おじさん、今年で36歳になるんだけれども   作:ジャーマンポテトin納豆

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はい、束さんとムフフな展開を期待しちゃった諸君の為にちょっとばかりサービスしてやろう、と優しい作者が思って書いた次第です。

実際の書いた経緯って違うんですよね。
いやね?本当は書かなくてもいいかなー、とは思ったんですよ。
だけど前話であんな終わり方しちゃったしなぁ、書かないやり方もあるにはあるけど書いた方が良いよなぁ、ってことで書きました。




大丈夫、おじさんがただ良い思いするだけだとと思ったら大間違い。絶対に次に来るのは読者の皆さんが腹抱えて笑う展開だから。(笑えるかどうかは知らんけども)


ヤンデレは無いよ。

大事な事だからもう一回言うよ。

ヤンデレは無いよ。











お兄ちゃんは、妹達に慕われて嬉しいよ……

ふと、俺のすぐ近くでごそごそと言う音の少し後に体の上に圧し掛かってくる圧力を感じた。

 

「んが……?」

 

もしかするとラウラか?と思って薄っすら目を開けてみる。

しかし真っ暗な部屋の中じゃ窓から差し込む少しばかりの月明かりが頼りだ。

寝ぼけ眼を使ってどうにかしてラウラを見ようとするが上手く見えない。

 

漸く見えた始めた輪郭。だが、どうやらラウラとはその輪郭が大きく違っていた。

全体的に大きい。今更だが体重、そして身長などなど。

 

特に違いが大きいのは、女性を象徴する男なら誰もが憧れるだろう胸部。

ラウラの胸はお世辞にもどころか、極小。絶壁とまでは行かないが見た目小学生なのに小学生以下。鈴ですらまだあるのにラウラはそれ以下。どうやっても見間違える筈が無い。

 

しかも今俺の目の前にあるものは、少なくとも俺が見てきた中でトップクラス。一、二を争うレベルの大きさの持ち主。

 

そうなると、そんなデカい物をお持ちの女性は俺の知り合いには3人しかいない。

 

束、箒、山田先生。

 

この三択しかない。ぶっちゃけ、鈴とラウラを除く全員が平均を大幅に超える大きさを持っているがこの三強は異次元クラス。

 

すると、丁度月明かりが強く差し込み始めた。

 

そして、ようやく見え始めた目に映ったのは特徴的な薄紫、と言うよりはマゼンダ色よりも少し濃い色の髪。いつものメカウサミミは見えないが。

前髪が垂れて上手く見えないが少しばかり、ラウラとはまた違った赤色の瞳。

 

これだけ条件が揃っていればもう、一人しかいない。

 

「……束、何してんだ」

 

「ッ!?お、おじさん、起きたんだ……」

 

「そりゃ、大人一人に乗られちゃぁな」

 

「むっ、それは私が太ってると言いたいのかな?」

 

束は、薄暗くて分からないが少しばかり怒ったように言う。

そんなことは無いと退かすために腹の辺りを掴んで持ち上げようとした。

 

「んひゃ……」

 

変な声を漏らした束は少し身をよじった。

まぁ、いきなり掴まれたら驚くか。

 

「いやいや、こんだけ細い腹して……ん……?なんか感触生々しくない?」

 

「お、おじさん、その、触ってくれるのは嬉しいんだけどもうちょっと優しく……」

 

そんで、改めて見てみた。

と言うかさっきから俺の腰の辺りに座っている束の柔らかいお尻がむにゅぅ……っと押し潰されて物凄く幸福な感触が男なアレにダイレクトヒットしてて色々と不味い。

 

 

おうふぅ、お尻の感触ががががが……

 

 

いやいや、そんな事は全部放って置いてだ。

いや、放って置けない。めちゃ不味い。

 

だけどそれよりも、それ以上にもっとヤバイことがある。

月明かりがしっかりと入ってくると、よーく分かった。束、服を一切着ていない。下着すら身に着けていない。生まれた姿そのまま。

 

だからだから胸がいつもよりやたらと視覚的にも色々と生生しいのか……

一人納得してしまったが、段々と訳が分からず混乱の極みになり始める我が優秀な脳みそ。いや、こういう時こそ落ち着いてだな。

 

……落ち着いていられる訳ねぇだろ!?え!?何この状況!?なんで俺ってば素っ裸の束に圧し掛かられて跨がれてんの!?

 

と言うか束、なんでそんなに顔赤いの!?お前それ絶対に風呂上りとかじゃないだろ!?酔ったって訳でもなさそうだし!本当に何があったんだよ!?

 

「なぁ、束」

 

「ん?」

 

「なんでお前素っ裸で俺の上に乗ってんの?」

 

出来るだけ、平静にそう聞いた。

うん、何でその瞬間に顔を伏せて俺のお腹の辺りの服をキュッと握るのかな?

 

「……おじさん、私はね?」

 

「おう」

 

「おじさんの事が大好き」

 

「知ってる」

 

「違うよ、おじさんが言ってるのは妹として、兄としての話でしょ?」

 

「当たり前だろ。それ以外に何がある」

 

「……おじさんさ、私の気持ち気付いてたでしょ?」

 

「さぁ、何のことだか俺には分からんね」

 

束にそう詰め寄られて、しらばっくれる。

いや、確かに束が俺に向けてきている好意は兄貴に向けるそれとは全然違うな、と結構前から気付いてはいた。

 

だけど知らないフリをしていた。

いやだって、そうなるだろ!?お前、考えてみろよ?

妹の友人で、途中から妹そのものだと思って接してきた。当然向こうだってそう接してきてた。だがある日いきなりその態度が百八十度どころか三百六十度を何百周も吹っ飛ばして変わったんだぞ!?

 

誰だって戸惑うに決まってんだろ!

 

しかも師範や華さんの前ですら当たり前の様にそうして接してきて、ご両親は止める訳でも無く微笑ましい、とでも言わんばかり、それもカップルか何かを見ているような目で見て来るんだからどうすりゃいいのか分からねぇよ!

 

幾ら止めても全く怯まないんだぞ?しかも日に日に増す攻撃。

 

何時からだったか、考えるのが面倒……じゃないじゃない。嫌になって、

 

「あ、こいつはそういう生き物なんだな」

 

って現実から逃げた。

だってそうじゃなきゃやってられねぇよ。

普段通り妹の様に接してやれるか。

 

言っとくが束だけじゃねぇぞ?千冬もそんな感じなんだ、まともにしてたらやっていられるか。しかも最近は一夏まで加わってきたんだ。それにここ最近箒も怪しいと来たもんだから普通の精神をしている俺からすれば色々と酷いもんだ。

 

輪にかけてセシリア辺りも段々怪しくなってきてるのだからそりゃ現実から目を逸らしたくもなる。

 

それに、何かあれば傷付くのは俺では無く絶対に束達だ。

そんなこと、出来るわけがない。

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だ。断言出来る。おじさんは私の、私だけじゃなくてちーちゃんやいっちゃん、箒ちゃんの気持ちにも気付いてる。それどころか他の子も」

 

「……さぁな」

 

俺は、何も言い返せなくなって顔を逸らす。

全く、嘘の一つも吐けないとは情けない。何時もならからかうための冗談やらなんやらがポンポン出て来るって言うのによ。

 

「おじさん、ちゃんと聞いて」

 

束はそう言って背けた俺の顔を両手でしっかりと掴んで正面を見させる。

じっ、っと俺の目だけを見つめてくる。

その顔は、普段とは全く違う。覚悟を決めているものだ。

 

これは、ちゃんと聞いてやらなきゃならんな……

よし、腹を括ろう。この際、ここまで追い詰められているのは今の今まで逃げていた自分のせいだからな。

 

「分かった。ちゃんと聞く」

 

俺がそう言うと束は、一度俯いて深呼吸を何度かすると再び顔を上げて明らかにさっきよりもずっと赤い顔をしながらしかしはっきりとした声で言った。

 

 

「佐々木洋介さん、私は貴方の事を一人の男性として愛しています」

 

 

……まさか告白をぶっ飛ばして愛してます宣言されるとは思っても居なかった。

しかし、愛してます、ねぇ。生まれてこの方、自分から告白したこともされたことも無かった。

 

中高の学生時代は自分には縁が無いと親友と遊ぶことの方が絶対的に多かった。

実際、俺はクラスの中の立ち位置は悪いと言う訳じゃない。

 

コミュ障とかそう言う訳でもないし、寧ろ良い方であったと自分では思っている。

恐らく運動部に所属していて、はっきり言ってしまえば俺は悪さとかでは無く、割とやらかす事が多かったから笑いの種になる様な話題を不本意ながらしょっちゅう提供していたのも要因だろう。

そう言うのもあって割と有名と言えば有名だった。

 

数学が苦手過ぎて毎回赤点ばかりで自力で回避出来た試が無いのも理由か。

理系、と言う訳では無く数学が苦手だった。英語もダメダメだったしな。

 

分からなかったらローマ字で書けば何とかなる!フハハハハ、俺って超天才!

 

 

と本気で信じているぐらい。

なんなら十点取れたら奇跡、だと大喜び。

二十点なんて点数を取ったらそれこそ全ての運を使い切ったと意気消沈するぐらい。

 

正直、学年一の馬鹿と思われていてもおかしくないぐらい。

しかし何でだろうな?毎回毎回テスト勉強はやってたんだが、結果は振るわず。

お世辞にも俺の通っていた学校は頭が良いとは言えない。寧ろおバカな方だとは思う。いや、それは関係無いか。

事実、かなり有名な大学やらなんやらに進む頭良い奴は居たし。

という事は俺がただ単に馬鹿だったという事だ。

 

 

まぁ、そんな訳で女子とも親しくないと言う訳では無かった。

そう言う対象で見れる存在が居なかった事と、俺にその気が無かったと言うのもある。

 

ぶっちゃけ面倒だった、と言うのもある。

金は掛かるし、時間は取られるしで自分の自由が無くなる。

 

そう考えていたのだ。

そんなことを考えながら高校を卒業して就職したら、忙しくてそれどころじゃなくなった。

そんな内に千冬と一夏と一緒に暮らし始めて最初は父親を目指したがどうにも駄目だった。だから兄貴として育ててやろう、少なくとも進学やらで一々気を使われないぐらいには必死に働いて金を溜めといてやろう、と思った。

 

そしたら妹優先になるのは仕方が無い。

おまけに一夏はまだ赤ん坊と来たもんだ。千冬だって一緒に暮らし始めて小学校に編入させた時は小学二年生。

どうやったって面倒を見るには小さい。

 

それに、千冬にお姉ちゃんだからと一夏を任せるのは俺が引き取った意味が無いじゃないか。

だから仕事を必死に終わらせて家に帰って、三人分の飯を作って洗濯をして風呂に入れて、洗濯ものを乾して。

 

自分の事は二の次三の次なんて当たり前。

確かに辛いと思う事もあった。子育てなんて初めてでどうやればいいのか分からないし、周りには弱みを見せられる年上はどこにも居ない。

先生は医者としての仕事があるから泣き付いたら迷惑だろうし、師範と華さんと出会うのはそれから二、三年後の話だ。

そりゃ自分で必死に調べまくったよ。

色々と千冬と一夏関係でも、そうじゃなくて仕事やらでも色々と辛いこともあった。

 

だけどそれ以上に二人から貰えるものがそれ以上に大切で大きかったから今の今までやって来れた。

はっきり言えば、あの時はまだ二十代だったから俺は、

 

「二人が立派に成長して大人になって、良い人を見つけて幸せになったと大声で言えるぐらいになったら俺も一度ぐらいは恋愛をしてみても良いのかもしれない」

 

なんて考えたこともあった。

だけどそんな考えは日々の忙しさと楽しさであっさりと何処かに吹き飛ばされて、日々を送っていた。

 

そうしたらどうだ、気が付けば千冬はIS操縦者として世界に立って戦ったし、その後もIS学園に教師として就職してくれた。中学高校と上がって俺の負担を減らしたいって料理こそ出来ないがそれ以外の家事なんかは一夏と分担してやってくれた。

 

一夏もまだ高校一年生とは言え十分過ぎるぐらいにしっかりとしてくれているし、一夏も大きくなってからは俺の負担を減らしたいって千冬と一緒に家事炊事を分担してやってくれる。

 

俺みたいなのが、と心配になった事は何度もあったが、それがまさかこんなにしっかりと、育ってくれているなんて思っても居なかった。

正直、年に一回か二回しか参加しない飲み会の席で仲の良い同僚相手に自慢しながら何度か嬉しくて泣いたぐらいだ。

 

気が付けば、俺は三十路も半ば。四捨五入すればもう四十歳。

ここまで来て俺は、

 

「恋愛はしなくても良いか。多分、今までの生活で十分幸せは味わった。それこそ一生分、来世分ぐらいの分じゃ足りないぐらいには。だから、もういいか」

 

そう思っていた。

まぁ、偶にどころか頻繁にその妹達に獲物として見られててヒエッ……となったことはある。

 

どうにかこうにか千冬が大人になって、後は一夏だけ。

そう思っていたら千冬は兄離れどころか今まで以上に引っ付いてくるし一夏だってそうだ。年々酷くなってきている。

 

本気で兄離れプランを実行しようか、とか考えて、だけど嫌われるのは嫌だなー……

 

と本気で悩んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな俺が、今まさにその妹から愛の告白をされている。

 

 

確かに気付いていたとはいえ、これだけで十分天変地異が起きたぐらいに衝撃が走った。

だってそりゃ、今はそうだけどその内俺なんか目もくれなくなってどっかで良い奴を見つけて……とか本気で思ってたぐらいだ。

 

まさか愛してますなんて言われるとは!?

 

と言うのが正直な感想だ。

誰だって、妹から告白をすっ飛ばして愛してますなんてプロポーズ紛いみたいなことを言われるとは予想もしていないし考えたこともない筈だ。

 

……一部の性癖の方々を除いて。

 

 

 

 

 

 

で、俺にそんな事をしてきた束はと言うと。

 

「う”ー”……言っちゃたよー……これで振られたら今までの関係に戻れなくなっちゃう……」

 

とか耳やらおでこ、髪の隙間から見える背中まで茹蛸の様に真っ赤にして俺の胸元辺りに倒れてきている。

 

俺の身体の上で全裸のままブツブツ言いながらモゾモゾしている束。

おい、俺の身体の上で素っ裸でモゾモゾ悶えるな。お前の魅力的過ぎるお身体、特に胸とか太ももとかここでは言う事が憚られる女性な部分とかがそりゃもうゴリッゴリ当たってる訳で。

だけども、束の事だからこれだけ恥ずかしがっているけど、

 

本当はわざと当ててみたはいいものの、やっぱり超恥ずかしいよ!わー!?うわー!?どうしようどうしよう!?おじさん気付いてるよね!?気づいてない方がおかしいよね!?あーもーどうしよう!?

 

と内心滅茶苦茶にテンパっているという可能性すらある。

 

 

 

なんにせよ、俺は束の言葉に何かしらの返答をしてやらなければならない。

まぁ、はっきり言ってしまえば、束からの想いは嬉しい。

 

そりゃこんだけ美人だし、スタイルも良い。ボンキュッボンで俺好みだしまぁ千冬の様に引き締められていると言う訳じゃなくてふわふわ?ムチムチ?って言うの?最高だね。

性格は、まぁ少しばかり対人面においては難があるがそれ以外はそれを差し引いても十分魅力的だ。真っ直ぐ過ぎる、夢中になったら突き進むところとかも束の魅力の一つだ。

 

偶にやり過ぎたり行き過ぎたりする事も多々あるが……

ドイツとフランス?女権団?政治家連中?知らん。自業自得だろ。

あれぐらいで済んだことを寧ろ感謝するべきだと俺は思うが、普通から考えればやはり束に毒されて感覚がズレているという事だろうか。

 

 

 

と言うか、ぶっちゃけ今の束に欠点なんてあるか?

小学生の時に初めて出会った時は割と、「あ、こいつはやべぇな」と思った。多分、あのまま成長していたら今頃はどうなっていたか分からないぐらいには闇落ちしていたかもしれない。

 

だけど、少しばかりのコミュ障はあるがそれでもちゃんと相手と意思疎通と言うか、相手の話を一切聞かずにぶっちぎるとかそういう事は絶対にしないしな。

まぁ、話を聞いただけで言う事を聞くかどうかは分からんけども。

ただ、話も聞かずに突っ走るとか、周りに迷惑を掛けるとかそういう事は無い。

 

 

 

総評。

少しばかりの欠点と言うか、短所はあるけど全体的に見たら俺好みで束からの告白と言うか、愛してます宣言はめっちゃ嬉しい。

 

 

 

 

 

少し、恥ずかしいとか何とか言っている束を見ながら考えてみた結果、俺はそのように結論を下した。

 

ただなぁ、俺にゃ千冬と一夏って言う存在が居る。

千冬はもうとっくに成人して就職もしてるからあれだが、一夏はまだ学生。

せめて、就職して間違い無く一人で生きていける、と俺が確信出来るまでは俺は誰とも男女の仲になったりする気は無い。

 

「束」

 

「うー……何……?」

 

俺はそれを伝えるべく、束の肩を掴んでこっちを向けさせた。

束の顔はそりゃもう真っ赤、真っ赤を通り越しているんじゃないかと思うぐらいには赤くなっていた。ついでに目尻には若干の涙を溜めている。

それで上目遣いをするもんだから、もうグッと来ちゃったね。

 

これも計算した上でやっているんだとしたら恐ろしい子だよ、本当に……でも許す。

それを許しちゃう俺も俺だけど。

 

「まぁ、はっきり言って束からそんなことを言ってくれて嬉しい」

 

「ほんと!?」

 

「本当だって。こんな時に嘘なんて付かねぇよ」

 

断言する。

いや、俺みたいなのがそんな事言っても信用出来ないとか言われてもしょうがないような感じでからかったりしてるけども、こういう場面、誰かの覚悟を踏み躙るような真似はしない。

 

「~~!ッ!」

 

「うぉあ!?」

 

束は、俺の顔を見ながら段々と嬉しそうな、それもとびっきりに嬉しいと言わんばかりの顔と共に抱き付いてくる。

幾ら寝転がっている状態とはいえ、それなりの質量を持つ物体が飛んで来れば重い。

 

「おじさんおじさんおじさんおじさん!」

 

束は俺の頭を胸の辺りに抱き寄せて、自身の身体能力の事を知っているから力一杯と言う訳ではないが、それでも強く抱き締めてくる。

 

うぉぉぉおぉ!束のおっぱいが!?めっちゃ形変えて顔面に当たるぅぅ!

 

天国。だけど苦しい。

なんとか抜け出そうと藻掻いて、タップして助けを求める。

束は、それでも離そうとはせず寧ろ逃がして溜るかと言わんばかりに腕をより一層絡ませて力を込めてくる。

 

 

 

 

「えへへへへ……」

 

漸く離してくれて、身体を起こして見ると束は嬉しそうに自分の両頬を手で挟んでクネクネしている。

いや、もうこの際これで良いんじゃないかと思わなくもないがさっき伝えそびれた事を伝えなければならない。

 

「束、一つ話がある」

 

「ん……何かな?おじさん。今直ぐ入籍だね?結婚式場はどこが良いかな?私的には月面でってのもありかな。だって誰もやったことが無いし地球をバックに誓いのキスとかロマンチックでしょ?」

 

「うぇいとうぇいと」

 

行き過ぎだって。

幾ら何でもそんな直ぐに出来る訳ねぇだろ。

 

その前に俺の話を聞いて?

 

「束、確かに俺はお前の気持ちは嬉しいと言った」

 

「え……それって……」

 

「あぁ、待て待て。最後まで聞けって」

 

束はそれを聞いて途端にこの世の終わりと言うか、地獄に叩き落とされたとかそんなレベルの絶望に染まった顔をした。

だーかーらー、人の話は最後まで聞きましょうって教わらなかったのか。いや、俺は教えたはず。うん、絶対に教えたはずだ。

 

「別に断るとかそう言うんじゃなくてだな?」

 

「じゃ、なに……?」

 

「俺にゃまだ一夏って言う、まだあと数年は大人になるのに時間が掛かるやつが居るんだ。少なくとも俺は一夏が一人立ちするまでは誰かと付き合うとか結婚とかは考えるつもりは無いってことだ。おーけー?」

 

「んー……要は、いっちゃんが結婚するとかそういう事でしょ?」

 

「まぁ、そこまで行かなくても最低限、就職して俺の世話が必要にならなくなるまで、だな。高校卒業してから大学やら専門学校に進むなり、ISの操縦者として活躍するなり何でもいい。取り敢えず、そこまで待っていて欲しい」

 

「ふーん……分かった。私はそれまで待つよ」

 

束は、ちょっと考えて、少しもどかしい、悔しいとかそんな表情をしてから頷いてくれた。

最後に少しだけ口角が上がったような気がしたが気のせいか?

うーん、何か企んでいるような企んでいないような……?

 

「そんじゃまぁ、そう言う事で」

 

「別にそれは良いんだけどさ?私的にはもっとイチャイチャしたいなー、って……思うんだけどダメ……?」

 

多分、束はこう言いたいのだろう。

私と、一緒に寝ようよ(意味深)と。

おまけに再び抱き付いてくるもんだからもう手に負えない。

 

「あー、それも出来れば待ってくれ」

 

「どうして?」

 

「正直に言うぞ?」

 

「う、うん……」

 

「あー、別に心配すんな。束に問題がある訳じゃなくて俺にあるってだけだから」

 

何故そこまで心配そうにするんだろうか。

別にまだなんも言ってないし、そもそもそうだとは限らんだろうに。

 

「正直に言って束は、俺からすりゃ魅力的過ぎる。だから、一度でも手を出しちまえばそれこそ後戻り出来ないぐらいに嵌っちまいそうなんだよ。そうしたら一夏達どころじゃなくなる。だから待ってくれって言ったんだよ」

 

俺がそう言うと、束は最初理解していなかったような、顔をして、収まりかけていた顔の赤みも段々とまた、赤くなってきて遂には顔を覆ってまた俺の胸に顔を突っ込んだ。

 

「お、おい束?どうした」

 

「んー!んー!」

 

「足をバタつかせんじゃねぇ!色々当たってんだぞ!?つーかそろそろ降りろ!」

 

「お断りしまーす!」

 

束は俺の身体の上でそのまま足をバタバタさせる。

そうすると、当然胸やら太ももやらなんやらかんやらがそりゃぁもう惜しげも無く柔らかさ故に形をむにょんむにょん、ぐにんぐにんと聞こえてきそうなぐらいに形を変える。

 

だもんだから男としちゃ大変なわけですよ。

今は束は妹、と心の中で全力で唱えたり般若心経唱えたりで何とか堪えている。いや、般若心経全く知らんけども。

 

「…………やだ」

 

「はぁ!?おま、何言ってんの!?」

 

「おじさんからは絶対に離れない。離れてあげないんだから」

 

束はそう言うとさっきまで顔を覆っていた手と、腕を俺の背中に回して思いっ切り抱き締めてくる。

 

「おい!マジで離れてくださいお願いします!もう色々と当たっててヤバイんだよ!」

 

「いや」

 

「いやじゃねぇ!い・い・か・ら・は・な・れ・ろ!」

 

「いーやー!!」

 

何故、あれだけドラマティック的な雰囲気から普段通りに戻ってしまうのか……

 

しかしマジでどうやったら離れてくれるのか。

あれか?中和剤でもぶっかければ離れてくれるのか?

 

いやしかし本格的に不味いぞ。

息子がちょっとばかり元気に……いや、これ以上は止そう。

 

ってことなんで早めに離れてくれないと俺の失われてもだーれも痛くも痒くも無い色々な尊厳が失われちゃうから!

 

「束さん、本当に離れて頂けませんか。ちょっとマジで色々と不味いんですけど」

 

「えっと、その、なんなら、このまましちゃう……?」

 

束は色々と気が付いたのかそう聞いてくる。

 

「………………………………………………さっきの話納得してくれたでしょーが」

 

「ちぇっ……」

 

返答までに時間が掛かりましたね、だって?

当たり前だろ!葛藤したに決まってんだろ!

お前なぁ!?束があのおっきい胸を両手で持ち上げてまた上目遣いを使って来たんだぞ!?破壊力半端無いったりゃありゃしない!

俺じゃなかったら絶対にそのままイチャネチョグチョネチョなR‐18展開待った無しだったぜ!?

 

だけど今は手を出さないとか言った手前、絶対に出せん!

呪文を唱えよう。

 

 

 

束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹束は妹…………………………………………

 

 

 

よし、俺は大丈夫。

 

 

 

いやぁ……今更だが俺も中々にテンパって混乱の極みにあるらしい。

うん、だってそらそうよ。理由はさっきも説明した通りだけどさ。

 

「本当はおじさんの恥ずかしがる顔とか見たいけど、まぁ、でもこれ以上おじさんを困らせるのもあれだし」

 

そう言うと、束は俺から離れた。

当然、密着していた事によって隠れていたあちこちが丸見えになっちゃう訳で。

 

どうしてこういう日に限って雲が少ないのか……

お陰で月明かりさんがばっちり束の身体を照らしている。

顔を逸らして俺は言った。

 

「…………束、取り敢えず何か着てくれ」

 

「え?…………~~~~~ッ!?!?!?」

 

束はそう言われて、自分の身体と俺の顔を何度か往復すると今までよりもずっと顔を赤くして声にならない声で悲鳴を上げた。

 

ごめん、指摘しなきゃ良かったとか思えない。

 

 

 

 

 

 

結局その後は束が死ぬほど恥ずかしがって布団に立て籠もり、どうにかこうにか慰めるというか、ご機嫌を取ろうとしたけど無理だった。

 

 

で、最終的に俺は束に取り敢えず服を着てくれと頼み込んで、浴衣を着て貰って。

と言うか下着を着ないのか、と疑問に思ったがこれ以上何も言うまい。

 

眠くてそれどころじゃなかったし。だって三時だぜ?良い子の皆はとっくの昔に寝入ってる時刻だよ。

そんな時間まで起きているのは結構辛い物がある。

 

そんなわけでそれぞれ布団に潜って寝たんだけども。

 

 

 

ついさっき起きたら、浴衣だけで下着を一切身に着けていない束が俺の布団の中で俺の頭をガッツリ胸元に抱き締めて眠っていました。

そりゃ、浴衣ってんだから帯で締めてる訳だし、その帯もしっかり締めたとしても寝ている間に緩くなって来ちゃうわけだ。

 

で、どうなるかって言うとだな。

 

前がご開帳されてしまう訳ですよ。

胸元から大体下腹部辺りまで。それで俺の頭を抱き締めるもんだから束の柔らかいお肌と胸が惜しげも無く押し付けられて形を変えるわけだ。

 

しかもあったかいし良い匂いはするし束の呼吸音とか心臓が動く音が良く聞こえる訳ですよ。

鼻から上は出ている訳だから束のそれこそたった一枚写真を撮っただけけで、そのまま出したら何の加工もせずに賞を取れるぐらいの綺麗な寝顔が間近にある。

しかも束のおててが俺の後頭部をしっかり捉えてて逃げ出そうにも逃げ出せない。

 

もうこの時点で色々とやばかったのに、なんかモゾモゾ動き出したと思ったら男の尊厳云々の話になるので詳しい話は避けさせて頂くが、男特有の、朝の生理現象と言いますか。それに加えて束の諸々が加わってワタクシめの未来製造機、マイサンがフルバースト状態になっちまいましてね?

 

現在進行形でそんな状態なわけですよ。

で、チラッと見た時計には、七時と記されている。

 

それでちょっとばかし差し迫った問題がある。

本日の朝飯の時間は七時半なんですよ。

 

はい、あと三十分しかありません。

 

もし少しでも遅れそうになろうものなら、千冬を筆頭に一夏や箒、セシリアに鈴、シャルロット達が殴り込んでくる訳ですよ。

そうなったらどうなるか想像もしたくない惨状が広がるに決まってる。

ラウラとクロエは娘だからこんなところを見せる訳には行かんし、見られたら俺は二人の前に立て無くなっちゃう。

 

しかも我が息子はフルバースト状態でIS学園に入学してから禄すっぽ処理をしていなかったからかなりヤバめ。と言うかギリギリ。

これを他人、同性に見られるだけでも結構あれなのに異性ともなれば社会的にも色々とヤバイ。お巡りさんに通報されたら容赦無く手錠を掛けられちゃう。

 

という事でタイムリミットは、十分と見積もっておこう。

それまでに何とかしてこの天国なのか地獄なのか分からない状況から脱出しなければならない。

 

束の背中を叩いてみたり、どうにかして抜け出そうとするが全然出来ない。

と言うか、こいつ俺が離れようと力を籠めるとそれ以上に抱き締める力を強めるから無理だ。

 

「んぅ……」

 

あー!?マジで離してくださいお願いします!このままじゃ俺がぶっ殺されてしまいます!イヤダァァァァァァァ!!!

 

残り一五分!

ど、どうにかしなければ!?

 

『兄さん?もう朝食の時間だぞ?なんだ、まだ寝ているのか?』

 

「あばッふッ!?!?!?」

 

ノックの音と共に千冬の声が聞こえる。

思わず変な声を出しちゃったじゃんか。

 

やばいぞ、何とかして誤魔化さないと!

 

『あばっふ……?兄さん、どうかしたのか?入るぞ』

 

「あー!千冬ストップ!俺今着替えてるから!」

 

『……本当か?やけに焦っているが?』

 

「本当だって!ついさっきまで風呂に入ってたんだよ!」

 

『……分かった。先に行っているからな。遅刻しない様に』

 

「おう!」

 

いよっしゃぁぁぁ!!

なんとか口を出して束の胸の間から返答出来た!いやもう本当に焦った!マジで誤魔化せて良かった!

 

「束、ちょ、マジホントに起きて」

 

「ん~……?」

 

「お、起きた?俺の事離して欲しいんですけど」

 

「……?あれ……なんでおじさんわたしのふとんに………………ぃぃぃぃいいいい!?」

 

「グボアァッ!?」

 

俺の顔を見て段々と意識が覚醒してきた束に思いっ切り突き飛ばされてゴロゴロと吹っ飛んで壁にぶつかった。

 

 

いってぇぇ!?背中思いっ切り打ち付けたんですけど!?

 

いや、それよりもさっさと着替えないとぉぉぉ!?

下半身が大変なことになったんだった!

 

くそぅ、これじゃぁ着替えらんないし出ていけないじゃん!

こうなったら時間無いが冷水シャワーを浴びるしかない!

 

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」

 

冷水シャワーを浴びながらめっちゃ念仏唱えて必死こいて色々と鎮める為に尽力する。

 

 

結果として何とか鎮まった色々。

俺はさっさと上がって拭いて着替えて朝飯に束と共に向かいましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side 束 ----

 

 

 

 

おじさんと同じ部屋。

これが、どういう意味があるか、おじさんの事を好きな子で分からない子は誰も居ないと思う。

 

学園側からの依頼ってことで警備を任されたときに報酬として要求してみて良かった。

 

最初は当然ちーちゃんがブチギレながら断固拒否するって言ってたけど、そうなると私が依頼を受けてくれないからって色々考えて悩んで、結局ちーちゃんもOKしてくれた。

 

学園側は、日本政府お抱えの暗部を最初は使おうとしたようだけどはっきり言って私と比べるとどう考えても警備に隙が出来ちゃう。

だけど、あんまり言いたくないけど私の手元には元軍特殊部隊のIS部隊丸々が居る。はっきり言って一二人全員がISを装備しているとか、国盗りを狙ってるとかどこかの国を消し飛ばす気?とか疑われても仕方が無いぐらい。

 

だけど警備って言うのならこれ以上ない。

だからこそ、それを使って欲しかったんだろうね。この学園の本当の学園長、確かに交渉事とかそういうのは手慣れているし何故ここでやっているのか、と普通なら思うぐらいの能力はある。

 

だけど、他の奴らとは違うね、断言出来る。

他の奴らと一緒なら今だって私は此処に居なかった筈。幾らおじさんの為だって言っても私がいるせいで危険が及ぶのなら居ない方が良い。

 

だって、その気になればいつでも傍に行けるしね。

 

元々はちーちゃんと一緒の部屋だったけど別に私でも変わり無いって判断だろうね。

 

そりゃ勿論、何の企みも無い訳が無い。

おじさんと同じ部屋。それだけで絶対的なアドバンテージを得られるんだから有効活用しない訳には行かないでしょ?

 

 

 

 

 

 

そして初日が終了。

晩ご飯も食べて、おじさんは日課のトレーニングから帰って来てるし後はお風呂に入るだけ。

 

先におじさんにお風呂に入って貰って。

 

 

 

 

本当は、こんなつもりじゃなかったんだけどちょーっと他の皆が最近おじさんと急接近し始めちゃってるから色々と調査とかで忙しい私としては何となく置いて行かれている気分。

 

だって、ちーちゃんいっちゃん、箒ちゃんは言わずもがな。

毎日毎日手を握ったり抱き付いたり、腕を組んだり。ちーちゃんなんか毎晩毎晩おじさんを抱き締めて寝てるんだよ!?ズルいよ!

 

チャイニーズガールは、表面上と言うか、気が付いて無い様だけど周りから見れば結構、いや物凄くおじさんの傍にいる。あれだ、存在感は薄いけど確実に隣にいる、みたいな?それでいざって時に圧倒的存在感を醸し出すタイプ。

元々は滅茶苦茶にキャラが濃いと思うんだけど……

人って化けるよね。

 

おじさんがVTシステムとの戦いで大怪我して、久々にちーちゃん達に会った時も暴走してた皆を一緒になって止めたのはこの子だし。

 

イギリスの子も結構恥ずかしがりながらもスキンシップと言うか、くっつくことが多い。

なんだかんだ言いながら、腕を抱き締めて隣を歩いたりハグしたり。

 

フランスの子もあの一件以来、おじさんにべったりだし?

まぁ、我が愛しの娘のクーちゃんとラウラちゃんは今の所そんな事は無いから安心かな?

 

 

そんな状況で一人だけ月面に住んでいる私としては、そりゃもうズルいな、って毎日思ってる。

 

それこそジェラシーストームだよ!

 

なのに、おじさんと会って抱き付いたりしても、その、おっぱいとか押し付けても反応無いし?いつまでも妹扱い。

ちーちゃんといっちゃん、箒ちゃんにも言える事だけど。

 

本気で男の人が好きなのかなー、とか考えたりしたけどおじさんの秘蔵フォルダには女の人のしか無かったからそこは大丈夫。

 

 

 

 

それに、おじさんは私達の気持ちに薄々気が付いてる。

それこそ私を含めた妹四人組の気持ちは多分、確実に気が付いている。

なのに妹として扱ってくるんだもん、そりゃ悔しくてしょうがない。女としての魅力はまぁ、顔もスタイルも世界一だとは思うし?お金もあるし?家事とかもある程度は出来るし?性格は若干難があるけど……

 

私って結構優良物件だと思うんだ。

はっきり言って、おじさんとクーちゃん、ラウラちゃんの三人を養うぐらい余裕どころか贅沢三昧をして貰っても資産は国家予算並みにあるから問題無い。

 

 

確かに、おじさんに告白して、振られて今までの関係が崩れるのは怖い。

それでも大好きな、この世界で一番愛してる人には妹じゃなくて、女として見てもらいたくて。

 

 

 

もしかすると、おじさんも心のどこかでこの関係性が崩れたりするのが怖いって思ってるのかもしれない。

 

 

だけど私は、ここで引いたら絶対に後悔すると思うんだ。あの時にどうして、って。

 

 

 

 

 

そーゆーわけで、本日はお風呂に突撃しちゃいます。

 

 

 

 

結果的には、まぁ断られちゃった。

そう言う事するんじゃありません、ってお説教付きで。

 

悔しかったし泣きそうになっちゃったけど……でも、そんなんじゃ私は諦めないよ!

 

第二段作戦の開始だ!

 

 

 

 

おじさんが、布団に入って寝息を立て始めた頃。

 

私はおじさんの布団に潜り込んだ。

 

何も身に着けずに。

浴衣は勿論、上下の下着も勿論脱ぎさっている。

 

当然、緊張するよ。

多分、ISを世界に発表したとき以上に緊張してる。

 

だって自分の大好きな人、それこそ今すぐにでもこの人の赤ちゃんを、とか考えちゃうぐらいに愛してる人の前で、しかも眠っている所にこんな格好でひっつくなんて誰だって緊張どころか顔から火を噴くぐらいには恥ずかしいし緊張する。

 

おじさんの腰の辺りに跨って腰を下ろした。

 

 

そこからの記憶は結構曖昧と言うか、なんかもう色々あって恥ずかしかったり嬉しかったりで感情が迷子になってたのは良く覚えてる。

 

だけど、それ以上にはっきり覚えているのは、恥ずかしいって感情よりもずっとずっとずっとずっとずっと、嬉しくて幸せな気持ちだったってこと。

 

最後はおじさんに私の全裸をばっちり見られちゃった事が恥ずかしくて、自分の布団に籠っちゃったけど……

 

 

 

その後は浴衣だけ着て、おじさんが寝てからその顔を暫く見てた。

そしたらもう、お腹の、下腹部の辺りがきゅーってなってすっごく恋しいって言うか、愛しいって言うか。

そんな感情が込み上げてきて。

 

もどかしくてもどかしくて、しょうがなかった。

だけどどこかすっごく幸せな気分で。

 

無意識におじさんの布団にまた潜り込んじゃって、頭を胸元に抱き締めたらもどかしい感情は薄くなった。

今、私は一番おじさんの近くにいるのにどうしても完全にその感情が消えることは無くて。

 

どうしてだろう?分からないなぁ……

 

私はどんなことでも分かる。分かってしまう。

だけどそんな私でも分からない感情がおじさんに出会ってからずーっと、ずーっとあるんだもん。

 

だけど、すっごいすっごい幸せだな、この感じ。

 

鼻歌を歌いながら、おじさんの頭を撫でる。

優しく、慈しむ様に。

 

小さいときに、おじさんが私にそうしてくれたように。

私達の髪とは違ってちょっと硬くてゴワゴワしてて。

 

「ふふ……んー」

 

思わず笑っちゃった。

思えば、私が大きくなってからこうして二人きりだけで寝るのってなんだかんだ言って初めてだなぁ。

 

 

 

そうしているうちに段々と私も眠くなって来ちゃった。

おじさんのおでこに軽く唇を落として

 

「おやすみ、おじさん」

 

最後にそう言ってから目を閉じる。

すると、すっごくすっごく酷く幸せな気持ちに包まれながら私は眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

朝起きて、ちょっと一悶着あって突き飛ばしちゃったりしたけど。

と言うか、おじさんの、下半身のアレを見ちゃったんけど……

 

男の人が朝にそういうのがあるのは知ってるけど、多分それだけじゃない。

 

だからそういう目で見てくれるって事だから嬉しい。

 

「えへへ……んふふふ……」

 

おじさんがお風呂で冷水シャワーを浴びている間に私は着替えたけど、結構な頻度で頬を抑えながらだらしない声を出しちゃった。

じゃなきゃ頬は緩みっぱなしでまともな顔なんてしてられないんだもん。

 

 

それからおじさんがお風呂から出て、着替えた後に一緒に朝ご飯を食べに行った。

その間も、緩みそうになる頬とか目尻とかを抑えるのに必死で味なんかまったく覚えてないし会話も覚えてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

今日一日までは自由時間。

だから私はおじさんと一緒に砂浜で座っている。

 

 

 

目の前には仕事の鬱憤を晴らしているんじゃないかってぐらい本気で泳いだり砂遊びをしたりしているちーちゃんや、なんだかんだで仲の良い皆でビーチバレーをしていたり。

 

おじさんは、昨日の事もあってか眠そうに椅子の背凭れに寄り掛かっている。

 

「おじさん、眠いの?」

 

「んぁー……まぁちょっとな……」

 

そう言いながら飲み物をズズズズッ、っと飲んで一息付いている。

何となく、その横顔を見てたらまたもどかしくなって来ちゃった。

 

んー……おじさんの顔って世間一般からするとそこまでイケメンって訳でも無い。

あえて言うなら、普通?本当に世間一般的に普通にそこら辺に居そうなおじさんって顔。だけど、その顔はちーちゃんといっちゃんを男手一つで必死に育てて支えてきた時の苦労が染み付いている。

 

一九歳って言うまだまだ若くてそれこそ、その気になればいつでも自分の夢に向かって走り出せる時に二人を引き取って必死になって働いて、面倒を見て。

誰よりもずっと苦労が多い人生。

 

何時だったかな、確か小学五年生ぐらいの頃にお父さんとお母さんと話しているのをこっそり聞いたことがある。

 

 

 

『洋介君、辛いならば二人の面倒は私達が見る事も出来る』

 

『いえ、それは絶対に、師範と華さんからの提案だったとしてもお断りさせて頂きます』

 

『どうしてかな?』

 

『まぁ、何と言いますか……意地、ですかね』

 

『意地?』

 

『あの二人は、言ってしまえば親に捨てられたんですよ。そこに俺があの二人を引き取った。それで、俺が辛くなったからとか、苦しくなったからとかで放り出せる訳が無いでしょう?そうしたらまた、あの二人はそれ以上に辛い思いをする事になる。だから、そうさせたくないからこその意地ってもんなんです』

 

『だが、それで洋介君が倒れたら元も子も無いだろう?今だってそんなに疲れた顔をしているじゃないか』

 

『ありゃ、出ちゃってましたか……』

 

 

 

確かにあの時のおじさんの顔は、今ままで見たことが無いぐらいに疲れた顔をしていた。何時もの元気が溢れていて楽しげな雰囲気じゃなくて、とっても弱々しくて別人なんじゃないかってぐらい違う人に見えた。

それをお父さんに指摘されたとき、おじさんはバツが悪そうに頭を掻いていたのも良く覚えてる。

 

 

 

『それだけ辛そうな顔をしていれば、誰だって分かるさ。多分、一夏ちゃんでも分かるだろうね』

 

『ハハハ、そうですか。でも、あの二人には絶対に悟られてないと思うんです。絶対に自信がある』

 

『ほう、どうしてだい?』

 

『まぁ、さっきと同じ意地の話になっちゃうんですがね』

 

 

 

『兄貴ってのは妹の前じゃぁ、絶対に弱い所を見せないってもんだと俺は思っているんです。それに、俺が苦しいとか辛いとかそういう感情を顔に出したら千冬と一夏だけじゃない、束に箒も気を使ってしまうでしょう?そうなったら今みたいに遊んで笑って、少し泣いたり、って訳には行かなくなる。それはこれから大人に向けて成長していくうえで少なくとも俺に対しては必要の無い事ですから』

 

 

 

『くっ……はっはっは、そうかそうか……そう言えば、君はそういう人間だったね』

 

『えぇ、俺はそういう人間なんですよ。それに、四人が居る分、確かに色々と苦労は多いですが、それ以上に貰える物の方がずっとずっと多い。それで十分じゃないですか。なんなら貰い過ぎな気もするぐらいですよ』

 

 

お父さんは、これは説得するのは無理だな、って顔をして笑っておじさんの肩を叩いていた。

おじさんは笑って当たり前の様にそう言っていたっけなぁ。

 

そのあと、次の日は休みだから、少しは息抜きしようって三人は笑いながらお酒を飲んで話してた。

おじさんは、確かに私達の前では絶対に弱い所を見せた事が無かった。

 

いつでもどんな時でも笑って、私達を気遣ってくれていた。

どこかに行きたいって言えば、直ぐにではないけれど連れて行ってくれた。

 

私の夢をずっと応援してくれていたし、なんなら手伝ってもくれたときも一度や二度なんて回数じゃない。

 

 

今思えば、偶にそう言う顔をふとした瞬間にしていた。

だけど直ぐに元の顔に戻って私達と遊んでくれたりしてたなぁ……

 

 

そう思い出しながらおじさんを見ると

 

「あー……眠い……」

 

椅子に深く座ってくわぁぁ……っと大きな欠伸をする。

 

「おじさん、眠いなら少し寝たら?」

 

「だがなぁ……」

 

「大丈夫だよ、皆遊ぶのに夢中だから気付かれないって。もしもの時は私が起こしてあげるからさ」

 

「んー……それもそうだな……そんじゃぁ、少し寝るとするかぁ……」

 

眠くて何が何だか分かってない、取り敢えず答えておこう、みたいな感じでそう答えたら寝ちゃった。

 

私はおじさんのすぐ隣に椅子を移動させて、くっ付けておじさんの手を握る。

指を絡ませてにぎにぎ。

いわゆる、恋人繋ぎってやつかな。

 

皮膚が固くてゴツゴツしてる。

あったかくて頼りがいがあって、私やちーちゃん達の手よりもずっと厚みがある。多分、倍ぐらいあるのかな? 

おじさんの肩に頭を乗せる。

それで皆が遊んでいる姿を眺める。

 

 

なーんか、こうしておじさんと手を握ってみんなの事を見てると本当に結婚して夫婦になって、成長した子供達を見てるみたい。

 

 

おじさんが起きてる時の方が絶対に良いんだけど、まぁこれでもいっか。

それからしばらくの間、おじさんが起きてからもそうしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー!?お兄ちゃんと束さんがイチャイチャしてるー!」

 

「んな!?姉さん!抜け駆けですか!?」

 

「小父様もそんな、満更でも無い顔をしないで下さいまし!」

 

「束ェェェ!!兄さんと同じ部屋だけに飽き足らず、そんなことまで!!羨ましい!!!」

 

「篠ノ之博士、私に譲って下さい。一番触れ合いが少ないんですから、それぐらい良いですよね?」

 

「母様母様、私も手を繋ぎたいぞ!」

 

「お母様、家族の団欒はどこに行ったのでしょうか?」

 

ありゃりゃ、皆に見つかっちゃった!!!

その瞬間におじさんは弾かれたようにばっ、と走って逃げ始めた。

 

「うおぉぉぉ!?!?!?千冬、待て!話せば分かる!」

 

「ならば私とも一緒に過ごすんだ!」

 

「学園でいっつも過ごしてんじゃん!?嫌ぁぁ!?バレーボールがおじさんを襲うゥゥゥゥ!!!」

 

おじさんはあっちへこっちへ逃げ回り、時々飛んで行くバレーボールを器用に上下左右に避けては説得を試みてる。

割とふざけてる様な所もあるから意外と余裕あるのかもしれない。

 

 

「束ェェ!束さーん!!たーばーねーさーまー!?助けてー!アーーッ!?アーーッ!?」

 

あ、本気で助けを求める声になっちゃた。

 

「もー、しょーがなーいなー」

 

原因は私だけど、助けてあげよう!

そう言いながら立ち上がった私はおじさんを助ける為に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side out ----

 

 

 

 

 

 

 




束さんの所、月明かりにした理由。
だってその方が風景的にも情緒的にも良い気がする。
いや、もうはっきり言ってしまおう。


その方がエロいじゃん!?



月明かりに照らされる束さん……イイ!!
あとはガチで月に住んでいる兎さんだから。



いやぁ、自画自賛になるけど結構イイ感じに書けたと思う。
これで感想少なかったら泣いちゃうかも(チラッチラッ)




それはそうと、書いた後に思った。

この小説、全体的に他の皆より束さんがヒロインムーブしてね?

って。
うん、まぁでも束さん可愛いからね、しょうがないね。
作者もおじさんみたいに束さんに抱き締められたりしたいよぉぉん!

だけど彼女も居ない作者には無理か。
現実は、残酷だ……

あ、一応他の皆のそれぞれの話も書くつもりではいるから安心してくれて大丈夫よん。
じゃなきゃ面白くないじゃん?その度にヒーコラ言うおじさん、見たいでしょ?ね?




追記
本編を優先して書くのでR-18は書くとしたら合間合間の時間にちょこちょこ書く予定です。

って事で更新速度は察してくれ。







R-18編でござる。

https://syosetu.org/novel/227721/

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