おじさん、今年で36歳になるんだけれども   作:ジャーマンポテトin納豆

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主人公、ブリュンヒルデ一家と親交があるとかいってるけど家族やんけ。


なんで35にもなって高校生やんなきゃいけないのか分かりません。

 

 

 

 

ホテル生活ってもんは意外と楽だったんだなと思っているこの頃。

なんでかって?ホテルから引きずり出され高校に行かなくてはならないからだ。

 

絶望の嵐でしかないけどまぁしょうがない。こうなったら諦めることしか出来ないがオジサンの胃は限界を早くも迎えそう。

朝いきなり来た千冬にたたき起こされ連行され車に放り込まれ向かうはIS学園。名前だけだったら、いや名前だけでも物騒だけども。そこは世の男共とマスコミが入りたくて入りたくてしょうがない楽園、らしい。

 

いやいやちょっと冷静に考えてみれば分かるだろうけどこの世の中風潮だぞ?女尊男卑なるわけわかめな思想が蔓延り挙句の果てにISは女にしか使えないとかいう事で選民思想にとらわれたアホ共の巣窟と化しているだろうから俺からしたら間違いなく世界で1番危険な場所に違いない。因みに2番目は怒っている千冬の隣。怒ってる原因は俺だからだけど。

まぁ、一夏と千冬が居るからマシっちゃマシか。

 

そんなあほな事を考えていれば見えて来たのは馬鹿でかい橋。片側5車線ってなに?アメリカのハイウェイかよ。まぁ搬入機材とかを考えればそうなるんだろうけどもいくらなんでも金をかけすぎじゃね?それに加えてモノレールまであるんだからよく分からん。

 

これが俺達の税金で賄われていると。しかも他の国は支援すらせずに高みの見物と来たもんだ。…………納税者としては虫唾が走る。

ま、それのお陰か分からんが他国は下手にIS学園に介入出来ないんだろうよ。金払ってねぇくせに、ってな感じでな。

全く世の中嫌なもんばかりだな。

 

そうじゃなくて。橋を渡り切った先にはこれまた無駄に豪華な校舎を含めた敷地が出て来る。いや、俺こんなところで生活すんの?……おうち帰りたい。

 

 

 

 

どうやら今日は入学式らしい。

なんで?普通教えてくれるもんでしょ?と千冬を見たら、

 

「しょうがないじゃないですか。色々と佐々木さん関連の事で奔走していたら何時の間にか今日になっていたんですから。連絡を怠った私達が悪いんですけど」

 

確かに俺のせいで迷惑かけてることは確かだから何も言えん。

でも社会人は報・連・相だぜ?

 

「迷惑かけてるからな。それは気にしない。つかこの時間で入学式間に合う?どう見ても遅刻確定な時間なんだけど」

 

現在時8時半!明らかにやべぇですな!初日から遅刻とはいい度胸をしてるぜ俺。

 

「あぁ、大丈夫ですよ。入学式には参加しませんし。制服と教科書の受領を行ったりと他にやることは沢山ありますから」

 

「そうかい。それよりもさぁ」

 

「なんです?」

 

「その敬語止めない?どうしちゃったの千冬ってば。変なもんでも食った?」

 

千冬に敬語使われるとか心が耐えられない。かわいいかわいい妹分が久々に会ったら敬語とか兄貴としてはボコボコな訳ですよ。

 

「ぶっ飛ばしますよ?それに好きで敬語を使っているんじゃありません。家族とは言え学校に入れば立場としては私の方が上ですが年齢で見れば佐々木さんの方が上です。おいそれといつもの様に、とはいかないんです。本当は敬語も使わない方がいいんですがそれは嫌なので」

 

「だろうと思ったよ。あのな、千冬は考えが硬すぎるんだっての。考えてみ?一夏はお構いなしに突っ込んでくるだろうよ。物理的に」

 

一夏はな、もう身体全体で飛び込んで来るから若いうちはどんとこいだったんだけど30過ぎてからは結構大変なんだなこれが。

 

「それは、そうですけど……」

 

そう言って説得すると言い澱む。

こりゃあと一押しすれば行けますね。千冬はちょろい。

 

「だから千冬も家にいる時みたいでいいんだぜ?あ、一時期呼んでたお兄ちゃんって呼んでもぶふっ!!」

 

「次余計なことを考えたり言ったりしたら本気で行きますよ?兄さん」

 

なんで考えることがわかるし。束もだけど俺の周りはニュータイプが多くて困っちゃう。

 

「すんません。それと敬語もやめて。悲しくて泣いちゃう」

 

「そんな弱いとは思わない」

 

「いや、こう見えて豆腐メンタルよ?それに家族にいきなりそんな事されたら誰だってダメージデカいって。授業中とかも敬語禁止な」

 

そんな話をしながら制服を受け取り、教科書を受け取り着替えて教室に向かう。

途中鏡があったから試しに自分の姿を見てみたが、精神衛生上見るんじゃなかったと思いっきり後悔したことを此処に記しておく。

だっておっさんが高校生のカッコしてるって事実だけで結構ダメージあるのに鏡なんか見ちゃったらもうね。崩れ落ちたよ。千冬は似合ってるとかかっこいいとか言ってくれたけど。

 

二人で教室に向かうが廊下は静か。そりゃ今は授業中だから静かだな。

しっかし内装も高校生が授業するとは思えんな。金銭感覚麻痺るぞこれ。

おじさん貯金ないのに困ったもんだね。

 

「それじゃここで待っていて。呼んだら入って来るように」

 

「あいよ」

 

そう言って教室に入って行く千冬。

はー、あいつのスーツ姿初めて見たが中々様になってんじゃないの。俺よりも似合っているな!俺のスーツはヨレヨレだし。10年間の苦楽を共にした相棒よ、忘れないぜ……

 

『『『『『『『『きゃぁぁぁぁぁ!!!!!』』』』』』』』』

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!???」

 

よく分からん妄想に耽っているといきなりの大絶叫。

思わず叫んじまったぜ。つーか人の声で此処まで空気揺れるって。ビリビリしてた。ピカ〇ュウかな?

 

『えぇい!うるさいぞお前達!』

 

『そんな!怒られてしまった!でもそれもいい!』

 

『怒った千冬様のお顔も素敵!』

 

『踏んで!そして罵って!でも偶には褒めて欲しい!』

 

教室からはよく分からん問答が聞こえて来る。うちの妹って大人気なんだね。まぁブリュンヒルデだから仕方ないか。

中には不穏な発言してる輩もいるけど。でも女子高生半端ねぇな。生命力持ってかれそう。胃薬買わなきゃ(使命感)

 

『あ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!話が進まん!少し静かにしろ!』

 

千冬が頭抱えてるのがよく分かるぞ。(愉悦)

ま、苦労が多そうな仕事だししょうがないのだろうが。教師なんてやるもんじゃないな。

 

『いいか!?私が静かにしろと言ったら静かにしろ!こんなこと毎回やっていたら何も進まん!分かったか!?』

 

『『『『『『『はいっ!!』』』』』』

 

鼻息あーらげふがふがって所か。

あんまし怒ってばっかいると小じわが増えるぞ千冬。

 

そして10秒程するとドアが開いた。

何だこのドア。プシュッて言いながら開いたぞ!?手動じゃないのか!?

 

「兄さん、入ってください」

 

「あいよ」

 

顔を出した千冬に呼ばれ中に入れば、視線と言う名のビームが集中砲火。

ははっ。身体と胃に穴開きそう。

 

「諸君、彼が世界で唯一ISを動かす事が出来る男性の佐々木洋介さんだ。自己紹介を」

 

「えー、佐々木洋介35歳。今年で36歳。なんでかIS動かしちゃってここに生徒としてぶち込まれました。歳は離れていますがどうぞよろしく。質問があればどうぞ」

 

当たり障りのない自己紹介をしてこれ以上考えるのが面倒だから質問形式にしました。だって何しゃべりゃいいのか分からんし。

 

「はーい」

 

「はいそこの萌え袖」

 

「布仏本音でーす。さっき織斑先生が兄さんって言ってましたけどどういう事ですかー?」

 

手を上げてきたのは萌え袖こと布仏本音ちゃん。

ちっこいがおっぱいはデカそうだな!この束や千冬で鍛えられた目に狂いはないッ!

 

「いい質問だね君。さっき兄さんて言っていたのは……千冬、説明頼む」

 

語彙力皆無の私説明なんてできません。決して面倒だからとかじゃないですはい。

 

「なんでここまで来て私に丸投げする?ん?」

 

「いや、本人からの説明の方がいいかなーと」

 

「はぁ……教えん。個人情報だからな。」

 

「はーい」

 

教えないと言うと素直に引き下がる布仏。

 

「よし、個人情報関連じゃなけりゃなんでも答えるぞ。ばっちこい」

 

こっからは質問の嵐だった。

一部を紹介するとこんな感じ。

 

「彼女はいますかー?」

 

「いませーん。ハイ次」

 

「此処に来る前は何していたんですか?」

 

「普通にサラリーマンでーす。ハイ次」

 

「特技は何ですか?」

 

「ちょっとばかり武術が出来まーす」

 

 

とまぁこんな感じだったんだけど千冬に長引きそうだから後で個人で行けって言われてお開き。

しょうがないっちゃしょうがないんだけど。なんせ入学式初日から授業があるもんだからそんなのんびりしてられないって事だろうけどさ、なんで入学式の日まで授業ぶっこんで来るかな?俺の学校は入学式だけでそれが終わったらあとは帰って終わりだったぞ。偏差値70越えは伊達じゃないって事か。

 

そこそこ程度の脳みそしか持たない俺じゃ此処の授業について行けるか怪しいぜ全く。このままじゃ留年しちまうかもなぁ……それだけはダメだ。

とか言ってる場合じゃない。早速授業が始まるから死ぬかと思ったがISの条約やらそう言う関連の授業が殆どを占めていてそこに午後の授業を使って一般教養をやるらしい。これなら何とかなりそう。

IS方面は束との付き合いで結構出来るのだ。どっちかってーと暗記系だからな。機能やらなんやらの名前だし。

 

 

 

とか思っていた時期が俺にもありました。(結局何とかなりました)

 

 

 

 

 

授業を受け持つのは千冬と副担任の人らしいんだが、あの副担任どう見ても中学生ぐらいにしか見えねぇんだけど。頑張って背伸びしてる感半端ないったらありゃしない。

胸だけはワールドクラスだけど。あれ、束よりも大きいんじゃね?

世界は広かったんだな。

 

その副担任、山田真耶と言うらしくワタワタオドオドしている。教師としての威厳どころか成人しているかすら怪しいもんだが、これがまた優秀だった。教え方は上手いし生徒への気配りも出来ている。主に俺だけど。他人からすればIS素人な俺。そんなおっさんを心配してくれるとは何ともいい子だ。

 

「佐々木さん、此処までで分からない所とかありますか?」

 

「今のところは問題無しです」

 

「そうですか。分からない事があったらどんどん聞いてくださいね!」

 

「へーい」

 

と言った感じ。

しっかし授業は楽しいが視線が凄いね。真ん中あたりに俺の席があるんだけど後ろからは背中と後頭部に視線が突き刺さってる。真横はチラチラと見て来るし、前の席のお嬢様方は隙あらば見て来るから気が休まらない。

 

おじさんこの年になってモテてもなぁ……

しかも女子高生とか犯罪やんけ。手錠待ったなしからの実験解剖コースまっしぐらだけは勘弁してほしい。

 

 

 

「ぐおぉぉぉ……」

 

授業が終わり声を上げながら背伸びをするとあちこちからボキボキと音が鳴る。

年を取ったもんだな。四捨五入すれば40か……

 

なんて打ちひしがれてると声を掛けられる。否、何かが飛んできた。

 

「お兄ちゃん!」

 

「グゲッ!?」

 

こんなことをするのは2人しかいない。しかもそのうちの一人は此処にいないという事を考えると必然的に1人になって来る。それは……

 

「だから飛びつくの止めろって言ってんだろ!一夏!」

 

「んふ~。ごめんなさーい」

 

謝って来るがその顔は嬉しそうに笑っているだけで謝罪でもなんでもないだろこいつ。いっくら言っても辞めないもんだから不意打ちでかまされると結構しんどいのだ。

 

「もう俺年なんだから勘弁してくれ。死んじまう」

 

「えー?そんな事無いと思うけどなぁ。お兄ちゃんはまだぴちぴちだよ?」

 

「中身はそうじゃねぇの。あとぴちぴちとか言うな」

 

俺がぴちぴちとか気持ち悪いわ。どう考えたってカサカサかギトギトの間違いだろうに。俺はそうじゃないけど。……そうじゃないよね?だよねっ!?

 

「でも心配したんだよ?いきなり電話かかってきてお兄ちゃんがIS動かしましたなんて言われて」

 

「そりゃ悪かったな」

 

「ほんとだよ。しかも連絡取れないし何処にいるかも分からないし家にはマスコミとか新聞記者とかよく分からない研究者とか来るし」

 

「だから悪かったって。許してくれ」

 

「えー。どうしよっかなー」

 

こいつ、何かねだってやがるな……

くそぅ、俺が強く出れないからってこいつ……

 

「あぁわーったわーった。今度どっか連れてってやるから」

 

「ホント!?絶対だよ!?約束だよ!?」

 

「あーはいはい。おじさん約束破ったことなんか一度もありませーん」

 

一夏は何故だかものすっごく俺になついている。そりゃもうこれでもかっていうぐらいに。いや嬉しいんだけども。もうちっと俺の気持ち考えて欲しい。

そして当の本人は俺に抱き付いたまま鼻歌を歌っている。そろそろ頭の上からそのでっかいお胸をどかしてもらえませんかね?

 

いや、べつに嫌じゃないんだよ?オジサン男だし。でもさぁ、こんな周囲の目がある中でそれをやられると視線が痛いわけだ。幸いにも此処は女子高。俺が居るから一応共学になんのかな?色恋沙汰には目が無い嬢ちゃんたちばっかりだから好奇心の視線ばっかりだから心配することはないだろうけど、中にはそうでない奴もいるわけだ。

 

「ほれ、そろそろどいてくれ。首が取れちまう」

 

「えー」

 

「えー、じゃねぇっての。ほらどいたどいた」

 

「もうちょっとだけだから」

 

「だめです」

 

そう言って説得するとしぶしぶどいてくれた。

全く。ちっとは自分をよく見た方がいいぞ?中身も外も完璧なんだから俺なんかに構ってねぇで彼氏作ったらどうなんだ?それはそれで俺が納得いかんけど。

もし千冬と一夏が結婚するとか言ったら取り敢えず相手を一発ぶん殴るかもしれん。というか殴らせろ。

それでも何故だか膝の上に座ってくるあたりよく分からん。いいとは言ってないんだが。まぁこの段階じゃ何を言っても無駄な足掻きにしかならんから諦めた。

 

すると傍に誰かが近付いてくる気配。

そっちを見れば黒髪ロングポニテ巨乳美少女と、なんともまぁ属性てんこ盛りのような気がしなくもない女子が。

誰だあれ?知り合いに居たっけか?しかも女子高生に。……うん、居ねぇな。俺犯罪者じゃないもん。

 

と言いつつも不安になるおじさん。

 

そして俺の前にやって来ると言った。

 

「洋介兄さん、久しぶりです」

 

んん?誰だこの子?マジで覚えが無いんだけど?俺は記憶の無いうちに女子高生に手を出した変態だったのか?

つーか俺の事洋介兄さんって呼んだ?そんな呼び方すんのは一人しか知らんぞ?

……………………ハハッ。まっさかぁ。

 

「………………箒、であってます?」

 

「ッ!はいっ!」

 

名前を呼ぶと心の底から嬉しそうに、そりゃもう満面の笑みで答えた。

いや、誰やねん。こんなん俺の知ってる箒ちゃうぞ。

 

 

 

 

ちょっとばかしの思考停止はあったもののおじさん復活しました。

といっても授業が始まりそうだったからいったん解散になっただけなんだけども。

はー、機体維持警告域とか救命領域対応とか束に説明されたことが無かったらぜってぇ分かんなかっただろうね。後でお礼しなきゃ。

 

因みに山田先生はついさっきなんも無い所でずっこけてました。

おっぱいの揺れ方が超次元だった。俺の目に録画機能があれば……!クソッ!

 

んなこと考えながら授業を受けていると終わっちまった。

しょうがねぇ。男は煩悩の塊なんだよ。むしろあれほどの物を見せつけられてどうにかならない方がおかしい。

 

 

 

 

と、再び休み時間。話しかけて来るのは一夏と箒?ぐらいなもんだ。

そりゃこんなおっさんに話しかけたいなんて物好きな女子高生なんて普通居ないって。

……自分で言ってて悲しくなって来たぜ。

 

「洋介兄さん、改めましてお久しぶりです」

 

「おう。で、本当に箒なのか?」

 

「むしろ私以外に誰が洋介兄さんと呼ぶんですか」

 

「いやだってよ、全く別人だぜ?髪は伸びてるし、背も伸びてるし。あと胸がスッゴイデカくなった」

 

「胸は余計です。でもそれは成長しますよ。最後に会ったのが小学4年生ですから」

 

「そりゃそうか。にしてもホントに立派になったなぁ……色々と」

 

「胸とかしか見てないくせに何が色々ですか。視線が丸わかりです。取り敢えず太ももから目線を私の顔に持って来てください」

 

しょうがないじゃない。手は出さないけど見るぐらいならオッケーだと思いたい。

え?見るだけでもセクハラになっちゃうの?……気を付けよ。

 

「すまんね。おじさん男なもんで。……でも本当に変わったな。美人さんになったもんだ」

 

改めてみればその顔は、とびっきりの美人だ。小さい頃も何となく将来は絶対美人になるような感じだったが、ここまでとは。黒髪に大きな切れ長の目、顔立ちはシュッとしていて雰囲気は落ち着いている。……変わりすぎだろ。

 

「洋介兄さんは変わりませんね。昔と同じで」

 

「悪かったな変化が無くて。これから先俺は老けていくだけでよ」

 

「そんなことは無いです。優しそうで、温かくて」

 

「……照れるだろ。やめてくれ」

 

本当に照れちまうじゃねぇか。おじさん責めるのは好きだけど責められるのはダメなんです……

にしても本当に変わったな。身体的特徴は勿論だが性格がまるっきり正反対だ。

 

「あの、一夏を引っ張り回していっつもどっかしらに絆創膏張ってた箒が此処まで変わるとは。人間分からんな」

 

「う……それは言わないで下さい……」

 

そう、小さい頃の箒はそりゃもうやんちゃという言葉がピッタリだった。

実家である神社の敷地内を一夏を連れ回しながらあっちへこっちへ。帰ってくれば何故か一夏は泣いているのに箒は頭にクモの巣くっつけて楽しそうに笑っていたり、海に連れて行けばはしゃぎすぎて沖の方に行き過ぎて流され慌てて回収しに行ったりと、取り敢えず思い出すだけでも疲れるような子だった。

 

「あ、箒だ。お兄ちゃんに声掛けられたんだ」

 

「あぁ、兄さんと話す一夏を見ていたら、な」

 

どっかに行っていた一夏が戻って来る。おじさんは紳士だから余計なことは考えないのさ。

2人は楽しそうに話す。

暫く前まではもう一生見れないと思っていた光景が目の前にある。

 

「2人はちょくちょく会っていたのか」

 

「うん。今は同じ部屋だけど」

 

「そうか。仲が良いことは良きかな良きかな」

 

「何を急に言っているんです?」

 

「気にすんな。独り言だよ。この年になると増えるからな」

 

そうして短い休み時間はまた終わった。

そして次の授業からは千冬が担当するらしい。でも千冬人に教えること出来んのか?教師としての姿を見たことが無いから分からん。

 

「---------で、そしてこれはこの様になっている」

 

おぉ、立派な教師じゃねぇの。

心配は杞憂に終わる、ってか。なんだかどんどん俺の手から離れて行くみたいで寂しいねぇ。ま、それも人生の楽しみの一つって事か。

 

なんか感傷に浸っていればまた授業が終わっちまった。

駄目な生徒ですんません。

また一夏と箒が来るかと思いきや来たのは金髪の嬢ちゃんだった。

どちら様だよ。今回ばかりはこんな知り合い居ないぞ。そもそも海外になんざ行ったこともねぇし。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

「いえ、よろしくないんでお引き取り下さい」

 

「そうですか。ではまた後で……そうじゃありませんわ!」

 

ん?対応間違った?そう言うコント的な流れかと思っていたのだが。

おっかしいなぁ?

 

「貴方なんですのその態度!?返事もなっていませんし!」

 

いやおじさんにそんな事言われても困っちゃうんですけど。

一夏と箒、はよ帰ってきて……

 

「この私に対する態度ではありませんわ!」

 

「ちょっとばかし質問。おたく、どちら様で?少なくとも私の記憶には無いんですが」

 

「まぁ!?なんですって!?この、私を、知らない!?」

 

「だから知らないって。自己紹介をどうぞ」

 

「全くしょうがないですわ。そんなに聞きたいのでしたら聞かせてあげますとも!」

 

あ、自己紹介すんのね。てっきりしないかと。

 

「私はセシリア・オルコット!栄えあるオルコット家現当主にしてイギリス国家代表候補生ですわ!」

 

「ほーん。一夏と同じだな」

 

「まぁ!?なんですのそのお返事は!?」

 

と言い放って続けざまに理不尽な罵倒。おじさん分かっちゃったぞ。これはあれだな。女尊男卑思考ってやつだ。

じゃなけりゃ質の悪いかまってちゃん。

ひとしきり言いたいことを言って満足したのか自分の席に戻って行った。何言われてたのか聞き流してたから全く覚えていないけど。

 

そして再び授業。

千冬の授業は寝られない、サボれない。やった時どうなるか怖くて出来ません。場違いな考えをしている時点でアウトな気もするけど色々と考えちゃうんだなこれが。

だっていきなり授業始まる前に、

 

「あぁ、何か忘れていると思ったらクラス代表を決め忘れていた。よし、今決めるぞ。誰かやりたい奴は居るか?」

 

なんて言い出すんだもん。おじさんじゃなくても混乱しちゃうよ?

だってほら、急に言い出したもんだからざわざわしてるし。

ま、俺には関係ないことだな。選ぶことは出来るけど選ばれたり立候補したりなんてあり得んし。

と、ボーっと見ていると誰も手を上げないからしびれを切らした千冬は、

 

「なんでこういう時ばかり消極的なんだ……はぁ、自薦他薦は問わない。誰かいないか?」

 

すると待ってましたとばかりに挙げられる名前。

 

「はい!織斑さんがいいと思います!」

 

お、一夏を推薦するとは目の付け所がいいね!

俺としてもさっきの金髪嬢ちゃん、オルコットだっけ?の実力を知らんから安定の一夏押です。なんたってあれで代表候補生だからね。

 

「え!?私!?」

 

驚いているがそりゃ指名されても仕方ないだろう。なんたってうちの一夏だからな。というのはほぼほぼ本気だが理由は別にある。というのもどうやら一夏は日本代表候補生の中でも屈指の実力を誇っている。確か聞いた話じゃ代表候補生には専用機持ちが二人いるがそのうちの1人が一夏なんだとか。つっても過保護を炸裂させた束から無理矢理押し付けられた機体らしいけど、それでも納得して余りある実力があるんだそうだ。

それを考えれば妥当と言った所だろう。

 

「私弱いよ?」

 

「織斑さん日本代表候補生の中じゃトップクラスじゃない。それのどこが弱いの?」

 

「え?だってお兄ちゃんの方が強いよ?生身で勝てた事無いし、ちふ……織斑先生にも勝てたことが無いし」

 

む、嫌な予感。一夏絶対余計なこと言うぞ。

こっそり逃げだそ……

 

「兄さん、椅子に戻ってください」

 

「いや、俺やっぱり場違いかなぁって……」

 

逃げ出したいがあっさり見つかってしまい抵抗するもいい笑顔で千冬は椅子を指差している。

……私は悲しい……(ポロロン)

 

そして進む会話。あぁ、さらば平穏な日々よ……

 

「いやいや、比較対象が違うからね?でも、佐々木さんって強いんだ」

 

「うん。お兄ちゃんすっごく強いよ?」

 

「へぇ。どれぐらい?」

 

「一夏、頼むからそれ以上は言わないでくれ。頼むから」

 

「………………ふふっ」

 

言わないように頼み込めば悪い顔をしていらっしゃるなぁ!?

アイツ絶対に言う気だぞ!もうどこにも連れて行ってやらん。

 

「織斑先生と張り合うぐらいかなぁ」

 

言いやがった!!クソが!

もう本気で怒ったぞ!マジで何処にも連れて行ってやんねぇからな!覚悟しておけよ!

 

「うっそだぁ」

 

あれ?

 

「流石にそれは無いでしょー」

 

お?これは?皆さん信じていらっしゃらない?

よっしゃこのまま行けば……!

 

「嘘じゃないよ?ね、織斑先生」

 

ハイ終わった。千冬に聞くのは反則だって……1対2なんて言い合いじゃ負けるに決まっとるがな。

 

「私を巻き込むんじゃない……だが、確かにそうだな。兄さん、佐々木さんは私と同じくらい強い。確か勝った回数じゃ同じくらいだったはずだ」

 

「千冬さん千冬さん、俺の首を絞めるのは辞めて貰えませんかね?」

 

「ん?別に何も悪いことは言っていないし事実だが」

 

「くっ……!」

 

駄目だ……!純粋に話しているだけだから責める事が出来ない!

 

「ね?言ったでしょ?お兄ちゃんが一番強いって」

 

そう言う一夏は物凄く自慢げにしている。うん、俺としては誇りに思ってくれているのか自慢できる家族として見られていて嬉しいよ?

でもさ、さっきからオルコット嬢が滅茶苦茶睨んできているんですけれどもそれはどうしたらいいでしょうか?

 

「さて、今は候補が2人だが他に居ないか?居ないのならば正と副と言う形で決定にするが」

 

「千冬よ、俺はやりたくないんだけども辞退と言うのはありでっしゃろか?」

 

辞退したいんだけどダメ?と聞いたら帰って来たのは、にっこりと微笑みながら、

 

「ダメだ」

 

「ウソダドンドコドーン!」

 

叫んでしまったがオジサンは悪くない。

しかし悲しいかな、それで収まらないのがこの世の中。

 

「冗談じゃありませんわ!!」

 

後ろの方から聞こえてきたのはオルコット嬢の怒鳴り声。

いや、高い声だから全く不快でもなんでもないんだけど。

 

「そもそも!そこの男が織斑先生よりも強いなどと言う確証はあるのですか!?織斑先生自身は強いと仰っていますが少なくとも私は信じられませんわ!」

 

「いいぞもっと言ってやれ!そして俺をクラス代表から遠ざけてくれ!」

 

「はぁ!?あなた何を言ってますの!?」

 

やっべ思わず口に出ちまった。

お陰で千冬からも一夏からも思いっきり睨まれておりまする。箒はニコニコとこっちを見ている。今まで静かにしてたのに!俺にどうしろって言うのさ!?

 

その後も何か言っていたが要は、

 

・なんで俺みたいなぽっと出の訳分からん男が代表に選ばれるのか。そして何故自分が選ばれないのか。

 

・こんな態々極東の島国まで来て俺達の下に就くのが納得いかない。

 

と言った所だろうか?

日本の事を猿の集まりだとかなんだかんだ言っていたが、俺としてはそんな事よりも千冬と一夏、箒が怖くてそれどころじゃねぇんだってば。

なんでか知らんけど成長してくる二人に逆らえなくなってきているこの頃。これ以上口を開いても墓穴を掘って掘って掘りまくるだけだろうからもう黙ってます。

 

でもなんで怒ってんだろうね?極東のサルって言われたから?

 

 

 

 

「おい、セシリア・オルコット。それぐらいにしておけよ?」

 

久々に口を開いた千冬の声はおっかないもんだった。

あんな声家でも出した事無いんじゃねぇの?あ、いやあるな。俺に彼女居る疑惑持ち上がった時はあれよりもやばかった。

ハイライトさんどっかに行っちまってたし。

 

「っ!?ですが!」

 

「はぁ……まだ分からんのか?いいか?周りをよく見ることだ。お前は今どこにいる?どんな人間に囲まれている?」

 

「う……そ、れは……」

 

「そしてお前の立場なんだ?責任の重さはどうなんだ?」

 

「………………」

 

「もう一度言うが、周りをよく見て自分の発言に気を付けることだ。いいな?」

 

「…………はい」

 

千冬はこう言いたいんだな。

此処は日本、周りは日本人、貴方は外国人。日本馬鹿にするなよ?お前国家代表候補生、発言には気を付けなよ?

 

という事ですな。オルコット嬢はそれに気が付いたのか周りの視線が厳しい物だと認識して自分が此処にいる人間を敵に回したことを悟ると静かになった。

ま、俺は別に気にしちゃいねぇんだけど。高校生の世間知らずなお嬢ちゃんの言葉を一々真に受けてへこんでいたらやっていけねぇって。

 

「それで、お前は立候補するのか?自薦することも可能だからな」

 

「いえ……辞退いたします……」

 

千冬、流石にそれは酷ってもんだぜ?今の状態状況で立候補できる奴はいないだろうよ。居るとしたら余程の馬鹿でしかない。

 

「よし。それでは織斑一夏、佐々木洋介をクラス代表の正副として採用する。異論があるやつはいるか?…………よし、では授業を始める」

 

俺に今この状況でやりたくねぇなんて言う勇気は無かったよ……

結局俺がクラス代表になるとか言う恐ろしい事態を阻止できずに終わってしまった。正にだけはならねぇ。意地でもそこだけは貫いてやる。

 

 

 

 

 

 

そしてお昼。うん、飯なんか持って来ていなかったからね。食堂に行くか購買で買うしかない訳だが昼休みになった瞬間に一夏と箒に取っ捕まって食堂に連行されたから購買という選択肢は消えた。

分かり切ってはいたけど女子高生2人にずるずると引きずられていくおっさんという何とも情けない光景だが。

 

 

「お兄ちゃんは何食べるの?」

 

「俺は……何でもいいや。全部美味そうだし」

 

「じゃぁ私が選んで持って来てあげるから先に席取っておいてよ」

 

「おう。任せた」

 

「任されましたー」

 

席を探すが流石はIS学園。

人の数が多くて開いている席なんてありゃしない。

 

あっちへウロウロこっちへウロウロ。

さながら冬眠前の熊みたいに席を探して彷徨い続けるが中々見つからない。

暫く探すと奥の方に丁度3人分座れそうな席があった。

いやぁ、2人が来る前に見つかってよかった。

 

その席に座って二人が来るのを待つ。

ボケーっとして周りを見てみればどこもかしこも女子ばかり。男なんて見えやしない。俺は本当にIS学園に居るんだなぁ……

なんて思ってみたりしていると2人がこっちに来る。

 

「お待たせ。はいどうぞ」

 

「あんがとさん」

 

一夏が持って来たのはステーキ定食(ご飯大盛)。

この学園、食事にも金賭けてんのな……何だこの肉の厚さ。普通に店で食ったら数千円だぞ。

此処の奴らは自分達が恵まれているって絶対分かってないだろ。俺が再教育してやらねば。

 

「「「頂きます」」」

 

3人で手を合わせて。

うーん、懐かしいこの感じ。何年ぶりだろうか?一夏とは毎日だったがそこに箒が加わるのは久方ぶりだ。

最近は千冬も仕事で忙しくて月に2、3回しか帰って来れなかったし。

 

「それにしても驚きました。テレビを見ていたらいきなり洋介兄さんの顔が出てきてISを動かしたって」

 

「それは本当に私も驚いたよ。私も学校に居ていきなり呼び出されたと思ったらお兄ちゃんがそんな状況ですとか言われて」

 

「俺もびっくりだよ。まさか動かせるなんざこれっぽっちも思っていなかったからな。その後は黒服共に連れていかれてホテル暮らしだ」

 

「千冬姉もすっごい心配してたよ?電話してる時ワタワタしてたし」

 

千冬が慌ててるなんざ簡単に想像できる。普段焦ると表情なんかは変わらないんだが行動がポンコツになる。それを超えて慌てるなんてそうそうある事じゃない。

 

「知ってる。ホテルに来た時に怒鳴られたし」

 

「洋介兄さんはISを動かせることに心当たりとかないんですか?」

 

「それが全くないんだよ。いっくら考えてもわかりゃしねぇ。束に今度検査してもらおうかと思ってるけどそれも望み薄いしな」

 

心当たりも何も俺はごく普通のおっさんサラリーマンだったんだぞ?あるわけねぇって。

昼飯食いながら雑談をする。

今まで何をしていたのかとか色々。

 

「本当に性格変わったよな、箒は」

 

「そこまでですか?」

 

「うん。箒すっごい性格変わってるよ?昔と正反対だもん」

 

「なんたってなぁ、一夏を連れ回して山ん中うろついて頭にクモの巣引っ付けたり海ではしゃぎすぎて沖に行き過ぎたり、あのやんちゃ坊主みたいなのがこんな美人になるなんざ予想してねぇよ」

 

「っ!美人、ですか」

 

「おう。とびっきりの美人だよ」

 

「む~……」

 

そう言うと嬉しそうに笑う箒とは対照に何故か不機嫌になる一夏。

俺は何か変なこと言っちまった?女心ってのは難しいもんだ。

 

 

 

 




なんかすげぇ長文になってる。
これを他の作品でやればいいのにとか思うだろうけどそう簡単じゃないのよ……


あとすっごい勢いでお気に入りが増えててやばい。

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