妄想わーきんぐ。ぽぷら   作:つば朗ベル。

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(7)  無意識の求愛

 ――せんぱいが、今、家の風呂に入っている……。家族ではない人が家の風呂に入っている。そんないつもと違う光景に、なんだか落ち着かない気持ちになった。

 俺は、せんぱいが風呂に入っている間、普段は見ないテレビ番組なんかを見て待っていたが、その内容はほとんど頭には入ってこなかった。

 そうして、しばらく時間が過ぎた頃、

「かたなしく~ん!! ちょっと~~!!」

 脱衣所の方から、俺を呼ぶせんぱいの声が聞こえた。俺はなんだろうと、脱衣所に向って行った。

 そこには、ちょこん、と、顔だけ脱衣所だけ出して、俺を「はやく、はやく!」と呼ぶ、可愛らしいせんぱいの姿があった。俺はそんなせんぱいを見て、思わず尻込みしてしまう。

 

 そりゃあ、そうである。いくら、少しは冷静にせんぱいと接することが出来るとは言え、こんな、湯上りで火照り、紅く染まった頬と、しっとりと濡れた髪を見せられると、ただでさえ、せんぱいを意識しまくっている俺にとっては、ノックアウト寸前である。

「あっ! かたなしくん! 悪いんだけど……替えの下着、貸してもらえるかな……? ホラ! さっきの雨で、下着まで濡れちゃって……」

 し、下着だと!? ……なんで、びっくりしている場合ではない。そうか、そう言えば、さっき中も濡れたって言ってたか……。しかし、それを想像すると何か、邪な気持ちを抱いてしまう。これだから男ってやつは――。

 

 しかし、なんで俺に言うのだろう? わざわざ男の俺に言うより……なずな……は、もう寝てるか。梢姉さん……を直に呼ぶほど、仲良しでもない……か。

「とりあえず、探してきます!」

 そう言って、その場をまず離れた。身長のことを考えたら、なずなのが良いか――とも、一瞬思ったが、下着のサイズはたぶん、身長はあまり関係ないだろう。

 それよりも……やはり、せんぱいのブ、ブラジャーのサイズを考えると、なずなじゃ無理だろう。ていうか、なずなって、ブラ着けてるのか……? いや、やめておこうこんなことを考えるのは。

 

 ――俺は、洗濯した下着を乾している物干しから、梢姉さんのだと思われる下着を乾いている事を確認してから取った。アイロンがけをしていないやつだけども、そこは勘弁して欲しい。梢姉さんに貸してもらうように直にお願いするもの、正当な理由があるとはいえ、なんとなくしたくはなかった。さらに、まだ部屋に持って行ってなかった、なずなのパジャマも一緒に持っていく。

 

 そして、浴室に戻り、それをせんぱいに渡した時の事だった。「ありがとー!」と言って、焦って取ろうとしたせんぱいが、取りそこなってブラジャーを床に落としたのである。それだけならまだ良かったが、俺が慌ててそれを拾おうとした時、せんぱいがそのまま、ひょいと、浴室を出てきてしまったのだ。

「えっ! せんぱいっ!」

 せんぱいの姿を見た途端、思わず声が出る俺。

 出てきたせんぱいは、全裸――ということはもちろん無く、バスタオルを巻いていたのだが、問題はその巻いていたバスタオルにあった。

 巻いていたバスタオルは、脱衣カゴの奥に入れておいたはずの俺専用の青いバスタオル……来客用にと、上にバスタオルを載せておいたのにも関わらず、なぜ、俺のバスタオルを巻いているのだろう? 俺は不思議に思い、固まってしまった。

「よっと!」

 せんぱいはそう、言って落ちたブラジャーを手に取り、俺の手からショーツとパジャマも取った。

「あの……せんぱい……?」

「んーー?」

「どうして、そのバスタオル巻いてるんですか……? 上に新しいバスタオル用意しておいたんですが……?」

「ああ、分かったけど、なんか新しいやつみたいだったから、使うの気が引けちゃって……それに、このバスタオルね? なんでかな? なんか、嗅ぎなれたような……良い匂いするんだよね……なんの香りか分かんないけど……」

 せんぱいはそう言って、自分の胸に巻いたタオルで鼻を覆って匂いを嗅いだ。

 

 ――それって、せんぱい。だって、そのタオルの匂いって……普通に考えて……それは……。

 せんぱいのそんな言葉にもだったが、視覚的にもやばかった。バスタオル……それを、胸から下に巻かれたその光景は、まさにテレビなんかで見るような温泉に入る美女のそれ。あどけない表情で、肩からは白く綺麗な肌を露出している。それも、普通の白いバスタオルではなく、俺のいつも使っている青いバスタオルである。今、せんぱいの直の肌に、俺のタオルが触れている――!!

 また、そんな、せんぱいの姿を見て俺は先日のプールでの事が、脳裏に浮かんだ。それと共に……あの時の、せんぱいへの気持ちの変化も、だ。

 可愛い……せんぱい、可愛い……ああ、抱きしめたい!! 本当に抱きしめたいっ!!

「あっ……えへへ、ごめんね、こんな格好で! き、着替えるねっ!?」

 そんな、理性が崩壊しそうな俺を横目にせんぱいは、下着とパジャマを持ち浴室に消えていった。

 

 ――後には、俺のバスタオルに染み付いた自分の体臭と、せんぱいの、子供のような甘い匂いが混ざったような、独特の香りが、かすかにそこに残った。

 

 

 

 かたなし君には迷惑かけちゃったな……。

 バスタオルで体を拭き、貸してもらった下着を身に着けながら思った。それにしても、この下着、サイズが大体、丁度だ。フロントホックだから、着けやすくて楽だし……! ……誰のだろう? ……あの、よくうちのお店に来る酒飲みのお姉さんかな?

 ――そんなことを考えつつ、下着と共に受け取った服を広げる。

 うわっ、これ、パジャマだよ! いや、元々泊まる気だったから良いんだけど……、えーっと、あ、名前書いてある……?

 そこには、「なずな」と、ズボンの裏地に書いてあった。

 えっ? ということは、この下着もなずなちゃんの……じゃ、ないよね? ……実は、なずなちゃんは着やせするタイプで、胸も、わたしと同じくらいとか……!? いやいや! そんなまさかっ! もし、そうだったら、総合的にもわたしの方がちっちゃいってことに…………ハッ! ちっちゃくないよ!!

 

 

 頭の中で、そんな一人芝居をしつつ、わたしは浴室を出た。そこには誰も居なかったので、何処に行けばいいのかなと、その辺りをウロウロと歩いていた。すると、二階から、階段を下る足音が聞こえてくるので、わたしは少し、身を構えた。

「あれっ……? たねしまさん? どうしたんですかー?」

 降りてきたのは、可愛いパジャマに身を包んだ、なずなちゃんだった。トイレに来たのか、眠そうな目をしている。

「えーっと、あっ! かたなし君どこか、わかる?」

「え? あ、ああ、兄ですか? えっと、お兄ちゃん自分の部屋にいると思いますよ」

 眠い目を擦って、思い出したようになずなちゃんが言った。

「あ、ありがと! なずなちゃん」

 早速、かたなし君の部屋に行こうとした時、

「あっ! わたしのパジャマ着てるーー」

 なずなちゃんは、わたしの服を見て、ふいに言った。

「あっ、これ? えっと、かたなし君に渡されて……!」

「えへへ、今、なずなが着てるのと柄違いだ!」

 嬉しそうにわたしのパジャマを触って言う。

 なんだか、自分より、大きく年下の子の服を自分が着ているということに、色んな恥ずかしさを感じた。雨で服が濡れてしまって、やむを得ない理由があってもそれとは別に、気になることだった。

「あっ! そういえば、さっき、間違ってお客さん用のバスタオルじゃなくて、お兄ちゃんのバスタオル出しちゃって! ゴメンなさい!」

 急に、忘れていたことのように、なずなちゃんが言った。

「えっ? それって、あの青いバスタオルのこと?」

「ええ、そうですっ」

 それを聞いて、わたしはさっきのかたなし君とのやり取りを思い出し、急に恥ずかしさがこみ上げてきた。

 

 うわっ! あのバスタオル、かたなし君のだったんだ――!? えっ、わたしあのバスタオルわざわざ体に巻いて、かたなし君の前に――!? そっか……だから、あの時、かたなし君、ちょっとびっくりしたような顔してたんだ……。なんか、新品っぽいバスタオルは使うのに気が引けたし……。ちょっと他のないかなと思って、カゴに下を見たら、最初になずなちゃんに渡された青いタオルがあったから……。

 

 ……えーっと? かたなし君になんて言っちゃったんだっけ!? 『良い匂いがする~』……だっけ? うわぁ~ん!! なに言ってんだよぉ~! わたしぃ! あの匂いって、かたなし君の匂いってことじゃないの~!! 

「……どうしたんですか? なんだか、凄い赤い顔して……?」

「はっ!? たっ、たっ! あ、や! な! なんでもないよ!?」

 すんごい、テンパッてる状態でわたしが言った。

 

 ――なんか、ちょっと、知っているような、ホッとするような、そんな良い匂いだったんだよね……。ああ、分かった……あれって、そうだよ、子供の頃、お父さんとじゃれ付いてた時の匂いにちょっと似てる……。最近はお父さんとそんなことはしないけど……そっかぁ……あれが……かたなし君の……匂い……なのか……。

「なんだか、よくわかんないけど……最近お兄ちゃんも様子が変だし……もしかして、たねしまさん、お兄ちゃんの事、好きになっちゃったんですか?」

 かしげた首と上目遣いでチラッと見やる、なずなちゃんがとんでもないことを聞いていた。

「ええぇーー!! な、なんで、そんな! わ、わたしが、かっ、かたなし君……そんな、ないって! そんなわけないよぉ!!」

 そんな、軽い問いかけにも焦ってしまうわたし。

「……えっ? てきとうに言っただけだったけど……っ」

 なずなちゃんは驚いたように、そう言った後、

「聞いちゃいけないことだったかな……」

 フフッと、笑顔を浮かべながら聞き取れない位の声量でポツリと言った。

 ちょっと、カマをかけられただけなのに、自分でも驚く位に、顔が火照っていた。これじゃあ、かたなし君のことを意識しているのが、自分にも隠せない……。

 でも、違う。そんなんじゃない。かたなし君のことは……気に入っているだけ――なのかな? 自分でもわかんない……。

 

 ……だけど、前に伊波ちゃんに言われた時より……何でだろう? 焦ってしまったわたしが居る――。

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