。言いづらい事だけど、少し話して見ても良いかも知れない……。

「えと、実は……かたなし君とは……その……上手く行ってるんだけど……そのせいで伊波ちゃんと……ちょっと」

 わたしが言うと八千代さんはびっくりしたように、

「えっ? でも、さっきだって、楽しそうに話していたじゃない?」

「……えと……そう見えた……?」

 目を合わせてわたしが聞くと、八千代さんは驚いたようにした後、考えた素振りをし、

「…………言われてみれば確かに、前までと比べて、多くは喋ってないわね……」

 と、事実を噛み締めるように語った。

「わたしは……前みたいに、伊波ちゃんと、仲良くしゃべりたい……友達だから……伊波ちゃんはそう思ってないかもしれないけど……わたしは今でも友達だと思ってるから……」

 俯いて、心に秘めていた想いを口にする。それに対し八千代さんは、

「そう……。じゃあ、私が、二人を仲直りさせてあげる! 前も、小鳥遊くんと仲直りさせて上げたみたいに!」

 手をパン、と叩いて笑顔を見せてそう言う。ぽわぽわして可愛いなぁ……八千代さんは。

「でも、八千代さんにばかり、悪いよ……」

「こ~ら! なにを言ってるの? ぽぷらちゃん? 私たちお友達なんだから、困っている時は助けるのが当たり前でしょう? そこに利害関係なんてないの、私ばかりが助けることになってもなんにも問題なんてないのよ?」

 

 細い目で、にこにこ――八千代さんって……ごめんなさい、あんまり何も考えてないように思ってたけど……凄く――優しい人なんだな……佐藤さんが好きなのも、なんだか、分かる気がするよ…………。

 

 

 

「え~、それじゃあ、外も暗くなってきた所ですし――」

 午後9時過ぎ――。相馬さんが、俺を含むメンバー全員の前で、『きもだめし』の説明をする。その説明によると、今、相馬さんが持っている箱に入っているくじを引き、男女でペアになって、用意された地図を片手にチェックポイントである大木に、それぞれ色分けされたひもを括り付け、帰ってくるということだった。男は相馬さんの持っている箱。女性陣は隣の山田の持っている箱を引くそうだ。

 ――辺りは既に薄暗くなっており、森林からは、サルやトリ……あるいは正体不明の動物の声が木霊している。ていうか、大丈夫なのか!? これ……。

「相馬さん! 本当に危険はないんですか?」

「え? 大丈夫だよ、事前にルートを見てきたから。普通に地図通りに辿って行けば、往復15分もかからない距離だよ」

「でも、動物とかは?」

「大丈夫だって! 調べてみたら、この森には獰猛な動物はいないみたいだから。もし、遭遇してもあっちの方から逃げてくよ。それに危なかったらこっちが逃げればいい。ルートはほとんど真っ直ぐだから」

 覚えてきたことのように、スラスラと相馬さんは語る。相馬さんの言っていることが本当なら、まあ、それほど危険はないようだが……?

「小鳥遊さ~ん、どうしたんですか? もしかして、怖いんですか~??」

 山田が、にやついた表情で見え透いた挑発をしてくる。そんな挑発に乗るなんて事は当然しないが、これ以上言ったら、ビビッてしまっているように見えてしまうのは事実だろう。おそらく同じペアになるせんぱいのためにも、あまり俺がビビッている様子を見せるのは得策ではない。

「それじゃあ、ペア決めるよ~、くじ引いても全員が引き終わるまで見ないでよ~」

 相馬さんがそう言ったのを皮切りに、女性陣は山田の方へ、俺達は相馬さんの方に行く。

「はい、小鳥遊くん、引いちゃって?」

 相馬さんの前に立つと、相馬さんは先と変わらぬ調子でそう言う。

「……相馬さん……例の……細工、の方は問題ないんですか……?」

 たかだか遊びの行事でも、こう不正をするというのは、心中穏やかではない。女性陣の方をチラリと確認してから、口元が読まれないように手で隠しながら俺が言った。

「だいじょうぶだよ~、中に一つしかないから引けばいいよ~」

 ……なんだか、味方にすると頼もしい――いや、実は俺の気付いていない所で踊らされているのか? ――ような、分からないような、とにかくこの人は敵にしたくない以上にある意味、味方にしたくない存在だ。俺は言われた通り、箱に一つしか入っていない事を確認し、そのくじを取り出した。――本当にこれで問題ないんですか? ――そう、聞こうとしたが、くじを手にした俺を見る相馬さんは満面の笑みを浮かべており、それが、心からの物だろうと、偽善の物だろうと、どちらにしても俺は何も言えずに、持ち場に戻った。

 

 続いて、佐藤さんが相馬さんの元へ向う。佐藤さんがくじを引く最中、聞き取れないが、何か話している。おそらく俺と同じことだろう。相馬さんが相変わらずの笑顔で何か言うと、佐藤さんは恥ずかしそうに顔をしかめた。あの、様子を見ると佐藤さんの引いたくじは、八千代さんとペアのもの……つまり、俺のくじも……?

 

 女性陣の方に目を向けると、キャッキャ言いながら、盛り上がっている。よくよく考えてみると、山田の方も細工していないといけないという事になるが、あの山田に任せて大丈夫なのだろうか? 

「小鳥遊くん! ちょっと!」

 山田に対し不安を募らせていた時、相馬さんから声がかかった。

 

 行くと、簡単な荷物の入ったポーチを渡される。中を見ると懐中電灯と発煙筒とが入っていた。リレーのバトンのような物だ。一応非常時に全員に配っている――との事だ。これを見て、万が一の時のために用意がいい――と、取るか、思った以上に危険――と、取るか……まあ、前者だと思っておこう。あまりネガティブな発言をして今回の行事――旅行そのものを台無しにしてしまっては、ここまで用意してくれた相馬さんにも悪いだろう。

「じゃあ、全員にくじが渡った所で、運命のペア決定の瞬間を見てみよう!」

 相馬さんが言う。俺だったら恥ずかしくてとても口に出せない台詞だ。それはそれとして、早速くじを開いてみると……子馬――と、そこには書かれていた。……おそらく、これは種島せんぱいのことを言っているのだろう。せんぱいはポニーテールだから。それに気付いた時、不覚にもちょっと笑ってしまう。

 

 女性側の方ではせんぱいが「ウマウマ」と叫んでいる。いつからせんぱいはネットばかりするようになったのか、いや、違うか。とりあえず、俺はせんぱいとペアであることが確定したようであり良かった。

 佐藤さんの方を見てみる。チーフとペアだろうという事はおそらく間違えないが、なんて書いているのかが気になった。

「佐藤さんどうでした?」

 言いながら、ひょいと、佐藤さんの紙を盗み見るとそこには――黄色、と書いてあった。

 ――動物じゃないのかよ!? 統一性なしかよ!!

 いや……しかし、たしかに二人の共通点という意味では、的確かもしれない――。

 

 ……!? 待てよ。ということは、俺のこの小馬というのも、俺にも当てはまる事――ということなのか……? 子馬……子馬……ハッツ! まさか、俺が既にせんぱいに馬乗りになった事がばれていて――? って、下ネタじゃないか!! 梢姉さんか! 俺は! ……いや、梢姉さんのせいにするのは良くないな……ゴメン、梢姉さん。他の共通点だ! ……えーと……ハッツ! まさか、俺のアレが子馬だと言う――だから、下ネタだべやーー!! 落ち着け……宗太。なまら、落ち着け宗太。あっ、興奮しすぎて北海道弁でちゃった。

 そんな、傍目からは一人百面相でもしているかのような動きをしていた時、

「……おい」

 ポンと肩を叩かれ、前を見ると不思議そうな顔で俺を見る佐藤さんが居た。

「お前、顔色悪いぞ……? 大丈夫か?」

 珍しく心配してくれる佐藤さんに、

「ア、ハイ、ダイジョブデス」

 

 ――手を挙げて、片言でそう返すので精一杯だった。

 

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