おじさん、今年で36歳になるんだけれども   作:ジャーマンポテトin納豆

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1か月以上投稿出来なくてすまない……
シャルロットちゃんをどうやってブチ込もうか迷って迷って迷った結果、閑話に逃げたんや。

許してください。


閑話その5 運動会

さてさて皆さま、本日は快晴!雲一つ無い澄み渡る青空!

そして俺の手には華さんお手製のお弁当!レジャーシート!テント!を入れた折り畳み式台車!

 

そして目の前には千冬と束!その周りをわちゃわちゃと走り回り騒ぐ一夏と箒!

本日は千冬と束の学校の運!動!会!

 

残念でした、誰がピクニックだなんて言った!?

 

華さんお手製のお弁当で引っ掛かってやんの!

 

 

 

 

10月と言うもうちょっと涼しくても良いじゃねぇか!毎日毎日暑いんだよ!と切れるこの時期。

 

今日は千冬と束の通う小学校の運動会が開催されるのだ。

しかも今日は気温が馬鹿みたいに暑くなるから熱中症には注意してくださいとかニュースでやってるぐらい。

 

そう言う訳で今日はお仕事はお休みだから朝から華さんが弁当を作ってくれたり、水筒を用意してくれたり、師範が倉庫からレジャーシートやらテントやら何やらを用意してくれて、俺はと言うと活躍するから見てて見ててと大騒ぎする千冬と束の相手。

 

……あれ、俺何にも手伝って無くない?

 

まぁその分今は学校の校庭まで全部の荷物を載せた台車を引いてえっちらおっちらやってんだけど。

 

「兄さん」

 

「んー?」

 

 

わちゃわちゃ騒いであっちへこっちへ走り回る一夏と箒を捕まえて台車の上に乗せる。するとクイクイと袖を引かれて振り向いて見ると千冬が袖を掴んで何かを訴えたいと言う顔をしている。

 

「きょ、今日は頑張るから、見ててほしい……」

 

「当たり前でしょ。それで?千冬は何の競技に出るんだっけか?」

 

「100m走とか、リレーにも出る」

 

「おー、ちゃんと見てるからな、頑張れよー」

 

お兄ちゃん、私今日は頑張るからちゃんと見ててね!ってことらしい。

そんなん態々言わなくても俺ぁいっつも千冬の事ちゃんと見てるじゃないの。最近は少しばかり恥ずかしいのかあんまりくっついて来なくなったけど。それでも何故か反抗期と言う程では無いんだけどね。

 

それにあれよ?布団の中にも潜り込んできているし今更何が恥ずかしいんだろうか。あ、でも涎を垂らすのはちょっと止めて欲しいかなって……Tシャツが千冬の涎でカピカピになるのはなぁ……俺、そんな性癖無いもん。

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん、私の事もちゃんと見ててくれないと駄目だよー?」

 

「はいはい分かってるってば。その前に怪我すんじゃねーぞ」

 

「だいじょーぶ!私に掛かれば全種目一位間違い無しだよ!」

 

「ほぉ、束、その言葉は聞き捨てならんな」

 

「あれぇ?ちーちゃんどーしたの?」

 

「私が居るのにそんな大口叩いて大丈夫なのか?」

 

「あっはっはっは。ちーちゃんこそ面白い事言うねー。ちーちゃんが大天才、細胞レベルでオーバースペックな私に敵う訳無いじゃーん」

 

「あぁん?」

 

「んん?」

 

なんだか二人の間に険悪な感じが漂ってるけどまぁ気にしたら負けだ。

 

「二人共早く学校行った方が良いんじゃねぇの?遅刻するぞ」

 

「……それじゃぁ兄さん、また学校で会おう」

 

「はいよ。昼飯ん時にな。レジャーシートとテント張って待ってるぜ」

 

「また後でねー!」

 

「おーう」

 

二人は校舎に向けて走っていく。

さて、それじゃ俺は校庭の良い場所にレジャーシートとテントを建てに行きますかね。

 

因みに千冬の通う学校は何故か校庭が二つある。一つは学校と併設されていてもう一つは道を挟んだ向こう側にあるのだがこの二つ目の校庭がまぁデカい事デカい事。併設されている方の二つ分はあるんじゃないかと言うぐらいに大きい。

 

休日になれば近所の人達にも開放していて学校の児童やら体を動かすことが好きなおじさん達やらが思い思いに過ごしている。

千冬曰く、体育なんかで使う事が多いらしく、実際に持久走大会なんかはそこでやるし今日の運動会もその校庭だ。

 

併設されている方は遠いところから来ている保護者の自転車置き場として開放していて多分今頃は我先にと場所取りをしている事だろう。

 

「はーい、一夏、箒。シートを敷くお手伝いしてくれるかな?」

 

「やる!」

 

「わたしも!」

 

「偉い!そんじゃ広げるから端っこ持っててな」

 

「うん!」

 

校庭に着いて、俺は台車からシートを取り出し一夏と箒に手伝ってもらいながら敷いていく。校庭の端っこから丁度良さそうな大きさの石を持って来て四角にドンと置いたらはい完成。

 

「お手伝いあんがとさん。そいじゃちょっとそこで待っててな。どっかに行っちゃだめだぜ?」

 

「それもてつだう!」

 

「やらしてー!」

 

「危ないからダメ。もうちょっと大きくなったらな」

 

「んー!」

 

「むー!」

 

シートの上にテントを張ろうとすると一夏と箒も手伝う、やらせろと大合唱。

駄目だと言えば頬を膨らませてズボンを引っ張り訴えてくる。

 

が!やらせません!

 

挟んだり刺さったりするとあぶねぇんだから駄目なもんは駄目。

ニ人を抱き上げて台車に乗せておく。二人はブーブーと文句たらたらだが、お兄ちゃんは今回は心を鬼にするのだよ。

 

「そこで大人しく待っててなー」

 

「「はーい……」」

 

 

 

「よっしゃ完成」

 

十数分後、最後に杭を打ち込んで完成したテント。

ウム、我ながら良い出来だ。組み立てただけだけど。

そんじゃ一夏と箒に構ってやらんと。

 

「よーし、一夏、箒、終わったぞー……あれ?いない?」

 

振り向いて見ると台車に乗せていたはずの二人が居ない。

あれぇ!?どこ行っちゃったの!?

 

「いちかー?ほうきー?どこ行ったー?」

 

「お、佐々木さんお久しぶりです」

 

「ん?あぁ、吉田さん。お久しぶりです」

 

俺に声を掛けてきたのは千冬と同じクラスの子のお父さん。

どうやら彼も朝早くから場所取りの様だ。

 

「どうしたんです?大声出して」

 

「いやぁ、一夏と箒、小さい方の妹達なんですけど二人が居なくなりまして……」

 

「え?二人なら校舎に入っていきましたけど」

 

「えぇ!?本当ですか?ありがとうございます!」

 

「いやいや、気にしないで下さい。それじゃまた」

 

「はい」

 

どうやら彼によると二人は校舎に入って行ったらしい。

恐らくは構ってくれない、手伝わせてくれない俺では無くお姉ちゃん達の所に行こうと言う事らしい。

 

いやいや、お二人さん。

お兄ちゃんそこで大人しく待っててねと言ったじゃん。しかもはーいって答えたじゃん!

 

君達本当に元気だね!?まぁ取り敢えず急いで迎えに行かないと。

多分千冬と束のクラスにいる筈だからな。探し回る羽目にはなら無い筈だ。多分、きっと、恐らく……

 

 

 

 

二人の教室に向かってまだ先生が来ていないことを確認してから扉を開ける。

俺の顔を見て用件は直ぐに分かったようで一夏と箒の手を引いて来た。

 

「兄さん、二人ならここにいるぞ」

 

「やっぱりか!二人共勝手にどっかに行ったら駄目だろ」

 

「だっておにいちゃんあそんでくれなかったんだもん」

 

「待ってて、って言ったら返事したじゃん?」

 

二人はそう俺に言われるとそうだけど……と言う顔をした。

 

「今度はもう勝手にどこかに行かない事。約束だ。良いか?」

 

「「はーい」」

 

なんだかんだで返事をする二人はいつもとは格好が違う千冬と束を見て騒いでいる。君ら本当に元気だね。

 

すると俺の所に来て束は何故かポーズを決めながら体操着の感想を聞いてくる。あのね、お兄ちゃんにはそういう趣味は無いんだよー……

 

「お兄ちゃん、どおどお?体操着着た束さん可愛いでしょ!」

 

「うん可愛い可愛い。ほら一夏、箒もう行くぞ」

 

「でしょー?いやー、私ってば何着ても似合っちゃうからねー!」

 

くねくねしながら自画自賛をしている束は放置。

自分の世界に入っちゃってるから声を掛けてもしょうがない。好きにさせとこう。

 

一夏と箒は千冬の手を放さずまだここに居たいと文句を言ってくる。

 

「えー」

 

「もうちょっとー」

 

「駄目です。あとでお姉ちゃん達の格好良い所見たかったらもう行かないと。お兄ちゃんだけ見ちゃおうかなー」

 

が、チョロいもんで軽く別の物で釣るとアッサリそっちに食いつく。

おいおい、本当に君達大丈夫かい?お兄ちゃんは簡単に誘拐とかされちゃいそうで心配だよ。

 

「じゃぁいく!」

 

「ばいばいちふゆねえ!」

 

「あぁ、また後でな」

 

「二人共また後でねー」

 

「千冬、束、頑張れよー」

 

一夏と箒を抱き上げて教室を後にする。

レジャーシートの所に戻ると既に師範と華さん、診療所の先生までもがそこにいた。

 

それぞれ、師範は無地の短パン半袖。華さんはお出かけ用の白のワンピースを着こんでいる。

先生はどうしてだかアロハシャツにカーキの短パン、麦わら帽子にサンダルと言う格好。

何処のアニメの何仙人だよ、と思う格好。サングラスでは無く何時もの眼鏡を掛けているのが少し再現度が足りない。惜しいッ!

 

 

 

 

「お、来たな。何処に行ってた?」

 

「いやぁ、一夏と箒がテント張ってる間に千冬と束の所に勝手に行っちゃいまして」

 

「迎えに行ってたってことか」

 

「その通りです」

 

「相変わらず二人は元気だな」

 

二人は先生にひょいと抱き上げられ膝の上に乗せられる。

因みに先生がここにいるのは今日一日、万が一急患が生徒などに出た時に対応する為だそうで、既に学校の先生方への挨拶を済ませて時間が来るまでここにいるらしい。時間が来たら救護テントに行くそうだ。まぁ昼飯の時はこっちに来るらしいけど。

 

相変わらずかなりの年齢なのに元気溌剌と言う言葉がそっくりそのまま当て嵌まるぐらいだ。と言うか朝から煎餅を齧るってすげぇなこの人。

 

「いや、二人を任せちゃって悪かったね」

 

「いえ、普段お世話になっていますからこれぐらいは」

 

師範と華さんは朝早くから起きて弁当を作ってくれて、その後に境内の掃除や社の清掃をしていた。それを考えれば楽なもんだ。

 

六人でわいわいやっていると、段々と周りに親御さん達がやってきてシートを引いたりテントを張ったりとやり始めた。

 

それからさらに暫くすると入場式が始まり運動会の開会式、準備体操などが始まった。

 

千冬は身長が高い方なので背の順で並ぶと後ろの方だ。

大して束は普通ぐらいなので真ん中辺り。

 

探すとすぐに見つかる。と言うか滅茶苦茶目立つ。

師範はそんな二人をビデオカメラにがっちり収めている。

 

ぞれらが終わってから一番最初の競技はクラス対抗リレー。

 

と言うか午前中はリレー系の種目ばっかりで最後の方に1、2、3年生のダンスかなんかが出てくる。午後になると先ず一番初めに4年生がソーラン節をやるらしく。5年生は何故か4年生がソーラン節なのに1、2、3年生と変わらずダンスやるんだって。

あとは6年生が組体操をやったりするぐらいか。

 

あ、そう言えば俺も出場する競技あるんだった。

PTAが主催で行うリレーで、その名も「保護者と先生、ガチンコリレーバトル!」

 

……もう何も言わないでくれ。

 

因みに師範も篠ノ之家として参加する。

珍しく和装では無く身軽な短パン半袖と言ういで立ちの師範はそういう意味があるのだ。

 

と言うか今日は暑いからね、何時もの和装じゃマジで熱中症待った無しですよ、本当に。まぁ師範と華さんならなんてことは無さそうにケロッとしてそうだけどな、マジぶっ飛んでるよこの人達。

流石に先生は無理だと思うけどなんだろうか、多分平気なんじゃないかと思ってしまう自分が居る。

 

まぁともかくリレーも順番が進んで今はそろそろアンカーになると言う所だ。

束がアンカーらしく、その前が千冬。アンカーの束は一人人数が少ないクラスだから丸々一周走る。

 

今、千冬が応援席まで出てきた俺をしり目に走り去っていった。相変わらず小学生なのか疑うぐらい足が速いな。

 

5クラスある内、4位だったのにあっさりと2位まで上り詰めた。

うーん、我が妹はチート生物なんじゃないだろうか。

 

そして千冬から束に渡されたバトンは、とんでもない速度で束と共にぐんぐんと俺に近づいてくる。

ついでに一位になった。やっぱし千冬も束も小学生レベルじゃないって。今でもオリンピックに出れば全種目で新記録を叩き出しながら金メダルぐらい余裕で取れそう。

 

「おにいちゃーん!見てるー!?」

 

「見てるよー!だからちゃんと前を向いて走りなさーい!」

 

手をブンブン振って俺にアピールしてくる束は、何故かバック走のまま走っていく。にも関わらず速度が変わらないとはこれ如何に。

 

束が一位でゴールテープを切ると歓声が上がる。

 

束は俺に向かって手をブンブンまた振っている。

少しはお父さんにもやってあげなさいよ。少ししょぼくれちゃってるじゃん。

 

あ、ついでと言わんばかりに師範の方にも手を振り始めた。

おぉ……めっちゃ笑顔になったな師範。

 

千冬は少しばかり恥ずかしいのか小さく手を振るだけだが手を振り返してやるとめちゃめちゃ嬉しそうな顔してる。

おぉ、おぉ。学校じゃいつもどんな顔と態度してんのか、周りの同級生達も驚いてんじゃん。

 

……変な虫が付かない様にしなければ。

 

更に障害物競争やらなんやらが終わっていく。

そして漸く午前中が終わり、昼飯時になった。

 

千冬と束を迎えに行く。レジャーシートの場所を教えていなかったからね。

生徒たちが座る席の出入り口で待っていると二人が出てくる。

 

「あ!お兄ちゃん!」

 

「兄さん!」

 

俺を見つけると駆けだして飛び付いてくる。

それを受け止めて、ぴょんぴょんと周りを飛び跳ねる束としっかり裾をキープしながら何かを目で訴えてくる千冬。

こいつら元気良いな。

 

「午前中お疲れさん」

 

「ちゃんと見てた?凄かったでしょー!」

 

「俺一番前で見てたじゃん。手も振ったじゃん」

 

「知ってるー。えへへ、手繋いでいい?」

 

「好きにしろって。何時もは何にも、断り無く攀じ登ってきたりすんじゃん」

 

「そんなことないよー」

 

「むぅ……兄さん、私も頑張ったんだぞ」

 

「ん?あぁそりゃ知ってるって。ちゃんと見てたからな。手も振ったじゃん?」

 

「そうだけど……そうじゃなくて……」

 

何故か少し不満そうな千冬。

それでも束とは反対の俺の手をがっちり握ってくる。

 

そんな二人を連れてシートの所に向かうと、そこには既に一夏と箒のお腹空いたコールを抑えられなかったのか五人は食べ始めていた。

先生も戻ってきている。

 

「あー!先に食べてるー!」

 

「いや、一夏と箒がお腹空いたと凄くてな。先に食わせたら儂らも我慢出来なくて」

 

「おじいちゃんズルいよー。まぁいいや、私も食べよーっと」

 

「束、その前にちゃんと手を拭きなさい」

 

「分かってるってば」

 

束は靴を脱いでそそくさと手を拭いて食べ始めた。

俺と千冬も食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼飯を食べ終わり、少しばかり休憩。

千冬と束はシートで一緒に座っている。箒は何処からか木の枝を持って来て地面に絵を描き始め、一夏は午前中に遊び疲れたのか俺の膝の上で寝始めた。

 

『「保護者と先生、ガチンコリレーバトル!」に参加する保護者の方は入場門に集合してください』

 

ぬ?どうやら集合が掛かったようだ。

 

「集合してくれって言われちゃったから行ってくるわ」

 

「「「いってらっしゃーい」」」

 

「それじゃ僕も行かないとね。洋介君と行ってくるよ」

 

「はーい、行ってらっしゃい」

 

「華さん、一夏の事お願いします」

 

「任せて。頑張って一位取って来てね」

 

「ははは、まぁ怪我をしない程度には全力を出します」

 

一夏を華さんに預けて入場門に師範と共に向かう。

この競技、基本は組対抗なのだが。因みに全学年5クラスずつなので、赤、白、黄、紫、青という振り分けになっている。と言うか何故紫があって緑が無いのか、と言う疑問はあるがまぁ大人の事情という奴だろう。

千冬と束は黄なので3組と言う事になる。

 

このクラスの担任、男なのだが何と言うかこう、死にそう、という言葉がそっくりそのまま当て嵌まる。

身長は185cm程とかなり高身長なのだが、色白でヒョロヒョロ、失礼だが本当に生きているのかと思ってしまうぐらい生気を感じられない。

 

なのにリレーに参加すると言う、正直マジで大丈夫かと思ってしまうぐらいなのだが本人は大丈夫だ、と言っているし問題無いとは思う……

まぁ、最悪ぶっ倒れても先生がいるし大丈夫だろう。

 

 

「いやぁ、こんな大勢の前で何かをやるのは久しぶりだね。緊張するよ」

 

「そうなんですか?剣道の講師としてあちこち行ったりしてたんじゃ?」

 

「行っているとしても精々十数人かもうちょっとと言うぐらいの程度だよ。こんなに多いのは、かなり若い頃に出た大会ぐらいかな?」

 

「そうなんですか。まぁ俺もこれぐらいの年齢になってからは初めてなんで滅茶苦茶緊張しますね」

 

二人で歩きながら入場門を目指す。

既に入場門付近には参加する保護者や先生方が集まっていた。

 

名簿にチェックを入れるからと、点呼をして全員が揃っていることを確認すると説明が始まった。

ルールとしては普通のリレーと変わらず走るだけだ。

距離は一人一周、アンカーだけ二周走ると言うものだ。

 

まぁこれならば特に問題無く出来る。

と言うかアンカーって俺なんだよな。めちゃめちゃ目立つやんけ。

 

保護者会の時にまさかの師範から推薦を受けてしまって、説得されては頷かない訳には行かない。と言うか師範がやりゃ良かったんじゃ?と思ったが後々、陰で師範に、

 

「いやぁ、束に頼まれちゃってね。お兄ちゃんをアンカーにしてって」

 

まさかの束が暗躍していやがった。

まぁそこまで言われてしまってはしょうがない。千冬にも頑張ってくれって言われちゃったしなぁ!

 

そして入場となった。

駆け足でスタート地点まで行くと、既に周りのお父さんお母さんは息を切らしている人が何人か……大丈夫か?

 

先生方を合わせると各組20人ずつ走ることになっている。

 

『それでは午後の第一種目、「保護者と先生、ガチンコリレーバトル!」を始めます!参加される保護者の皆さまや、校長、教頭はくれぐれも倒れない様に気を付けてください!』

 

なんていう放送の後、第一走者がスタートラインに立つと、パーン!と音が鳴る。

 

一斉に走り出した彼らは必死に一周を走り第二走者へバトンを渡す。

因みにうちの組は禿散らかした頭の教頭だ。

 

そして進んで、第十九走者の師範。

 

「洋介君、それじゃ行ってくるよ」

 

「頑張ってください」

 

「うん」

 

そう言って渡されたバトンを握って走る師範は、滅茶苦茶早い。

最下位だったのがあっさりと一位になり、直ぐに俺にバトンが渡って来る。

 

「最後任せた!」

 

「任されました!」

 

受け取ってすぐに走り出す。

 

「おにいちゃーん!」

 

「兄さん頑張れ!」

 

千冬と束は応援席から手をブンブンと振ってこれ見よがしに大声で応援してくる。

保護者応援席の方に近づけば華さんに抱き上げられた一夏と箒がキャーキャー大騒ぎして俺を呼ぶ。

 

「おにいちゃんがはしってるー!」

 

「おんそくこえないのー!?」

 

華さんに抱き抱えられ、両手を大きく広げてブンブンと振りながら大声でキャッキャとはしゃぐ一夏と箒。

しかしな?音速超えろとか一夏よ、無茶を言うな。

一周、二周と走り終わり、当然元々の差もあり一位でゴールした。

 

うーん、何と言うかあんまり疲れないな。普段走っている距離はもっと長いし全力で走るとなるともっと距離が長いからか?

 

「凄いですねー!」

 

「いやいや、そんなことは」

 

「全然息が切れてないじゃないですか」

 

周りの親御さんがわいわい話しかけてくるが、退場となる。

この後すぐに千冬と束の五年生のダンスがある筈だ。

 

その後。

師範と共にレジャーシートに戻ると、ちびっ子二人が凄い凄いと周りをぐるぐる駆け回る。

 

それをひょいと捕まえて抱き上げる。

 

「おにいちゃんとおとうさんはやかった!」

 

「おにいちゃんすごー!」

 

「本当、二人とも凄かったわ」

 

一夏と箒、華さんが口々にそう褒めてくる。

師範と二人して嬉しいやら少し恥ずかしいやらで顔を見合わせて笑いあう。

 

その後、放送で5年生のダンスが始まると流れた。

師範と共にスクッと立ち上がりシートなんかで座っちゃいられない!と、ビデオカメラ片手に最前線へ向かう。

 

いやだって、あの小学生なのにも関わらずやけに落ち着いてクールな千冬が同級生に混じって踊るんだぞ!?絶対に見なきゃ駄目だろ!ビデオカメラに収めなきゃ駄目だろ!

 

あのただでさえ可愛い束が踊り狂うんだぞ!?そんなんどうやったって見逃せる筈がある訳無い!

 

あ、因みに俺は千冬の撮影のを担当し、師範が束を担当する。

後で交換すると同盟を結んだ仲だ。いや、既に戦友だと言っても過言ではないだろう。何故ならばその顔は特訓をする時や初詣に備えている時なんかよりずっと勇ましい顔をしている。

 

そして遂に始まる!

 

 

 

あの千冬が!めっちゃハイテンションな曲に合わせて踊ってる!

あぁもう可愛い!ハイ可愛い!

 

「千冬ー!もっと勢いよく可愛く!笑顔で!」

 

その俺の声が聞こえたのか一瞬こっちを見てキッ!っと睨まれたがヤケクソなのかめっちゃキラキラな笑顔を振り撒いた。

 

「流石千冬ッ!サービス精神旺盛!めっちゃ可愛い!」

 

褒めちぎると恥ずかしそうに顔を赤くする。

普段そんな顔を見れないからもうお兄ちゃん的にはテンションマックス。

 

更に束は、

 

「おにいちゃーん!ちーちゃんだけじゃなくて私も見てよー!」

 

こんなに必死に踊っている中で流石は束、余裕である。勿論そんな束の希望に応えるべく。

 

「束ー!良いぞ!もっと全力で!」

 

「承りー!!」

 

テンション上がった束はもうキレッキレな踊りと満面の笑みを振り撒く。

いやもう、これは最高ですわ。

そしてそんな束に対抗してか千冬もぶちかます。

 

そんな二人を見て俺は師範と共にテンションを爆上げしながらビデオカメラを回す。

 

 

 

 

そして終わるダンス。

そこには何故か稽古や特訓の時以上に息を切らして最高の笑みを浮かべる俺と師範が居たとさ。

 

 

 

 

 

その後は師範の家にお呼ばれして一日お疲れさまでしたと言う事で普段よりも豪華な夕食と、千冬と束に一夏と箒と共に風呂に入りそのままお泊りさせてもらった。

 

次の日、師範と共に映像を交換してテレビのビデオデッキで観賞会を行った。

その時、千冬は恥ずかしくてしょうがなかったのか顔を手で覆って耳まで真っ赤っかにしていた。

 

束は相変わらずテンション高めで、

 

「私ってばやっぱり可愛いなー!」

 

とか言っていた。

最高の運動会でしたと、ここに記しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー 13年後、IS学園にて ----

 

 

 

 

 

 

 

「いやー……やっぱりこの頃の千冬は可愛かったなー」

 

「織斑先生の子供の頃って今と全然違うのですね」

 

「おうよ。今も十分可愛いがな、昔は子供ってのもあってマシマシだったんだぜ」

 

「千冬さんが満面の笑み浮かべる姿って第一回モンド・グロッソの優勝インタビューぐらいしか見た事無い……常にずっと鉄面皮で育って来たのかと……」

 

「いやいや、子供の頃は結構、と言うかしょっちゅう笑ってたんだぞ?めちゃ可愛いかった」

 

俺の部屋で千冬の小学生の頃の運動会のビデオ鑑賞会を実施した俺は、皆にめっちゃ自慢して最高の気分だった。

 

それぞれが初めて見る千冬の表情や姿に驚きの声を上げて画面に見入る。

俺も久しぶりに見てテンション上がってた。

 

 

 

 

「……おい」

 

 

 

 

だから千冬が後ろに立ってる事に気が付かなかったんだなこれが。

恐ろしい声を上げながら腕を組んで目を光らせて仁王立ち。

 

周りにいた皆はそそくさと何処かへ逃げやがったコンチクショウ。俺を生贄にしやがったな!?

 

「兄さん、何をやっていたんだ?ん?」

 

 

 

「いや……あの……その……」

 

 

 

 

「随分と楽しそうだったじゃないか」

 

 

 

 

「あ、いや、そ、そんなことは……」

 

 

 

 

「ンjrfね;伊wrンlgjねぁflwじぇrv;wjfんヴn‘*:。、・!?!?!?!?!」

 

 

 

 

振り向くとその綺麗なお顔を真っ赤にしてブチ切れた千冬が怒鳴り声をあげていた。

 

後々聞くと、怒鳴り声は完全防音のIS学園の部屋をぶち抜いて寮全体に響き渡っていたとか。そしてその後に見ていた全員の所に行って鬼の形相で口止めをして回ったらしい。

 

 

俺は散々怒鳴られた後、今の私は可愛げが無いんだろう、とか言って拗ねた千冬のご機嫌取りに丸々3日間必死になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 





最後の奴はただ単純に作者が超恥ずかしがった千冬を書きたかっただけなんだ。許してくれ。






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