おじさん、今年で36歳になるんだけれども   作:ジャーマンポテトin納豆

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タイトル詐欺はこの作品の常套手段。

結構軽めに書いているけどフツーにガッツリシリアスよ。
気を付けてね。

そう言えば皆さん大好きなあの子が初登場しますよ。




それと話は変わりますけど本当はクリスマス特別編とか投稿しようと思ってた。
でも忙しさがぶっ飛んでたのと書き始めたら止まらなくなっちゃって。
他作品の方もクリスマス特別編を投稿しようとしていただけにかなり手痛い遅れだった。
今から書くのもアリなんだけど、全部の作品を書くのは無理だから一つか二つに絞って書くことにしようかな……

それともクリスマス編を書かずにお正月特別編を書くのもアリだな……



どちらにしろ全部書くという事は作者のスキル的に無理。
だってこんだけ一話書き終わるのに時間が掛かっているんだから来年までの残りの日数を考えれば……ねぇ?

って事で書くかどうかは作者の気分とモチベ次第。
感想書いてくれたら書くかもよ……?(書くとは言っていない)





第二回戦VTシステム大決戦! チクショー!?再起動しないなんて保証は無いなんて言わなきゃよかった!

アリーナの内側にせり出してるピットの所に眠りこけているラウラと共に待つこと三十分。未だに助けが来る気配は無く、俺も腕の骨折に散々殴られた脇やら顔面やら腹やらが痛くてISから降りることも出来ず。

 

まず最初にやったのは自身の身体の確認だった。

左腕は確定で折れてる。そもそも感覚が無い。

右腕は、拳が若干腫れたり皮が剥けたりしているがそれだけだ。

顔、頭は殴られたときの痣が目の部分と口にある。あと鼻血が少し前まで出てた。

触った感じ折れてたりはしていないから問題無い。

両足は特に問題無し。強いて言えばやはり痣とかの軽傷が結構あるぐらい。

 

問題は、脇腹、肋骨と肩回りだな。

右の肋骨、何本かは分からないが、感覚が変だ。多分、ヒビが入っているか折れている。複雑骨折って感じじゃぁ無さそうだが……

肩回りは右の鎖骨が完璧に折れてる。今は痛覚遮断をMAXにしているお陰で何も感じないが痛覚遮断が無かったら折れた骨の破片や断面が肉とかに突き刺さっててのた打ち回ってただろう。

 

で、見た感じの怪我を纏めると、左腕の骨折(かなりヤバい)に拳の皮が剥けている、鼻血(もう止まってる)と右肋骨数本?の骨折、右鎖骨の骨折。

あとは全身に青痣。

 

大体こんなもんだな。

内臓に関しちゃ特に問題は無さそうだ。

折れた骨が刺さったりしない限りは、という言葉が付くがな。

 

つーかVTシステムの攻撃、絶対防御貫通してた気がする。

だってそうじゃなきゃ鼻血なんて出ないだろうし、骨も折れたりなんかしない。

そんだけのもんを食らっといて生きてる俺って人間なんかな?

まぁでも千冬と束も同じようなもんだし、俺は人間だな。まだ人間を辞めちゃいない。

 

 

 

 

 

皆来るのが遅いぞ?つーか早く助けに来て?

 

 

 

待てど暮らせど助けが来る気配は一向に無く、寝っ転がしてるラウラも流石に真っ裸のまんまじゃダメだろと思って俺のISスーツの上を着せてるけどさぁ……

 

上半身裸のおっさんと、そのおっさんの上着(殆ど下着みたいなもん)を着てる見た目小学生か中学生の明らかに血が繋がっていない、そもそも人種が違うよね?って言う女の子の二人が居る。

しかも女の子の方は意識が在りません。

 

 

はいどうみても犯罪臭しかしません。寧ろこの状況のどこに安心できる要素があるのか。ほっこりできる要素があるのか。

いい加減上半身裸は勘弁して欲しい。酒を飲んだりはしていないから腹が出ていることは無いがそれでもおっさんの上半身裸を見たいなんて人間は何処にも居るはずがない。

居ないと思う。居たら怖い。

 

 

 

 

 

……ふっざけんなよおい!何だって俺はこんな状況に居るんだよぉぉぉ!?!?

下手したらあれだぞ!?世界で唯一のIS男性操縦者はロリコンだったって世界中に報道されちまうかも!?

それで連行されて取り調べも無く有罪判決の挙句ムショにぶち込まれるんじゃなくて研究所に送られて解剖やら人体実験のハリケーンが俺を直撃するんじゃ!?

 

いやでも待てよ……?今回の一連の騒動は全部ドイツが悪いんだよな?だったら万が一俺にロリコン疑惑が出て来たらそれも全部ドイツに擦り付けちゃえばいいんじゃね?

あれ、俺って天才?

 

 

 

そんな感じで頭を抱えたり訳分からない理由で希望を見つけたりして顔を百面相して待つこと更に十分。

あんまし時間が経ってねーじゃねーか、なんてことは言わないお約束。

 

 

 

 

「……マジで助けに来ねぇぞ。でも二時間掛かるとか言ってたしな……つか腹減った。ISに非常食積めるようにした方が良いんじゃね?宇宙で活動するんだし」

 

肉食いたい。ラーメンとか。

あ、鳩サブレー食べたい。

 

 

 

座る事も出来ず、ボケーっと空を見ながら色々と考える。

 

しっかし今回の騒動は迷惑、だなんて言葉で済ませられないレベルの騒ぎだったぞ?

被害はアリーナの半壊?と俺の全身の大小様々の怪我、それにIS学園の生徒全員に危険が及んだ事、それに伴って学年別トーナメントの中止。ラウラ・ボーデヴィッヒの生命活動への危険。

あとどうでも良いけど各国の代表へ危険が及んだとか?

 

少なく見積もってもこれだぞ?

まともに探したらこれだけじゃすまない。って事はだ。

今回やらかしてくれたドイツは、まぁどうなるかはお察しという事だ。

 

軍部や研究者の独断にしろ、国家全体としての事なのかは分からないがそちらにせよデカい代償とツケを払う事になるだろうな。

ドイツの政府上層部や軍上層部がどうなろうと知ったこっちゃ無いがそれよりも心配なのは束がドイツという国を冗談抜きで沈めないかが心配だ。

 

いや、冗談とか比喩じゃなくて本気で物理的に沈めそうな所と、それを実行出来るだけの力があるから尚更、現実に起こりそうというか起こしそうだし。

 

マジでドイツがアトランティス案件になりかねない。

それか海に沈めやしないけど更地にされちまうかも。ドイツ領土だけ北〇の拳になる。

ドイツ国民がモヒカンでトゲトゲ肩パットにごっついバイクに跨ってヒャッハー!!とか嫌すぎる。

さっきも言った通り上層部がどうなろうが構いっこないけど関係の無い一般市民に被害が及ぶのは困る。良心が痛む。

精神的にダメージがデカい。だってドイツ全土が世紀末になったら普通嫌でしょ。

無駄にかっこいいドイツ語を叫びながらヒャッハー!とか考えるだけでおもし……じゃないじゃない。恐ろしい。

日本人の、特に一部の人間が大好きそうな展開だ。

 

 

 

つーか俺の分かる範囲でISの点検をしてるんだがボロボロだな。

全身傷だらけだし、なんかシステム面も色々とぶっ壊れてる。

駆動系は、無茶をしたからかガタ来てるな。

推進系はそこまでダメージは無さそうだがこの状態じゃ使えんな。使った瞬間に地面とキスするか制御出来ずにどっかに飛んで行っちまうのは目に見えている。

 

こんだけボロボロになるのも仕方が無い。

いくらISとは言えど、剣で斬り合ったり銃で撃ち合ったりすることは想定しているしその為にSEなんてものがあってバリアが張られている。搭乗者を守るために絶対防御もあるが機体を守るためにある訳じゃない。

だけどそのSEや絶対防御を貫通してくるような攻撃、しかも殴り合いだぞ?そんなものを想定して設計、開発、製造なんてされてない。

そりゃ壊れるわ。

 

むしろここまで耐えてくれた打鉄に対して感謝しかないね。

じゃなきゃ今頃俺は死んでた。骨と内臓、筋肉は全部ミンチにされて原型が残ってたかすら分からない。

 

取り敢えず、礼を言っとかなきゃなぁ。

あんがと、打鉄。だけどもう少しだけ頼むな。

 

 

まだ助けは来ねぇのかなぁ……

 

 

 

取り敢えず腹減ったのと疲れて眠い。

早く迎えに来てちょーだい。

相変わらずラウラは起きないし、呑気に寝息を立てている。

こいつさっきまで取り込まれて死ぬかもしれないって状況だったんだぞ。

 

 

なんて思っていたのもつかの間、なんかVTシステムが居る方のピットが騒がしいというか、直感だけど明らかにヤバそうな雰囲気がバリバリ漂って来ている。

 

おいおいおい……マジか?まぁあれぐらいで仕留められたとは思っていなかったがまさか回復したのかアイツは!?両腕しっかりと元通りになっているじゃねぇか!!

 

しかもなんだか若干形が崩れてるし……

表面がなんかこう、スライム?メ〇モン?というほどじゃないんだけどこう、何とも言えない状態になってる。

端的に言って滅茶苦茶気持ち悪い。生理的嫌悪がスッゴイ。

見てるとこう、ゾワゾワゾワゾワッ!?!?って鳥肌が立つ。

 

しかもなんか知らんけど滅茶苦茶こっち見てるぅ……

えぇ俺なんかした?いやしたけど。片腕捕まえて殴って両腕斬り落として腹を斬って中からラウラを引きずり出したけどさ。

 

つーか武器は何処に行った。

右手に持って居た剣はドコに置いてきた?なんで素手なんですか?

え?まさか俺が考えてることなんて起こらないよね?もう君限界だよね?

 

〔アアアアアア”ア”ア”ア”ア”ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!!〕

 

「ヤル気満々って事かよ!?チクショウ!」

 

アイツ初めて声?音?を出したがそれがまさかブチギレヴォイスだなんて予想できるかって!つーか声出せんのか!

 

「出来れば在りし日の千冬の様にお兄ちゃんって呼んで欲しかったぁぁ!」

 

でも声も姿も似てないからやっぱし却下で!

若干怒った時の千冬の声に似てなくもないからちょっとだけ怖いけど……

 

ラウラもまだ目を覚ましてないからここに居る訳にも行かない。

しょうがねぇな、同じ土俵に降りてやるよ。

 

「おら、同じ土俵に降りて来てやったぞ」

 

そんじゃまぁ、明らかにラウンド2をやりたそうな顔してるから付き合ってやるよ。

つーかあの咆哮?絶叫?してから一切の声を出さなくなったな。どういう事だ?

これじゃ俺が勝ってに独り言喋っているみたいじゃん。反応して?お話しようぜ?

なんならダンスでも踊っちゃう?そしたら本物の千冬にシバかれそうだけど。

 

おーおー、やる気満々って感じじゃねぇですか。

俺一応全身ボロボロなんだけど。これ以上は流石にキツいんですがそれは気にして頂けない?あ、そうですか。

 

流石に今回ばかりは勝てそうも無いか……?

まだ救助が来るまでに一時間ニ十分もあるんだぜ?

このボロボロの身体でそんだけ戦えるか?と聞かれれば答えはNOだ。その前に俺は殺されちまうに決まってる。その前に倒す事が出来れば良いが流石に無理。

 

まぁ痛覚遮断をMAXにしているから痛みは感じない。

死にさえしなければ束が何とかしてくれちゃうって事だから心配無しなのだが、ちょーっと今回ばかりは無理そうな気がする。

でもラウラにちょっかい掛けられる訳にも行かないししょーがないね、どっかしらの欠損ぐらいは覚悟しとこうかな。

斬れそうなものを持ってるわけじゃないけど、引きちぎられそう。

 

 

 

 

なんだかアイツ、動きが無いな。

なんでだ?ずっとこっち見てるだけだし。

いやでも纏ってる雰囲気は確実に俺を殺す!殺してやるぅ!って感じなんだよなぁ。めっちゃ拳ボキボキ鳴らしてるし。

お前本当は声以外、結構感情豊かなんじゃねぇの?

 

目の前にやって来るとなんかめっちゃメンチ切ってガン飛ばしてくるんだもの。

 

器用な奴だな本当に。

お前やっぱり感情豊かじゃねぇか。

 

目の前に立つと完全に殺る気満々って感じでこっちに近付いて来る。

俺も近づいて行く。

見た感じ武器を取り出すなんて感じじゃ無さそうだし、多分正面からの殴り合いになるんじゃねぇかな。

逃げ回りたいけど無理だし、それに追っかけられたら後ろからぶん殴られてそのままマウント取られて死ぬまで殴られる、なんて嫌な未来が目に見えている。

 

この身体でどれだけ保つか分からんけど。

 

こっちも何もしない訳にも行かないから適当にメンチ切ったりして威嚇。機械に通じるかなんて知りません。こういうのは気分の問題なんだよ。

 

 

 

 

 

一発、殴り掛かれば確実な一撃を入れられる距離まで近づいた。

瞬間、双方右腕で相手の顔面を狙って攻撃を放った。

当然相打ちになるかと思われたが、先に拳が届いたのは俺の方だった。

 

と言うのも、俺と千冬の体格差に関係がある。

俺は身長177cm、千冬の身長は166cm。

俺は男としては平均的な身長だ。千冬の方は女性にしたら大きい方なのだろうか?

だが、10cmの差はかなり大きい。腕の長さや足の長さも変わって来る。

 

腕の長さの違いはどれぐらいか詳しくは分からないが……

あと今ので分かったのだが、やっぱり千冬とは明らかに戦い方というか、そう言う物が違う。さっきの俺の顔面へ放った拳の時、踏み込みが甘かった。千冬じゃ絶対にそんな事はやらかさない。

俺の持論ではあるが基本的に対人戦の勝敗を決めるのは一撃目と言っても過言ではない。一撃目がどれだけ相手に対して有効打を叩き込めるか、という事に掛かっている。

 

それを千冬が分かっていない筈が無い。なのにも関わらずあんな中途半端な踏み込みをするわけがない。多分このコピー、モンド・グロッソの時とドイツに教官に行って居た時に秘密裏に収集したIS搭乗時のデータが基本となってVTシステムはその戦闘力を誇っていると思って間違い無い。

そこに千冬の格闘戦能力に関しては殆ど無いと思う。

偶に手に入れる事が出来た格闘戦能力だけだろう。それも多分この格闘戦能力を付与した人間は全くの素人だ。

多分科学者、軍人、政治家連中がこれをやったんだろうが、少なくとも格闘戦能力においては軍人の手が入っている事は無いと思う。

軍人なら格闘能力は常に高い水準で維持するべきで、まぁ特殊部隊レベルになれば間違い無く専門的な事にまで知識が及んでいる筈なんだが、なんかそう言うのが感じられない。という事はだ、VTシステムは殴り合いは出来るが俺や千冬からすればド素人も良い所って訳だ。

さてそこでおじさんから良い子の皆に問題だ。

 

こんな奴におじさんが負けると思う?

 

答えは否、だ。

こんなズブの素人に負けるなんて馬鹿はやらかさない……と言いたいところなんだが生憎と俺は左腕が完璧に折れていて使い物にならないし、肋骨も多分、いや、確定で折れている。

って事で全部まとめて考えると、勝てるかと聞かれれば厳しいって結論に至らざるを得ない。ギリギリの勝利も難しそうだ。 

ただやっぱり殴り合いに関してはそこまででは無いのか、俺はしっかりと防御出来ている。多分性能に頼っている部分が大きいと思われる。

ぶっちゃけ脇の締め方は甘いし一撃一撃も普通から見れば鋭く早いんだろうが俺からすれば大振りだし無駄が多い。

 

それを考えれば多分、持ちこたえる事はかなり厳しいが出来なくはない……と思うが正直腕一本は辛いな。足が両方とも使えるのが幸いだがそれでも厳しい。

 

しっかり防いじゃいるが、左腕が使えないから左側の防御がし辛い。足を使って何とかしちゃいるがあんまり多用は出来ない。

と言うのも普段なら片足で立つぐらい何てことは無いが左腕を使ってのバランスが取れないから最悪バランスを崩してそこから崩される事も十分有り得る。

 

 

 

「いやまじでこいつ耐久オバケだなチクショー……」

 

 

 

一旦距離を取るが、しっかりと詰めて来る。

相変わらずアイツは喋らないし俺をぶっ殺そうって事しか伝わってこない。

会話しようぜ会話。そのお口は飾りかな?あ、飾りですかそうですか。

 

束とは連絡取れない。というか取りたくない。

千冬が怖いからね。だって感じるんだよ。こう、アリーナの外から俺に向けてのさっきに近い怒気が。

ははっ、まじコイツ倒せたらアリーナに引きこもろうかな。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

あぁクソ!何時までこんな事してりゃ良いんだよ!?

 

 

やっぱり俺が防御に徹しているから俺は決定打を打ち出せないし、VTシステムは俺の防御を破れないから俺を倒せない。

こんなイタチごっこをかれこれ三十分以上続けている。もうそろそろ四十分になろうかと言う所だ。

 

あと最短救出時時間まであと四十分もありやがる。

もうちょっと早く助けに来れないものか。束達も頑張ってくれているから文句は言えないけどさ、ちょっとこの状況だとぐちや文句の一つ言いたくなるってもんよ。

そこの君も是非同じ状況になったらおじさんの事を思い出して欲しい。

あぁ……おじさんこんな心境だったんだな、って。

 

その時は多分俺の加護が受けられる!……かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

もうどれだけ殴り殴られしているのか分からない。

流石にSEも尽きてきている。あと30ちょいしかない。

でも良くここまで無補給で持ちこたえていると思う。

 

防御に徹して、右腕の増加装甲部分と必要な時に左腕も使って防ぐ。

それでもって最低限SEの消費を抑えてきたのだがそれでもこれだ。さっきも言ったが素人の攻撃だから避けられはするが、一撃が重い上当たったらそりゃ結構SE持ってかれる。

 

元々試合をしていなかったから満タンだったSEも第一ラウンドで減り、今現在の第二ラウンドで更に減って今の状況なのだがそりゃ連戦で既に二時間以上戦い続ければそうなる。

 

 

「あ”ぁ”!!早く助けに来てぇ!?」

 

 

そんな俺の叫びは虚しく響き、帰って来るのはVTシステムの拳だけ。

 

「お前の拳は欲しくない!欲しいのは助けなんだってば!」

 

なんて叫んでも来ることは無い助け。

いや現在進行形で向かって来てくれてはいるんだけどさ、まだまだ来なさそう?そもそも千冬が怖くて通信出来ない。

それもあるんだけど怪我のせいで余裕の無い戦いをしているから通信に出る余裕が無い。

 

でも千冬が怖くて出れないってのがほぼほぼの理由なんだけどね。

今だってずっとコール音が鳴り響いている訳だし、しかもコールが切れた瞬間に次のコールが鳴り始めるとかもう只の恐怖でしかない。

なんだったらVTシステムより千冬の方が怖い。

早く助けに来て欲しい気持ちはあるけど千冬に怒られるのが怖いから帰りたくないって気持ちもあるにはあるんですよね。

この気持ちを皆さんどう思います?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び暫く。

もう七十分に突入する頃だと思う。

ただ時間感覚が余り無いから正確な時間は分からない。

 

ただ、正直もう限界が近い。

SEは十分程前に尽きたし、それに脇腹に良いのを一発貰ったからか完全に二本程折れた。

左腕は動かなくなって来たし、胸の辺りに骨じゃぁ無いが違和感がある。

多分肺をやられた。流石に骨が突き刺さっている訳ではないとは思うが……

他にもかなりやられた。回し蹴りを防いだ時に防ぎきれず受けた衝撃がどっかの内臓にダメージを与えたのか、中の方も痛みが走ってる。

 

そもそも痛みを感じている時点でおかしいと思う。

痛覚遮断が利かなくなって来たのか、それともSEが切れた時に同時に切れたのか。

どちらにせよもう痛覚遮断を頼ることは出来ないし、ぶっちゃけ痛みでなんか意識がおかしい。

 

さっきまではアドレナリンがバンバン出てたからか気にならなかったが意識がおかしくなり始めてからどんどんそれもなくなって来ている。

 

 

 

 

 

 

「やべっ……」

 

一瞬意識が完全に飛び掛け、なんとか意識を引っ張り戻した時にはもう手遅れだった。

なんとか一撃目の右からの一撃を躱したがその後に飛んできた回し蹴りをモロに食らった。

 

「オ”ッ!?!?」

 

なんか出ちゃいけない声が出た。

あ、これ無理だわ。駄目だわ。

 

 

 

 

本日二度目、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side 一夏 ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

『兄さんなんで通信に出てくれないんだ……?まさか死んじゃった……?いやそんなことある訳がない。ウンソウダ、キットツウシンガデキナイノハコワレタダケナンダ……フフフフフ、カエッテキタラオハナシシナキャ……』

 

『ちーちゃんちょっと落ち着いて!?多分ちーちゃんがそうやって延々とコールし続けるから怖がって出てくれないんだよ!』

 

『は?そんな事無いだろう。ソンナコトアルワケガ、ナイ。ソウダロウ?』

 

『ひー!?ちーちゃんがぶっ壊れちゃったよー!いっちゃん戻って来てぇ!』

 

聞こえてくる声は千冬姉が取り乱してそれを抑えているのか怖がっているのかもう訳が分からない束さんの音声。

ていうか千冬姉大丈夫かな?いつも冷静なんだけどお兄ちゃん関連になると途端にダメになるからなぁ。

具体的には物凄く取り乱したり、なんか壊れたり。結構度合いに幅があるんだけど総じて全くの使い物にならなくなる。

 

 

 

というかなんか後ろの方から山田先生が、

 

「なんでここに篠ノ之博士が居るんでしょう……?いやでも織斑先生と佐々木さんの繋がりだから気にするだけ負け、気にしたら負け……」

 

って言ってたけど。

そう言えば束さんって今世界中で指名手配されてるんだっけ。

指名手配って言ってもどっちかって言うとこの人探してます、見つけたら情報下さいねって言う行方不明者捜索って感じだけど。

基本的に何処かに隠れてるらしいけどしょっちゅうお兄ちゃんに会いに来てたからすっかり忘れてた。

 

今は束さんのロボットがなんかガチャガチャやって隔壁を直してる。

配線とかなんか色々弄っているけどこれ全部束さんが一人で操作してるんだよね。

本当にスペック高すぎで、変人なのは否めない。

良い人だし大好きなんだけどやっぱりぶっ飛びすぎ。今日もいきなり何も無い空間から出て来たし束さんを知ってる私に千冬姉、箒は何時もの事で流しちゃったけど皆驚いてたなぁ。

 

まぁ今はVTシステムの方も束さん曰くお兄ちゃんが倒したらしいからこんな呑気にしていられるんだけど。

でも聞いた話じゃお兄ちゃん怪我してるって言ってたから早く迎えに行ってあげないと。

万一の事もあるから一応先生達と専用機を持ってる私達で来てるんだ。

特に今の所何も無いけど。

 

そんな感じで進んできたんだけど状況が一気に変わった。

 

『ちーちゃん本当に落ち着いて!?……ストップちーちゃん。なんかレーダーがおかしい』

 

「束さん?どうかしたんですか?」

 

『うっそでしょ!?VTシステムが再稼働!?』

 

「束さん?どうかしたんですか?」

 

なんか慌てて、向こうで色々と操作しているみたいだけどこっちは何がなんだかさっぱり分からない。

 

 

『いっちゃん急いで戻って来て!VTシステムが再起動したの!そこに居ると危ない!』

 

「え!?そうしたらお兄ちゃんはどうなるの!?」

 

『分かんないよ!でもそこにいたら被害が大きくなっちゃう!早く皆を連れて戻って!』

 

「……分かりました!皆、VTシステムが再起動!危険だから今すぐ戻るよ!」

 

『ちょっと一夏さん!?小父様は宜しいのですか!?』

 

「お兄ちゃんだから大丈夫!それにあれぐらいでどうにかなる人じゃ無いよ!」

 

「セシリア、そんな簡単にやられる程弱くは無いわよ。ちふ…織斑先生相手に戦って勝てるんだもん。あれぐらいの機械じゃ倒せやしないわ」

 

鈴の言った通り。

お兄ちゃんは冗談抜きで世界で三本の指に入るぐらい強い。

残りの二人は千冬姉と束さん。この二人に対抗出来ると言ったらお兄ちゃんぐらいしか思い付かない。

 

ただそれが万全な状態だったならば確実に言えるけど、今のお兄ちゃんは怪我をしてる。

それがどれだけ響いているか分からないけど、左腕と肋骨の骨折はかなり辛いはず。

腕はお兄ちゃんの戦い方が出来なくなるし肋骨は力を入れづらくなるから。

 

だけど今は指示に従うしか無い。

今このまま突っ込んで行ってもどうにもならない。それどころか束さんが言った通り被害が大きくなるだけ。

VTシステムがお兄ちゃんの方に向かうって決まった訳じゃ無いし再起動したからと言っても戦える状態かも分からない。

 

希望的観測なのは良く分かってるけど、多分お兄ちゃんは私達が怪我をする方がずっと悲しむから今は我慢。

 

 

 

 

 

 

 

 

「束!状況は!?」

 

「最悪だよ!あぁもうなんだってこんな事に!?」

 

「原因は後々調べるからどうでも良い!それより早く救援を送れるようにしろ!」

 

「分かってるって!やってるけど回線から全部修理しなきゃ隔壁が開かないんだから今すぐには無理だよ!」

 

「山田先生!VTシステムと兄さんの状況は!?」

 

「たった今交戦状態に入りました!」

 

「ちーちゃんコールしてないでこっちの映像でも見てて!映像回線だけ復旧させたから!心配なのは死ぬ程分かるからもう少し落ち着いて!」

 

戻ると千冬姉は指示を飛ばしながらコールして、束さんはひたすらキーボードを叩いて、山田先生はレーダーを見ていた。

皆が慌ただしく動いていた。

 

そんなのを見れば簡単に今どういう状況なのか分かる。

急に焦りと恐怖が襲って来て、思わず大きな声で叫んだ。

 

「何がどうなってるの!?」

 

「一夏さん!落ち着いてくださいまし!」

 

「セシリア!説明して!今すぐ!」

 

「します!しますから落ち着きなさいな!」

 

セシリアに肩を掴まれ、言われて話を聞ける状態に戻った。

 

「まず、先程再起動したVTシステムはその場に留まり、そして移動。移動方面はアリーナ、簡単に言えばVTシステム自身が壊して進んできた道を戻って行きました。アリーナ到着後、小父様と戦闘状態に突入。今現在は戦闘が継続されています」

 

「……お兄ちゃんはどんな状況?」

 

「腕や肋骨の骨折などがかなり響いているようで押されています」

 

「そっか……お兄ちゃんの戦い方だと片手使えないだけで大打撃だもんね……」

 

説明されてから絶望に近い感情が押し寄せた。たぶん、ドイツで誘拐された時と同じぐらいかそれ以上。

正直な話、お兄ちゃんの戦い方を考えれば今お兄ちゃんが負っている怪我はかなり厳しいはず。防御を片腕と両足に頼らなきゃいけなくなるし、足捌きもするから早々防御も出来ない。だから実際は腕一本で防御をしなきゃいけない。

でもお兄ちゃんの事だから足捌きをしながら足で防御をやってのけるんだろうけど……

普段千冬姉と試合?あれって試合って言えるのか分からないけど、そう言う時は基本万全の状態でやってそこから怪我したりしなかったり。

しかも今回の相手は現役時代の、文字通り世界最強になった時に近い千冬姉をコピーだから、お兄ちゃんでも結構厳しい、辛いと思う。

 

 

それを考えたら、お兄ちゃんがもしかしたら居なくなっちゃうかもしれないって変な事まで考え始めちゃって。そうなったらもうネガティブな考えが止まらなくなった。

 

「救助は?誰か助けに行ってるの?」

 

「いいえ、誰も。そもそも一夏さん達が救助部隊でしたからそれを引き返させた以上、次はありません。それに侵入ルートが先程のルートだけ。篠ノ之博士が全力で何とかしようと試みて居られるようですが、ルート上のシステム全てが破壊されていてそちらから復旧させなければならず……まだまだ時間が掛かりそうです」

 

「そっか……」

 

「救助は今暫く派遣する事が出来ません」

 

もう、何て言えばいいのか分からない。

あんな状態のお兄ちゃんが一人で、たった一人で戦ってるなんて考えられない。

 

誘拐された時は単身着の身着のままで殴り込んで私を助けに来たって言ってもあの時は言っちゃあれだけど相手は生身の人間だったから正直お兄ちゃんの敵じゃない。

 

早く助けに行きたい。

私じゃ無くても、千冬姉でも良いし束さんでも良い。

VTシステムに対抗出来る人間なんてお兄ちゃんか千冬姉、あとは束さんだけだと思う。もしかすると師範もISに乗れば戦えるかも。

ほら、世界でたった四人だけしかいない。

でも千冬姉は色々と指示を出したりしないとないし、束さんもやる事があるから無理。

師範は此処には居ないしそもそもISに乗れない。

 

お兄ちゃんを助けられそうなのはこの三人しか居ない。

もし私みたいな専用機持ちと先生達の制圧部隊を投入しても多分、勝てない。

勝てないと断言できるぐらいに絶望的だと思う。

 

 

だって千冬姉の全盛期だよ?どれだけ数を揃えても勝てない。

世界中の軍隊を総動員してゴリ押ししてエネルギー切れを狙えばもしかしたらだけどVTシステムにエネルギー切れなんて概念があるのか分からない。

 

モニターを覗いてみればお兄ちゃんが必死に、それこそ今まで見た事が無いぐらい辛そうで苦しそうな顔で戦っていた。

その顔を見たら、余計に辛くなった。

何時も助けて貰っているのに、お兄ちゃんが危険な時に助けに行けなくて。

 

「束さん、出来るだけ早くお願いします……」

 

「分かってるよ!束さんに任せて安心してなって!」

 

「はい。お願いします……」

 

束さんは必死にキーボードを叩いて叩いて叩いて。

千冬姉は今出来る事限りの指示を飛ばしている。まぁそれでもコールはずっとやってるけどあの状況じゃ出られないでしょ……

 

セシリアも、鈴もお兄ちゃんと親しい人は必死に無事を祈ってる。

箒は専用機持って無いからここには居ない。他の皆と一緒に避難した。

でも物凄く心配しているのは簡単に想像できる。

 

助けに行きたい。

でも出来ない。だから今はお兄ちゃんを信じるしか出来ない。

 

 

 

 

 

 

ーーーー side out ーーーー

 

 

 

 

 

ーーーー side 千冬 ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

兄さんとVTシステムが戦い始めてもう結構な時間が経った。

段々とお兄ちゃんの動きは鈍く、緩慢になって来た。そりゃ身体中ボロボロで一番最初に戦い始めてから二時間近く戦っているのだから無理も無い。

 

結構ふらふらし始めて、それでも必死になって戦って。

多分もうSEも殆ど残ってない筈。いや、とっくに切れていてもおかしくはない。

どちらにしろ切れていると思って然るべきで。

 

そんな時だった。

兄さんが一際体勢を崩した時だった。VTシステムの一撃目を躱してから追撃として放たれた回し蹴りがモロに入ってしまった。

 

思いっ切り吹っ飛ばされてかなりの距離を転がって行って、そのまま動かなくなってしまった。

その瞬間、一夏が顔を青ざめて掴み掛かってきた。

 

「千冬姉!お兄ちゃんが!!」

 

「一夏落ち着け!そんな事分かっている!」

 

「それなら早く助けに行かなきゃ!!」

 

「無理だと分かっているだろう!?オルコット!更識!コイツを抑えろ!」

 

「「はい!!」」

 

申し訳ないが二人に一夏を抑えていてもらう。

でないと一人で突っ込んで行ってしまうだろうから。

 

「千冬姉は良いの!?あのままじゃお兄ちゃんが死んじゃうかもしれないんだよ!?」

 

「そんなこと分かっているに決まっているだろう!?そもそも私がこんな状況で落ち着いていられると思うか!?」

 

「知らないよそんなの!早く助けに行かないと!」

 

「今行ったら二次被害が起きる!おい二人共!そいつをここから引きずって後ろに下げろ!束!」

 

一夏は、私が言うのもおかしいが平常心を欠いている。

そんな人間を送りこんだらそれこそ本人含めて被害が拡大しかねない。

 

次いで束に状況を確認すると宜しくない返答が返ってきた。

それでもこの短時間でここまでやってくれたのだから文句は言えない。

 

「今やってる!隔壁はあと一枚!でも間に合わない!」

 

「クソが!先生方!オルコット鳳!突入準備!急げ!」

 

束のキーボードを叩く音がより一層早くなる、

突入準備をさせるも、モニターを覗けば兄さんに近づいて行くVTシステムは、それこそモニター越しでも殺そうとしているのが分かった。

 

「束!急げ!」

 

「……ッ!ちーちゃん間に合わない!今すぐ突入させて!」

 

「隔壁前まで突入しろ!」

 

指示に従って先生方と専用機持ちで構成された制圧部隊が隔壁前まで進んだ。

その通路の狭さ故にISを展開してからだと間に合わない。

だから展開はせずに隔壁前まで自力で走っていく。

 

モニターを見れば、兄さんのISは既に解除されてしまっていてそんな兄さんの首を掴んで持ち上げた。そしてそのまま放り投げた。

 

意識を取り戻す事は無く、そのまま地面を転がっていく。

普段ならあのまま勢いを利用して飛び起きるのだが意識を失っていればそれは出来ない。頭や背中などを打ち付け、血が流れだしている。

骨折していた左腕は骨が露出して、口からは血が溢れてきている。

 

基本的にダメージは上半身に集中しているらしく、鎖骨の辺りも陥没している。

あれじゃもうまともに動かす事すらできないだろう。右腕も変な方向に曲がっていて一目見るだけで折れていることが分かる。

あの様子じゃ他にも骨折をしていてもおかしくはないし、内臓にもかなりのダメージを負っている筈。

血が口から流れてきているのを見ると、肺に折れた肋骨が突き刺さっているのかもしれないし、それ以外の臓器へ深刻なダメージを受けていると考えるべきで。

それを考慮すれば兄さんは、もう長く持たない。助けるのなら今すぐにでもなんとかしなければならないが隔壁という障害物にVTシステムという厄介な相手が残っている。

 

「束!まだなのか!?」

 

「あと十五秒で隔壁は何とかなる!」

 

「全員、戦闘準備!相手は厄介何て代物じゃないぞ!教員は専用機持ちのカバーをデュノアもそこに加われ!!専用機持ちは接近戦や格闘戦に絶対に持ち込まれるな!その瞬間に殺されると思え!良いな!?」

 

実力を考えれば教員が最前線に立つべきなのだが、VTシステムは全盛期の私のコピー。たかが一世代分程度の性能差では簡単に覆される。

第三世代機ならば良かったがそれは専用機持ちの代表候補生や国家代表クラスのみ。

あの場に居る時点で、どちらにしろ一歩どころかたったのコンマ数秒の判断ミスであの世行き。

 

今更だがVTシステムに勝てるのは兄さんか束、それに私自身ぐらいなもの。

だが私は現役から退いて数年も経っており教師としての忙しさにかまけて碌にトレーニングなんかをしてこなかった。そのブランクは埋めがたいものになっていて現役時代の私と戦えば、負ける。

 

束に関しても基本は技術方面専門だ。

道場の娘とはいっても箒の様に習っていたわけでは無く勘などに任せた戦い方になる。

それに研究に没頭してまともに運動をしてこなかったこいつが勝てるかと言われれば首を傾げざるを得ない。

 

大して兄さんはそんな私や束とは違いほぼ毎日なにかしらのトレーニングや型の練習を行っていたから数年前の実力とは大きく成長している。

実質的な強さで言えば私達よりも上だろう。だからこそ一番可能性があったのだが一番最初に、ピット内でVTシステムが発動した時の左腕の骨折と肋骨の骨折が大きく響いてしまった。

 

これによって恐らく、この世界でVTシステムを武力で止められる人間は居なくなった。

 

「ちーちゃん!隔壁開くよ!」

 

「全員!あれを倒そうなどと考えるな!救助後は二人で搬送して残りは足止めと生き残る事に徹しろ!」

 

『『『『『『『『『了解』』』』』』』』』

 

『隔壁開きました!突入します!』

 

救助部隊が突入をした。

その瞬間、VTシステムは兄さんよりもこちらの方が脅威だと感じたのかそちらに向かって行った。

その隙を突いて二人の教員が兄さんとラウラを担ぎ出す。ラウラに関しては見た感じ問題は無いそうだ。

しかし兄さんの状態は間近でみるとかなり酷かったのか顔色がどんどん悪くなった。

まぁ幾ら教員とは言っても実戦経験がある訳でも無い。

正直私も兄さんという事を除いてもあんな事になった人間を見るのは嫌だ。

 

 

兄さんとラウラを担ぎ出した二人以外はVTシステムを足止めするために、接近戦を避けて中遠距離から弾幕を張っているがそれでも簡単に避けられてしまっている。

しかも近づかれたら逃げるという行動を取ってばかりいるからかまともな狙いを付けるのも苦労しているようだ。

鳳に至っては遠距離武器が衝撃砲しかない。

本人は本人なりに追い込まれた人間を助ける為に一撃離脱攻撃を仕掛けたりしているがあれは最悪一歩間違えれば格闘戦に持ち込まれて一瞬で終わりだ。

 

こちらとしてもなんとかバックアップしたいが私は此処から離れるわけには行かないし、そうなるとやはり束に頼るしかなくなる。

 

「束、VTシステムの解体は出来ないのか!?」

 

「今やってる!でもコアネットワークからも完全に独立状態だしシステム関連含めてありとあらゆる面が滅茶苦茶すぎて直接コア自体の解体とか停止は無理!」

 

「どれくらい時間が掛かる!?」

 

「端から順序立てて解体しないといけないからニ十分ぐらい!」

 

「ならば出来るだけ急いでやってくれ!頼む!」

 

「そんなの分かってるってば!でもおじさんが戻ってきたらそっちの治療を最優先にするからね!じゃないと本当に手遅れになっちゃう!」

 

「構わん!何でもいいからあれの解体と兄さんを最優先にしてくれ!」

 

「クソドイツが!!アイツらマジで唯で済むともうなよ!?」

 

束は物凄い暴言を吐きながらVTシステムの解体と並行して兄さんがここに運び込まれた時の為に治療の準備を始めた。

 

『織斑先生!二分で到着します!』

 

「詳しい容体は!?」

 

『左腕複雑骨折!骨が飛び出ています!右腕も変な方向に曲がって折れています!触った感じは粉砕骨折かと!肋骨も左右で数本おれています!陥没していて呼吸音もおかしいですし吐血量も多い!左鎖骨が完璧に陥没しています!詳しく見たわけでは無いので外見上の判断でしかありませんが重傷どころか瀕死です!』

 

「了解した!出来るだけ急いでこちらに連れて来てくれ!」

 

『はい!』

 

やはり聞いた限りの容態は先程モニターで見て確認したものよりも重症らしい。

それどころか瀕死ですらあるとも言っていた。モニターで確認していたとはいえやはり聞かされるのでは大違いだ。

 

「束、兄さんを助けられるか……?」

 

「助けるに決まってんでしょ!?何弱気になってんのさ!?いいから自分のやれること探してやりなよ!」

 

束に怒られてしまった。

確かに弱気になっていたのかもしれない。それもそうだ。あの兄さんが死ぬ訳が無いな。そもそもあの兄さんが死んだときは、いやこの際は殺されたと言うべきだな。まぁ簡単に言ってしまえば世界の終わりだ。

私達の精神的な問題ではなく本当の意味での世界の終わりだ。

束が世界を滅ぼしかねない。

私は止める気は無い。自業自得だ。

 

「すまない……束、アイツらだけで足止めが出来ると思うか?」

 

「無理だね。百%無理だね。断言できる。私でも現役時代のちーちゃんとか御免だもん」

 

「もし兄さんの治療を優先して解体を行うとしたらどれだけの時間が掛かる?」

 

「さっき言ったニ十分+二十分か三十分。でもあの様子じゃそれ程持たない。それよりもずっと早くに全滅する」

 

「……どうすれば良い?」

 

「ちーちゃん、行きたいの?」

 

「……私には此処での指揮がある。離れるわけには行かない」

 

「あ、それなら私が何とかするから大丈夫だよ」

 

「お前、解体作業に兄さんの治療に加えてそれ以上の仕事が出来るのか?」

 

「あったりまえじゃん?私は束さんだよ?余裕に決まってんじゃん!というかちーちゃんが足止めに加わってくれないと解体も治療も間に合わないし」

 

「……すまん」

 

「良いから行った行った!というか早く行かないとマジであの子達死んじゃうよ!?」

 

モニターを見ればそこに移った皆は数的優勢があるのにも関わらず追い込まれ始めていた。

 

「束、後は頼む。山田先生、以降はこれの指揮に従うように」

 

「はい!織斑先生、気を付けてくださいね!」

 

その言葉を後に教員用ISを取りに行き、そしてアリーナへVTシステムと対峙するために向かった。

 

ISを纏ってアリーナに向かう途中、血まみれになって担がれていく兄さんを見た。

本当は直ぐに駆け寄って行きたいが束に任せると決めた。私は奴を足止めすることに専念する。

 

アリーナに突入するとそこでは先に突入をしている救助部隊が交戦をしていたがかなり押されていた。

自分で言うのもあれだが現役時代の私じゃ仕方が無い。

正直言ってどれほどの時間一人で持ち堪えられるか……

 

「お前達!一旦下がれ!体勢を立て直してからで構わん!その間は私が引き受ける!」

 

「織斑先生!?」

 

「早く下がれ!」

 

格闘戦に引きずり込まれそうになっていた鳳とVTシステムの間に無理矢理割り込み一太刀浴びせる。

この際卑怯だなんだと言っていられない。相手が素手だろうがこっちは剣を使わせてもらう。

 

しかしこの奇襲ですら防ぐか……

楽観視していた訳じゃないがこれは予想よりも遥かに厳しい。

出来れば何かしらの損傷を与えておきたかったが無傷か……

 

 

 

本当に厳しい戦いになるな。

私も腕の一本ぐらいは覚悟しておいた方が良さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side out ----

 

 

 

 

 

ーーーー side 束 ----

 

 

 

 

 

ちーちゃんがアリーナの方に応援に向かった。

まぁ私が促して行かせたようなもんだから向かったって言う言葉はちょっと変だけどこの際どうでもいい。

今は両手で投影型キーボードを叩きVTシステムの解体を進めている。

ただVTシステムが発動した影響なのか元々私が構築したプログラムからハードウェア、ソフトウェア、ありとあらゆるものが滅茶苦茶だ。

 

少なくとも私じゃこんなものは絶対に作らない。絶対にだ。

そもそも私が構築した基礎的なプログラムを使わなければISは動かない。私がそうなるように設計したから。だからもし開発しようとするのなら基礎プログラムを元にしてそこから発展させたりしなきゃいけない。

それでも無限の可能性があるように作ったんだけど。

 

ただこのVTシステムはそれら全てを滅茶苦茶に壊して、それでも尚動いている。そりゃ搭乗者にとんでもない負担が掛かる。

例えるなら訓練も何もしていない只の一般人が対Gスーツ無しで音速を軽く超える事が出来る戦闘機でドッグファイトをするようなものだ。

基本的に訓練を行っていない一般人であれば平均的に6Gの加速度に耐える事が出来る。瞬間的な物であればそれ以上を耐える事が出来る。

 

だけど高Gが連続して掛かる、常に高Gが掛かり続けるなんて状況、耐えられるはずもない。

基本的にISに関しては搭乗者保護システムに加えてPICがあるからどれだけ無茶苦茶なGの掛け方をしても問題は無い。だからこそISは直進飛行中に直角に曲がる事が出来たりする訳なんだけど。

まぁそれを発展させればAICが出来るんだけどそれは今はいいや。

 

取り敢えずはありとあらゆる面で滅茶苦茶になりすぎているからコアに直接アクセスしてどうにかするって方法がとれない。

だから一番外側から崩していくしかない。コアに直接アクセス出来れば二十秒もあれば十分なんだけど、ほんっとうにめんどくさい。

 

「クソドイツ……この件が収まったら本当に覚えてろよ……あの国はいっつも後ろ暗い事ばっか隠してるからそれ全部暴露してやる……」

 

思わずそんな事を言ってしまうぐらいにはムカつく。

そもそも私の開発したISにこんな事した挙句、私の大切な、大好きなおじさんをあんな状態にしたんだから、ねぇ……?

 

それ相応の報いを受けて貰わないと。

まぁ、VTシステムの開発ってだけでも十分にヤバいのにあの国、というか転校して来た子の事を調べてたらもっと後ろ暗い、少なくとも世間様に表沙汰に出来ない様な研究とか実験やりまくってるみたいだし、思いっ切りこれ全部公開してやろうそうしよう。

 

他の国もそう言った実験研究はやってる。

でもドイツはズバ抜けてエグイ事をしているから今回の件で他の国には良い警告になると思う。

 

それは置いておいて、これ本当に厄介だなぁ……!

私だって見た事が無いぐらいにシステムがグチャグチャになってて、先ずは優先順位を付けてそこから解体作業になるんだけど、まず優先順位が一番高い奴から一番低い奴まで結構な数がある。

 

まず一番にやらなければならないのは自己防衛システムの破壊、もしくは停止。

これはシステムの方のやつでウイルス対策ソフトみたいなものだと考えてくれればいい。

ただこれが落ちてしまえば急激にシステムのコントロールを奪われてしまうから最も解体するのに時間が掛かる。ただこれさえ無力化してしまえば後は楽ちん。だって邪魔してくるやつなんて誰も居なくなる訳だから。

 

取り敢えずはこれの解体を進める。

大体二分かそこいらで解体が完了。そしたらどんどん優先順位事に潰して行こう。

おじさんの治療が加わればそっちを優先させざるを得なくなるからそれまでに出来る限り進めておく。

 

ちーちゃん達が戦いやすい様に戦闘に直結するようなシステムをダウンさせていく。

戦えなくなるわけじゃないけど性能低下は必然。

 

 

 

 

そして凡そ三分の一程度まで解体が進んだところでおじさんが運ばれてきた。

一旦解体の手を止めて容態を見る。

 

「酷い……」

 

本当に酷かった。

ギリギリ、辛うじて生きている。

寧ろ生きて居るのが不思議なぐらいの重傷。大型トラックに引かれてグチャグチャになっているのに生きて居るみたいなものだ。

左腕の骨折は骨が筋肉や皮膚を突き破ってかなり露出していて、右腕はあってはならない方向にひしゃげている。

肋骨も陥没して肺に何本か突き刺さっている。

鎖骨は粉々になって、右大腿骨も折れて。

 

骨に関しては全身の至る所に骨折、粉砕骨折、複雑骨折、ヒビがあって。

内臓にも深刻なダメージを負っている。

肺に肋骨が突き刺さり、腎臓や肝臓といった臓器も酷い有様。

 

正直このままどうにかするって手段は取る事が出来ない。

普通に治療している間に死んでしまう。

だけど私にはそんなおじさんを助ける事が出来る。

 

 

この状態じゃ解体作業と同時並行は止めといた方が良いかな。

今更だけどおじさんの命懸かっている状態じゃ好ましくないし。

 

 

まずは此処じゃ何もできないから私の秘密ラボにおじさんを運び込んで医療用ポッドの準備。

ナノマシンを大量に投入して怪我の部位の治療に当たらせる。

ナノマシンでの治療が出来ない、肝臓や腎臓、肺は摘出して、おじさんの細胞から直接内臓を作り出す。

ダメージの無い内臓は一つも無く、総取り換え。

骨や筋肉、血管、神経も使い物にならなくなっていたりするしそこも取り換え。

 

移植って言った方が良さそうなんだけど、元々おじさんのDNAや細胞から作り出したものだから取り換えるって言い方でも間違ってはいない筈。

 

……この際もう全身の骨、筋肉内蔵神経をすべて私が一から作り出して取り換えた方が良さそうだ。ダメージを負った箇所が多すぎてその箇所だけ取り換えると言うのは寧ろ手間が掛かるしおじさんへの負担も大きい。

 

幸いなのは脳がダメージを受けて居ない事。

脳はかなり面倒。

脳以外の身体を全て作ってその器に脳を移植するって方法もあるにはあるんだけどそれだと外道連中とやっている事と大して変わらない気がするから。

それにそれでおじさんが助けられたとしてもおじさんの記憶には私達はあるけど、実際に抱き上げてくれたり撫でてくれたりした手じゃない。

 

 

よし、そうなったら神経、筋肉、血管を作らなきゃ。

万が一の事を考えて内臓とかは培養しておいたんだけど血管や筋肉、神経は培養していない

だから一から培養するんだけど、そうなると結構時間が掛かる。

培養し終えるのに一週間は掛かるし移植にも日数が掛かる。流石にいくらおじさんと言えども連続して数十時間の手術は体力的に耐えられない。

だから分けて行うしかない。

最悪コールドスリープをしちゃえばいいんだけどあれって治療が困難な人間が治療が可能になるまでそのままの状態で人間を冷凍しちゃうものなんだよね。

 

でもおじさんの場合はそれは当て嵌まらない。

だって私が居るし。私なら直せない病気も怪我も無い。

それこそ私が治せない病気が出て来たら本気で人類滅亡の危機だしね。まぁそんな事にはならないだろうけど。色々と対策立てたりしているし。

 

おじさんに関してはラボにある設備で十分事足りる。

そもそも生きて居れば治せない怪我も病気も無いわけだし。

最低限やらなければならない処置を施しておく。

 

うん、これでおじさんが万が一にも死んじゃう事は無くなった。

一応念の為にモニターに心電図諸々のグラフとおじさんを映した投影型ディスプレイを周りに浮かせておく。

これでもし何かあればすぐに知らせが入るようにしておけばこれで完了。

 

「くーちゃん、お父さんの事見ててもらえるかな?一応モニター越しで私も見ているけど念の為にお願いしたいんだけど」

 

「お任せください、お母様。お父様は私がしっかりと見ておきます」

 

くーちゃんにおじさんの様子の見張りを任せて私は一度戻る。

そして解体作業の再開。

 

 

それから十分後、漸くコアへアクセスが可能になった。

見てみればやっぱりコアネットワークからも切り離されているのは驚きだった。

まぁそれのお陰で他の子達に悪影響が出なさそうなのは幸いかな。

 

 

 

 

 

 

 

コアへのアクセスが完了してからは簡単だった。一度コアを停止させてしまえば良いだけだから。

そして漸く自体は収束……とはいかなかった。

どうにもコアを停止させても暫くは動き続けられる様でそれから十分程暴れまわって、そこから段々と動きが鈍くなり、漸く停止に至った。

 

それからVTシステム自体を回収。

分析をして、証拠として保存。

 

また再起動したときはボタン一つでVTシステムを破壊出来るようにして漸く自体は収束した。

 

 

ふぅ……本当に長い一日だったなぁ……後の事はちーちゃんに任せて私はラボに帰ろ……

 

 

でも帰れなかった。

ちーちゃんに掴まってどうせなら最後まで手伝ってくれと言われちゃって。

まぁおじさんの容体も安定してるし、出血も酷かったけどちゃんと止血して輸血もしたから問題無し。

 

それで手伝いをしてあー疲れたとか言って帰ろうとしたら完全にヤバい目になっちゃてるちーちゃんといっちゃん、箒ちゃん、あと金髪の子に肩をがっしり掴まれて逃げるのに時間が掛かった。

 

 

 

 

あ、それとVTシステムに取り込まれちゃった子も色々と見たけど今は眠っているけどダメージが意外と大きかった。

それでも骨が何箇所か折れていたぐらい。あとは心肺機能が若干低下しているぐらい。これもちゃんと治療済み。

早ければ一週間ぐらいで完治しちゃうかな。

ナノマシン様様だね。開発したの私だけど。

おじさんが助けるのが遅かったら本当に危なかったかもだけど。

 

ってことでこの子も私が預かる事になりました。

 

でもやっぱりくーちゃんに似てるんだよねぇ。

というかまんま瓜二つ。

理由が理由だからあんまり言いたくは無いんだけど……

 

 

 

そうだ!どうせこの子ドイツに帰れないだろうしこうなったら、くーちゃんと同じ運命を辿って貰おう!

 

まぁもしかするとおじさんがちょーっとちーちゃん達に物理的に殺されそうになっちゃうかもだけど多分大丈夫!

 

それじゃ色々と根回しとかやっちゃおう!

 

あー、でも精神的なダメージは私でもどうしようもないし、これは本人の強さと周がりがどれだけ支えてあげられるかになっちゃうか……

勿論私も支えるけど。

 

 

そんなこんなで後始末は色々と時間が掛かったけれどなんとか収束するに至った。

怪我人が二人だけで済んだのは幸いだったね。

 

まぁ私を含めて複数人はそれじゃ済まさないけど。

さーて、どうやってお仕置きしてやろうかなー。

 

甘っちょろい事じゃ済ませないよ?

んー……こんな事する連中にコアを任せられないから全部返してもらおうかな……

それだけじゃ終わらないのは確定事項。

 

私が納得してもちーちゃん達が納得しないだろうし。

 

ドイツ死すべしシバくべし。

 

なんて考えているんだろうなぁ……

追いかけられた時の顔と目は本気でやばかった。あれはゾンビの方がまだまだマシだと思う。だってゾンビはあんなに戦闘能力高くない。

 

 

 

 

 

そんな事を考えても仕方が無いしおじさんの看病と治療に専念しますか。

 

早く元気になって貰ってまた何時も通りに戻って貰わないとね。

じゃないと私とおじさんの命が割と本気で危ないし……

 

 

 

 

 

 

ーーーー side out ----

 

 

 

 

 




書きすぎた玄白。

……バカタレェ!
一万字超えとるがな!
つーか二万字突入しちゃってるしぃ!


これなら分割しても良かったかもしれない。
まぁでも後の祭りだしまぁいっか!



例のあの子の束さんとおじさんの呼び方については、作者が暴走した結果です。
そのせいでおじさんが後々酷い目に遭うんですね分かります!ってな感じで未来が見えた人は千里眼の持ち主です。




それと今更だけどこの作品の束さんめっちゃマイルド。
まぁこれも全部おじさんのせいだからね。仕方ないね。




PIC
(Passive Inertial Canceller:パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)

AIC
(Active Inertial Canceller:アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)





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